勉強法
映像授業の見方 ── 倍速で見てもいいか、どこで止めるか
一言で
映像授業は、2 倍速くらいまでなら理解の差が小さかった実験が、日本にも海外にもあります。ただ、12 の実験をまとめた研究では、速くすると点が下がる向きでした。倍速は「条件しだい」と考えるのが研究に近い見方です。 速さよりはっきりしているのは、区切りごとに止めて、思い出す問題を解くことです。動画の途中に小テストをはさんだ実験では、ぼんやりする時間が減り、最後のテストも上でした。
今日からやること
- 初めて習う単元は等倍〜1.5 倍で見る。2 倍は復習や 2 回目に回す。2 倍より速くはしない
- 10〜15 分ごとに一時停止して、画面を見ずに要点を 3 つ書く。講座に確認テストがあれば、その区切りで解く
- 見終わったらその日のうちに、問題集の同じ範囲を 3〜5 問解く。「分かった」かどうかは、解けたかで決める
何が分かっているか
再生速度(倍速で見てもいいか)
長濱・森田(2017) ── 日本の大学生 75 名の実験です。高校の「情報」の知識を扱った映像を、1 倍速・1.5 倍速・2 倍速で見せました。 学習の前後の理解度テストでは、速さによる差は出ませんでした。 見た人の感想では、学習に向く速さとして 1.5 倍速がいちばん支持されました。2 倍速の評価は、よくありませんでした。
Murphy ら(2022) ── 講義動画を、いろいろな速さで見せた実験です。理解度を、見た直後と 1 週間後にテストしています。 1 倍から 1.5 倍・2 倍に上げても、失うものは小さい結果でした。2 倍を超えると点が下がりました。 「1 倍で 1 回」と「2 倍で 2 回」も比べています。2 回見る側に利点はありませんでした。 ただし、テストの直前に 2 倍でもう一度見た場合は別でした。1 週間前に 1 倍で 1 回見ただけより、理解が上でした(人数は要旨に無いので書きません)。
Murphy, Hoover & Castel(2023) ── 若い大人と高齢の大人を比べた実験です。若い大人は、速くしても記憶テストで大きな差が出ませんでした。高齢の大人は、速くすると点が下がる傾向でした。 速く再生すると、ぼんやり別のことを考える時間が減っていました。著者らは、若い人の点が保たれた理由の一つかもしれないと見ています。
Huang, Du & Yang(2025) ── 再生を速くした実験 12 本をまとめたメタ分析です。メタ分析は、多くの実験結果を合算する研究です。 速くすると、頭の負担が増えました(g = 0.59)。覚えているかのテストは下がりました(g = −0.41)。 応用問題のテストも下がり(g = −0.50)、満足度も下がりました(g = −0.24)。 g は差の大きさで、0.2 前後は小さい差、0.5 前後は中くらいの差の目安です。何倍速を比べたかは研究ごとにちがい、要旨には書かれていません。 著者らは、発表された研究の偏りで、結果が実際より大きく見えている可能性にも注意をうながしています。
林・菊池(2024・学会発表) ── 日本の大学生 66 名が、読み上げ音声つきのスライド動画を 2 本見ました。1 本は等倍、もう 1 本は 2 倍速です。メモは取らせていません。 等倍 → 2 倍の順で見た人は、どちらの動画も理解度が高めでした。2 倍 → 等倍の順では、どちらも低めでした。 ふだん倍速で動画を見る人は、見ない人より理解度が高めでした。ただ、これは経験で人を分けて比べた結果です。倍速に慣れたから点が高くなった、とまでは言えません。
途中で止めて、小テストを解く
Szpunar, Khan & Schacter(2013) ── オンラインの講義動画で学ぶ 2 つの実験です。講義の区切りごとに、記憶の小テストをはさむ形を調べました。 小テストをはさむと、講義と関係ないことを考える時間が減り、講義に関係するメモが増えました。学習の成績も上でした。 こまめにテストを受けた人は、最後の総まとめテストへの不安が低めでした。「頭の負担が大きい」と感じる度合いも低めでした(数字は要旨に無いので書きません)。
Jing, Szpunar & Schacter(2016) ── 40 分の講義動画を使った 2 つの実験です。区切りごとに小テストを受ける群と、同じ時間で見直す群を比べました。 小テスト群は学習全体が上でした。区切りの中や区切りをまたいで、内容をつなげて理解する力も上でした。 ぼんやりする割合は、2 つの群で変わりませんでした。ただ、ぼんやりしたときの点の下がり方は、見直す群のほうが大きくなっていました。
Szpunar, Jing & Schacter(2014) ── 対象は高校生と大学生です。録画の講義から学んだ量を、多めに見積もりがちでした。 講義の途中にくり返しテストをはさむと、実際の成績が本人の予想まで上がりました。講義のあとに 1 回だけテストすると、高すぎる予想が下がりました。
Rey ら(2019) ── 動画やアニメーションの教材を区切って見せる効果のメタ分析です。56 の研究・88 の比較をまとめています。 区切ると、覚えているかのテストも応用問題も上でした(小〜中くらいの差)。頭の負担は減り、学習にかかる時間は長くなりました。 前もって知識がある人ほど、区切ることで「覚えている量」の差が大きくなっていました。
動画の前に問いに答えておくやり方は、予習のしかた にまとめています。教育用の動画で、質問されなかった内容まで上だった実験があります(Carpenter & Toftness 2017)。
ノートを取りながら見るか
Hefter(2025) ── 大学生 196 人が、12 分の録画講義をオンラインで見た実験です。半分の人には「ノートを取って」と前もって頼みました。また半分の人には、見ている途中でスマホの通知音を流しました。 実際にノートを取った人(67 人)は、取らなかった人(129 人)より事後テストが上でした。学習への取り組みの強さが、この差の仲立ちをしていました。 スマホの音は、ノートを取らなかった人の点を下げました。ノートを取った人は、音があってもなくても同じくらいでした。 ただし、比べたのは「実際に取ったかどうか」です。取る人をくじで決めたわけではないので、もともと熱心な人がノートを取った可能性があります。
ノートの取り方そのもの(手書きとタブレットの比較など)は、まとめノートと蛍光ペン で扱っています。57 研究のまとめでは、ノートを取る効果はプラスでしたが控えめでした(Kobayashi 2005)。
日本の中高生の勉強にあてはめると
研究をまとめると、映像授業のポイントは 3 つです。
- 速さは 2 倍まで:2 倍までは差が小さい実験が多い。ただし、まとめ研究では下がる向き(Huang ら)
- 止めて思い出す:区切りごとの小テストで、ぼんやりが減り、学習も上(Szpunar ら・Jing ら)。区切って見るだけでも上(Rey ら)
- 見ただけで判断しない:動画は「分かった気」を大きくしやすい(Szpunar ら 2014)
塾・予備校の映像授業
- 初めての単元は等倍〜1.5 倍で見ます。長濱・森田(2017)で支持が多かったのも 1.5 倍でした
- 【推論】2 倍は 2 回目以降に回します。林・菊池(2024)では、等倍 → 2 倍の順のほうが理解度が高めでした。Murphy ら(2022)でも、テスト直前の 2 倍の見直しで理解が上でした
- 浮いた時間は問題を解く時間に回します。Murphy らも、浮いた時間を追加の勉強に使うことを勧めています
- 「2 倍で 2 回見る」だけでは、1 倍で 1 回と差がありませんでした(Murphy ら 2022)。2 回目は見るより解くほうに使います
1 コマ 60〜90 分の講座
- 【推論】10〜15 分ごとに止めるのは、Rey ら・Szpunar らの結果から考えた目安です。止める間隔そのものは、研究で決まった値ではありません
- 止めたら画面を見ずに、その区切りの要点を 3 つ書きます。書けなかったところだけ巻き戻します
- 講座に確認テストがあるなら、後回しにしません。その区切りで解くと、Szpunar ら(2013)と同じ形になります
- 部活のあとの夜は、1 コマを一気に見るより 2 回に分けます。休憩のとり方は 集中と休憩 にまとめています
学校のタブレット・オンライン授業
- 1 人 1 台のタブレットで見る授業の録画や、先生が配る解説動画も同じです
- 通知は切っておきます。Hefter(2025)では、スマホの音がノートを取らない人の点を下げていました(スマホと勉強)
- 授業中に別の画面を開くと、後のテストで差が出た研究があります(スマホと勉強 で紹介)。授業の時間は、授業で使う画面だけにします
動画サイトの解説動画
- 10 分前後の短い動画は、見終わったら閉じて 1 問解きます
- 【推論】関連動画を次々に見ると、「見ている時間」だけが増えます。Szpunar ら(2014)のとおり、見るだけでは「分かった気」が実際より大きくなりがちです
- 古文や英文法の解説は、止めて例文を自分で訳してから続きを見ます
公務員試験の講義動画
- 公務員試験の講義は、1 本が長く本数も多いものがあります。科目が多いので、倍速に頼りたくなります
- 【推論】数的処理のように手を動かす科目は、例題で止めて自分で解いてから解説を見ます。法律科目は、判例の区切りで止めて結論を 1 行で言います
- 社会人の方で、年齢が上がるにつれて速さがきつく感じたら、等倍寄りに戻します。Murphy ら(2023)では、高齢の大人で速くすると点が下がる傾向でした
よくある誤解
「倍速で見ると、まったく頭に入らない」 長濱・森田(2017)や Murphy ら(2022)では、2 倍までは理解の差が小さい結果でした。2 倍を超えると下がりました。ただ、まとめ研究(Huang ら 2025)では下がる向きです。「2 倍まで・初めての単元は控えめ」が、両方の研究と合う使い方です。
「等倍でじっくり見れば身につく」 Jing ら(2016)では、同じ時間を見直しに使った群は、小テストをはさんだ群より下でした。時間をかけて見直すより、止めて思い出すほうが上だったわけです。
「全部書き写しておけば安心」 Hefter(2025)では、ノートを取った人のほうが上でした。ただ、ノートを取る効果はまとめ研究では控えめです(Kobayashi 2005)。一字一句写すより、止めて「自分の言葉で要点を書く」ほうが、思い出す練習も兼ねられます。
「止めると時間がかかって損」 Rey ら(2019)では、区切ると学習時間は長くなりました。そのかわり、覚えている量も応用問題も上でした。見る時間を 2 倍速で縮めて、止める時間に回すという組み合わせもできます。
このサイトでの使い方
映像授業 1 本ごとに、同じ範囲の小テストで「見て分かった」を「解けた」に変えます。
- 映像授業の区切りで止めたら、このサイトの同じ単元の小テストを解く。例:連立方程式の解き方(加減法・代入法)・現在完了(経験・継続・完了)
- 大学受験の計算単元、たとえば 物質量(mol・モル質量・気体の体積・粒子の数) は、講義の例題で止めて自分で解く。そのあと小テストで型を確かめる
- 公務員試験の数的処理は、講義の前後で 割合・比・濃度 のような単元の小テストを解く。講義を見る前に解くと、予習 の形になります
- 間違えた問題は「同じ型でもう 1 問」で解き直す。3 日後に「前に間違えた型をやり直す」を使う(間隔反復)
注意点
- 再生速度の研究は、大学生と大人が中心です。日本の研究(長濱・森田、林・菊池)も大学生でした。日本の中高生の映像授業で直接確かめた研究は、このページではまだ引けていません
- 速さの効果は、動画の話す速さ・難しさ・画面と音声の重なりで変わる可能性があります。Murphy ら(2022)も要旨でそう書いています
- 林・菊池(2024)は学会発表で、1 ページの短い報告です。Hefter(2025)は、ノートを取るかどうかを本人が選んでいます
- 小テストをはさむ実験(Szpunar ら・Jing ら)は、実験のために作った講義動画を使っています。市販の講座で同じ差が出るかは、確かめられていません
- 10〜15 分ごとに止める・3〜5 問解く、などの数は一例です。研究で決まった値ではありません
引いた論文
番号は docs/参考文献ログ_追加_習慣3.md(#341〜)と、ほかの記事で確認済みの #133・#141 です。すべて DOI を開いて書誌と要旨を確認しています(#344 は J-STAGE の本文 1 ページ)。
- #343 長濱澄・森田裕介 (2017). 映像コンテンツの高速提示による学習効果の分析. 日本教育工学会論文誌, 40(4), 291–300. https://doi.org/10.15077/jjet.40062
- #341 Murphy, D. H., Hoover, K. M., Agadzhanyan, K., Kuehn, J. C., & Castel, A. D. (2022). Learning in double time: The effect of lecture video speed on immediate and delayed comprehension. Applied Cognitive Psychology, 36(1), 69–82. https://doi.org/10.1002/acp.3899
- #342 Murphy, D. H., Hoover, K. M., & Castel, A. D. (2023). The effect of video playback speed on learning and mind-wandering in younger and older adults. Memory, 31(6), 802–817. https://doi.org/10.1080/09658211.2023.2198326
- #345 Huang, G., Du, Y., & Yang, H. (2025). Facilitating or hindering learning: A meta-analysis of acceleration on video learning. Frontiers in Psychology, 16, 1427609. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2025.1427609
- #344 林美都子・菊池千登 (2024). タイパ勉強法は本当に効率的と言えるのか ── 等倍・倍速視聴順並びに経験の影響. 北海道心理学研究, 47, 8.(学会発表)https://doi.org/10.20654/hps.47.0_8
- #346 Szpunar, K. K., Khan, N. Y., & Schacter, D. L. (2013). Interpolated memory tests reduce mind wandering and improve learning of online lectures. Proceedings of the National Academy of Sciences, 110(16), 6313–6317. https://doi.org/10.1073/pnas.1221764110
- #348 Jing, H. G., Szpunar, K. K., & Schacter, D. L. (2016). Interpolated testing influences focused attention and improves integration of information during a video-recorded lecture. Journal of Experimental Psychology: Applied, 22(3), 305–318. https://doi.org/10.1037/xap0000087
- #347 Szpunar, K. K., Jing, H. G., & Schacter, D. L. (2014). Overcoming overconfidence in learning from video-recorded lectures: Implications of interpolated testing for online education. Journal of Applied Research in Memory and Cognition, 3(3), 161–164. https://doi.org/10.1016/j.jarmac.2014.02.001
- #349 Rey, G. D., Beege, M., Nebel, S., Wirzberger, M., Schmitt, T. H., & Schneider, S. (2019). A meta-analysis of the segmenting effect. Educational Psychology Review, 31(2), 389–419. https://doi.org/10.1007/s10648-018-9456-4
- #141 Carpenter, S. K., & Toftness, A. R. (2017). The effect of prequestions on learning from video presentations. Journal of Applied Research in Memory and Cognition, 6, 104–109. https://doi.org/10.1016/j.jarmac.2016.07.014
- #350 Hefter, M. H. (2025). Learning from an asynchronous video lecture: Note-taking helps, smartphone sounds harm. The Internet and Higher Education, 67, 101043. https://doi.org/10.1016/j.iheduc.2025.101043
- #133 Kobayashi, K. (2005). What limits the encoding effect of note-taking? A meta-analytic examination. Contemporary Educational Psychology, 30, 242–262. https://doi.org/10.1016/j.cedpsych.2004.10.001