勉強法

更新 2026-10-04 / 引用した論文はすべて DOI を確認しています

リスニングの練習 ── 聞き流し・ディクテーション・スクリプトを読む

一言で

英語を聞き流すだけで新しい単語や聞き取る力が身につく、という研究の裏づけは弱いです。 研究で差が出たのは、頭を使う聞き方でした。書き取る(ディクテーション)・英語の文字を見ながら聞く・聞き方の手順を決めて聞くの 3 つです。 このページは「何をどう聞くか」を扱います。声に出して追いかける練習は シャドーイング にまとめています。

今日からやること

  1. 通学電車の聞き流しは「意味の分かる英文」だけにする。教科書の本文か、一度スクリプトで読んだ過去問の音声
  2. 週 2 回・15 分、過去問の音声を 1〜2 文ずつ止めて書き取る。書けなかった語をスクリプトで確かめて、もう一度聞く
  3. 動画で練習するときは英語の字幕で 1 回、字幕なしで 1 回。日本語の字幕は内容をつかむときだけに使う

何が分かっているか

聞き流しだけで何が残るか

Brown, Waring & Donkaewbua(2008)

Chang & Millett(2014) ── 第二言語の学生 3 群が、やさしい読み物 10 冊を 13 週間かけて学びました。「読むだけ」「聞きながら読む」「聞くだけ」の 3 通りです。最後の聞き取りテスト(1 回だけ流す)では、聞きながら読んだ群がもっとも安定して伸びました。国と人数は要旨に無いので書きません。

Kuhl, Tsao & Liu(2003) ── アメリカの生後 9 か月の赤ちゃんの実験です。中国語の話し手と対面で 12 回過ごすと、中国語の音を聞き分ける力が戻りました。ところが同じ内容を録画や録音で聞かせても、効果はありませんでした。赤ちゃんの研究なので、中高生にそのまま当てはまるとは言えません。「流しておけば身につく」とは限らない例として挙げます。

字幕・スクリプトを見ながら聞く

Kurokawa, Hein & Uchihara(2025) ── 字幕つき視聴の研究 49 本のメタ分析です。メタ分析は、多くの研究結果を合算する研究です。ここでの字幕は、音声と同じ言語(英語なら英語)の字幕です。字幕ありは字幕なしより単語の学習が中程度に上(g=0.56)でした。g は差の大きさの目安で、0.5 前後が「中」です。

Montero Perez ら(2014) ── ベルギーの大学生 133 人が、フランス語の映像 3 本を 2 回見ました。字幕なし・全文字幕・キーワードだけの字幕などに分けています。字幕のある群は、単語のつづりを見分けるテストで上でした。ただし映像の内容理解と、単語の意味を思い出すテストには差がありませんでした。

Mitterer & McQueen(2009) ── オランダ人が、聞きなれないなまりの英語の映像を見ました。字幕は「オランダ語(母語)」「英語」「なし」の 3 通りです。そのあと新しい音声を聞いて言い直すと、英語字幕の後は上手、母語字幕の後は下手でした。著者は、英語字幕は「どの語が話されたか」を示すので、音の学習を助けると説明しています。

日本人学習者の字幕の研究

吉野・野嶋・赤堀(1997) ── 英語の音声つき映像で、字幕の種類を比べた日本の実験です。英語字幕が英語の再生(聞いた英語を思い出す)にもっとも有利でした。日本語字幕は、英語の聞き取りや記憶をさまたげると考えられました(人数と数字は要旨に無いので書きません)。

小張(1996) ── 日本の大学生 125 人が、映画の 5 分の場面を 2 回見ました。「日本語字幕+英語字幕」「日本語字幕だけ」「英語字幕だけ」「字幕なし」の 4 群です。場面の内容を問う聞き取りテストでは、日本語字幕と英語字幕を両方出した群が上でした。

2 つは逆に見えますが、測ったものがちがいます。吉野らは「英語そのものを思い出せるか」、小張は「場面の内容が分かったか」です。また小張で上だったのは、日本語字幕と英語字幕を両方出した群です。日本語字幕だけの群が上だったわけではありません。【推論】内容をつかむ場面では、英語字幕に日本語字幕を重ねることが助けになるのかもしれません。英語そのものを聞き取って覚える練習には、英語字幕のほうが向くと考えられます。

ディクテーション(書き取り)

角山(2008)

Kiany & Shiramiry(2002) ── イランの語学学校の初級の成人 30 人ずつ 2 群の研究です。片方の群は、教科書の聞き取り練習に 1 学期で 11 回のディクテーションを足しました。この群は足さなかった群より聞き取りテストの伸びが大きくなりました(点数は要旨に無いので書きません)。

中山・岩田(2011) ── 日本の高校の英語の授業の研究です。シャドーイングと書き取りを組み合わせた群が、文法ドリルの群を 10 か月後のテストで上回りました。詳しくは シャドーイング で紹介しています。

中西・蘭野(2022) ── 関西の大学 1・2 年生 208 人のディクテーションの研究です。同じ英文でも、音をつなげずに読んだほうが、自然につながった音より正しく書き取れました。音のつながりが、聞き取りにくさの原因の 1 つになっている、という結果です。たとえばアメリカ英語の Get it は「ゲリッ」のように聞こえます。これは音のつながりの一般的な例で、この研究の例ではありません。

聞き方の手順を決める(方略の指導)

Vandergrift & Tafaghodtari(2010) ── カナダの大学のフランス語クラス 106 人の研究です。同じ先生・同じ音声・同じ回数で聞かせました。片方の群だけ「内容を予想する → 聞きながら確かめる → 聞けたか振り返る」の手順で聞きました。最後のテストではこの群が上でした(初めの差をそろえて比べた結果)。この群の中では、聞き取りが苦手な人のほうが、得意な人より伸びが大きくなりました。

Dalman & Plonsky(2025) ── 聞き方の方略を教える研究 45 本のメタ分析です。差は中程度(d=0.69)でした。教え方や測り方によって大きさは変わっています。

日本の中高生の勉強にあてはめると

聞き流しは「復習」として使う。Brown らの研究で、聞くだけで物語を 1 回聞いても、3 か月後に新しい単語はほぼ残りませんでした。【推論】通学電車で流すなら、一度スクリプトで意味を確かめた音声にすると、知っている語を音で確かめる時間になります。知らない英文を流しても、新しく覚える量は少ないと考えられます。

聞き取れない原因を 3 つに分ける。過去問を解いたあと、スクリプトを見て聞き逃しの原因に印をつけます。

  1. 知らない単語だった → 単語帳 に戻す。Nation(2006)の計算では、話し言葉を助けなしで聞くには 6,000〜7,000 語族が要ります
  2. 知っている単語なのに聞き取れなかった → 音がつながっていた可能性。書き取りとシャドーイングの出番
  3. 単語は聞こえたのに意味が取れなかった → 文法か、聞きながら考える速さ。スクリプトを読んでも分からなければ文法から

ディクテーションは「全部」より「部分」。【推論】1 題を全部書き取ると 30 分以上かかります。部活のある日は、聞き取れなかった 2〜3 文だけを書き取るのが現実的です。角山(2008)のとおり、書き取りで伸びるのは音を拾う力です。内容理解の練習(過去問を解く)とは別に考えます。

共通テストのリスニングにあてはめる。令和 7 年度の本試験は 100 点・解答 30 分でした。第 1・2 問は 2 回、第 3〜6 問は 1 回しか流れません(形式は年度で変わるので最新の公開問題で確認)。先読みのしかたは 共通テスト リスニングの型 にまとめています。過去問の復習はこの順です。

  1. 本番どおり 1 回で解く
  2. スクリプトを見ずに、聞き逃した大問だけもう一度聞く
  3. それでも分からない 2〜3 文を書き取る
  4. スクリプトで答え合わせ。つながって聞こえた語に印をつける
  5. スクリプトを見ながら 1 回聞く(文字を見ながら聞く)。最後にスクリプトなしで 1 回

英検・高校入試も同じ考え方。英検は級によって形式と読み上げ回数がちがいます。高校入試は都道府県ごとに形式がちがうので、過去問で確かめてください。どちらも「解く → 原因を分ける → 書き取り・文字を見ながら聞く」の順は同じです。

動画で楽しむときの字幕。【推論】海外ドラマや英語の動画を見るなら、2 回目は英語字幕にします。英語を思い出すテストで英語字幕が上でした(吉野ら 1997)。なまりの音に慣れる実験でも、英語字幕が上でした(Mitterer & McQueen 2009)。1 回目は日本語字幕で筋をつかんでもかまいません。

よくある誤解

「英語を毎日流していれば、そのうち聞き取れるようになる」 Brown らの研究では、物語を聞くだけで出会った新しい単語は、3 か月後に意味を書けたのが平均 0 語でした。赤ちゃんの実験でも、録音を聞かせるだけでは効果がありませんでした(Kuhl ら 2003)。聞き流しが無意味とまでは言えませんが、頼り切るのは研究と合いません。

「スクリプトや字幕を見て聞くのはズル」 英語の文字を見ながら聞くと、単語の学習が中程度に上でした(Kurokawa ら 2025)。聞きながら読んだ群が聞き取りテストでもっとも安定して伸びた研究もあります(Chang & Millett 2014)。最後に文字なしで聞いて確かめれば、ズルではなく練習の一部です。

「ディクテーションをすれば内容も分かるようになる」 角山(2008)では、書き取りで伸びたのは音を拾う力で、内容理解のテストにはほとんど差が出ませんでした。過去問で内容を問う練習も別に必要です。

「字幕は日本語でも英語でも同じ」 英語の音を学ぶ実験では、母語の字幕の後は言い直しが下手になりました(Mitterer & McQueen 2009)。目的が「音の練習」なら英語字幕です。

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