勉強法
朝ごはんと食事 ── 食べると点が上がるのか
一言で
朝ごはんを毎日食べる生徒ほど、テストの点が高い。日本の全国調査でも、答えの段ごとにそろって出ている関係です(強さは弱め)。 ただし、この差には家庭の様子・睡眠・生活のリズムなど、ほかの違いも一緒に入っています。くじで分けた実験で確かめられているのは、食べた日の午前中に、注意や記憶の一部の課題がよくなるところまでです。 「食べれば点が上がる」とは言い切れません。それでも、午前の授業や試験の日に、わざわざ空腹で臨む理由は見当たりません【推論】。
今日からやること
- 何も食べずに家を出る日をなくす。食欲がない朝は、おにぎり 1 個・バナナ 1 本・牛乳 1 杯のどれか 1 つでよい
- 朝ごはんの時間がとれないなら、起きる時刻と寝る時刻を両方 15 分早める。睡眠時間を削らずに、朝の 15 分をつくる
- 試験の日の朝は、ふだん食べ慣れたものにする。模試の朝に一度試し、お腹の調子をみておく
3 つとも研究から考えた工夫です。この手順そのものを比べた研究はありません。1 の食べ物は一般的な例で、研究で比べたものではありません。1 は「食べる・食べない」を比べた実験から、2 は 睡眠と一夜漬け、3 は 本番の緊張 の段取りの考え方がもとです。
何が分かっているか
日本の公的なデータ
全国学力・学習状況調査(2026 年度・同年 8 月公表) ── 中学 3 年生に「朝食を毎日食べていますか」と聞いています。 「している」は 78.5%、「どちらかといえば、している」は 12.4% でした。「あまりしていない」は 6.1%、「全くしていない」は 2.8% です。 答えごとの平均正答率は、次のとおりでした。
- 数学:している 60.2%・どちらかといえば 51.8%・あまり 44.7%・全く 43.1%
- 国語:している 65.9%・どちらかといえば 61.2%・あまり 56.0%・全く 54.6%
この表は相関であって、因果ではありません。相関の強さを表す数字(相関係数)は、国語 0.14・数学 0.18 で、弱い関係です。 朝ごはんを食べる家庭は、寝る時刻や家での勉強の習慣もそろっていることが多いと考えられます。この表だけでは、朝ごはんそのものの差なのか、ほかの違いなのかを分けられません。
日本の研究
Ushijima, Watanabe & Shimura(2016) ── 日本の中学生 175 人を 2014 年に調べた研究です。体力・成績・ストレス・生活習慣(朝食・睡眠・テレビやゲームの時間)の関係を見ました。 朝食を毎日食べる生徒は、成績が高く、ストレスが低めでした。成績に関係する要因の分析では、体力と朝食の関係が大きく出ています。同じ時点の調査なので、どちらが原因かは分かりません。
小林・多賀(2021) ── 日本の 8〜12 歳 655 人の調査です。過去 1 週間に 1 日でも朝食を抜いた子は 8% でした。 毎日食べる子は、食べない日があった子より国語のテストが高めでした(平均 71.6 点と 65.9 点)。食べない日があった子は、いやな気分も強めでした。小学生が対象で、これも調査です。
瀬浦・永井・山崎(2024) ── 朝食を抜くことと成績の関係を、15 本の論文・16 万 5 千人分で合算した分析です(学会発表)。 朝食を抜く人は、成績が低いことと有意に関係していました(オッズ比 1.86)。ただし、もとの研究どうしのばらつきがとても大きく出ています(I² = 90%)。集めたのは主に調査の研究なので、「抜くと下がる」という原因の向きまでは確かめられません。査読つきの論文ではなく学会の発表要旨です。
日本の中高生で「食べる日・食べない日」を割り当てて、点まで比べた実験は、このページではまだ引けていません。ここから下は海外の研究です。
食べた日の午前中(くじで分けた実験)
Widenhorn-Müller, Hille, Klenk & Weiland(2008) ── 寄宿学校の 13〜20 歳 104 人の実験です。くじで半分に分け、片方は決まった朝食を食べ、もう片方は食べずにテストを受けました。7 日後に入れかえています(クロスオーバー試験)。
- 長く注意を続ける課題では、差が出なかった
- 空間の記憶は、男子だけよくなった
- 「頭がさえている」という自己評価は、全員で上がった
Cooper, Bandelow & Nevill(2011) ── 12〜15 歳 96 人の実験です。同じ生徒が「朝食あり」と「朝食なし」の両方の日を、7 日あけて順番をくじで決めて受けました。 朝食を食べた日は、むずかしいほうの探す課題が正確でした。注意の課題(ストループ課題)の正確さも、午前中に保たれていました。記憶の課題では、午前の後半の反応が速めでした。元気が出た・疲れが少ないという答えも多くなっています。
Adolphus, Lawton, Champ & Dye(2016) ── 子ども・中高生に朝食を割り当てた実験を集めたまとめです(45 研究)。
- 朝食を食べると、絶食とくらべてその日の午前中の認知(考える・覚える働き)にプラス。注意・実行機能(計画や切りかえなど、考えをまとめる働き)・記憶でそろいやすい
- 栄養が足りていない子どもで、差が出やすい
- 朝食の中身の違いと、学校で長く朝食を出す取り組みは、はっきり言えない。研究が少なく、結果もそろわないため
- 中高生の研究が少ない
このまとめは、食品会社(ケロッグ)の資金で書かれたと論文に明記されています。
Hoyland, Dye & Lawton(2009) ── 1950〜2008 年の 45 研究をまとめた、先にあるまとめです。朝食を食べるほうが抜くより認知によいが、その差は栄養状態が悪い子どもでより目立つ、としています。ここでも中高生を調べた研究は少なかった、と書いています。
成績・授業の様子と朝食
Adolphus, Lawton & Dye(2013) ── 朝食と、授業中の様子・学業成績の関係を調べた 36 本の論文をまとめました。
- 授業中に課題に向かう様子には、おおむねプラス
- ふだんの朝食の回数は、成績とくり返しプラスの関係だった
- ただしこの関係の一部は、家庭の経済状況などの違いで説明できる。授業の様子を観察者の主観で測った研究も多い
学校で朝食を出す取り組み
Kristjansson ら(2007) ── 経済的に苦しい家庭の多い学校で、学校給食(朝食に限らない)を出した研究 18 本のまとめです。 所得の低い国では出席が年 4〜6 日多く、算数・数学の伸びも大きめでした(一部の研究の合算で SMD = 0.66。SMD は差の大きさの目安です)。著者の結論は「小さな利点があるかもしれない」という控えめなものです。
Frisvold(2015) ── アメリカの学校朝食の制度を調べた研究です。州の決まりで朝食を出す学校が増えた差を使って比べ、朝食の制度を使えるようになると学力が上がっていたと結論しています。数字は要旨に無いので書きません。
Leos-Urbel, Schwartz, Weinstein & Corcoran(2013) ── ニューヨーク市が 2003 年に、学校の朝食を全員無料にしたときの研究です。学校で朝食をとる生徒は少し増えました。しかし学業成績への影響は、はっきりしませんでした。
日本の中高生の勉強にあてはめると
朝練のある日 ── 朝練の前に何も食べないと、運動のあと午前の授業を空腹で受けることになります。家を出る前におにぎり 1 個、朝練のあとに牛乳やパン、と分けて食べる手があります【一般的な助言】。研究で確かめた分け方ではありません。
朝起きられず、食べる時間がない ── 朝食を抜く理由が「時間がない」なら、それは睡眠の問題でもあります。夜型の研究は 朝型・夜型と勉強の時間帯、睡眠時間の目安は 睡眠と一夜漬け にまとめました。 全国学力調査の表で、朝食の差に睡眠の差がまざっている可能性も、ここにあります【推論】。
定期テストの日・模試の日 ── くじで分けた実験で差が出たのは、食べた日の午前中の注意や記憶でした(上の 2 つの実験)。試験はたいてい午前から始まります。 差が出たのは一部の課題で、男子だけの項目もありました。それでも、空腹で試験を受けて得をする根拠は見当たりません【推論】。ふだん食べ慣れたものを食べます。本番の朝の段取りは 本番の緊張 にもあります。
共通テストの日 ── 1 日目は早い人で 9 時 30 分に始まり、英語のリスニングは 17 時 20 分からです(共通テストのしくみ)。昼食はふだんの量にとどめます【一般的な助言】。昼食の量と午後の点を比べた研究は、このページでは引けていません。
「頭がよくなる朝ごはん」の宣伝 ── 何を食べるかによる違いは、Adolphus ら(2016)で「はっきり言えない」とされていました。特定の食品で点が変わる、という宣伝は研究の範囲を超えています。 主食・主菜・副菜をそろえる、という食事の勧め方は、健康のための一般的な助言です。点数の研究とは別のものとして受け取ってください。
体の中で何が起きているか ── 食べたものがどう消化されてエネルギーになるかは、理科の単元で確かめられます。中学は 細胞・光合成と呼吸・消化と吸収、高校の生物基礎は 体内環境の調節(自律神経・ホルモン・血糖) です。
公務員試験を受ける社会人 ── 試験は朝から夕方まで続く日程が多くあります。朝食と昼食を、ふだんの勤務日と同じ時刻・同じ量にしておくと、当日にいつもと違うことが減ります【一般的な助言】。日程は 公務員試験の日程 で確かめられます。
よくある誤解
「朝ごはんを食べると点が上がると、全国調査で証明された」 全国学力調査の表は相関です。相関係数は 0.14〜0.18 で弱い関係でした。朝ごはんを食べる家庭は、ほかの生活習慣もそろっていることが多く、朝食だけの差とは読めません。Adolphus ら(2013)も、関係の一部は家庭の経済状況で説明できるとしています。
「朝食で頭の働きがよくなるのは、はっきりしている」 くじで分けた実験で差が出たのは、食べた日の午前中の一部の課題です。Widenhorn-Müller ら(2008)では、注意を続ける課題に差がなく、記憶は男子だけでした。差が目立つのは栄養が足りていない子どもで、中高生の研究は少ない、とまとめにも書かれています。
「学校で朝食を出せば、テストの点がよくなる」 結果は分かれています。Frisvold(2015)は学力が上がったとしています。一方、Leos-Urbel ら(2013)の全員無料化では、学業への影響ははっきりしませんでした。Hoyland ら(2009)は、学校朝食の差の一部は出席が増えたことで説明できるかもしれない、と書いています。
「朝ごはんを抜いて勉強時間に回したほうが得」 朝の 10 分を勉強に回して点が上がった、という研究はこのページでは引けていません。くじの実験では、食べた日の午前に注意や記憶の一部がよくなっていました。抜くことの得を示す根拠は見当たりません【推論】。
このサイトでの使い方
- 朝の 10 分は、新しいことより「閉じて思い出す」。朝ごはんのあと家を出るまでの 10 分は、昨日間違えた型の小テストに使います(テスト効果)
- 試験の日の朝の練習を、模試の朝にしておく。食べる時刻・量・会場に着く時刻を模試の日に一度通し、本番と同じにします
- 生活の記事をまとめて読む。朝ごはんは、睡眠・起きる時刻・スマホの時間とつながっています。睡眠と一夜漬け・朝型・夜型と勉強の時間帯・スマホと勉強 を順に読むと、どこから変えるかを選べます
注意点
- 全国学力調査の数字は、2026 年度の中学 3 年生のものです。質問や対象は年によって変わることがあるので、最新は一次資料で確認してください
- 日本の研究は、どれも同じ時点の調査です(Ushijima ら 2016・小林・多賀 2021)。瀬浦ら(2024)は学会の発表要旨で、もとの研究どうしのばらつきが大きく出ています
- くじで分けた実験は海外の研究で(国は要旨に無い)、人数も 100 人前後です。「食べた日の午前中」を見たもので、何か月も続けたときの成績は調べていません
- 食物アレルギー・持病・体重の管理などで食事に制限がある人は、学校の先生や医療機関の指示を優先してください。食べられない・食べすぎる状態が続くときも、一人で抱えず相談してください
引いた論文
番号は班別ファイル docs/参考文献ログ_追加_気持ち生活.md の #。すべて DOI を開いて書誌と要旨を確認しています。#482 は学会発表要旨(J-STAGE の抄録)で確認しました。
- #480 Ushijima, K., Watanabe, H., & Shimura, M. (2016). The relationships among physical fitness, academic achievements, psychological stress scale scores and lifestyles of junior high school students. 発育発達研究, 2016(72), 19–30. https://doi.org/10.5332/hatsuhatsu.2016.72_19
- #481 小林仁美・多賀昌樹 (2021). 小学生における朝食欠食が学業成績および感情に及ぼす影響. 日本食育学会誌, 15(1), 33–38. https://doi.org/10.14986/shokuiku.15.33
- #482 瀬浦崇博・永井梨湖・山崎さら (2024). 朝食欠食は学業成績に影響するのか? メタ分析による検証. 一般社団法人日本家政学会研究発表要旨集, 76, 39(学会発表). https://doi.org/10.11428/kasei.76.0_39
- #475 Widenhorn-Müller, K., Hille, K., Klenk, J., & Weiland, U. (2008). Influence of having breakfast on cognitive performance and mood in 13- to 20-year-old high school students: Results of a crossover trial. Pediatrics, 122(2), 279–284. https://doi.org/10.1542/peds.2007-0944
- #476 Cooper, S. B., Bandelow, S., & Nevill, M. E. (2011). Breakfast consumption and cognitive function in adolescent schoolchildren. Physiology & Behavior, 103(5), 431–439. https://doi.org/10.1016/j.physbeh.2011.03.018
- #474 Adolphus, K., Lawton, C. L., Champ, C. L., & Dye, L. (2016). The effects of breakfast and breakfast composition on cognition in children and adolescents: A systematic review. Advances in Nutrition, 7(3), 590S–612S. https://doi.org/10.3945/an.115.010256
- #472 Hoyland, A., Dye, L., & Lawton, C. L. (2009). A systematic review of the effect of breakfast on the cognitive performance of children and adolescents. Nutrition Research Reviews, 22(2), 220–243. https://doi.org/10.1017/S0954422409990175
- #473 Adolphus, K., Lawton, C. L., & Dye, L. (2013). The effects of breakfast on behavior and academic performance in children and adolescents. Frontiers in Human Neuroscience, 7, 425. https://doi.org/10.3389/fnhum.2013.00425
- #477 Kristjansson, B., Petticrew, M., MacDonald, B., Krasevec, J., Janzen, L., Greenhalgh, T., … Welch, V. (2007). School feeding for improving the physical and psychosocial health of disadvantaged students. Cochrane Database of Systematic Reviews, CD004676. https://doi.org/10.1002/14651858.CD004676.pub2
- #478 Frisvold, D. E. (2015). Nutrition and cognitive achievement: An evaluation of the School Breakfast Program. Journal of Public Economics, 124, 91–104. https://doi.org/10.1016/j.jpubeco.2014.12.003
- #479 Leos-Urbel, J., Schwartz, A. E., Weinstein, M., & Corcoran, S. (2013). Not just for poor kids: The impact of universal free school breakfast on meal participation and student outcomes. Economics of Education Review, 36, 88–107. https://doi.org/10.1016/j.econedurev.2013.06.007
参考資料(公的統計)
- 国立教育政策研究所(2026 年 8 月 3 日公表)「令和 8 年度 全国学力・学習状況調査 調査結果資料【全国版/中学校】」── クロス集計表[生徒質問-教科]全国(国・公・私立)の質問(1)。https://www.nier.go.jp/26chousakekkahoukoku/factsheet/data/26m_424.xlsx
- 同 相関係数[生徒質問-教科]全国(国・公・私立)の質問(1)。https://www.nier.go.jp/26chousakekkahoukoku/factsheet/data/26m_421.xlsx