勉強法
スマホと勉強 ── 机の上にあるだけで何が起きるか
一言で
「スマホは机の上にあるだけで頭の働きを下げる」という有名な研究があります。ただ、同じ手順の追試では再現せず、56 研究のまとめでも影響は作業記憶にだけ小さく出た程度でした。 はっきりしているのは、通知が来ることと勉強しながら触ることのほうです。対策は「別の部屋に置く」「通知を切る」で、この 2 つは同時にできます。
今日からやること
- 勉強を始める前に、スマホを別の部屋に置く。リビングの充電器に挿しておく形が続けやすいです。時間はキッチンタイマーで計ります
- 勉強する時間帯は通知を全部切る(おやすみモードなど)。LINE の返信は「50 分勉強して 10 分休む」の休み時間にまとめます
- 単語アプリなどで使うときは、そのアプリ以外の通知を切る。使い終わったら、すぐ別の部屋に戻します
何が分かっているか
日本の公的なデータ
全国学力・学習状況調査(2026 年度・同年 8 月公表) ── 中学 3 年生に、平日の SNS・動画の時間を聞いています。学習とゲームの時間は除きます。4 時間以上は 28.5%、3 時間以上を合わせると 49.1% でした。30 分未満は 2.0% です。 この答えごとに、同じ調査の教科の結果を比べた表があります。4 時間以上の生徒と 30 分未満の生徒の平均正答率は、数学 48.7% と 69.6%、国語 58.5% と 71.8% でした。英語のスコアは 463 と 548 です。
ただし、これは相関であって、因果ではありません。家庭の様子・睡眠・もともとの学力など、ほかの違いが同時に入っています。相関の強さを表す数字(相関係数)は −0.20〜−0.26 で、弱めの関係です。スマホを持っていない生徒の数学は 57.5% で、使う時間が短い生徒より低く出ています。単純に「スマホを減らせば点が上がる」とは読めません。 また、2026 年度から質問が変わり、パソコン・ゲーム機・テレビでの視聴も含むようになりました。前の年までの数字とは比べられません。
こども家庭庁「青少年のインターネット利用環境実態調査」(2025 年 11〜12 月) ── 平日 1 日のネット利用の平均です。高校生 約 6 時間 44 分・中学生 約 5 時間 24 分でした。学校のタブレットや勉強での利用も含んだ合計です。10〜17 歳全体の目的別では、趣味・娯楽が約 3 時間 1 分、勉強が約 1 時間 6 分でした。
日本の研究
三浦(2025) ── 千葉県の私立高校 1・2 年生 347 人の研究です。スマホの利用時間は本人の利用記録(ログ)で、成績は実力テスト(国数英)の点で調べました。利用時間と成績の相関はとても弱く、利用時間から成績への直接のつながりは見られませんでした。 代わりに、「スマホに頼りきりになる傾向」を通じて成績と負の関係がありました。また「ほかのことをしながら使う傾向」は、勉強時間が減ることを通じて成績と負の関係がありました。勉強中のスマホの置き場所は、この「ながら利用」を減らす方向に関係していました。
劉・伝保・篠原(2021) ── 2 つの作業を同時に行う実験で、スマホなし・電源オフ・電源オンの 3 条件を比べました。課題が難しく注意が狭くなる場面でも、スマホは注意を引きつけていました。電源のオン・オフには関係ありませんでした(人数と数値は要旨に無いので書きません)。
Suzuki, Morita & Okuda(2026) ── 全国学力・学習状況調査のデータを使った研究です。中学生の生活と学力の関係を調べました。学力と最も強く関係していたのは週末の勉強時間で、次に勉強の計画、平日の勉強時間でした。スクリーンタイム(画面を見る時間)の管理は、これらの手前にある要因として出ています。観察データなので、因果まではいえません。
「机にあるだけ」の研究と、その追試
Ward, Duke, Gneezy & Bos(2017) ── 2 つの実験をまとめた論文です。自分のスマホが近くにあるだけで、使える頭の容量(作業記憶など)が減ると報告しました。スマホに頼る度合いが高い人ほど、この影響が大きいとしています(人数と % は要旨に無いので書きません)。
Ruiz Pardo & Minda(2022) ── Ward らの 2 つ目の実験を、同じ手順でやり直しました。計画は事前に公開しています。机の上・ポケットやかばん・部屋の外の 3 つで比べても、どの課題でも差は出ませんでした。「再現しなかった」という結果です。
Parry(2024) ── この分野の研究をまとめたメタ分析です(56 の効果・7,093 人)。はっきりした影響が出たのは作業記憶だけで、想定より小さいものでした。ほかの頭の働きでは影響はゼロに近く、研究の質のばらつきも大きいとしています。
Böttger, Poschik & Zierer(2023) ── 22 研究・43 の効果をまとめた別のメタ分析です。こちらは全体として有意なマイナスの影響を報告しています。ただし領域によって差が大きく、研究した国でも結果が変わりました。
Tanil & Yong(2020) ── 大学生 119 人の実験です。スマホを手元に持っていない人のほうが、記憶課題で正確に思い出せました。「スマホのことをどれくらい考えたか」が多い人ほど、思い出せた量が少なくなっていました。
まとめると、「机にあるだけ」の影響はあるとしても小さく、研究によって出たり出なかったりするというのが今の状態です。
通知と、ながら利用
Stothart, Mitchum & Yehnert(2015) ── 注意を使う課題の途中で、スマホに通知を送りました。参加者はスマホに触れていないのに、課題の成績ははっきり落ちました。落ち方は、実際に通話やメッセージをしたときと同じくらいでした。
Glass & Kang(2019) ── 大学の講義で、半分の回だけ端末の使用を許しました。授業中の小テストでは差がありませんでした。ところが後日の単元試験と期末試験では、端末を許した回の内容の成績が下でした。その回に端末を使わなかった学生も、同じように下がっていました。
Sana, Weston & Cepeda(2013) ── 模擬授業の実験です。ノートパソコンで授業と関係ない作業をした人は、テストの点が低くなりました。そういう人が視界に入る席に座った人も、点が低くなりました(数値は要旨に無いので書きません)。
日本の中高生の勉強にあてはめると
家での勉強 ── 自分の部屋で勉強するなら、スマホはリビングに置きます。「電源を切って机の端に伏せる」より、目に入らない場所のほうが安全です。劉ら(2021)では、電源オフでも注意を引いていました。三浦(2025)でも、勉強中の置き場所が「ながら利用」と関係していました。
部活のあとの 30 分 ── 帰宅してすぐスマホを開くと、30 分のつもりが 1 時間になりがちです。先にスマホを充電器に挿し、30 分だけ問題を解いてから開く、と順番を決めます。
塾の自習室 ── 部屋を分けられない場所では、通知を切ってかばんの奥に入れます。机の上には置きません。ロッカーに預けられるなら、そのほうが確実です。
授業中と学校のタブレット ── 授業中に別のタブで動画やゲームを開いたとします。その場では分かったつもりでも、後の試験で差が出ます(Glass & Kang 2019)。周りの人の点にも影響します(Sana ら 2013)。授業の 50 分は、授業で使う画面だけにします。
通学電車の 15 分 ── 単語アプリで勉強するなら、スマホを使うこと自体はかまいません。そのときも、ほかのアプリの通知は切ります。通知 1 回で注意がそれます(Stothart ら 2015)。
寝る前 ── 厚生労働省の睡眠ガイドは、デジタル機器を寝室に持ち込まず別の部屋に置くよう勧めています。勉強のときと同じ置き場所にすると、毎日の習慣にしやすくなります(睡眠と一夜漬け)。
公務員試験を受ける社会人 ── 仕事の連絡が気になって、スマホを手放しにくい人も多いはずです。勉強する 1 時間だけ、仕事用アプリ以外の通知を切ります。仕事の連絡は、休憩のときにまとめて確認します。
よくある誤解
「電源を切れば、机の上に置いても大丈夫」 日本の実験(劉ら 2021)では、電源オフでもスマホは注意を引いていました。一方で、影響が出なかった追試もあります。迷ったら、目に入らない別の部屋に置くのが一番手間のない方法です。
「スマホの時間が長いと成績が下がる、と証明されている」 全国学力・学習状況調査の差は相関です。三浦(2025)では、利用時間から成績への直接のつながりは見られませんでした。関係していたのは、頼りきりになる傾向と「ながら利用」です。時間の長さより使い方を見ます。
「授業中にちょっと見ても、その場で分かっていれば平気」 Glass & Kang(2019)では、授業中の小テストは差がなく、後日の試験で差が出ました。その場の「分かった」は、後で残るかどうかの目安になりません。
「机にあるだけで頭が悪くなる、と科学的に決まっている」 Ward ら(2017)の結果は、同じ手順の追試で再現しませんでした。まとめの研究でも、影響は小さいか、出たり出なかったりします。こわがる必要はありません。ただ、通知とながら利用の影響は別の研究で確かめられています。
このサイトでの使い方
このサイトの小テストは、スマホのブラウザでも解けます。スマホで勉強するときは、次の順番にします。
- 先におやすみモードにしてから、単元のページを開く
- 解説を読んだら閉じて、小テストを解く(テスト効果)。途中でほかのアプリに移らない
- 終わったら、スマホを別の部屋に戻す。続きは紙の問題集で解く
学校のタブレットやパソコンが使えるなら、そちらで開くとスマホの通知を気にせずに済みます。教科ごとの 英語 全単元まぜこぜテスト のように 1 回が長めのテストは、パソコンかタブレットで通しで解くのがおすすめです。 例:be動詞(現在) なら、通知を切ってから開きます。小テストを解き終えるまで、ほかのアプリを開きません。
注意点
- 「机にあるだけ」の実験は、ほとんどが海外の大学生です。日本の中高生で、スマホの置き場所を割り当ててテストの点まで比べた研究は、このページではまだ引けていません
- 日本の実験(劉ら 2021)は注意の課題で、勉強の内容を覚える課題ではありません
- 全国学力・学習状況調査とこども家庭庁の数字は、ある時点の調査です。年度ごとに質問や集計が変わるので、最新は一次資料で確認してください
- スマホは勉強にも使います。こども家庭庁の調査でも、勉強目的の利用は 1 日約 1 時間ありました。目的は「スマホをやめる」ではなく、勉強の時間だけ遠ざけることです
- 夜中まで手放せない、使う時間を自分で減らせないと感じるなら、家の人や学校の先生に相談してください
引いた論文
番号は docs/参考文献ログ.md(と班別ファイル docs/参考文献ログ_追加_生活と本番.md)の #。すべて DOI を開いて書誌と要旨を確認しています。
- #206 三浦將太 (2025). スマートフォン利用時間は直接的に学業成績と関連するのか ── 利用行動と心的傾向に着目した具体的な関連性の検討. 社会情報学, 14(2), 35–50. https://doi.org/10.14836/ssi.14.2_35
- #207 劉文娟・伝保昭彦・篠原一光 (2021). 作業環境内のスマートフォンの存在によって生じるディストラクションの特性. 人間工学, 57(4), 203–207. https://doi.org/10.5100/jje.57.203
- #208 Suzuki, T., Morita, N., & Okuda, T. (2026). Bayesian network analysis of academic performance and its behavioral determinants among junior high school students in Japan. Discover Education, 5, 210. https://doi.org/10.1007/s44217-026-01222-5
- #198 Ward, A. F., Duke, K., Gneezy, A., & Bos, M. W. (2017). Brain drain: The mere presence of one’s own smartphone reduces available cognitive capacity. Journal of the Association for Consumer Research, 2, 140–154. https://doi.org/10.1086/691462
- #199 Ruiz Pardo, A. C., & Minda, J. P. (2022). Reexamining the “brain drain” effect: A replication of Ward et al. (2017). Acta Psychologica, 230, 103717. https://doi.org/10.1016/j.actpsy.2022.103717
- #200 Parry, D. A. (2024). Does the mere presence of a smartphone impact cognitive performance? A meta-analysis of the “brain drain effect”. Media Psychology, 27(5), 737–762. https://doi.org/10.1080/15213269.2023.2286647
- #201 Böttger, T., Poschik, M., & Zierer, K. (2023). Does the brain drain effect really exist? A meta-analysis. Behavioral Sciences, 13(9), 751. https://doi.org/10.3390/bs13090751
- #202 Tanil, C. T., & Yong, M. H. (2020). Mobile phones: The effect of its presence on learning and memory. PLOS ONE, 15(8), e0219233. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0219233
- #203 Stothart, C., Mitchum, A., & Yehnert, C. (2015). The attentional cost of receiving a cell phone notification. Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance, 41, 893–897. https://doi.org/10.1037/xhp0000100
- #204 Glass, A. L., & Kang, M. (2019). Dividing attention in the classroom reduces exam performance. Educational Psychology, 39, 395–408. https://doi.org/10.1080/01443410.2018.1489046
- #205 Sana, F., Weston, T., & Cepeda, N. J. (2013). Laptop multitasking hinders classroom learning for both users and nearby peers. Computers & Education, 62, 24–31. https://doi.org/10.1016/j.compedu.2012.10.003
参考資料(公的統計)
- 国立教育政策研究所(2026 年 8 月 3 日公表)「令和 8 年度 全国学力・学習状況調査の結果(概要)」p.76(生徒質問〔4〕とのクロス集計)。https://www.nier.go.jp/26chousakekkahoukoku/report/data/26summary.pdf
- こども家庭庁(2026 年 3 月)「令和 7 年度 青少年のインターネット利用環境実態調査 調査結果(概要)」概要 10。https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/9a55b57d-cd9d-4cf6-8ed4-3da8efa12d63/67f41585/20260327_policies_youth-kankyou_internet_research_results-etc_21.pdf
- 厚生労働省(2024 年 2 月)「健康づくりのための睡眠ガイド 2023」こども版。https://www.mhlw.go.jp/content/001305530.pdf