勉強法
睡眠と一夜漬け ── 削った睡眠は、覚えた分を持っていく
一言で
覚えたことは、眠っている間に整理されて残りやすくなります。だから睡眠を削って勉強時間を足しても、その分がそのまま得になるとは限りません。 睡眠を削った翌日は授業の理解とテストでつまずきが増えた、という高校生の調査があります。寝る時刻は「余った時間」ではなく、先に決める予定です。
今日からやること
- 起きる時刻から 8 時間を引いて、寝る時刻を先に決める。6 時 30 分に起きるなら 22 時 30 分です。休みの日も、起きる時刻を平日と 1 時間以上ずらさない
- テスト前日の夜は、新しい範囲に手を出さない。その日にやった範囲を閉じて思い出す 30 分で切り上げ、いつもの時刻に寝る
- 寝る 30 分前にスマホを別の部屋へ置く。アラームは目覚まし時計に任せる。帰宅後の 30 分以上の昼寝はやめて、そのぶん夜に早く寝る
何が分かっているか
日本の中高生の睡眠(公的な調査)
文部科学省の全国調査(2014 年 11 月) ── 小 5〜高 3 の約 2 万 3 千人に聞いた調査です。次の日に学校がある日に0 時以降に寝るのは、中学生で 22.0%、高校生で 47.0% でした。睡眠が「十分ではない」と答えたのは、中学生 24.8%、高校生 31.5% です。高校生の 31.4% は、学校がある日とない日で起きる時刻が 2 時間以上ずれることが「よくある」と答えました。 同じ調査では、起きる時刻のずれが大きい子ほど午前の授業中に眠くて仕方がないことが多い、という関係も出ています。これは同じ時点の調査なので、どちらが原因かまでは分かりません。
厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド 2023」(2024 年 2 月) ── 中学生・高校生の睡眠時間の目安を示しています。8〜10 時間を参考に確保するよう勧めています。週末も普段と同じ時刻に起きること、デジタル機器は寝室に持ち込まず別の部屋に置くことも書かれています。
日本の中高生・大学生を対象にした研究
Momoda ら(2019) ── 日本の中学生 1,919 人(12〜15 歳)と保護者へのオンライン調査です。保護者が答えた「段取りや気持ちの切りかえ」の力(実行機能)と睡眠時間の関係を調べました。睡眠が短すぎる子も長すぎる子も、平均的な子よりこの力が低い U 字の形でした。短い子は夜中まで活動している様子が見られました。
Sato(2023) ── 長野県の大学生 109 人に、睡眠と成績(GPA)を質問紙で聞いた学会発表です。成績の低い群は、中くらい・高い群より睡眠時間が有意に短いという結果でした。査読つきの論文ではなく学会抄録なので、参考程度に見てください。
日本の中高生に「睡眠を削る/削らない」を割り当てて、テストの点まで比べた実験は、このページではまだ引けていません。ここから下は海外の研究です。
眠ると、覚えたことが残る
Rasch & Born(2013) ── 睡眠と記憶の研究を 100 年分まとめた総説です。睡眠が記憶の保持を高めることは確立した事実だとしています。眠っている間に、その日に覚えた内容が脳の中で再生され、長く残る形に移されると説明しています。特に深い眠り(徐波睡眠)が大事だとしています。
Gais, Lucas & Born(2006) ── 高校生に英単語を覚えさせた 2 つの実験です。覚えてから数時間以内に眠ったほうが、時刻や間に入る作業をそろえても、よく思い出せました。覚えた夜に眠らせないと、次の夜にしっかり眠り直したあとでも差が残りました(% は要旨に無いので書きません)。
睡眠を削ると、翌日に何が起きるか
Gillen-O’Neel, Huynh & Fuligni(2013) ── 高校生 535 人が毎日日誌をつけた調査です。9・10・12 年生(日本の中 3・高 1・高 3 相当)の各 14 日間、書いてもらいました。いつもより睡眠を削って勉強した日の翌日は、授業の内容が分からない・課題やテストでつまずくことが増えました。これはふだんの勉強量が多い生徒でも同じでした。学年が上がるほど、睡眠を削って勉強する日が増えていました。
Lo ら(2016) ── 進学校に通う 15〜19 歳の 56 人が、寄宿舎で 2 週間過ごした実験です。半分は 7 晩続けて寝床にいる時間を 5 時間に、残りは 9 時間にしました。5 時間の群は、注意を保つ力・作業記憶(頭の中にメモしておく力)・段取りの力が日ごとに落ちました。9 時間の回復睡眠を 2 晩とっても、注意と眠気は元に戻りませんでした。
詰め込みと昼寝を比べると
Cousins ら(2019, Sleep 誌) ── 若い成人に事実の知識を覚えさせた実験です。間の 1 時間を「昼寝(27 人)」「休憩(27 人)」「詰め込み(30 人)」に分けました。30 分後のテストでは、昼寝と詰め込みが休憩より上でした。ところが1 週間後には、昼寝だけが上を保ち、詰め込みの差は消えていました。
Cousins ら(2019, npj Science of Learning 誌) ── 10 代の 58 人の実験です。学校の 1 週間をまねた生活を 2 回送ってもらいました。夜に 6.5 時間続けて寝る群と、夜 5 時間+14 時から 1.5 時間昼寝する群を比べています。昼寝を入れた群のほうが、絵の記憶と午後に学んだ内容をよく覚えていました。午前に学んだ内容は差がありませんでした。著者は「夜の十分な睡眠の代わりにはならない」とも書いています。
日本の中高生の勉強にあてはめると
定期テスト前の部活停止期間 ── テスト前の 1 週間は、部活がない分だけ時間が空きます。この時間を夜ふかしに回すのではなく、夕方の勉強に回します。たとえば「帰宅後 17〜19 時に 2 時間」「夕食後 20〜22 時に 2 時間」で 4 時間です。22 時 30 分に寝れば、6 時 30 分起きで 8 時間眠れます。
一夜漬けで範囲を覚えた場合 ── 詰め込みは 30 分後には役に立っても、1 週間後には差が消えました(Cousins ら 2019)。定期テストの範囲は、実力テスト・模試・入試で必ずしも同じ形では出ません。前日の夜に初めて見る内容が多いなら、テストの日程から逆算して1 週間前から少しずつ回します(間隔反復)。
部活のあとに塾がある日 ── 部活 → 塾 → 21 時 30 分に帰宅、という日は珍しくありません。この日は「宿題は塾の自習室で終わらせる」「家では夕食・入浴・翌日の準備だけ」と決めておくと、寝る時刻を守れます。文部科学省の調査では、帰宅後に 30 分以上仮眠する子ほど、午前中に調子が悪いと答える割合が高く出ています(相関)。
休日の寝だめ ── 平日 6 時間・休日 10 時間のように差が大きいと、月曜の朝に起きるのがつらくなります。厚生労働省のガイドは、週末も普段と同じ時刻に起きて日光を浴びるよう勧めています。休日は、平日より 1 時間遅いくらいまでにとどめます。
受験直前(共通テスト・高校入試・公務員試験) ── 本番は朝が早いので、本番の 2 週間前から起きる時刻を本番の日に合わせます。共通テスト(令和 9 年度)の 1 日目は、地理歴史・公民の 2 科目受験なら 9 時 30 分開始です(共通テストの時間割)。会場への移動が 1 時間なら、6 時 30 分ごろに起きる生活に寄せておきます。高校入試は 2 月から 3 月が中心です(高校入試の日程)。公務員試験の受験者は、仕事のあとに勉強する人が多いはずです。平日の夜を削るより、出勤前の朝 30 分に「思い出す練習」を置くほうが睡眠を守れます(公務員試験の日程)。
前日の夜に眠れない ── 本番の前夜は、緊張で寝つけないこともあります。前の晩に寝つけないのは、珍しいことではありません。眠れないこと自体を責めずに、決めた時刻に布団に入って目を閉じます。緊張そのものへの対処は 本番の緊張 にまとめました。
よくある誤解
「慣れれば短い睡眠でも平気になる」 Lo ら(2016)の参加者は、進学校に通う勉強の得意な高校生でした。それでも 5 時間の睡眠が 1 週間続くと、注意や作業記憶が日ごとに落ちています。本人の「眠くない」という感覚と、実際の頭の働きは別のものです。
「休みの日に寝だめすれば取り返せる」 Lo ら(2016)では、9 時間の回復睡眠を 2 晩とっても、注意と眠気は元に戻りませんでした。寝だめで起きる時刻が遅れると、月曜の朝がつらくなります。
「長く寝れば寝るほどよい」 日本の中学生 1,919 人の調査(Momoda ら 2019)では、短すぎる子も長すぎる子も「段取りの力」が低い U 字でした。長すぎる子は、昼間に活動が少ない様子も見られました。目安は厚生労働省の 8〜10 時間です。
「昼寝はなまけ」 Cousins ら(2019)では、1 時間の昼寝は同じ時間の詰め込みより、1 週間後の記憶で上でした。ただし実験の昼寝は午後の早い時間です。夕方以降の長い昼寝は、夜の睡眠を遅らせます。
このサイトでの使い方
- 夜の最後の 30 分は、新しい解説を読まない。その日に開いた単元の小テストを、閉じた状態で解き直します(テスト効果)
- 朝起きたら「前に間違えた型をやり直す」から始める。眠ったあとに思い出せるかで、残ったかどうかを確かめます
- テスト前の週は、教科の「まぜこぜテスト」を 1 日 1 回。数学 全単元まぜこぜテスト や 英語 全単元まぜこぜテスト です。夜ふかしで範囲を一気に読むより、日を分けて解く回数を増やします
- 本番の 2 週間前に、時間割を確認する。共通テスト・高校入試の日程・公務員試験の日程 から開始時刻を見て、起きる時刻を決めます
例:二次方程式 を夜にやった日は、寝る前に小テストを 1 回だけ解いて寝ます。翌朝に同じ単元の「前に間違えた型」を解くと、眠ったあとに残ったかを確かめられます。
注意点
- 睡眠と記憶の実験の多くは海外の 10 代・大学生が対象です。日本の中高生で「睡眠を削る/削らない」を割り当てて、テストの点まで比べた研究は、このページではまだ引けていません
- 日本の研究(Momoda ら・Sato)と文部科学省の調査は、ある時点で聞いた調査です。「睡眠が短いから成績が低い」のか「別の理由で両方が起きている」のかは区別できません
- 文部科学省の睡眠の全国調査は 2014 年のもので、スマホの普及が今より少ない時期です。最新の状況は一次資料で確認してください
- 毎朝どうしても起きられない、遅刻や欠席が続く場合は、生活のくせではなく睡眠の病気のこともあります。厚生労働省のガイドも、早めに医師に相談するよう書いています
- 必要な睡眠時間には個人差があります。8〜10 時間は目安で、日中に眠気がなく授業に集中できているかで調整します
引いた論文
番号は docs/参考文献ログ.md(と班別ファイル docs/参考文献ログ_追加_生活と本番.md)の #。すべて DOI を開いて書誌と要旨を確認しています。
- #196 Momoda, M., Yoshizaki, A., Nagatani, F., Nishimura, T., Taniike, M., & Mohri, I. (2019). Impaired executive function in junior high school students with excess sleep time. Vulnerable Children and Youth Studies, 14, 116–128. https://doi.org/10.1080/17450128.2019.1580404
- #197 Sato, T. (2023). A relationship between academic performance and nighttime sleep in Japanese university students(学会抄録). SLEEP, 46(Supplement_1), A80. https://doi.org/10.1093/sleep/zsad077.0181
- #36 Rasch, B., & Born, J. (2013). About sleep’s role in memory. Physiological Reviews, 93, 681–766. https://doi.org/10.1152/physrev.00032.2012
- #191 Gais, S., Lucas, B., & Born, J. (2006). Sleep after learning aids memory recall. Learning & Memory, 13, 259–262. https://doi.org/10.1101/lm.132106
- #192 Gillen-O’Neel, C., Huynh, V. W., & Fuligni, A. J. (2013). To study or to sleep? The academic costs of extra studying at the expense of sleep. Child Development, 84, 133–142. https://doi.org/10.1111/j.1467-8624.2012.01834.x
- #193 Lo, J. C., Ong, J. L., Leong, R. L. F., Gooley, J. J., & Chee, M. W. L. (2016). Cognitive performance, sleepiness, and mood in partially sleep deprived adolescents: The Need for Sleep Study. Sleep, 39, 687–698. https://doi.org/10.5665/sleep.5552
- #194 Cousins, J. N., Wong, K. F., Raghunath, B. L., Look, C., & Chee, M. W. L. (2019). The long-term memory benefits of a daytime nap compared with cramming. Sleep, 42(1), zsy207. https://doi.org/10.1093/sleep/zsy207
- #195 Cousins, J. N., van Rijn, E., Ong, J. L., Wong, K. F., & Chee, M. W. L. (2019). Does splitting sleep improve long-term memory in chronically sleep deprived adolescents? npj Science of Learning, 4, 8. https://doi.org/10.1038/s41539-019-0047-z
参考資料(公的統計)
- 文部科学省(2015)「睡眠を中心とした生活習慣と子供の自立等との関係性に関する調査の結果(概要)」調査時点 2014 年 11 月。https://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/katei/__icsFiles/afieldfile/2015/04/30/1357460_01_1_1.pdf
- 厚生労働省(2024 年 2 月)「健康づくりのための睡眠ガイド 2023」こども版。https://www.mhlw.go.jp/content/001305530.pdf