地方上級 / 行政法 / zg-04

更新 2026-09-14

行政契約・行政指導・行政調査

この単元でできるようになること

試験での位置づけ

行政行為(zg-02)が「権力的な行為」の代表なら、この単元は権力的でない行為の代表(契約・指導)と、行政活動の入口(調査)を扱います。地方上級・国家一般職とも、行政指導は行政手続法(zg-06)と組み合わせて出題されやすく、「条文の内容」と「判例の結論」が半々で問われます。行政契約と行政調査は出題が続くというより、選択肢の 1 つとして混ざる形が多いテーマです。行政指導の条文は数が多くありませんから、条文番号ごとに「何を禁じているか」を正確に覚えるのが近道です。


1. 行政契約 ── 合意で行政目的を達成する

まずここだけ

行政契約とは、行政主体が当事者となって結ぶ契約です。国や地方公共団体が物品を買う・工事を発注する(調達契約)、水道を供給する(給付行政の契約)、企業と公害防止協定を結ぶ(規制行政の契約)、補助金を交付するなど、行政活動の多くは契約の形で行われています。

契約は相手方との合意で成立し、一方的に権利義務を決める行政行為ではないので、法律の根拠(法律の留保)は原則として不要です。ただし法律に反する内容の契約は結べません(法律の優位)。法律が定める規制を契約で緩めたり、法律上できない義務を契約で課したりすることはできません。また、平等原則・比例原則などの一般原則も及びます。

ここまでできれば十分

地方自治法の契約ルール(234 条): 売買・貸借・請負などの契約は一般競争入札が原則で、指名競争入札・随意契約・せり売りは政令で定める場合に限って認められます。随意契約が許されるのは、契約の性質や目的が競争入札に適しない場合、少額の場合、緊急の場合などです(地方自治法施行令 167 条の 2)。

公害防止協定 ── 福間町事件(最判平成 21 年(2009 年)7 月 10 日) 町と産業廃棄物処理業者が、処分場の使用期限を定めた公害防止協定を結んだ事案です。業者は「期限の定めは廃棄物処理法の許可制度に反して無効」と主張しましたが、最高裁は、処分場をいつまで使うかは事業者の自由な判断に委ねられており、期限を定めた協定は廃棄物処理法に反せず、法的拘束力をもつとしました。「公害防止協定は紳士協定にすぎない」という選択肢は誤りです。

給水契約と給水義務: 水道法 15 条 1 項は、水道事業者は給水契約の申込みを受けたとき「正当の理由」がなければ拒めないと定めます。

判例結論
武蔵野市マンション事件(最決平成元年(1989 年)11 月 8 日)市の指導要綱に従わないマンション業者への給水拒否は、要綱に従わせるための手段であって「正当の理由」にあたらず、水道法 15 条違反(刑事事件で有罪)
志免町給水拒否事件(最判平成 11 年(1999 年)1 月 21 日)水源が乏しく水不足が深刻な町が、大規模開発の給水申込みを拒んだことは「正当の理由」にあたる

「行政指導に従わせるための給水拒否はダメ、本当に水がないなら OK」と覚えます。

もう一歩(発展)

行政主体どうしの契約もあります。地方公共団体の事務の委託(地方自治法 252 条の 14)は、協議により規約を定めて行う契約的な仕組みです。また、補助金の交付決定は、国の場合は補助金適正化法により行政処分として構成されていますが、地方公共団体の補助金は契約(負担付贈与)として扱われることが多く、法律構成が一律ではない点に注意してください。


2. 行政指導 ── 任意の協力を求める

まずここだけ

行政手続法 2 条 6 号の定義: 行政機関がその任務または所掌事務の範囲内で、一定の行政目的を実現するため、特定の者に一定の作為・不作為を求める指導・勧告・助言その他の行為で、処分に該当しないもの

行政指導は法的拘束力をもたないので、法律の根拠は不要(所掌事務の範囲内であればよい)。しかし現実には、許認可の権限を背景に「従わないと不利益がある」という圧力になりやすいので、行政手続法が歯止めを置いています。

条文内容
32 条(一般原則)行政指導は相手方の任意の協力によってのみ実現される。従わなかったことを理由に不利益な取扱いをしてはならない
33 条(申請に関連する行政指導)申請者が行政指導に従う意思がない旨を表明したにもかかわらず、行政指導を継続して申請者の権利の行使を妨げてはならない
34 条(許認可等の権限に関連する行政指導)権限を行使できない場合や行使する意思がない場合に、権限を行使し得る旨を殊更に示して従わせてはならない
35 条(方式)行政指導の趣旨・内容・責任者を明確に示す。口頭の場合、相手方が求めれば原則として書面を交付する。権限を行使し得る旨を示すときは、その根拠となる法令の条項・要件・適合理由も示す
36 条(複数の者を対象とする行政指導)同じ行政目的で複数の者に行政指導をするときは、共通の内容を行政指導指針として定め、原則として公表する
36 条の 2(中止等の求め)法令に違反する行為の是正を求める行政指導(法律に根拠があるもの)が法律の要件に適合しないと思うとき、相手方は中止その他必要な措置を求められる
36 条の 3(処分等の求め)法令違反の事実があるのに処分や行政指導がされていないと思う者は、誰でもその権限をもつ行政庁・行政機関に処分・行政指導を求められる

地方公共団体の機関が行う行政指導には、行政手続法の行政指導の規定は適用されません(3 条 3 項)。各地方公共団体は行政手続条例で同様のルールを定めています(zg-06)。

ここまでできれば十分

判例は 3 つが柱です。

品川マンション事件(最判昭和 60 年(1985 年)7 月 16 日) マンション建設で近隣住民との紛争があり、東京都が建築主に話し合いを求める行政指導をし、その間建築確認を留保した事案です。最高裁は、建築主が行政指導に任意に協力している間は確認を留保しても違法ではないが、建築主が行政指導に従わない意思を真摯かつ明確に表明し、確認申請に対する応答を求めているときは、特段の事情がない限り、それ以後の留保は違法としました(国家賠償を認めた)。

武蔵野市教育施設負担金事件(最判平成 5 年(1993 年)2 月 18 日) 市が宅地開発指導要綱に基づき、マンション業者に教育施設負担金の寄付を求め、応じなければ給水を拒むなどの姿勢を示していた事案です。最高裁は、負担金の納付は任意の協力の限度を超え、事実上強制したもので違法とし、国家賠償を認めました。行政指導そのものは適法でも、従わせる手段が強制にわたれば違法です。

病院開設中止勧告事件(最判平成 17 年(2005 年)7 月 15 日) 医療法に基づく病院開設の中止勧告は行政指導ですが、勧告に従わずに開設すると保険医療機関の指定を受けられない蓋然性が高く、実際上病院を開設できなくなります。最高裁はこの事実上の効果を重く見て、勧告に取消訴訟の対象となる処分性を認めました。「行政指導には一切処分性がない」という選択肢は誤りです(zg-09)。

石油カルテル事件(最判昭和 59 年(1984 年)2 月 24 日): 通産省の行政指導に従った価格協定であっても、それだけで独占禁止法違反の違法性が消えるわけではないとしつつ、行政指導が社会通念上相当と認められ、それに従った行為が独占禁止法の究極の目的に実質的に反しない場合には違法性が阻却される余地があるとしました。「行政指導に従っていれば常に適法」ではありません。

もう一歩(発展)

行政指導に従わないことを理由とする不利益取扱いの禁止(32 条 2 項)は、行政指導と別の法的根拠がある不利益まで禁じるものではありません。たとえば行政指導に従わなかった事業者が、別に法律違反をしていれば、その違反に対する処分は可能です。また、行政指導に従って行った行為の効果は本人に帰属するので、行政指導によって損害が生じても、任意に従った限りは国家賠償の対象になりにくいという点も押さえてください(強制にわたれば別)。


3. 行政調査 ── 情報を集める活動と限界

まずここだけ

行政調査は、行政目的の達成に必要な情報を集める活動です。強制の度合いで 3 つに分けます。

種類内容法律の根拠
任意調査相手方の任意の協力によるアンケート、任意の聞き取り、警察官の職務質問不要(所掌事務の範囲内)
間接強制調査拒否・妨害に罰則を科して間接的に強制する税務職員の質問検査(国税通則法 74 条の 2 以下)、食品衛生法の立入検査要る
直接強制調査相手方の抵抗を排して実力で行う国税犯則事件の臨検・捜索・差押え(裁判官の許可状が要る)要る

拒否された任意調査や間接強制調査で、法律の明文なしに実力を行使する(鍵を壊して立ち入る等)ことはできません。罰則があるからといって実力行使まで認められるわけではないのが基本です。

ここまでできれば十分

憲法 35 条(令状主義)・38 条(黙秘権)は行政調査に及ぶか ── 川崎民商事件(最大判昭和 47 年(1972 年)11 月 22 日) 旧所得税法の質問検査(拒めば罰則)が令状なしで行われることが 35 条に反しないか、黙秘権の保障が及ばないかが争われました。最高裁は、35 条・38 条の保障は刑事手続以外にも及び得るとしつつ、この質問検査は①刑事責任の追及を目的としない、②実質上刑事責任追及のための資料収集に直結しない、③強制の程度が間接的で、④公益上の必要性が高いことから、令状なしでも 35 条に反せず、38 条 1 項の保障も及ばないとしました。「行政手続には 35 条・38 条は一切及ばない」と書いた選択肢は誤りで、「及び得るが、この事案では反しない」が正確です。

質問検査の要件 ── 荒川民商事件(最決昭和 48 年(1973 年)7 月 10 日) 質問検査の範囲・程度・時期・場所などは、調査の必要性と相手方の私的利益との衡量で社会通念上相当な限度にとどまる限り、税務職員の合理的な選択に委ねられる事前の通知や調査理由の個別的な告知は法律上の要件ではないとしました(現在は国税通則法 74 条の 9 で、原則として事前通知が制度化されています)。

警察の調査

判例結論
自動車一斉検問(最決昭和 55 年(1980 年)9 月 22 日)交通違反の多発する地域での短時間の一斉検問は、警察法 2 条 1 項の任意活動として、相手方の任意の協力を求める形で、自由を不当に制約しない方法・態様で行われる限り適法
所持品検査・米子銀行強盗事件(最判昭和 53 年(1978 年)6 月 20 日)職務質問に付随する所持品検査は、承諾がなくても、捜索に至らない程度の行為で、必要性・緊急性・相当性が認められる限り許容される

もう一歩(発展)

行政手続法との関係: 報告や物件の提出を命じる処分など、職務上必要な情報の収集を直接の目的とする処分・行政指導には、行政手続法の処分・行政指導の規定が適用されません(3 条 1 項 14 号)。行政調査に事前の聴聞などが要らないのはこのためです。

違法な調査と処分の効力: 調査の違法が直ちに処分(課税処分など)を違法にするわけではありませんが、調査が刑罰法規に触れるなど重大な違法を帯びる場合には処分も違法になり得ると解されています。また、質問検査権は「犯罪捜査のために認められたものと解してはならない」(国税通則法 74 条の 8)とされる一方、適法な質問検査で得た資料を後の犯則事件の証拠として使うことは許されるとした判例があります(最決平成 16 年(2004 年)1 月 20 日)。


4. よくある間違い

間違い正しくは
行政契約には法律の根拠が要る原則不要。ただし法律に反する内容は結べない(法律の優位)
公害防止協定は紳士協定で法的拘束力がない処分場の使用期限を定めた協定に法的拘束力を認めた(福間町事件)
指導要綱に従わない業者への給水拒否は「正当の理由」にあたるあたらない(武蔵野市マンション事件)。水不足なら「正当の理由」にあたる(志免町事件)
行政指導には法律の根拠が要る不要。所掌事務の範囲内であればよい
行政指導に従わなければ不利益に扱ってよい従わなかったことを理由とする不利益取扱いは禁止(32 条 2 項)
建築確認の留保は行政指導が続く限り適法従わない意思を真摯かつ明確に表明した後の留保は違法(品川マンション事件)
行政指導には処分性がなく、取消訴訟の対象にならない病院開設中止勧告には処分性が認められた
地方公共団体の行政指導にも行政手続法が適用される適用されない(3 条 3 項)。行政手続条例で対応
行政調査には憲法 35 条・38 条は及ばない及び得る。ただし川崎民商事件の質問検査は反しないとされた
質問検査には事前通知と理由の告知が法律上必要判例は法律上の要件ではないとした(荒川民商事件)。現在は国税通則法で原則事前通知

5. 解き方の型

  1. 選択肢の行為が「契約・指導・調査」のどれかを見きわめ、法律の根拠が要るかを確認する(契約・指導・任意調査は不要、強制調査は必要)
  2. 行政指導の選択肢は、行政手続法 32〜36 条の 3 のどれに対応するかを当て、「任意」「不利益取扱い禁止」「従わない意思の表明」「殊更に示す」「書面交付」「指針の公表」のキーワードで正誤を判定する
  3. 行政指導の判例は「品川=真摯かつ明確な表明後の留保は違法」「武蔵野=事実上の強制は違法」「病院勧告=処分性あり」の 3 点で切る
  4. 行政調査の判例は「川崎民商=35・38 条は及び得るが反しない」「荒川民商=事前通知は法律上の要件でない」「一斉検問=任意の協力なら適法」で切る

6. 小テストへ

→ 小テスト(zg-04

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参考資料

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