勉強法

更新 2026-10-04 / 引用した論文はすべて DOI を確認しています

勉強する場所を変える ── 自分の部屋・図書館・自習室

一言で

覚えた場所と思い出す場所が同じだと、思い出しやすいことがあります。これを文脈依存記憶(覚えたときの周りの様子が、思い出す手がかりになること)と呼びます。 ただ、この差は条件によって小さくなります。中身に集中して覚えたときや、覚えた場所を頭に思い浮かべたときです。 むしろ、同じ内容を別の場所でもう一度学ぶと、新しい場所で思い出しやすくなった実験があります。「勉強は 1 か所で」と決めなくても大丈夫、というのが研究に近い見方です。

今日からやること

  1. 復習の 2 回目は場所を変える。1 回目を自分の部屋でやったら、2 回目は図書館・自習室・リビングのどれかで同じ範囲を読み直す
  2. 本番 2 週間前から、静かな場所で時間を計って解く日を週 1 回以上入れる。図書館や塾の自習室を使う
  3. 試験中に思い出せないときは、覚えた机や席を頭に思い浮かべる。10 秒だけにして、出てこなければ次の問題へ進む

何が分かっているか

日本の研究

漁田・漁田(1999) ── 日本の短期大学生の、授業の中で行った 3 つの実験です。授業の中で項目を覚え、同じ授業の中か、休み時間に別の場所でテストしました。 授業の中で覚えたものは、授業の中のほうがよく思い出せました(実験 2 は 1 週間後のテスト)。 大事なのは、差を生んだのが部屋の種類ではなかったことです。差が出たのは「授業か休み時間か」という、場所以外の状況の変化でした。授業では先生が、休み時間では知り合いの学生が実験を進めています。

Isarida & Isarida(2007) ── 大学生 計 194 人の 4 つの実験です。著者は静岡大学の研究者です(所属は PubMed の書誌による)。単語を 1 つずつ、色のついた背景の上に見せました。 2 色の背景が単語ごとに入れかわるときだけ、覚えたときと同じ色のほうが思い出しやすくなりました。全部の単語を同じ色で見せたときは、差が出ませんでした。 著者らは、背景の色が「変わること」が、色の効果が出るのに必要だとまとめています。

覚えた場所と思い出す場所

Godden & Baddeley(1975) ── ダイバーが、陸の上と水の中で単語のリストを覚えた実験です。思い出すテストも、陸か水中のどちらかで行いました。 水中で覚えたリストは水中で、陸で覚えたリストは陸で、よく思い出せました。 場所を移動すること自体のじゃまが原因ではないことも、続く実験で確かめています。

Smith, Glenberg & Bjork(1978) ── 部屋の環境と記憶を調べた 5 つの実験です。 実験 2〜4 では、覚えた部屋と同じ部屋でテストしたほうが、思い出して書くテスト(再生)の成績がよい結果でした。 一方、実験 4・5 の再認(見せられた語が「あったか・なかったか」を選ぶテスト)では、部屋の差は出ませんでした。自分で思い出して書くテストで差が出て、選ぶテストでは出なかったわけです。

Smith & Vela(2001) ── 場所の効果を調べた研究をまとめたメタ分析です。メタ分析は、多くの実験結果を合算する研究です。 全体として、場所の効果は確かにありました。ただし、次のような場合には小さくなっていました。

場所を変えて学ぶ

Smith, Glenberg & Bjork(1978)の実験 1 ── 大学生 16 人(1 群 8 人)です。40 語の単語リストを、3 時間あけて 2 回学びました。 1 つの群は 2 回とも同じ部屋、もう 1 つの群は 2 回でまったくちがう部屋で学びました。テストは、さらに 3 時間後に第 3 の部屋で行いました。 思い出せた数は、同じ部屋の群が平均 15.9 語、ちがう部屋の群が平均 24.4 語でした(論文本文の結果)。

Smith & Rothkopf(1984) ── 学校の授業に近い形で調べた実験です。統計の講座(録画した授業 4 回・計 8 時間)を受けてもらいました。 授業を 1 日で受けるか 4 日に分けるか、4 回とも同じ部屋か 4 つのちがう部屋かを組み合わせています。テストは 5 日後に、まったく新しい部屋で行いました。 4 日に分けたほうが、1 日にまとめるより上でした。部屋を 4 つに変えると、「場依存型」と呼ばれる認知のタイプの学生で、答えを自分で書くテストが上でした。 要旨で部屋の効果が示されているのは、この学生たちについてです。 授業の終わりのテストでは差が出ず、5 日後のテストで差が出ていました。

Imundo, Pan, Bjork & Bjork(2021) ── 2 つの実験(106 人・203 人)です。36 語のリストを覚え、2 日後に同じ部屋か新しい部屋で、もう一度学ぶか思い出すテストをしました。 新しい部屋でもう一度読むのは、成績を下げませんでした。実験 2 では上げました。 一方、新しい部屋で答えの確認なしに思い出すテストをすると、思い出せる量が減りました。その差は、さらに 2 日後の最終テストまで残りました。

周りの音

Grant ら(1998) ── 40 人が、静かな部屋かうるさい部屋で記事を読みました。そのあと、静かな部屋かうるさい部屋で理解度のテストを受けています。 短く答える問題でも、選択式でも、読んだときとテストのときの音の条件が同じほうが点が上でした。 著者らは応用として、静かな中で勉強すると試験でよい結果になりうる、と述べています。

Klatte, Bergström & Lachmann(2013) ── 子どもと騒音の研究をまとめた総説です。騒がしい中では、話を聞き取って理解する力が下がりました。この下がり方は、大人より子どものほうが大きく出ていました。 音を聞く課題でなくても、目で見た並びの記憶や読むことが乱されていました。教室の騒がしさや響きは、言葉の課題の低さと関係していました。 ただし、多くは差が小さいとも書いています。ほかの要因を十分にそろえていない研究もあります。

周りの話し声や歌詞のある曲が、読むことのじゃまになる研究は 音楽を聴きながらの勉強 にまとめています。ここではくり返しません。

日本の中高生の勉強にあてはめると

研究をまとめると、場所についてのポイントは 3 つです。

自分の部屋

リビング

図書館・塾の自習室

カフェ・ファミレス・通学電車

試験会場(知らない教室)

公務員試験の社会人

よくある誤解

「勉強する場所は 1 か所に決めたほうがいい」 Imundo ら(2021)の論文は、「勉強は 1 か所の決まった場所で」という助言がよくあることから始めています。しかし実験では、新しい場所で読み直しても成績は下がらず、上がる場合もありました。 1 か所に決めると始めやすい、という利点はあります。どちらにしても、場所を変えたこと自体で損をすることは少ないと考えられます。

「試験会場と同じ場所で勉強しないと、本番で思い出せない」 Smith & Vela(2001)では、中身に集中したときは場所の差が小さくなっていました。覚えた場所を思い浮かべたときも同じです。Smith ら(1978)では、選ぶ形式のテストで場所の差が出ませんでした。 ただ Grant ら(1998)では、選択式でも音の条件の差が出ています。本番に近い静かな条件で解く練習は、入れておくと安心です。

「場所を変えるだけで覚えられる」 Smith & Rothkopf(1984)では、部屋を変えた効果が示されたのは、一部のタイプの学生についてでした。Isarida & Isarida(2007)でも、条件によって差が出ませんでした。場所を変えるのは補助で、思い出す練習 や 日をあけた復習 の代わりにはなりません。

「にぎやかなカフェのほうが集中できる」 カフェの音そのものと、静かな部屋を比べて勉強の成績を調べた研究は、このページでは引けていません。周りの話し声は読むことを妨げる、というまとめ研究はあります(音楽を聴きながらの勉強)。

このサイトでの使い方

  1. 家で単元の解説を読み、小テストを解く。たとえば 鎌倉時代 や 血液の循環・排出・感覚と神経・運動
  2. 翌日以降、場所を変えて同じ単元の「前に間違えた型をやり直す」を解く。自習室・図書館・通学電車のどれでもかまいません
  3. 英単語や熟語は、電車で答えを確かめながら思い出す。例:句動詞(look for/put off/turn down …)
  4. 本番 2 週間前は、静かな場所で単元の小テストを通しで解く日を作る。公務員試験なら 数的処理 全単元まぜこぜテスト を、時間を計って解く

注意点

引いた論文

番号は docs/参考文献ログ_追加_習慣3.md の #。すべて DOI を開いて書誌と要旨を確認しています。#351 の実験 1 の数字は、著者の研究室が公開している論文本文で確認しました。