勉強法
やる気と「頭は伸びる」という考え方 ── 成長マインドセットの研究で分かったこと
一言で
「頭のよさは、努力ややり方で伸びる」という考え方を、成長マインドセットと呼びます。これを短い教材で教える実験は、成績が低めの生徒で小さな差を出しました。 研究全体のまとめでは、対象をしぼれば小さな差が出るという分析と、ほぼゼロという分析に分かれています。 考え方を変えるだけで点数が伸びる、とまでは言えません。研究から考えられるのは、小さく始めて「できた」を積むと、自信があとからついてくるという流れです。
今日からやること
- 机に向かう前に「何を・何分」を 1 つだけ決める。例えば「英単語 20 語を 10 分」。やる気が出るのを待たず、まず 5 分だけ手を動かす
- 寝る前に「できたこと」を数字で 1 行書く。「数学の小テスト 7/10」「単語 20 語中 16 語」のように
- 間違えた問題には「まだ」と書き、解き直す日も書く。「解けない」ではなく「まだ解けない・木曜にもう 1 回」
3 つとも研究そのものではなく、下の研究から考えた工夫です。1 は if-then 計画(後述)、2 は自己効力感の研究からの推論です。
何が分かっているか
日本の中学生を対象にした研究
尾之上・井口・矢野(2025) ── 公立中学校の 3 年生 2 学級(40 人)の研究です。数学の力は変えられると思うか(数学の成長マインドセット)と、数学の成績の関係を調べました。 成長マインドセットは成績と正の関係があり、効果量も大きい結果でした。考え方と「自分の勉強を点検するやり方(メタ認知方略)」を組み合わせると、成績をよりよく説明できました。 ただし人数が少なく、考え方を教材で変えた実験ではありません。著者も、この学級の数学の先生がこの考え方を知っていた点を限界にあげています。
齋藤・中川・大崎・堀田(2021) ── 中学生を対象にした調査です。知能観(頭のよさは変わるかという考え方)や失敗観と、成績の関係を調べました。 結果は、どれも成績と関係しなかったというものです。著者は先行研究と一致しないとして、再現の確認が必要だと書いています。人数は要旨に無いので書きません。
森田・福屋・舩越(2017) ── 中学生のテスト不安(テストへの心配)と勉強の行動の研究です。自己効力感の高さ別に関係を調べました。自己効力感は「自分はそれをやれる」という感覚のことです。 英語で調べた研究 2 では、自己効力感の高い群は、不安が高いほどテスト前の勉強時間が長くなっていました。自己効力感の低い群は、不安が高いほど先延ばしが多くなっていました。
日本の中高生で、教材で考え方を変えて成績まで比べた実験は、このページではまだ引けていません。ここから下は海外の研究です。
アメリカの全国実験
Yeager ら(2019) ── アメリカの公立高校 65 校の実験です。対象は 9 年生(日本の中 3〜高 1 にあたる)12,490 人です。1 人ずつくじで、成長マインドセットの教材を受ける群と、比べるための群に分けました。教材はオンラインで、合わせて 1 時間弱です。
- 教材の前の学期に成績が学校の真ん中以下だった生徒で、9 年生の終わりの主要教科の評定平均(4 段階)が比べる群より 0.10 高かった
- この生徒たちのうち、評定平均が 2.0 未満(D か F)の割合は、推定で 46% から 41% に下がった
- 差が続いたのは、まわりの生徒が「難しいことに挑戦する」雰囲気の学校でした
この数字は論文の本文(PubMed Central の全文)で確認しました。差は 4 段階の 0.10 なので、1 人ひとりで見れば小さな差です。
研究をまとめた分析
Sisk ら(2018) ── 2 つのメタ分析(多くの研究の結果を合算する研究)です。
- 考え方と成績の関係:273 の効果・365,915 人。全体では弱い
- 教材で考え方を教えた効果:43 の効果・57,155 人。全体では弱い
- ただし、家庭の経済状況が厳しい生徒や成績でつまずきかけている生徒には、教材が役立つ可能性がある
Macnamara & Burgoyne(2023) ── 教材の実験 63 本(97,672 人)のメタ分析です。全体の差は d = 0.05 と小さめでした。公表の偏り(差の出た研究ほど論文になりやすいこと)を補正すると、はっきりした差ではなくなりました。 方法の質がいちばん高い 6 本(13,571 人)だけで見ると、d = 0.02 で差は出ていません。お金の利害がある著者ほど、大きな差を報告していたとも書いています。
Burnette ら(2023) ── 同じ年・同じ雑誌に載った、別のメタ分析です。くじで分けた実験から、53 の独立した集団を集めました。 効果が期待される生徒にしぼり、教材を手順どおりに実施した場合、成績の差は d = 0.14 でした。ただ、次の実験で出る差の幅は −0.08〜0.35 と広く、実験ごとに大きく変わりうるとしています。心の健康では d = 0.32 でした。
2 つの分析は、同じ年に違う結論を出しています。研究者の間でも評価が分かれている、と受け取るのが正確です。
ほめ方の実験と、その追試
Mueller & Dweck(1998) ── 小学 5 年生を対象にした 6 つの実験です。課題のあと「頭がいいね」とほめる群と、「よくがんばったね」とほめる群を比べました。 頭のよさをほめられた子は、そのあと失敗すると粘りが続かず楽しめず、点も低めでした。頭のよさを「変わらないもの」と考える傾向も、努力をほめられた子より強く出ました。
Li & Bates(2019) ── 中国の 9〜13 歳 624 人の研究です。研究 1 は、Mueller & Dweck の実験をほぼ同じ形でくり返した追試です。 失敗後の中くらいの難しさのテストでは、ぎりぎりの差(p = .049)が出ました。しかし、やる気や原因の考え方をみる 8 つの指標では差がありませんでした。 研究 2・3 は、比べる群を工夫した別の実験です。ここでも考え方の教材の差は出ませんでした。学期の成績と考え方の関係も見られませんでした。
自己効力感(できそうだという感覚)
「自己効力感」は、Bandura(1977)の論文で示された考え方です。要旨が取れないので、論文の中身はここでは書きません。
Talsma ら(2018) ── 自己効力感と成績を、時期をずらして 2 回測った研究のまとめです。11 本・2,688 人分です。 関係は両方向にありました。ただ「成績がよい → あとで自己効力感が高まる」(β = 0.205)のほうが大きい結果です。逆の「自己効力感が高い → あとで成績がよい」は β = 0.071 でした。 大人では両方向でしたが、子どもでは「成績 → 自己効力感」の向きだけが出ていました。自信が先というより、できた経験が先、という結果です。
やる気を待たずに始める
「やる気が出るまで待つより、まず始める」を直接比べた実験は、このページではまだ引けていません。 近いものとして、if-then 計画(「もし〜なら、〜する」と前もって決める)のメタ分析があります。94 の独立した検証で、目標の達成に中〜大の差(d = 0.65)でした。Gollwitzer & Sheeran(2006)の研究です。くわしくは 公務員試験の勉強法 にまとめました。
日本の中高生の勉強にあてはめると
定期テストで悪い点を取った週 ── 「数学はセンスがない」と考える前に、間違えた問題を 3 つだけ選んで解き直します。Talsma ら(2018)の結果からは、解けた経験が先にあるほうが自信につながると考えられます。
模試で E 判定が出たとき ── 判定は、その時点の位置です。次の模試までに「間違えた単元を 2 つ解き直す」のように、範囲を小さく決めます。大きな目標だけ立てると、手が止まりやすいと考えられます。
部活のあとで、机に向かう気がしない日 ── 「やる気が出たらやる」だと、その日が来ないことも多いものです。「風呂から出たら英単語 10 分」のように、時刻と量を前もって決めておきます(if-then 計画)。 「終わったらおやつ」のようなご褒美の使い方は ご褒美とやる気 にまとめました。
テストが不安で手がつかないとき ── 森田ら(2017)の自己効力感の低い群では、不安が高いほど先延ばしが多めでした。不安の扱い方は 本番の緊張 にまとめました。まずは確実に解ける問題を 5 分解いて、手を動かし始めます。先延ばしそのものの研究は 先延ばし にあります。
「あなたはやればできる子」と言われる ── 考え方を教える教材でも、成績の差は小さいというのが研究のまとめです。周りの言葉より、自分で「できた」を数えるほうが手がかりになります。保護者の方向けには 保護者のかかわり方 があります。
公務員試験を受ける社会人 ── 仕事で疲れた日は、勉強ゼロの日になりがちです。「帰りの電車で一問一答 10 問」と最小の量を決めておくと、ゼロの日を減らせます(公務員試験の学習計画)。
よくある誤解
「成長マインドセットを持てば、成績が伸びる」 アメリカの全国実験で差が出たのは、成績が低めの生徒で、4 段階の 0.10 でした。研究全体のまとめには「弱い」(Sisk ら 2018)と「ほぼゼロ」(Macnamara & Burgoyne 2023)があります。対象をしぼれば小さな差(d = 0.14)という分析もあります(Burnette ら 2023)。考え方は出発点で、それだけで点数が決まるわけではありません。
「頭のよさではなく、努力をほめればいい」 もとの実験(Mueller & Dweck 1998)は有名です。ただ、ほぼ同じ形の追試(Li & Bates 2019 の研究 1)では、点数の差はぎりぎりでした。やる気の指標には差が出ませんでした。ほめ方だけで大きく変わる、とは言いにくい状況です。
「自信がないから、まだ始められない」 Talsma ら(2018)では、子どもは「できた → 自信」の向きだけが出ていました。自信がつくのを待つより、解ける問題から始めるほうが、研究の流れに合います。
「やる気が出ないのは、性格の問題」 森田ら(2017)では、同じ不安でも、自己効力感によって勉強時間が増える人と先延ばしする人に分かれていました。性格と決めつけず、「できそうな量」に切り分けることで変えられる部分があると考えられます。
このサイトでの使い方
- 1 日の最初は、前に解けた単元の小テストから。基礎 10 問で「解けた」を作ってから、新しい単元に進みます
- 間違えた問題は「同じ型でもう 1 問」を押す。同じ型を数を変えて解き直し、「まだ」を「できた」に変えます(テスト効果)
- 「前に間違えた型をやり直す」を週に 2 回。日をあけて解けたら、その型は自信を持ってよい型です(間隔反復)
- まぜこぜテストの点を記録する。数学 全単元まぜこぜテスト や 英語 全単元まぜこぜテスト の点を、日付と一緒にノートに書きます。点の動きが「できた」の記録になります
例:二次方程式 で小テストが 6/10 だった日は、間違えた 4 問だけ「同じ型でもう 1 問」を解きます。木曜に「前に間違えた型をやり直す」で 8/10 なら、それを記録します。
注意点
- アメリカの全国実験は、9 年生(中 3〜高 1 相当)が対象です。日本の中高生で、同じ教材を使って成績まで比べた実験は、このページではまだ引けていません
- 日本の研究は、正の関係が出たもの(尾之上ら 2025)と、関係が出なかったもの(齋藤ら 2021)があります。どちらも調査のデータです
- 成長マインドセットの効果は、研究者の間でも評価が分かれています。「これさえやれば」という紹介には注意してください
- 「今日からやること」の 3 つは、研究から考えた工夫で、それ自体を実験で確かめたものではありません
- 気分が沈む・眠れない・朝起きられない状態が何週間も続く場合は、やる気の問題ではないこともあります。学校の先生や保健室、医療機関に相談してください
引いた論文
番号は班別ファイル docs/参考文献ログ_追加_生活2.md(#34 は docs/参考文献ログ.md)の #。すべて DOI を開いて書誌と要旨を確認しています(#302 は書誌のみ)。
- #298 尾之上高哉・井口豊・矢野秀平 (2025). 数学の学習における成長マインドセットとメタ認知方略が,学業成績に及ぼす影響. 日本教育工学会論文誌, 49(2), 429–439. https://doi.org/10.15077/jjet.48147
- #299 齋藤玲・中川哲・大崎貢・堀田龍也 (2021). 中学生における自由意志信念と知能観,失敗観,学業成績との関連. 日本教育工学会論文誌, 45(Suppl.), 181–184. https://doi.org/10.15077/jjet.S45083
- #301 森田愛子・福屋いずみ・舩越咲 (2017). 中学生のテスト不安および自己効力感と学習行動との関連. 学校心理学研究, 17(1), 45–57. https://doi.org/10.24583/jjspedit.17.1_45
- #292 Yeager, D. S., Hanselman, P., Walton, G. M., Murray, J. S., Crosnoe, R., Muller, C., … Dweck, C. S. (2019). A national experiment reveals where a growth mindset improves achievement. Nature, 573(7774), 364–369. https://doi.org/10.1038/s41586-019-1466-y
- #293 Sisk, V. F., Burgoyne, A. P., Sun, J., Butler, J. L., & Macnamara, B. N. (2018). To what extent and under which circumstances are growth mind-sets important to academic achievement? Two meta-analyses. Psychological Science, 29(4), 549–571. https://doi.org/10.1177/0956797617739704
- #294 Macnamara, B. N., & Burgoyne, A. P. (2023). Do growth mindset interventions impact students’ academic achievement? A systematic review and meta-analysis with recommendations for best practices. Psychological Bulletin, 149(3–4), 133–173. https://doi.org/10.1037/bul0000352
- #295 Burnette, J. L., Billingsley, J., Banks, G. C., Knouse, L. E., Hoyt, C. L., Pollack, J. M., & Simon, S. (2023). A systematic review and meta-analysis of growth mindset interventions: For whom, how, and why might such interventions work? Psychological Bulletin, 149(3–4), 174–205. https://doi.org/10.1037/bul0000368
- #297 Mueller, C. M., & Dweck, C. S. (1998). Praise for intelligence can undermine children’s motivation and performance. Journal of Personality and Social Psychology, 75(1), 33–52. https://doi.org/10.1037/0022-3514.75.1.33
- #296 Li, Y., & Bates, T. C. (2019). You can’t change your basic ability, but you work at things, and that’s how we get hard things done: Testing the role of growth mindset on response to setbacks, educational attainment, and cognitive ability. Journal of Experimental Psychology: General, 148(9), 1640–1655. https://doi.org/10.1037/xge0000669
- #302 Bandura, A. (1977). Self-efficacy: Toward a unifying theory of behavioral change. Psychological Review, 84(2), 191–215. https://doi.org/10.1037/0033-295X.84.2.191 (題名・書誌のみ)
- #300 Talsma, K., Schüz, B., Schwarzer, R., & Norris, K. (2018). I believe, therefore I achieve (and vice versa): A meta-analytic cross-lagged panel analysis of self-efficacy and academic performance. Learning and Individual Differences, 61, 136–150. https://doi.org/10.1016/j.lindif.2017.11.015
- #34 Gollwitzer, P. M., & Sheeran, P. (2006). Implementation intentions and goal achievement: A meta-analysis of effects and processes. Advances in Experimental Social Psychology, 38, 69–119. https://doi.org/10.1016/S0065-2601(06)38002-1