勉強法
英作文の直し方 ── 赤ペンの入れ方で何が変わるか
一言で
英作文のまちがいを直してもらうと、何もしないより書く英語の正確さが上がる。研究のまとめの多くがそう結論しています。 正しい形を書きこむ訂正・下線だけの訂正・文法の説明の間では、差は大きくありませんでした。 日本の大学生の研究では、直された後に書き直すと効果が大きくなりました。なぜ違うかを自分の言葉で書く方法も調べられています(こちらは比べる群のない研究です)。
今日からやること
- 添削が返ってきた日のうちに、同じ題で全文を書き直す。直された所を写すだけでなく、全体をもう一度書く。15 分あれば足ります
- 直された所の横に「なぜ違うか」を日本語で 1 行書く。「主語が三人称単数なので s」「話の中で 2 回目なので the」のように
- 1 週間後、似た題で新しい英文を書く。前回直されたまちがいが、今回も出ていないか数える。書き直しでは直せても、新しい英文では直らない形があったからです(Suzuki ら 2019)
何が分かっているか
日本人学習者で確かめられていること
Shintani, Ellis & Suzuki(2014)
- 対象:日本の大学生。冠詞(a の使い方)と、仮定法(「もし〜だったら」の形)の 2 つ
- 比べたもの:まちがいに正しい形を書きこむ「直接訂正」と、クラス全体への「文法の説明」。それぞれ、書き直しの機会がある場合とない場合
- 結果:仮定法は正確さが上がったが、冠詞は上がらなかった。直接訂正の効果は、説明より長く残った。書き直しの機会があると効果が大きくなり、いちばんよかったのは「直接訂正 → 書き直し」だった
測ったのは、直された文そのものではなく新しく書いた英文の正確さです。
Suzuki, Nassaji & Sato(2019) 日本の大学生 88 人を 4 つの群に分けました。正しい形を書きこむか、下線などで場所だけ示すか。それぞれに文法の説明をつけるか、つけないかです。 冠詞と過去完了について、書き直しではどの群も正確さが上がりました。 しかし新しい英文で伸びたのは、過去完了だけでした。説明のつけ方の差は、新しい英文では出ていません。
Suzuki(2012) 日本人の英語学習者 24 人が、直接訂正を受けた下書きについて、訂正の理由を日本語で書き出しました。 書き出した学習者は、そのすぐ後の書き直しで、そのまちがいを正しく直せていました。文法についての書き出しも、単語についての書き出しも、正確さの向上と結びついていました。 要旨には比べる群が書かれていないので、「書き出したから直せた」とまでは言えません。
Ellis, Sheen, Murakami & Takashima(2008)
- 対象:日本の大学生。物語文の中の a と the の使い分け
- 比べたもの:冠詞のまちがいだけを直す群/ほかのまちがいもまとめて直す群/直さない群
- 結果:直した 2 群はどちらも伸び、2 回目の事後テストで直さない群を上回った。しぼって直しても、まとめて直しても差はなかった
O’Flaherty(2016) 日本の高校生に、英作文の添削をどう受けとめ、どう使っているかを聞いた研究です。 生徒は「先生は細かく直すべきだ」「添削は役に立った」と考えていました。ところが実際の使い方はとても受け身でした。 著者は、添削を返すだけでなく、生徒が自分から使うしかけが必要だと提案しています。
坂本・古家(2023) 高校生の自由英作文を、観点ごとの採点表(ルーブリック)で採点して返しました。そのあと同じ題で書き直させています。 採点表つきの返却は「学習の改善をうながす、ある程度有効な手段になりうる」という結果でした。一方で先生への調査では、この採点表は使いにくいと答えられています(数字は要旨に無いので書きません)。
海外の研究と、研究のまとめ
Truscott(1996・2007) 「文法の訂正は役に立たないので、やめるべきだ」と主張した論文です(1996 年)。 2007 年には研究をまとめ直し、「訂正の効果は小さなマイナスと見積もられ、プラスがあってもごく小さい」と結論しました。この主張に答える形で、訂正の効果を確かめる実験が行われてきました(Ellis ら 2008 の要旨より)。
Bitchener(2008) ニュージーランドの初中級の留学生 75 人が対象です。冠詞のまちがいに直接訂正を受けた群は、直後のテストで直さない群を上回りました。2 か月後もその差が保たれていました。
Van Beuningen, De Jong & Kuiken(2012) 268 人の生徒で、すべてのまちがいを直す訂正を調べました。正しい形を書く訂正も、下線などで示す訂正も、正確さを上げました。 比べたのは「自分で見直すだけ」の群と「書く練習を増やすだけ」の群です。差は書き直しだけでなく、1 週間後と 4 週間後の新しい英文でも出ました。 文法のまちがいが新しい英文で減ったのは、正しい形を書く訂正だけでした。文法以外のまちがいは、場所だけ示す訂正でいちばん減りました。 また、直されたせいで簡単な文しか書かなくなる、ということは起きていませんでした。
Ferris & Roberts(2001) 大学の留学生で、まちがいに種類の記号をつける群・下線だけ引く群・何もしない群を比べました。自分で直す力は、記号の群も下線の群も何もしない群を上回りました。記号の有無では差がありませんでした。
Kang & Han(2015) 21 研究のメタ分析(多くの実験結果を合算する研究)です。訂正は書く英語の文法の正確さを上げうる、という結論でした。 ただし効果の大きさは、学習者の英語力・学ぶ場面・書く文章の種類で変わりました(効果量の数値は要旨に無いので書きません)。
Brown, Liu & Norouzian(2023) 比べる群のある研究を最初に 52 本集めたまとめです。中くらいの効果が、時間がたっても続くという結果でした。 直接訂正・場所だけ示す訂正・文法の説明は、どれも似た大きさの効果でした。
Mohsen(2022) コンピューターが自動で出す訂正を調べた 14 研究・1,220 人のまとめです。全体の効果は d=1.21 と大きい値でした。 ただし自動採点の専用ソフトに限ると中くらいで、上級者では小さい値でした。2022 年に出たまとめで、いまの対話型 AI の添削を調べたものではありません。
日本の中高生の勉強にあてはめると
添削は「読んで終わり」にしない。 O’Flaherty(2016)の高校生は、添削を大事だと思いながら、使い方は受け身でした。Shintani ら(2014)では、書き直しの機会で効果が大きくなっています。 英検のライティングや自由英作文の添削が返ってきたら、その日のうちに全文を書き直します。
真っ赤な答案は、まず「同じ種類のまちがい」を探す。 Ellis ら(2008)では、しぼって直しても、まとめて直しても差はありませんでした。直す量そのものより、受け取った後の使い方が大事だと考えられます。 【推論】三単現の s が 3 か所、冠詞が 2 か所、のように種類で数えます。いちばん多い種類を、次の英作文で意識する 1 つに決めると、書き直しの的がしぼれます。
先生に頼むなら「場所だけ」か「正しい形も」か。 Brown ら(2023)のまとめでは、訂正の種類による差は小さいものでした。Van Beuningen ら(2012)では、文法は正しい形を書く訂正、文法以外は場所だけ示す訂正で減りました。 【推論】どちらでもよいので、先生のやりやすい方法で多く書いて多く直してもらうほうが、量を確保できます。
AI の添削を使うときの順番。 AI に直してもらうと、正しい英文がすぐ出てきます。先生の訂正の研究では、その後に書き直すと効果が大きくなりました(Shintani ら 2014)。 【推論】次の順番にすると、研究と同じ「自分で直す一手間」が入ります。
- 自分で読み返し、あやしい所に下線を引く
- AI や先生の訂正と、下線の位置を比べる。自分で気づけなかった所に印をつける
- 印の所に「なぜ違うか」を日本語で書く(Suzuki 2012)
- 何も見ずに全文を書き直す
AI の訂正はまちがうこともあります。入試の採点基準とずれることもあるので、学校や塾の先生にも定期的に見てもらいます。
新しい英文で確かめる。 Suzuki ら(2019)では、書き直しで直せても、新しい英文では直らない形がありました。 1 週間後に似た題で書き、前回と同じまちがいが出ていないかを数えます。
よくある誤解
「赤ペンが多いほど、ていねいでよい添削」 Ellis ら(2008)では、冠詞だけ直す群とまとめて直す群で差がありませんでした。一方 Shintani ら(2014)では、書き直しの機会があると効果が大きくなりました。
「正しい英文を見せてもらえば、覚えられる」 O’Flaherty(2016)の高校生のように、見て終わりになりやすいのが添削です。Shintani ら(2014)で効果が大きくなったのは、書き直しを加えたときでした。
「まちがいを直されると、こわくて簡単な文しか書かなくなる」 Van Beuningen ら(2012)では、訂正を受けても文の複雑さや使う単語の幅は下がりませんでした。
「添削には意味がない、という研究もある」 Truscott(1996・2007)の主張です。ただし、その後の研究のまとめは訂正の効果を認めています(Kang & Han 2015・Brown ら 2023)。どの形のまちがいに効果が出やすいかは、まだ研究が分かれています。
このサイトでの使い方
- 中学生:英作文の型(条件英作文・自由英作文) で型を学び、自分で 1 題書く。先生に見てもらったら、この記事の順で書き直す
- 高校生:英作文の型(和文英訳・自由英作文) の「減点されない書き方」を先に読む。直されたまちがいの種類を、文法の単元(例:時制・仮定法)で確かめる
- 文法の形を自分で書けるようにする練習は、英文法の学び方 にまとめています
- 直されたまちがいを日をあけて解き直す方法は、間違いノート と同じ考え方です
注意点
- 日本人を対象にした研究は大学生が中心です。日本の高校生の研究は、意識調査(O’Flaherty 2016)と、採点表の実践(坂本・古家 2023)でした。高校生で訂正の種類を比べた実験は、このページではまだ引けていません
- 多くの研究が調べたのは冠詞や過去完了など決まった文法の形です。自由英作文の内容や構成が、訂正でどう変わるかは別の問題です
- 「訂正の種類による差は小さい」はまとめ全体の話です。英語力や形によって違う結果も出ています(Kang & Han 2015)
- 自動の訂正の研究は数が少なく、いまの対話型 AI での研究ではありません
引いた論文
番号は docs/参考文献ログ_追加_英語2.md(#311〜)の #。すべて DOI を開いて書誌と要旨を確認しています(要旨は OpenAlex・Semantic Scholar・ERIC・J-STAGE)。
- #329 Shintani, N., Ellis, R., & Suzuki, W. (2014). Effects of written feedback and revision on learners’ accuracy in using two English grammatical structures. Language Learning, 64(1), 103–131. https://doi.org/10.1111/lang.12029
- #330 Suzuki, W., Nassaji, H., & Sato, K. (2019). The effects of feedback explicitness and type of target structure on accuracy in revision and new pieces of writing. System, 81, 135–145. https://doi.org/10.1016/j.system.2018.12.017
- #331 Suzuki, W. (2012). Written languaging, direct correction, and second language writing revision. Language Learning, 62(4), 1110–1133. https://doi.org/10.1111/j.1467-9922.2012.00720.x
- #328 Ellis, R., Sheen, Y., Murakami, M., & Takashima, H. (2008). The effects of focused and unfocused written corrective feedback in an English as a foreign language context. System, 36(3), 353–371. https://doi.org/10.1016/j.system.2008.02.001
- #332 O’Flaherty, D. (2016). Japanese high school students’ attitudes towards and usage of corrective feedback on their written work. The Language Teacher, 40(6), 3–. https://doi.org/10.37546/jalttlt40.6-1
- #333 坂本優子・古家貴雄 (2023). 高校生を対象とした自由記述式英作文のルーブリックの開発とフィードバック効果の検証. 教育実践学研究(山梨大学), 28, 225–236. https://doi.org/10.34429/00005277
- #322 Truscott, J. (1996). The case against grammar correction in L2 writing classes. Language Learning, 46(2), 327–369. https://doi.org/10.1111/j.1467-1770.1996.tb01238.x
- #323 Truscott, J. (2007). The effect of error correction on learners’ ability to write accurately. Journal of Second Language Writing, 16(4), 255–272. https://doi.org/10.1016/j.jslw.2007.06.003
- #325 Bitchener, J. (2008). Evidence in support of written corrective feedback. Journal of Second Language Writing, 17(2), 102–118. https://doi.org/10.1016/j.jslw.2007.11.004
- #324 Van Beuningen, C. G., De Jong, N. H., & Kuiken, F. (2012). Evidence on the effectiveness of comprehensive error correction in second language writing. Language Learning, 62(1), 1–41. https://doi.org/10.1111/j.1467-9922.2011.00674.x
- #326 Ferris, D., & Roberts, B. (2001). Error feedback in L2 writing classes. Journal of Second Language Writing, 10(3), 161–184. https://doi.org/10.1016/S1060-3743(01)00039-X
- #320 Kang, E., & Han, Z. (2015). The efficacy of written corrective feedback in improving L2 written accuracy: A meta-analysis. The Modern Language Journal, 99(1), 1–18. https://doi.org/10.1111/modl.12189
- #321 Brown, D., Liu, Q., & Norouzian, R. (2023). Effectiveness of written corrective feedback in developing L2 accuracy: A Bayesian meta-analysis. Language Teaching Research(オンライン 2023・誌面 2026, 30(3), 1357–1389). https://doi.org/10.1177/13621688221147374
- #327 Mohsen, M. A. (2022). Computer-mediated corrective feedback to improve L2 writing skills: A meta-analysis. Journal of Educational Computing Research, 60(5), 1253–1276. https://doi.org/10.1177/07356331211064066