勉強法
勉強時間の長さと質 ── 何時間やれば足りるのか
一言で
家で勉強する時間が長い生徒ほど、テストの点は高い傾向です。日本の全国調査でもそう出ています。 ただ、これは相関で、関係の強さは弱めです。時間が長い層どうしでは、点の差が小さくなっていました。研究で見えてきたのは、「何時間やったか」だけでは成績をうまく説明できないことです。 このページは「◯時間やれば足りる」とは言いません。言える根拠がないからです。代わりに、時間の中身を見直す手がかりをまとめます。
今日からやること
- 1 週間だけ、勉強の「時間」と「中身」を並べて記録する。例「21 時〜21 時 40 分 数学 小テスト 10 問 7 問正解・間違えた 3 問解き直し」。時間だけの記録にしない
- 記録を見て、「読んでいただけ」「写していただけ」の時間に線を引く。その時間の半分を、閉じて思い出す・解き直す時間に置きかえる
- 休みの日の勉強を 1 コマだけ先に決める。例「土曜 9 時〜10 時は、平日に間違えた型だけ解き直す」
3 つとも研究から考えた工夫です。この手順そのものを比べた研究ではありません。1・2 は Plant ら(2005)と勉強法の研究、3 は Suzuki ら(2026)がもとです。
何が分かっているか
日本の公的なデータ
全国学力・学習状況調査(2026 年度・同年 8 月公表) ── 中学 3 年生に、学校の授業以外の勉強時間を聞いています。塾・家庭教師・ネットで学ぶ時間も含みます。 平日(月〜金)の 1 日あたりの答えと、数学・国語の平均正答率は次のとおりでした。
- 3 時間以上(9.0%):数学 64.0%・国語 67.3%
- 2〜3 時間(21.3%):数学 63.1%・国語 67.7%
- 1〜2 時間(31.5%):数学 59.8%・国語 65.8%
- 30 分〜1 時間(19.5%):数学 55.7%・国語 63.7%
- 30 分未満(11.5%):数学 50.5%・国語 60.2%
- 全くしない(6.8%):数学 41.7%・国語 53.3%
休みの日の 1 日あたりでは、4 時間以上(5.3%)の数学が 71.0%、全くしない(13.2%)が 44.8% でした。ただし休みの日の質問は、無回答が 12.6% ありました。
ここから読めることは 3 つです。
- 時間が長い層ほど、平均正答率はおおむね高い
- ただし相関であって、因果ではありません。相関係数(関係の強さ)は 0.16〜0.27 で、弱めの関係です(平日は国語 0.16・数学 0.21/休みの日は国語 0.22・数学 0.27)
- 平日の「3 時間以上」と「2〜3 時間」の差は、数学で 0.9 ポイント、国語では逆に 0.4 ポイント低い。長い層どうしでは、時間の差が点の差になって表れていません
同じ調査のまとめによると、中学生の授業以外の勉強時間は 2021 年度以降、平日も休日も減る傾向です。
日本の研究
Suzuki, Morita & Okuda(2026) ── 全国学力・学習状況調査のデータで、中学生の生活と学力の関係を調べた研究です。学力と最も強く関係していたのは週末の勉強時間でした。次が勉強の計画、その次が平日の勉強時間です。観察データなので、因果まではいえません。
数実(2019) ── 公立の小学生(小 5・小 6)と中学生(中 2・中 3)を、2 時点で追ったデータの研究です。成績が下がったあとに、勉強時間がどう変わるかを調べました。 小学生では、成績が下がっても勉強時間は減りませんでした。中学生では、家庭の社会経済的な状況が低めの層でだけ、成績が下がると勉強時間も減っていました。 「勉強時間が長いから成績が高い」だけでなく、「成績が下がると勉強時間が減る」向きもある、ということです。全国調査の表を読むときにも、この逆向きが入っている可能性があります。
須藤(2010) ── 日本の高校生の数学を、国際調査(PISA 2003)のデータで調べた研究です。勉強時間ではなく、勉強のしかた(学習方略)と学力の関係を見ました。
- 「定着確認方略」と「手順暗記方略」は、学力とプラスの関係。呼び名のとおり、覚えたかを確かめる・手順を覚えるやり方です
- 「応用関連方略」は、マイナスの関係。PISA 型の学力は「応用力」というイメージとは逆の結果でした
- 勉強のしかたにも家庭の状況による差はあるが、勉強時間の差ほど大きくない
著者は、勉強時間を確保するだけでなく、勉強のしかたを身につけることも必要だとまとめています。これも調査のデータです。
日本の中高生に勉強時間を割り当てて、点まで比べた実験は、このページではまだ引けていません。そもそも、勉強時間をくじで決める実験はとても難しいものです。ここから下は海外の研究です。
勉強時間と成績(海外)
Plant, Ericsson, Hill & Asberg(2005) ── 大学生の勉強時間と成績(GPA)の研究です。題名は「勉強時間が大学生の成績を予測しないのはなぜか」です。 勉強の量は、それだけでは成績をうまく予測しませんでした。勉強の質(勉強する環境など)と、それまでの成績を一緒に考えたときにだけ、量が成績の予測に加わりました。
Cooper, Robinson & Patall(2006) ── アメリカの宿題の研究(1987〜2003 年)をまとめたものです。どの研究にも設計の弱さがありましたが、宿題は学力にプラスという結果がおおむねそろっていました。 宿題の時間と学力の相関は、小学生より中高生(7〜12 年生)で強かった。相関の数値は要旨に無いので書きません。
Trautwein(2007) ── 宿題の「時間」と「回数」と「取り組みのていねいさ」を分けて調べた 3 つの研究です。 宿題が出されること、宿題をきちんとやることは、学力やその伸びとプラスの関係でした。しかしそのプラスは、「宿題に何分かけたか」という時間の数字には表れていませんでした。
Fernández-Alonso, Suárez-Álvarez & Muñiz(2015) ── スペインの中学生(平均 13.8 歳)の数学・理科の研究です。宿題をほとんどしない生徒を除いた 7,451 人を分析しました。
- 学力を最もよく説明したのは、それまでの成績(前から身についている力)だった
- 宿題の中で大きかったのは、自分の力でやっているかと、先生が宿題を出す回数。かけた時間や努力の量ではなかった
- 宿題の時間は、1 日 1 時間あたりがいちばんよい結果だった
この「1 時間」は、この研究のスペインの中学生の数学・理科の宿題での結果です。日本の受験勉強の時間の目安にはなりません。
「1 万時間」と意図的練習
Ericsson, Krampe & Tesch-Römer(1993) ── 「意図的練習」という考え方を示した論文です。意図的練習とは、上達するために組み立てた、骨の折れる練習のことです。ただ長く続ける練習とは区別しています。 一流の人どうしの差も、意図的練習の量と強く関係していた、としています。才能に見えるものの多くは、10 年以上の練習の結果だという主張です。
Macnamara, Hambrick & Oswald(2014) ── 意図的練習と成績の関係を、分野ごとにまとめたメタ分析(多くの研究結果を合算する研究)です。成績の個人差のうち、意図的練習の量で説明できた割合は次のとおりでした(2018 年の訂正後の値。訂正前は ゲーム 26%・音楽 21%・スポーツ 18%・教育 4%・仕事 1% 未満)。
- ゲーム 24%・音楽 23%・スポーツ 20%
- 教育(勉強)5%
- 仕事 1%
2018 年の訂正は計算方法の誤りを直したもので、著者は「結論は変わらない」としています(訂正: https://doi.org/10.1177/0956797618769891 )。
著者は「意図的練習は大事だが、言われてきたほどではない」とまとめています。
Macnamara & Maitra(2019) ── Ericsson ら(1993)のバイオリンの研究を、方法を改めてくり返した追試です。 「練習の積み重ねの量が、技能の段階ごとに対応する」という中心の結果は再現されませんでした。練習量と技能の関係はそれなりの大きさがあったものの、もとの研究よりかなり小さかった、としています。
日本の中高生の勉強にあてはめると
「平日 3 時間」が気になる ── 全国学力調査で、平日 3 時間以上の中 3 は 9.0% でした。2〜3 時間の層と点はほぼ同じです。 【推論】平日を 3 時間にのばすより、今の時間の「読んでいるだけ」を解く時間に変えるほうが、研究の流れに合うと考えられます。どう変えるかは テスト効果(思い出す練習) と 間隔反復 にまとめました。
部活で平日は 1 時間しかとれない ── Suzuki ら(2026)で学力と最も強く関係していたのは、週末の勉強時間でした(相関)。平日は「間違えた型を 10 問」のように短く決め、まとまった勉強は休みの日に置きます。部活との組み方は 勉強の計画と部活の両立 にあります。
テスト前に睡眠を削って時間を増やす ── 勉強時間をのばす一番簡単な方法は、寝る時刻を遅らせることです。しかし睡眠を削った翌日は、授業の理解とテストでつまずきが増えていた調査があります(睡眠と一夜漬け)。時間を足すなら、睡眠以外から足します。
友達の「昨日 5 時間やった」 ── Macnamara ら(2014)は、成績の個人差を意図的練習の量でどれだけ説明できるかを調べました。勉強の分野では 5%(2018 年の訂正後)でした。Trautwein(2007)でも、宿題のプラスは時間の数字に表れていませんでした。 人の時間と自分の時間を比べても、点の予想にはあまり役立たないと考えられます【推論】。比べるなら、小テストの正解数のように中身の数字にします。
塾の時間も「勉強時間」 ── 全国学力調査の勉強時間には、塾と家庭教師の時間が入っています。【推論】塾で 2 時間聞いた日は、帰ってから「間違えた問題を閉じて解き直す 15 分」を足します。聞いた時間を、思い出す時間につなげられると考えられます。
受験学年の夏休み ── 「1 日 10 時間」のような目標がよく話題になります。研究からは、何時間が適切かは決められません。 時間の目標を立てるなら、中身の目標と一緒にします。例「午前は過去問 1 年分・午後は間違えた問題の解き直し・夜は単語の小テスト」。過去問の使い方は 過去問の使い方 にあります。
公務員試験を受ける社会人 ── 学生ほど時間はとれません。Plant ら(2005)のとおり、量だけでは成績をうまく予測しませんでした。通勤の 20 分は一問一答、休日は過去問と解き直し、と中身で分けます(公務員試験の学習計画)。
よくある誤解
「勉強時間が長いほど点が上がると、全国調査で分かっている」 全国調査の表は相関で、相関係数は 0.16〜0.27 の弱めの関係です。数実(2019)のように、成績が下がると勉強時間が減る逆向きの関係もあります。長い層どうしでは、点の差がほとんどありませんでした。
「1 万時間やれば、だれでも一流になれる」 よく Ericsson ら(1993)の研究と結びつけて語られる言い方です。ただ、その中心の結果は追試(Macnamara & Maitra 2019)で再現されませんでした。勉強の分野で、成績の個人差のうち練習量で説明できたのは 4% でした(Macnamara ら 2014)。練習が無意味という意味ではありません。量だけで決まるわけではない、ということです。
「時間を記録すれば、勉強した気になれるからそれでいい」 Trautwein(2007)では、宿題のプラスは「何分かけたか」に表れませんでした。時間だけを記録すると、時間の長さが目的になりかねません【推論】。記録するなら、何問解いて何問正解したかも書きます。
「勉強時間が短い人は、やる気がない」 数実(2019)では、成績が下がったときに勉強時間が減るかどうかが、家庭の状況で違っていました。時間の短さを、本人のやる気だけで説明することはできません。
このサイトでの使い方
- 時間を「小テストの回数」で数える。単元ページの小テストは 1 回 10 問です。「今日は 2 時間」ではなく「今日は小テスト 3 回・解き直し 2 回」と記録します
- 平日の短い時間は「前に間違えた型をやり直す」から。開くと出るボタンから始めると、最初の 5 分を迷わず使えます
- 休みの日の 1 コマは、まぜこぜテスト。数学 全単元まぜこぜテスト や 英語 全単元まぜこぜテスト で、どの単元の型かを見分けながら解きます(交互練習)
- 例:二次方程式(因数分解・平方根・解の公式) の小テストで 6/10 なら、その日は間違えた 4 問の型を「同じ型でもう 1 問」で解き直します。時間ではなく、解き直した型の数を記録します
注意点
- 全国学力調査の数字は、2026 年度の中学 3 年生のものです。高校生のデータではありません。質問は年によって変わることがあるので、最新は一次資料で確認してください
- 海外の研究は、大学生(Plant ら 2005)や、アメリカ・スペインの小中高生の宿題が中心です。日本の受験勉強で、勉強時間の長さと点を比べた実験はこのページではまだ引けていません
- 「何時間やれば受かる」という数字は、研究からは出てきません。学校や塾の先生から目安を言われたら、その目安は時間を確保する目標として受け取り、中身は自分で点検します
- 長い時間がんばっているのに点が動かないときは、やり方を見直す合図かもしれません。一人で抱えず、学校の先生に答案を見てもらうのも手です
引いた論文
番号は班別ファイル docs/参考文献ログ_追加_気持ち生活.md(#38 は docs/参考文献ログ.md、#208 は docs/参考文献ログ_追加_生活と本番.md)の #。すべて DOI を開いて書誌を確認し、要旨(OpenAlex・ERIC・J-STAGE・論文 PDF の要約)で中身を確かめています。#38 は本体ログでは「要旨取得不可」でしたが、今回 ERIC(EJ731976)で要旨を確認しました。
- #208 Suzuki, T., Morita, N., & Okuda, T. (2026). Bayesian network analysis of academic performance and its behavioral determinants among junior high school students in Japan. Discover Education, 5, 210. https://doi.org/10.1007/s44217-026-01222-5
- #490 数実浩佑 (2019). 学業成績の低下が学習時間の変化に与える影響とその階層差 ── 変化の方向と非変化時の状態を区別したパネルデータ分析を用いて. 理論と方法, 34(2), 220–234. https://doi.org/10.11218/ojjams.34.220
- #489 須藤康介 (2010). 学習方略が PISA 型学力に与える影響 ── 階層による方略の違いに着目して. 教育社会学研究, 86, 139–158. https://doi.org/10.11151/eds.86.139
- #38 Plant, E. A., Ericsson, K. A., Hill, L., & Asberg, K. (2005). Why study time does not predict grade point average across college students: Implications of deliberate practice for academic performance. Contemporary Educational Psychology, 30(1), 96–116. https://doi.org/10.1016/j.cedpsych.2004.06.001
- #486 Cooper, H., Robinson, J. C., & Patall, E. A. (2006). Does homework improve academic achievement? A synthesis of research, 1987–2003. Review of Educational Research, 76(1), 1–62. https://doi.org/10.3102/00346543076001001
- #487 Trautwein, U. (2007). The homework–achievement relation reconsidered: Differentiating homework time, homework frequency, and homework effort. Learning and Instruction, 17(3), 372–388. https://doi.org/10.1016/j.learninstruc.2007.02.009
- #488 Fernández-Alonso, R., Suárez-Álvarez, J., & Muñiz, J. (2015). Adolescents’ homework performance in mathematics and science: Personal factors and teaching practices. Journal of Educational Psychology, 107(4), 1075–1085. https://doi.org/10.1037/edu0000032
- #483 Ericsson, K. A., Krampe, R. T., & Tesch-Römer, C. (1993). The role of deliberate practice in the acquisition of expert performance. Psychological Review, 100(3), 363–406. https://doi.org/10.1037/0033-295X.100.3.363
- #484 Macnamara, B. N., Hambrick, D. Z., & Oswald, F. L. (2014). Deliberate practice and performance in music, games, sports, education, and professions: A meta-analysis. Psychological Science, 25(8), 1608–1618. https://doi.org/10.1177/0956797614535810
- #485 Macnamara, B. N., & Maitra, M. (2019). The role of deliberate practice in expert performance: Revisiting Ericsson, Krampe & Tesch-Römer (1993). Royal Society Open Science, 6(8), 190327. https://doi.org/10.1098/rsos.190327
参考資料(公的統計)
- 国立教育政策研究所(2026 年 8 月 3 日公表)「令和 8 年度 全国学力・学習状況調査 調査結果資料【全国版/中学校】」── クロス集計表[生徒質問-教科]全国(国・公・私立)の質問(23)(25)。https://www.nier.go.jp/26chousakekkahoukoku/factsheet/data/26m_424.xlsx
- 同 相関係数[生徒質問-教科]全国(国・公・私立)の質問(23)(25)。https://www.nier.go.jp/26chousakekkahoukoku/factsheet/data/26m_421.xlsx
- 国立教育政策研究所(2026 年 8 月公表)「令和 8 年度 全国学力・学習状況調査の結果(概要)」PDF の 72 ページ目(印刷のページ番号 71)「授業外の学習状況」のポイント。https://www.nier.go.jp/26chousakekkahoukoku/report/data/26summary.pdf