勉強法
勉強する場所を変える ── 自分の部屋・図書館・自習室
一言で
覚えた場所と思い出す場所が同じだと、思い出しやすいことがあります。これを文脈依存記憶(覚えたときの周りの様子が、思い出す手がかりになること)と呼びます。 ただ、この差は条件によって小さくなります。中身に集中して覚えたときや、覚えた場所を頭に思い浮かべたときです。 むしろ、同じ内容を別の場所でもう一度学ぶと、新しい場所で思い出しやすくなった実験があります。「勉強は 1 か所で」と決めなくても大丈夫、というのが研究に近い見方です。
今日からやること
- 復習の 2 回目は場所を変える。1 回目を自分の部屋でやったら、2 回目は図書館・自習室・リビングのどれかで同じ範囲を読み直す
- 本番 2 週間前から、静かな場所で時間を計って解く日を週 1 回以上入れる。図書館や塾の自習室を使う
- 試験中に思い出せないときは、覚えた机や席を頭に思い浮かべる。10 秒だけにして、出てこなければ次の問題へ進む
何が分かっているか
日本の研究
漁田・漁田(1999) ── 日本の短期大学生の、授業の中で行った 3 つの実験です。授業の中で項目を覚え、同じ授業の中か、休み時間に別の場所でテストしました。 授業の中で覚えたものは、授業の中のほうがよく思い出せました(実験 2 は 1 週間後のテスト)。 大事なのは、差を生んだのが部屋の種類ではなかったことです。差が出たのは「授業か休み時間か」という、場所以外の状況の変化でした。授業では先生が、休み時間では知り合いの学生が実験を進めています。
Isarida & Isarida(2007) ── 大学生 計 194 人の 4 つの実験です。著者は静岡大学の研究者です(所属は PubMed の書誌による)。単語を 1 つずつ、色のついた背景の上に見せました。 2 色の背景が単語ごとに入れかわるときだけ、覚えたときと同じ色のほうが思い出しやすくなりました。全部の単語を同じ色で見せたときは、差が出ませんでした。 著者らは、背景の色が「変わること」が、色の効果が出るのに必要だとまとめています。
覚えた場所と思い出す場所
Godden & Baddeley(1975) ── ダイバーが、陸の上と水の中で単語のリストを覚えた実験です。思い出すテストも、陸か水中のどちらかで行いました。 水中で覚えたリストは水中で、陸で覚えたリストは陸で、よく思い出せました。 場所を移動すること自体のじゃまが原因ではないことも、続く実験で確かめています。
Smith, Glenberg & Bjork(1978) ── 部屋の環境と記憶を調べた 5 つの実験です。 実験 2〜4 では、覚えた部屋と同じ部屋でテストしたほうが、思い出して書くテスト(再生)の成績がよい結果でした。 一方、実験 4・5 の再認(見せられた語が「あったか・なかったか」を選ぶテスト)では、部屋の差は出ませんでした。自分で思い出して書くテストで差が出て、選ぶテストでは出なかったわけです。
Smith & Vela(2001) ── 場所の効果を調べた研究をまとめたメタ分析です。メタ分析は、多くの実験結果を合算する研究です。 全体として、場所の効果は確かにありました。ただし、次のような場合には小さくなっていました。
- 覚えるときに、周りの様子より覚える中身そのものに頭を使っていたとき
- テストのとき、場所以外の手がかりを使えたとき
- テストのとき、覚えた場所を頭の中で思い浮かべたとき 著者らのまとめでは、周りの環境から注意が離れていると、場所の効果は出にくくなります。効果の数値は要旨に無いので書きません。
場所を変えて学ぶ
Smith, Glenberg & Bjork(1978)の実験 1 ── 大学生 16 人(1 群 8 人)です。40 語の単語リストを、3 時間あけて 2 回学びました。 1 つの群は 2 回とも同じ部屋、もう 1 つの群は 2 回でまったくちがう部屋で学びました。テストは、さらに 3 時間後に第 3 の部屋で行いました。 思い出せた数は、同じ部屋の群が平均 15.9 語、ちがう部屋の群が平均 24.4 語でした(論文本文の結果)。
Smith & Rothkopf(1984) ── 学校の授業に近い形で調べた実験です。統計の講座(録画した授業 4 回・計 8 時間)を受けてもらいました。 授業を 1 日で受けるか 4 日に分けるか、4 回とも同じ部屋か 4 つのちがう部屋かを組み合わせています。テストは 5 日後に、まったく新しい部屋で行いました。 4 日に分けたほうが、1 日にまとめるより上でした。部屋を 4 つに変えると、「場依存型」と呼ばれる認知のタイプの学生で、答えを自分で書くテストが上でした。 要旨で部屋の効果が示されているのは、この学生たちについてです。 授業の終わりのテストでは差が出ず、5 日後のテストで差が出ていました。
Imundo, Pan, Bjork & Bjork(2021) ── 2 つの実験(106 人・203 人)です。36 語のリストを覚え、2 日後に同じ部屋か新しい部屋で、もう一度学ぶか思い出すテストをしました。 新しい部屋でもう一度読むのは、成績を下げませんでした。実験 2 では上げました。 一方、新しい部屋で答えの確認なしに思い出すテストをすると、思い出せる量が減りました。その差は、さらに 2 日後の最終テストまで残りました。
周りの音
Grant ら(1998) ── 40 人が、静かな部屋かうるさい部屋で記事を読みました。そのあと、静かな部屋かうるさい部屋で理解度のテストを受けています。 短く答える問題でも、選択式でも、読んだときとテストのときの音の条件が同じほうが点が上でした。 著者らは応用として、静かな中で勉強すると試験でよい結果になりうる、と述べています。
Klatte, Bergström & Lachmann(2013) ── 子どもと騒音の研究をまとめた総説です。騒がしい中では、話を聞き取って理解する力が下がりました。この下がり方は、大人より子どものほうが大きく出ていました。 音を聞く課題でなくても、目で見た並びの記憶や読むことが乱されていました。教室の騒がしさや響きは、言葉の課題の低さと関係していました。 ただし、多くは差が小さいとも書いています。ほかの要因を十分にそろえていない研究もあります。
周りの話し声や歌詞のある曲が、読むことのじゃまになる研究は 音楽を聴きながらの勉強 にまとめています。ここではくり返しません。
日本の中高生の勉強にあてはめると
研究をまとめると、場所についてのポイントは 3 つです。
- 場所の差は、思ったより小さい:中身に集中すれば差は小さくなる。選ぶ形式のテストでは差が出ないこともあった(Smith & Vela・Smith ら 1978)
- 復習は場所を変えてもよい:別の場所での学び直しは、新しい場所で思い出す助けになった(Smith ら・Imundo ら)
- 静かさは本番に合わせる:読んだときとテストの音の条件が同じほうが上だった(Grant ら)
自分の部屋
- いちばん長く勉強する場所なので、1 回目の学習はここで十分です
- スマホは部屋の外に置きます。置き場所の研究は スマホと勉強 にまとめています
リビング
- リビングで勉強する人もいます。家族の話し声やテレビは、読む勉強のじゃまになる音にあたります
- 【推論】計算練習や漢字の書き取りはリビング、長文読解や暗記の 1 回目は静かな部屋、と分ける手があります。話し声が読むことを妨げるという、ongaku で引いたまとめ研究からの考えです
図書館・塾の自習室
- 静かで、試験に近い条件です。過去問を時間を計って解くのに向いています(Grant ら)
- 【推論】1 回目は家、2 回目の復習は自習室と分けると、Smith ら(1978)の実験 1 に近い形になります。ただ実験は単語リストで、教科書の内容で同じ差が出るかは分かっていません
- 休み時間の過ごし方は 集中と休憩 にまとめています
カフェ・ファミレス・通学電車
- 周りの話し声があります。読む勉強より、単語カードや計算のような短い練習に向きます
- 【推論】通学電車の 15 分で、前の日に家で覚えた単語を思い出すのは「場所を変えた復習」になります。ただ Imundo ら(2021)では、答えの確認なしに新しい場所で思い出すと、量が減りました。電車で思い出すときは、単語帳で答えを確かめながら行います
試験会場(知らない教室)
- 定期テストは、ふだんの教室で受けます。場所の心配はほとんどいりません
- 高校入試・共通テスト・公務員試験は、知らない学校や大学で受けます。漁田・漁田(1999)では、差を生んだのは部屋の種類ではなく「授業中か休み時間か」という場面の違いでした。家での勉強と本番も場面は違うので、まったく心配いらないとまでは言えません。Smith & Vela(2001)でも、中身に集中すると場所の差は小さくなっていました
- 【推論】それでも心配なら、模試を「知らない会場で解く練習」に使います。思い出せないときは、覚えた机を思い浮かべます(Smith & Vela の「頭の中で思い浮かべる」)
- 当日の準備は 本番の緊張 にまとめています
公務員試験の社会人
- 平日は通勤電車と自宅、休日は図書館、と自然に場所が分かれやすい人が多いです
- 【推論】法律科目の判例のように、読んで理解する勉強は静かな場所で 1 回目を行います。2 回目の確認は、通勤電車で答えを確かめながら行うと、場所を変えた復習の形になります
よくある誤解
「勉強する場所は 1 か所に決めたほうがいい」 Imundo ら(2021)の論文は、「勉強は 1 か所の決まった場所で」という助言がよくあることから始めています。しかし実験では、新しい場所で読み直しても成績は下がらず、上がる場合もありました。 1 か所に決めると始めやすい、という利点はあります。どちらにしても、場所を変えたこと自体で損をすることは少ないと考えられます。
「試験会場と同じ場所で勉強しないと、本番で思い出せない」 Smith & Vela(2001)では、中身に集中したときは場所の差が小さくなっていました。覚えた場所を思い浮かべたときも同じです。Smith ら(1978)では、選ぶ形式のテストで場所の差が出ませんでした。 ただ Grant ら(1998)では、選択式でも音の条件の差が出ています。本番に近い静かな条件で解く練習は、入れておくと安心です。
「場所を変えるだけで覚えられる」 Smith & Rothkopf(1984)では、部屋を変えた効果が示されたのは、一部のタイプの学生についてでした。Isarida & Isarida(2007)でも、条件によって差が出ませんでした。場所を変えるのは補助で、思い出す練習 や 日をあけた復習 の代わりにはなりません。
「にぎやかなカフェのほうが集中できる」 カフェの音そのものと、静かな部屋を比べて勉強の成績を調べた研究は、このページでは引けていません。周りの話し声は読むことを妨げる、というまとめ研究はあります(音楽を聴きながらの勉強)。
このサイトでの使い方
- 家で単元の解説を読み、小テストを解く。たとえば 鎌倉時代 や 血液の循環・排出・感覚と神経・運動
- 翌日以降、場所を変えて同じ単元の「前に間違えた型をやり直す」を解く。自習室・図書館・通学電車のどれでもかまいません
- 英単語や熟語は、電車で答えを確かめながら思い出す。例:句動詞(look for/put off/turn down …)
- 本番 2 週間前は、静かな場所で単元の小テストを通しで解く日を作る。公務員試験なら 数的処理 全単元まぜこぜテスト を、時間を計って解く
注意点
- 研究の多くは、単語のリストを覚える実験です。教科書や問題集の内容で同じ差が出るかは、あまり確かめられていません
- 日本の研究(漁田・漁田 1999、Isarida & Isarida 2007)は短大生・大学生が対象です。日本の中高生が勉強場所を変えて、テストの点を比べた研究は、このページではまだ引けていません
- 場所の効果は、実験によって出たり出なかったりします。Smith & Vela(2001)は、その条件を整理した研究です
- 子どもと騒音の総説(Klatte ら 2013)によると、多くの差は小さめです。ほかの要因をそろえきれていない研究も含まれます
- 自宅の部屋とリビングを比べて勉強の成績を調べた研究は、このページでは引けていません。リビングの段は推論です
- 「週 1 回以上」「10 秒だけ」などの数は一例です。研究で決まった値ではありません
引いた論文
番号は docs/参考文献ログ_追加_習慣3.md の #。すべて DOI を開いて書誌と要旨を確認しています。#351 の実験 1 の数字は、著者の研究室が公開している論文本文で確認しました。
- #353 Godden, D. R., & Baddeley, A. D. (1975). Context-dependent memory in two natural environments: On land and underwater. British Journal of Psychology, 66(3), 325–331. https://doi.org/10.1111/j.2044-8295.1975.tb01468.x
- #351 Smith, S. M., Glenberg, A. M., & Bjork, R. A. (1978). Environmental context and human memory. Memory & Cognition, 6(4), 342–353. https://doi.org/10.3758/BF03197465
- #352 Smith, S. M., & Vela, E. (2001). Environmental context-dependent memory: A review and meta-analysis. Psychonomic Bulletin & Review, 8(2), 203–220. https://doi.org/10.3758/BF03196157
- #356 漁田武雄・漁田俊子 (1999). 授業と休憩の間で生じる文脈変化がエピソード記憶におよぼす効果. 心理学研究, 69(6), 478–485. https://doi.org/10.4992/jjpsy.69.478
- #357 Isarida, T., & Isarida, T. K. (2007). Environmental context effects of background color in free recall. Memory & Cognition, 35(7), 1620–1629. https://doi.org/10.3758/BF03193496
- #354 Smith, S. M., & Rothkopf, E. Z. (1984). Contextual enrichment and distribution of practice in the classroom. Cognition and Instruction, 1(3), 341–358. https://doi.org/10.1207/s1532690xci0103_4
- #355 Imundo, M. N., Pan, S. C., Bjork, E. L., & Bjork, R. A. (2021). Where and how to learn: The interactive benefits of contextual variation, restudying, and retrieval practice for learning. Quarterly Journal of Experimental Psychology, 74(3), 413–424. https://doi.org/10.1177/1747021820968483
- #358 Grant, H. M., Bredahl, L. C., Clay, J., Ferrie, J., Groves, J. E., McDorman, T. A., & Dark, V. J. (1998). Context-dependent memory for meaningful material: Information for students. Applied Cognitive Psychology, 12(6), 617–623. https://doi.org/10.1002/(SICI)1099-0720(1998120)12:6%3C617::AID-ACP542%3E3.0.CO;2-5
- #359 Klatte, M., Bergström, K., & Lachmann, T. (2013). Does noise affect learning? A short review on noise effects on cognitive performance in children. Frontiers in Psychology, 4, 578. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2013.00578