勉強法

更新 2026-10-04 / 引用した論文はすべて DOI を確認しています

多読 ── やさしい英文をたくさん読むと何が伸びるか

一言で

多読は、辞書なしで読めるやさしい英文を、たくさん読むやり方です。 研究のまとめで伸びの値がいちばん大きかったのは読む速さで、読解と語彙が続きます。ただ、この 3 つの差は統計的にはっきりしたものではありません。 また中高生は大人より伸びが小さめです。日本の高校の実践でも、速さは伸びたのに読解の点は伸びなかった例があります。

今日からやること

  1. 本えらびは 1 ページ目で決める。知らない単語が 1 ページに 3 つ以上あれば、1 段やさしい本に替える(目安。研究で決まった値ではありません)
  2. 毎日 10〜15 分、通学電車か寝る前に読む。2 週間で 1 冊以上を目標に。分からない語は飛ばして、話の流れを追う
  3. 月に 1 回、読む速さを測る。初めて読む英文を 1 つ黙読し「語数 ÷ かかった分」を記録する。内容の問いに半分以上答えられたかも書く

何が分かっているか

日本の中高生で確かめられていること

Aka(2019)

d は差の大きさの目安です(0.2 が小、0.5 が中、0.8 が大)。試験は中学レベルの内容で作られたもので、大学入試の長文ではありません。 また、学年ごとに分けた比べ方で、くじ引きで群を分けた実験ではありません。

Imamura(2008) 日本の高校生が、授業の外で段階別の読み物(やさしく書き直した英語の本)を 8 か月半読みました。読んだ量は約 5 万語です。 読む前と後で 6 種類のテストを比べると、読解と読む速さが有意に伸びました。単語を見てすぐ分かる力も伸びています。 一方でつづり・文法・リスニングは有意に伸びませんでした(人数と点数は要旨に無いので書きません)。

Fujita & Noro(2009)

Iwahori(2008) 公立高校の 2 年生 33 人が、7 週間の宿題として段階別の読み物と漫画を読みました(目標 28 冊)。 黙読の速さは平均で1 分あたり 84 語から 113 語になりました。総合的な英語力のテスト(C テスト)も平均 3.42 点上がっています。 ただし比べる群(多読をしない群)はありません。著者自身も「多読だけの効果とは言い切れない」と限界に書いています。

Takase(2007) 1 年間の多読に参加した女子高校生 219 人を調べました。読み続ける気を左右したのは、日本語の読書と英語の読書それぞれを「楽しいから読む」気持ちでした。 日本語の読書が好きな生徒でも、英語は読みたがらない場合がありました。日本語なら読める内容と、英語で読める内容の差が大きいためです。

大学生と、海外の研究

Beglar, Hunt & Kite(2012) 日本の大学 1 年 97 人を 1 年間追いました。多読の 3 群はどれも、精読(細かく読み解く授業)の群より読む速さの伸びが大きくなりました。 多読の中でも読んだ量の多い 2 群は、少ない群より伸びました。2 週間に 1 冊以上のペースが、多くの人の速さの伸びにつながっていました。 理解の得点は読む前も後も高いままで、速さと引きかえに理解が落ちることはありませんでした。原書より、やさしく書き直した本を読んだほうが速さは伸びています。

Yamashita(2008) 大人の学習者で、多読の前と後を比べました(国は要旨に書かれていません)。読む力は有意に伸びましたが、語彙や文法などの基礎の言語知識は有意に伸びませんでした。 著者は「多読の効果は、読む力のほうが先に表れるのかもしれない」とまとめています。

Suk(2017) 韓国の大学生 171 人で、15 週間の授業を比べました。毎週 100 分の精読の授業のうち、30 分を多読に置きかえたクラスがあります。 置きかえたクラスは、読解・読む速さ・語彙の3 つすべてで、精読だけのクラスを上回りました。

たくさんの研究のまとめ(メタ分析)

Nakanishi(2015) 34 研究・3,942 人のまとめです。多読をした群としなかった群の差は d=0.46(中くらい)、多読の前と後の差は d=0.71 でした。詳しくは 英語の勉強法 の ④ にあります。

Jeon & Day(2016) 1980〜2014 年の 49 研究・5,919 人のまとめです。多読の群と比べる群の差は d=0.57(51 の比較)、前と後の差は d=0.79 でした(数字は論文本文で確認)。 伸びた力ごとの大きさは次のとおりです。

ただし、この 3 つの差は統計的に意味のある差ではありませんでした。著者は、読む速さの比較が 10 件と少ないためかもしれない、としています。 年齢別では、大人 0.70・小学生 0.52 に対し、中学生と高校生は 0.35 でいちばん小さい値でした。 著者は理由の一つとして「テスト中心の学校では、成績に直結しない多読に気持ちが向きにくいのかもしれない」と推測しています。 また外国語として英語を学ぶ国の研究では、日本の研究がいちばん多く含まれていました。

日本の中高生の勉強にあてはめると

多読で先に伸びるのは「速さ」と考えておく。 日本の高校生の 3 研究(Fujita & Noro・Iwahori・Imamura)は、どれも読む速さが伸びました。読解の点や文法は、同じ時期には伸びないこともありました。 【推論】始めて 1〜2 か月で模試の点が動かなくても、速さが伸びていれば研究と同じ流れです。

共通テストとのつなぎ方。 共通テストのリーディングは 80 分で大問 8 つでした(令和 7 年度)。読む量は 6,000 語前後で、年によって変わります。最後の大問まで時間内に読み切ることが、まず必要になる試験です。 【推論】多読で伸ばすのは「1 分に読める語数」です。設問の解き方(探し読み・段落の役割)は別の練習です。共通テスト リーディングの型 と パラグラフリーディング で身につけます。

部活のある日は「10 分を毎日」。 Fujita & Noro では 10 分を 10 回で速さが伸びました。Beglar らでは、読んだ量の多い群のほうが伸びが大きくなりました。 【推論】1 回の長さより、読んだ量の合計を増やすことを考えます。通学電車の 10 分を毎日続けると、週末にまとめて 1 時間読むより冊数を重ねやすくなります。

本は「やさしすぎる」くらいでよい。 Aka(2019)の高専では、生徒に「自分の力より少し下の本」を選ばせていました。Beglar らでも、やさしく書き直した本のほうが速さは伸びました。 英文の 98% の単語が分かれば補助なしで読める、という計算もあります(Nation 2006。英語の勉強法 を参照)。 中学生なら教科書の本文を読み返すのも、いちばん手軽な多読です。

単語帳・文法と組み合わせる。 Imamura(2008)では、つづりと文法は多読だけでは伸びませんでした。Yamashita(2008)でも基礎の言語知識は伸びていません。 単語は 単語帳の使い方、文法は 英文法の学び方 を並べて続けます。

よくある誤解

「多読をすれば、単語も文法も自然に身につく」 Jeon & Day のまとめで、語彙の伸び(d=0.47)は読む速さ(d=0.83)より小さい値でした。Imamura(2008)では文法とつづりは伸びていません。 一方 Aka(2019)では、文法の授業を多読に替えた学年が「文法・語彙」のテストで上でした。試験の中身が中学レベルの読み取り中心だったことも考える必要があります。 多読だけで文法の問題が解けるようになる、とは言えません。

「受験に出るような難しい英文を、たくさん読めばいい」 多読の研究で使われているのは、辞書なしで読めるやさしい本です。難しい英文を辞書を引きながら読むのは「精読」で、多読とは別の練習です。 精読も入試には必要です。両方を、目的を分けて続けます。

「10 分くらいでは意味がない」 Fujita & Noro(2009)では、週 1 回 10 分を 10 回で読む速さが伸びました。ただし読解の得点は伸びていません。短い時間で伸びるものと、時間のかかるものがあるということです。

「多読は大人向けで、中高生にはむだ」 Jeon & Day では中高生の値(d=0.35)が小さかったものの、効果がゼロではありませんでした。日本の高校生の研究でも読む速さは伸びています。 「小さめの伸びが、時間をかけて積み重なる練習」と考えるのが研究に近い見方です。

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注意点

引いた論文

番号は docs/参考文献ログ.md(#15・#16)と docs/参考文献ログ_追加_英語2.md(#311〜)の #。すべて DOI を開いて書誌と要旨を確認しています。Jeon & Day・Aka・Iwahori の数字は、DOI から開いた論文本文でも確認しました。