勉強法

更新 2026-10-04 / 引用した論文はすべて DOI を確認しています

英作文の直し方 ── 赤ペンの入れ方で何が変わるか

一言で

英作文のまちがいを直してもらうと、何もしないより書く英語の正確さが上がる。研究のまとめの多くがそう結論しています。 正しい形を書きこむ訂正・下線だけの訂正・文法の説明の間では、差は大きくありませんでした。 日本の大学生の研究では、直された後に書き直すと効果が大きくなりました。なぜ違うかを自分の言葉で書く方法も調べられています(こちらは比べる群のない研究です)。

今日からやること

  1. 添削が返ってきた日のうちに、同じ題で全文を書き直す。直された所を写すだけでなく、全体をもう一度書く。15 分あれば足ります
  2. 直された所の横に「なぜ違うか」を日本語で 1 行書く。「主語が三人称単数なので s」「話の中で 2 回目なので the」のように
  3. 1 週間後、似た題で新しい英文を書く。前回直されたまちがいが、今回も出ていないか数える。書き直しでは直せても、新しい英文では直らない形があったからです(Suzuki ら 2019)

何が分かっているか

日本人学習者で確かめられていること

Shintani, Ellis & Suzuki(2014)

測ったのは、直された文そのものではなく新しく書いた英文の正確さです。

Suzuki, Nassaji & Sato(2019) 日本の大学生 88 人を 4 つの群に分けました。正しい形を書きこむか、下線などで場所だけ示すか。それぞれに文法の説明をつけるか、つけないかです。 冠詞と過去完了について、書き直しではどの群も正確さが上がりました。 しかし新しい英文で伸びたのは、過去完了だけでした。説明のつけ方の差は、新しい英文では出ていません。

Suzuki(2012) 日本人の英語学習者 24 人が、直接訂正を受けた下書きについて、訂正の理由を日本語で書き出しました。 書き出した学習者は、そのすぐ後の書き直しで、そのまちがいを正しく直せていました。文法についての書き出しも、単語についての書き出しも、正確さの向上と結びついていました。 要旨には比べる群が書かれていないので、「書き出したから直せた」とまでは言えません。

Ellis, Sheen, Murakami & Takashima(2008)

O’Flaherty(2016) 日本の高校生に、英作文の添削をどう受けとめ、どう使っているかを聞いた研究です。 生徒は「先生は細かく直すべきだ」「添削は役に立った」と考えていました。ところが実際の使い方はとても受け身でした。 著者は、添削を返すだけでなく、生徒が自分から使うしかけが必要だと提案しています。

坂本・古家(2023) 高校生の自由英作文を、観点ごとの採点表(ルーブリック)で採点して返しました。そのあと同じ題で書き直させています。 採点表つきの返却は「学習の改善をうながす、ある程度有効な手段になりうる」という結果でした。一方で先生への調査では、この採点表は使いにくいと答えられています(数字は要旨に無いので書きません)。

海外の研究と、研究のまとめ

Truscott(1996・2007) 「文法の訂正は役に立たないので、やめるべきだ」と主張した論文です(1996 年)。 2007 年には研究をまとめ直し、「訂正の効果は小さなマイナスと見積もられ、プラスがあってもごく小さい」と結論しました。この主張に答える形で、訂正の効果を確かめる実験が行われてきました(Ellis ら 2008 の要旨より)。

Bitchener(2008) ニュージーランドの初中級の留学生 75 人が対象です。冠詞のまちがいに直接訂正を受けた群は、直後のテストで直さない群を上回りました。2 か月後もその差が保たれていました。

Van Beuningen, De Jong & Kuiken(2012) 268 人の生徒で、すべてのまちがいを直す訂正を調べました。正しい形を書く訂正も、下線などで示す訂正も、正確さを上げました。 比べたのは「自分で見直すだけ」の群と「書く練習を増やすだけ」の群です。差は書き直しだけでなく、1 週間後と 4 週間後の新しい英文でも出ました。 文法のまちがいが新しい英文で減ったのは、正しい形を書く訂正だけでした。文法以外のまちがいは、場所だけ示す訂正でいちばん減りました。 また、直されたせいで簡単な文しか書かなくなる、ということは起きていませんでした。

Ferris & Roberts(2001) 大学の留学生で、まちがいに種類の記号をつける群・下線だけ引く群・何もしない群を比べました。自分で直す力は、記号の群も下線の群も何もしない群を上回りました。記号の有無では差がありませんでした。

Kang & Han(2015) 21 研究のメタ分析(多くの実験結果を合算する研究)です。訂正は書く英語の文法の正確さを上げうる、という結論でした。 ただし効果の大きさは、学習者の英語力・学ぶ場面・書く文章の種類で変わりました(効果量の数値は要旨に無いので書きません)。

Brown, Liu & Norouzian(2023) 比べる群のある研究を最初に 52 本集めたまとめです。中くらいの効果が、時間がたっても続くという結果でした。 直接訂正・場所だけ示す訂正・文法の説明は、どれも似た大きさの効果でした。

Mohsen(2022) コンピューターが自動で出す訂正を調べた 14 研究・1,220 人のまとめです。全体の効果は d=1.21 と大きい値でした。 ただし自動採点の専用ソフトに限ると中くらいで、上級者では小さい値でした。2022 年に出たまとめで、いまの対話型 AI の添削を調べたものではありません。

日本の中高生の勉強にあてはめると

添削は「読んで終わり」にしない。 O’Flaherty(2016)の高校生は、添削を大事だと思いながら、使い方は受け身でした。Shintani ら(2014)では、書き直しの機会で効果が大きくなっています。 英検のライティングや自由英作文の添削が返ってきたら、その日のうちに全文を書き直します。

真っ赤な答案は、まず「同じ種類のまちがい」を探す。 Ellis ら(2008)では、しぼって直しても、まとめて直しても差はありませんでした。直す量そのものより、受け取った後の使い方が大事だと考えられます。 【推論】三単現の s が 3 か所、冠詞が 2 か所、のように種類で数えます。いちばん多い種類を、次の英作文で意識する 1 つに決めると、書き直しの的がしぼれます。

先生に頼むなら「場所だけ」か「正しい形も」か。 Brown ら(2023)のまとめでは、訂正の種類による差は小さいものでした。Van Beuningen ら(2012)では、文法は正しい形を書く訂正、文法以外は場所だけ示す訂正で減りました。 【推論】どちらでもよいので、先生のやりやすい方法で多く書いて多く直してもらうほうが、量を確保できます。

AI の添削を使うときの順番。 AI に直してもらうと、正しい英文がすぐ出てきます。先生の訂正の研究では、その後に書き直すと効果が大きくなりました(Shintani ら 2014)。 【推論】次の順番にすると、研究と同じ「自分で直す一手間」が入ります。

  1. 自分で読み返し、あやしい所に下線を引く
  2. AI や先生の訂正と、下線の位置を比べる。自分で気づけなかった所に印をつける
  3. 印の所に「なぜ違うか」を日本語で書く(Suzuki 2012)
  4. 何も見ずに全文を書き直す

AI の訂正はまちがうこともあります。入試の採点基準とずれることもあるので、学校や塾の先生にも定期的に見てもらいます。

新しい英文で確かめる。 Suzuki ら(2019)では、書き直しで直せても、新しい英文では直らない形がありました。 1 週間後に似た題で書き、前回と同じまちがいが出ていないかを数えます。

よくある誤解

「赤ペンが多いほど、ていねいでよい添削」 Ellis ら(2008)では、冠詞だけ直す群とまとめて直す群で差がありませんでした。一方 Shintani ら(2014)では、書き直しの機会があると効果が大きくなりました。

「正しい英文を見せてもらえば、覚えられる」 O’Flaherty(2016)の高校生のように、見て終わりになりやすいのが添削です。Shintani ら(2014)で効果が大きくなったのは、書き直しを加えたときでした。

「まちがいを直されると、こわくて簡単な文しか書かなくなる」 Van Beuningen ら(2012)では、訂正を受けても文の複雑さや使う単語の幅は下がりませんでした。

「添削には意味がない、という研究もある」 Truscott(1996・2007)の主張です。ただし、その後の研究のまとめは訂正の効果を認めています(Kang & Han 2015・Brown ら 2023)。どの形のまちがいに効果が出やすいかは、まだ研究が分かれています。

このサイトでの使い方

注意点

引いた論文

番号は docs/参考文献ログ_追加_英語2.md(#311〜)の #。すべて DOI を開いて書誌と要旨を確認しています(要旨は OpenAlex・Semantic Scholar・ERIC・J-STAGE)。