勉強法
単語帳の使い方 ── 何周するか、どう回すか、カードを抜くタイミング
一言で
単語帳は「隠して思い出す」×「日をあけて何周も」で使うのが、研究と合ったやり方です。小さく区切って 1 か所ずつ固めるより、広い範囲を何度も回すほうが残りました。 覚えたと思った単語も、その日のうちは外してよいが、次の周では戻す。これがカードを抜くタイミングの目安です。
今日からやること
- 日本語を隠して、英語を見て意味を言う。次に英語を隠して、日本語から英語を言う(書く)。眺めるだけの周は作らない
- その日の範囲は「3 回言えたら外す」。言えなかった語は束の後ろに回し、正しく言えるまで回す。言えた回数を単語帳に「正」の字で書く
- 同じ範囲に 3 回戻る。たとえば 1 日目・4 日目・2 週間後。戻ったときは外した語も全部入れて、もう一度テストする
何が分かっているか
日本人を対象にした研究
Nakata(2008) ── 日本の高校生 226 人が、10 個の英単語を「単語リスト」「単語カード」「パソコン」のどれかで学びました。時間をおいたテストでは、パソコン群が単語リスト群を上回りました。リスト群は 10 語のうち 4 語で、カード群やパソコン群より思い出せた割合が低くなっています。カード群とほかの 2 群の差は、統計的にははっきりしませんでした。学習にかけた時間と得点には、意味のある相関がありませんでした。
Nakata(2015) ── 日本の大学生 128 人が、英語と日本語の組み合わせ 20 個を学びました。間をあけて練習するほうが、続けて練習するよりはっきり上でした(効果量が大きい)。間隔をだんだん広げる方式は、等間隔より「小さいが統計的に意味のある差」で上でした。
Nakata & Webb(2016) ── 20 語をまとめて回す方法と、4 語・10 語に分けて回す方法を比べました。間隔をそろえると、分け方の差はほとんどありませんでした。結果を左右したのは、束の大きさより間隔でした。
Nakata(2017) ── 日本人学習者 98 人が、英日の組み合わせ 16 個を学びました。1 回の学習の中で思い出す回数を 1・3・5・7 回に分けています。5 回・7 回は 1 回・3 回より得点が高く、2 週間以上あとのテストでも同じでした。ただしかけた時間をそろえて比べると、1 回がもっとも伸びが大きい結果でした。何回も思い出せば残るが、時間あたりで見ると回数を増やすほど効率は下がる、ということです。
Webb(2007) ── 日本人学習者 121 人が、文の中で単語に 1・3・7・10 回出会いました。出会う回数が増えるごとに、単語の知識のどこかが伸びました。10 回でかなりの学習が起きましたが、完全に身につくには 10 回より多く必要でした。
カードの束と、抜くタイミングの研究
Kornell(2009) ── 3 つの実験で、参加者が難しい英単語(大学院入試レベル)とその意味をカードで学びました。1 つの大きな束を回す方法と、4 つの小さな束に分けて 1 束ずつ回す方法を比べました。大きな束のほうが、同じカードに戻るまでの間隔が長くなります。結果は大きな束が上で、試験前日の詰め込みよりも上でした。参加者の 90% で大きな束が上回りました。ところが 1 回目の学習のあとでは、72% が「小さな束のほうが覚えた」と感じていました。
Kornell & Bjork(2008) ── 4 つの実験で、「覚えたと思ったカードを束から抜く」やり方を調べました。抜けば残りのカードに時間を回せます。しかし実際には、抜いてよい条件のほうが、学習に小さいが一貫したマイナスでした。理由は 2 つです。「覚えた」という自己判断が当てにならないこと。そして、もう 1 回やることの価値を低く見ていることです。
Karpicke & Roediger(2008) ── 外国語の単語で、いちど正解できた単語を「テストから外す」と「テストし続ける」に分けました。1 週間後の成績は、テストし続けた単語のほうが大きく上でした。見直しを続けても、テストから外すと効果はありませんでした。学生自身の予想は、実際の成績とほぼ無関係でした。
Rawson & Dunlosky(2011) ── 3 つの実験・533 人の学生で、「何回正解するまで練習するか」と「後日何回やり直すか」を調べました。テストは 1〜4 か月後です。後日のやり直しは、手間はあまり増えないのに長く残る結果でした。結論として、最初に 3 回正しく思い出せるまで練習し、そのあと間隔を広くあけて 3 回やり直すことを勧めています。
Wissman, Rawson & Pyc(2012) ── 大学生 374 人の調査です。学生は「たくさん練習すること」の大切さは分かっていました。しかし「間をあけて戻る」ことの利点は、理解も実行もしていませんでした。
たくさんの研究をまとめた結果
Webb, Yanagisawa & Uchihara(2020) ── カード・単語リスト・書く・穴埋めで単語を覚える研究 22 本をまとめました。平均の伸びは、意味を思い出すテストで直後 60.1% → 時間をおいて 39.4%でした。つづりを思い出すテストでは直後 58.5% → 時間をおいて 25.1%でした。覚えたつもりでも、時間がたつと直後の 4〜7 割ほどに減っています。
Kim & Webb(2022) ── 第二言語の分散練習(日をあけてくり返すこと)の研究 48 本・3,411 人をまとめました。間をあける効果は中〜大でした。短い間隔は直後のテストでは長い間隔と同じでしたが、時間をおいたテストでは長い間隔に負けました。等間隔と、だんだん広げる間隔は同じくらいでした。
Uchihara, Webb & Yanagisawa(2019) ── 26 研究・1,918 人をまとめた研究です。文章の中で単語に出会う回数と、覚えた量の関係を調べました。相関はr=.34(中程度)です。出会う回数が多いほど覚えやすい傾向はありますが、回数だけで決まるわけではありません。
日本の中高生の勉強にあてはめると
「1 日 100 語を 1 周」と「1 日 20 語を完璧に」、どちらがよいか。研究の答えは「束の大きさより、同じ語に戻る間隔」です(Nakata & Webb 2016・Kornell 2009)。20 語ずつ完璧にしてから次へ進むと、最初の 20 語に戻るのはずっと先になります。範囲を広めにとって何周も回すほうが、間隔の面では有利です。
1 日の進め方の例(高校生・1 冊 1,900 語ほどの単語帳)。
- 平日は「新しい範囲 50 語」+「4 日前にやった 50 語」+「2 週間前にやった 50 語」
- 新しい範囲は、英語を見て意味を言えるまで回す。3 回言えたら、その日は外す(Rawson & Dunlosky 2011)
- 4 日前・2 週間前の範囲は、外した語も含めて全部テストする。言えなかった語だけ印をつけて、その日の束に戻す
- 1 日 30〜40 分。通学電車の 15 分で英→日、家で 15 分で日→英を書く、と分けてもよい
数字は一例です。研究で決まった「正解の語数」はありません。大事なのは、同じ語に日をあけて 3 回以上戻るように予定を組むことです。
「何周するか」の目安。Rawson & Dunlosky(2011)の勧めは「最初に 3 回正解 → 後日 3 回やり直し」でした。単語帳に置きかえると、1 周目でしっかり固めて、そのあと日をあけて 3 周が最低ラインの目安になります。ただしこの研究の教材は単語ではなく、概念を説明する文章でした。
カードを抜くタイミング。研究を合わせると、次のように整理できます。
- その日の中で 3 回言えた語は、その日は外してよい(Rawson & Dunlosky 2011 の「3 回正解まで」)
- しかし次の周では全部戻す。「覚えた」という感覚は当てになりません(Kornell & Bjork 2008・Karpicke & Roediger 2008)。時間がたつと、直後の 4〜7 割ほどに減ります(Webb ら 2020)
- 3 周続けて 1 回目で言えた語だけ、周の頻度を下げる(月に 1 回だけテストする、など)
赤シートとアプリ。赤シートで日本語を隠すのは「思い出す練習」になります。眺めるだけで次のページに行かないように、1 語ずつ言ってからシートをずらすのがコツです。単語アプリは、復習の予定を自動で組むものが多くあります(Nakata 2011 で調べた 9 本すべてが対応)。高校生 226 人の研究でも、パソコン群は単語リスト群を上回りました(Nakata 2008)。
単語帳だけで終わらせない。Webb(2007)では、文の中で 10 回出会ってもまだ完全ではありませんでした。単語帳で意味を覚えたら、長文や教科書の英文でもう一度出会う機会を作ります。単語帳の例文を音読するのも、出会う回数を増やす方法の一つです(音読)。
定期テスト前の詰め込みは、入試には残りにくい。Kornell(2009)では、前日の詰め込みは大きな束で日をあけて回す方法に負けました。小テストや定期テストの範囲を前日に覚えるのは仕方ない場面もあります。ただし入試に残すなら、テスト後にもう一度その範囲に戻る予定を入れましょう。
よくある誤解
「覚えた単語は飛ばして、覚えていない単語に時間を使うほうが効率的」 Kornell & Bjork(2008)では、覚えたと思ったカードを抜いてよい条件のほうが、学習にマイナスでした。Karpicke & Roediger(2008)でも、正解した語をテストから外すと 1 週間後に差がつきました。その日のうちは外しても、次の周では戻します。
「少しずつ区切って、完璧にしてから次に進むほうが覚えられる」 Kornell(2009)では、参加者の 72% がそう感じていました。しかし 90% の人で、大きな束で回すほうが上でした。「覚えた感じ」と「実際に残る量」はずれます。
「1 回の学習で 10 回くり返せば確実」 Nakata(2017)では、思い出す回数が多いほど得点は上でした。しかし時間あたりで見ると、1 回のほうが効率がよかったのです。同じ日に何度もくり返すより、日を変えて戻るほうに時間を使うのが、Kim & Webb(2022)とも合います。
「間隔はだんだん広げないとダメ」 Nakata(2015)では広げる方式が少し上でしたが、まとめた研究(Kim & Webb 2022)では等間隔と同じくらいでした。間隔の形より、間をあけること自体が大切です。
このサイトでの使い方
- このサイトに英単語帳の機能はありません。単語帳やアプリは手持ちのものを使い、このページの回し方を当てはめてください
- 語彙の単元の小テストは、思い出す練習として使えます。高校英語なら 句動詞・熟語・慣用表現・語形変化と派生語・紛らわしい語 の 4 単元です
- 小テストで間違えた型は端末内に記録され、次に開いたとき「前に間違えた型をやり直す」ボタンが出ます。4 日後・2 週間後にまずここから
- 単語帳で覚えた語に、文の中でもう一度出会いましょう。中学は 長文読解の型、高校は 共通テスト リーディングの型 の英文が使えます
- 回し方の考え方は 間隔反復 と テスト効果 にくわしく書いています。古文単語(歴史的仮名遣いと古文単語)にも同じ回し方が使えます
注意点
- 日本人を対象にした研究で中高生は、高校生 226 人の Nakata(2008)だけです。ほかは大学生か、要旨に学年の記載がない研究です
- 覚えた語の数も 10〜20 語と少なめです。単語帳 1 冊(1,000 語以上)を何か月も回す場面を直接調べた研究は、まだ引けていません
- Kornell(2009)・Kornell & Bjork(2008)・Rawson & Dunlosky(2011)は日本人以外を対象にした研究です。Rawson & Dunlosky(2011)の教材は単語ではなく概念の説明でした
- 「3 回正解で外す」「3 周」は、Rawson & Dunlosky(2011)の勧めを単語帳に置きかえた目安です。単語帳そのもので確かめた数字ではありません
- 1 日の語数・何日後に戻るかの数字は、このページで示した一例です。研究で決まった最適な値ではありません
- Nakata(2008)でパソコン群がよかった理由は、要旨からは分かりません。アプリなら何でもよい、とまでは言えません
引いた論文
番号は参考文献ログの #。すべて DOI を開いて書誌と要旨を確認しています。
- #122 Nakata, T. (2008). English vocabulary learning with word lists, word cards and computers: Implications from cognitive psychology research for optimal spaced learning. ReCALL, 20(1), 3–20. https://doi.org/10.1017/s0958344008000219
- #11 Nakata, T. (2015). Effects of expanding and equal spacing on second language vocabulary learning. Studies in Second Language Acquisition, 37(4), 677–711. https://doi.org/10.1017/S0272263114000825
- #12 Nakata, T., & Webb, S. (2016). Does studying vocabulary in smaller sets increase learning? Studies in Second Language Acquisition, 38(3), 523–552. https://doi.org/10.1017/S0272263115000236
- #123 Nakata, T. (2017). Does repeated practice make perfect? The effects of within-session repeated retrieval on second language vocabulary learning. Studies in Second Language Acquisition, 39(4), 653–679. https://doi.org/10.1017/S0272263116000280
- #13 Webb, S. (2007). The effects of repetition on vocabulary knowledge. Applied Linguistics, 28(1), 46–65. https://doi.org/10.1093/applin/aml048
- #33 Kornell, N. (2009). Optimising learning using flashcards: Spacing is more effective than cramming. Applied Cognitive Psychology, 23(9), 1297–1317. https://doi.org/10.1002/acp.1537
- #121 Kornell, N., & Bjork, R. A. (2008). Optimising self-regulated study: The benefits—and costs—of dropping flashcards. Memory, 16(2), 125–136. https://doi.org/10.1080/09658210701763899
- #9 Karpicke, J. D., & Roediger, H. L. (2008). The critical importance of retrieval for learning. Science, 319, 966–968. https://doi.org/10.1126/science.1152408
- #124 Rawson, K. A., & Dunlosky, J. (2011). Optimizing schedules of retrieval practice for durable and efficient learning: How much is enough? Journal of Experimental Psychology: General, 140(3), 283–302. https://doi.org/10.1037/a0023956
- #125 Wissman, K. T., Rawson, K. A., & Pyc, M. A. (2012). How and when do students use flashcards? Memory, 20(6), 568–579. https://doi.org/10.1080/09658211.2012.687052
- #127 Webb, S., Yanagisawa, A., & Uchihara, T. (2020). How effective are intentional vocabulary-learning activities? A meta-analysis. The Modern Language Journal, 104(4), 715–738. https://doi.org/10.1111/modl.12671
- #126 Kim, S. K., & Webb, S. (2022). The effects of spaced practice on second language learning: A meta-analysis. Language Learning, 72(1), 269–319. https://doi.org/10.1111/lang.12479
- #128 Uchihara, T., Webb, S., & Yanagisawa, A. (2019). The effects of repetition on incidental vocabulary learning: A meta-analysis of correlational studies. Language Learning, 69(3), 559–599. https://doi.org/10.1111/lang.12343
- #129 Nakata, T. (2011). Computer-assisted second language vocabulary learning in a paired-associate paradigm: A critical investigation of flashcard software. Computer Assisted Language Learning, 24(1), 17–38. https://doi.org/10.1080/09588221.2010.520675