勉強法
保護者のかかわり方 ── 宿題を見る・声をかける・任せる
一言で
保護者のかかわりは、量よりも中身で結果が分かれる、という研究が多くあります。 中学生では、宿題の手伝いと成績の関係ははっきりせず、マイナスの関係が出た研究もあります。一方で、勉強の意味や将来について話すかかわりは、成績と正の関係が出ています。 ただし、ほとんどは調査のデータです。「こうすれば成績が伸びる」と言える研究ではない点に注意してください。
今日からやること
- 宿題の中身を教えるより、「いつ・どこでやるか」を一緒に決める。例えば「平日は夕食前の 30 分、リビングで」
- 週に 1 回、10 分だけ学校の勉強や将来の話をする。点数を確かめるより「今どこを習っているか」「何の役に立ちそうか」を聞く
- 手伝うときは、答えを言う前に「どこまで分かった?」と聞く。説明は子どもにしてもらい、親は聞き役に回る
3 つとも、研究から考えた工夫です。それ自体を実験で確かめたものではありません。もとにした研究は、1 が Patall ら(2008)です。2 は Hill & Tyson(2009)と鳶島(2024)、3 は Moroni ら(2015)です。
何が分かっているか
日本の調査
文部科学省の委託研究(2023 年 3 月) ── 令和 3 年度の全国学力調査の保護者調査の分析です。分析したのはお茶の水女子大学です。保護者調査の有効回答は、中学校で 66,837 でした。 中 3 の国語・数学の結果と、保護者のかかわり方の関係を調べています。家庭の経済状況や保護者の学歴(SES)をそろえる前後で比べました。
- SES をそろえる前に関係が大きかったのは、小さいころの絵本の読み聞かせ・図書館・学校の勉強についての会話でした
- SES をそろえると、正の関係が出ていた項目は、どれも関係が小さくなりました。中 3 の学力と SES の相関は 0.355 です
- 中 3 では「計画的に勉強するよう促す」がマイナスの係数でした(SES をそろえたあと −0.056)
報告書は、この最後の結果に逆向きの可能性を示しています。学力に課題のある子に、親が勉強を促している、という見方です。著者はまとめで、かかわり方と学力の関係は「必ずしも大きいとは言えない」とも書いています。
鳶島(2024) ── 東京大学社会科学研究所とベネッセ教育総合研究所の親子パネル調査を使った研究です。同じ親子を何年も追う調査です。そのデータで、家庭ごとのもとの違いを差し引いて分析しています。
- 勉強や成績についての母と子の会話は、成績とほぼ一貫して正の関係
- ただし、親が大卒の中学生女子などでは関係が見られなかった
- 父と子の勉強の会話は、小学生女子と中学生男子で正の関係
- 成績が低いと将来や進路の会話が増える傾向は、親が大卒でない中学生女子でだけ見られた
家庭や性別によって、成績と結びつくかかわり方が違う、という結果です。人数は要旨に無いので書きません。
宿題の手伝い方を日本の中高生で直接比べた研究は、このページではまだ引けていません。ここから下は海外の研究です。
宿題へのかかわり
Patall, Cooper & Robinson(2008) ── 宿題への親のかかわりを調べた研究のまとめです。2 種類の分析をしています。
- 親に宿題へのかかわり方を教える実験(14 本):宿題をやり終える割合が上がり、宿題をめぐる困りごとが減った。小学生では成績が伸びた可能性もある
- 調査(20 研究・22 の集団):小学生と高校生では成績と正の関係、中学生では負の関係
- かかわりの中では、ルールを決める(時間や場所を決めるなど)が、ほかより強い正の関係
Moroni ら(2015) ── 6 年生 1,685 人を追った調査です。親の宿題の手伝いを「回数」と「中身」に分けて比べました。
- 手伝う回数が多いほど、その後の学力の伸びは小さかった
- 子どもが「支えになる」と感じる手伝いは、伸びと正の関係
- 子どもが「口出し」と感じる手伝いは、伸びと負の関係
もとの学力や家庭の背景をそろえないと、関係を大きく見積もってしまうとも書いています。
中学生期のかかわり全体
Hill & Tyson(2009) ── 中学生期の保護者のかかわりについて、50 研究をまとめたメタ分析です。メタ分析は、多くの研究の結果を合算する研究のことです。 保護者のかかわりは、全体として成績と正の関係でした。例外は宿題の手伝いです。 いちばん強い正の関係が出たのは、勉強の意味や将来とのつながり・学び方について話すかかわりでした。論文では academic socialization と呼んでいます。
Wilder(2014) ── 保護者のかかわりについてのメタ分析 9 本を、さらにまとめた研究です。 関係はどの定義でも正でした。いちばん強いのは保護者の期待、いちばん弱いのは宿題の手伝いでした。学年や民族による違いはほぼ見られなかった、としています。
任せる・選ばせる(自律性支援)
Grolnick & Ryan(1989) ── 小学 3〜6 年生の母親 64 人・父親 50 人への面接調査です。かかわり方の 1 つに「自律性支援」があります。子どもの考えを尊重し、自分で決める余地を残すかかわりのことです。 自律性支援の高い家庭の子は、自分から勉強に向かう動機が高い関係でした。先生から見た力や適応、学校の成績と学力テストも同じでした。
Pomerantz ら(2007) ── 保護者のかかわりの研究を整理した総説です。副題は「多ければよいとは限らない」です。 大事なのはどれだけかかわるかより、どうかかわるかだとしています。かかわりの大切さは子どもによって違う、とも書いています。数字は要旨に無いので書きません。
失敗をどう受け止めるか
Haimovitz & Dweck(2016) ── 保護者の「失敗の受け止め方」と子どもの考え方の関係の研究です。 失敗を「害になるもの」と考える保護者は、子どもの学びより、出来や能力に目を向けやすくなっていました。その家庭の子は、頭のよさを「変わらないもの」と考える傾向がありました。 子どもは、保護者の「頭のよさについての考え」は見抜けませんでした。しかし「失敗についての考え」は正確に見抜いていた、という結果です。
ほめ方(頭のよさをほめるか、努力をほめるか)の研究は、追試で結果が再現しなかった例もあります。くわしくは やる気と「頭は伸びる」という考え方 にまとめました。
日本の家庭にあてはめると
中 1 の最初の定期テスト ── 初めての定期テストは、テスト範囲表の見方も勉強の段取りも手探りです。この時期は、中身を教えるより「範囲表を一緒に見て、いつ何をやるか決める」ことです。Patall ら(2008)の「ルールを決める」に近いかかわりです。
学校のワークの丸つけ ── 提出物の丸つけを親が代わりにすると、間違えた問題を子どもが見ないまま終わることがあります。丸つけは子どもがして、親は「間違えたところをどう直したか」を聞く程度にとどめます。
「勉強しなさい」と言いたくなる日 ── 全国調査の分析では、中 3 の「計画的に勉強するよう促す」はマイナスでした。ただしこれは、成績に不安のある子ほど声をかけられている、という逆向きの関係かもしれません。言うなら、「何時からやる予定?」と子どもに決めてもらう形が、自律性支援に近いかかわりです。
塾の宿題が多い時期 ── 塾の宿題に親が付きっきりになると、手伝いの「回数」が増えます。Moroni ら(2015)では、回数そのものは伸びと負の関係でした。分からない問題は、塾の質問の時間に持っていく、と決めておく方法もあります。
進路の話 ── 鳶島(2024)では、勉強や成績についての会話は多くの家庭で正の関係でした。「何点だった?」だけで終わらず、「その単元、何の役に立ちそう?」「どの高校の何に興味がある?」と聞くと、Hill & Tyson(2009)の言う「勉強の意味や将来を話すかかわり」になります。
「〇点取ったら買ってあげる」と約束したくなったら ── 研究の結果と使い方は ご褒美とやる気 にまとめました。
共働きで、平日に時間がとれない ── 研究の多くは「量より中身」です。毎日宿題を見るより、週末の 10 分の会話と平日のルール(時間と場所)を決めておく。これが研究の示す方向に合います。
高校生になったら ── 高校生は、科目も進路も親の分からない範囲が増えます。中身に口を出すより、「環境を整える」役回りが中心になります。睡眠とスマホのルールを一緒に決める・費用や日程を確かめる、などです。
よくある誤解
「宿題を見る時間が長いほど、親として役に立っている」 Moroni ら(2015)では、手伝う回数が多いほど伸びは小さく、「口出し」と感じる手伝いは負の関係でした。Hill & Tyson(2009)でも、宿題の手伝いだけは成績と正の関係が出ませんでした。手伝うこと自体が悪いわけではありません。子どもが「支えになる」と感じる手伝いは、伸びと正の関係でした(Moroni ら 2015)。
「中学生になったら、もう放っておけばいい」 Hill & Tyson(2009)では、中学生期でもかかわりは全体として成績と正の関係でした。減らすのは「中身への口出し」で、勉強の意味や将来の話はむしろ大切にされています。
「勉強しなさいと言わないと、勉強しない」 全国調査の分析では、中 3 で「計画的に勉強するよう促す」はマイナスの係数でした。これは調査の結果で、声かけが成績を下げたとは言えません。ただ、言う回数を増やせば済む、という根拠も見当たりません。
「点数が悪いときは、厳しく言ったほうが次に頑張る」 Haimovitz & Dweck(2016)では、保護者の失敗の受け止め方を、子どもは正確に見抜いていました。点数より「どこで間違えたか」「次にどうするか」に話を向けるほうが、研究の流れに合うと考えられます。
このサイトでの使い方
- 勉強法のページを、子どもに渡す。まずは テスト効果 と 間隔反復 の 2 本です。親が説明するより、子どもが読んで自分で決めるほうが自律性支援に近くなります
- 小テストの点を聞くより、「前に間違えた型」を説明してもらう。人に説明すると理解が確かめられます(人に説明する)
- 制度と日程は、保護者が把握しておく。内申点のしくみ・高校入試の日程・高校受験の費用・共通テスト・大学受験の費用 です
- 睡眠とスマホのルールは、子どもと一緒に決める。根拠は 睡眠と一夜漬け と スマホと勉強 にまとめました
注意点
- ここで引いた研究は、ほとんどが調査のデータです。「このかかわり方をすると成績が伸びる」という因果までは言えません
- 海外の研究の多くはアメリカの小中学生が対象です。日本の高校生で、保護者の宿題へのかかわりを比べた研究は、このページではまだ引けていません
- 全国調査の分析は令和 3 年度(2021 年度)のデータです。最新の結果は文部科学省の公表資料で確認してください
- 子どもの特性(発達の特性や不安の強さ)によって、必要なかかわりは違います。Pomerantz ら(2007)も、かかわりの大切さは子どもによって違うとしています
- 不登校や強い不安、家庭の事情がある場合は、学校の先生やスクールカウンセラーに相談してください
引いた論文
番号は班別ファイル docs/参考文献ログ_追加_生活2.md の #。すべて DOI を開いて書誌と要旨を確認しています。
- #309 鳶島修治 (2024). 親子間の会話と子どもの学業成績. 社会学年報, 53, 101–112. https://doi.org/10.11271/tss.53.101
- #303 Patall, E. A., Cooper, H., & Robinson, J. C. (2008). Parent involvement in homework: A research synthesis. Review of Educational Research, 78(4), 1039–1101. https://doi.org/10.3102/0034654308325185
- #308 Moroni, S., Dumont, H., Trautwein, U., Niggli, A., & Baeriswyl, F. (2015). The need to distinguish between quantity and quality in research on parental involvement: The example of parental help with homework. The Journal of Educational Research, 108(5), 417–431. https://doi.org/10.1080/00220671.2014.901283
- #304 Hill, N. E., & Tyson, D. F. (2009). Parental involvement in middle school: A meta-analytic assessment of the strategies that promote achievement. Developmental Psychology, 45(3), 740–763. https://doi.org/10.1037/a0015362
- #307 Wilder, S. (2014). Effects of parental involvement on academic achievement: A meta-synthesis. Educational Review, 66(3), 377–397. https://doi.org/10.1080/00131911.2013.780009
- #305 Grolnick, W. S., & Ryan, R. M. (1989). Parent styles associated with children’s self-regulation and competence in school. Journal of Educational Psychology, 81(2), 143–154. https://doi.org/10.1037/0022-0663.81.2.143
- #306 Pomerantz, E. M., Moorman, E. A., & Litwack, S. D. (2007). The how, whom, and why of parents’ involvement in children’s academic lives: More is not always better. Review of Educational Research, 77(3), 373–410. https://doi.org/10.3102/003465430305567
- #310 Haimovitz, K., & Dweck, C. S. (2016). Parents’ views of failure predict children’s fixed and growth intelligence mind-sets. Psychological Science, 27(6), 859–869. https://doi.org/10.1177/0956797616639727
参考資料(公的統計・報告書)
- 国立大学法人お茶の水女子大学(2023 年 3 月 31 日)「令和4年度『学力調査を活用した専門的な課題分析に関する調査研究』保護者に対する調査の結果を活用した専門的な分析」第 3 章「親の養育態度・行動と子どもの学力・非認知能力」(PDF の 42〜59 ページ目。逆向きの見方は 47、中 3 の表は 49 ページ目)。https://www.mext.go.jp/content/20230531-mxt_chousa02-000030189_07.pdf
- 文部科学省(2022 年 4 月)「令和3年度全国学力・学習状況調査 保護者に対する調査 結果(速報)」調査 2021 年 6 月。https://www.mext.go.jp/content/20220428-mxt_chousa02-000022257_7.pdf