地方上級 / 行政法 / zg-05

更新 2026-09-14

行政上の強制措置と行政罰

この単元でできるようになること

試験での位置づけ

行政行為(zg-02)で「義務を課す」ところまで学び、この単元では課した義務が守られなかったらどうするかを扱います。地方上級・国家一般職とも出題されやすく、特に行政代執行法の条文4 つの強制執行と即時強制の区別は繰り返し問われます。判例は数が少ない代わりに、農業共済組合事件と宝塚市パチンコ条例事件は「民事の手続を使えるか」という同じ軸で対にして問われます。行政罰は憲法 31 条・39 条(zh-05)や地方自治法の条例制定権(zh-10)ともつながるテーマです。


1. 行政上の義務履行確保の全体像

まずここだけ

行政が国民に義務を課しても、守られなければ意味がありません。守らせる手段は 2 系統あります。

系統考え方手段
行政上の強制執行義務の不履行を前提に、行政が自ら義務内容を実現する(将来に向けた履行の確保)代執行・執行罰・直接強制・強制徴収
行政罰過去の義務違反に対する制裁(間接的に守らせる)行政刑罰・秩序罰(過料)

これとは別に、義務を課す暇がないときに直接実力を加える即時強制があります(義務の不履行を前提としない点で強制執行と違う)。

どの手段にも法律の根拠が要ります。行政代執行法 1 条は「行政上の義務の履行確保に関しては、別に法律で定めるものを除いては、この法律の定めるところによる」と定めています。ここでいう「法律」に条例は含まれないと解されているため、条例で独自の強制執行の手段(直接強制など)を創設することはできません。ただし代執行は、条例に基づく義務についても行政代執行法によって行えます(2 条の「法律」には条例が含まれると明記)。

ここまでできれば十分

4 つの強制執行の対象と現状を整理します。

手段対象となる義務方法現行法の状況
代執行代替的作為義務(他人が代わってできる行為。違法建築物の除却、放置物の撤去など)行政庁が自ら、または第三者に行わせ、費用を義務者から徴収一般法として行政代執行法
執行罰非代替的作為義務・不作為義務(本人にしかできない行為、してはならない行為)一定期限までに履行しなければ過料を科すと予告して心理的に圧迫。反復して科せる現行法では砂防法 36 条にあるだけ
直接強制あらゆる義務義務者の身体・財産に直接実力を加えて義務内容を実現一般法なし。成田国際空港の安全確保に関する緊急措置法(工作物の封鎖・除去)など個別法にわずか
強制徴収金銭給付義務督促 → 財産の差押え → 換価 → 配当(国税徴収法の滞納処分の手続)国税徴収法。各法律が「国税滞納処分の例による」と定めて借用

「代替的作為義務なら代執行、金銭なら強制徴収、それ以外は原則として手段がない(執行罰・直接強制はほとんど使えない)」というのが現状です。だからこそ、行政罰や後述の「その他の手段」が実務では重要になります。


2. 行政代執行法 ── 要件と手続

まずここだけ

要件(2 条): 次の 3 つをすべて満たすとき、代執行ができます。

  1. 法律(条例を含む)により直接命じられ、または法律に基づいて行政庁により命じられた行為で、他人が代わってすることができるもの(代替的作為義務)の不履行があること
  2. 他の手段によってその履行を確保することが困難であること
  3. その不履行を放置することが著しく公益に反すると認められること

事例: 違法に建てられた建物に対して除却命令が出たのに、所有者が取り壊さない。→ 建物の除却は第三者でもできる代替的作為義務なので、要件 2・3 を満たせば市が業者に取り壊させ、費用を所有者から取り立てられる。

事例: 営業停止命令に従わず営業を続けている。→ 「営業をしない」という不作為義務は他人が代わってできないので、代執行の対象外。行政罰や許可の取消しなどで対応する。

ここまでできれば十分

手続(3 条〜6 条)は順番が問われます。

手続内容
1戒告(3 条 1 項)相当の履行期限を定め、期限までに履行しないときは代執行をする旨を文書で戒告
2代執行令書による通知(3 条 2 項)期限までに履行がないとき、代執行の時期・執行責任者の氏名・費用の概算見積額を代執行令書で通知
3実行(4 条)執行責任者は証票を携帯し、要求があれば提示
4費用の徴収(5 条・6 条)費用の額と納期日を文書で納付命令。納付しなければ国税滞納処分の例により徴収(強制徴収)。費用は国税・地方税に次ぐ先取特権をもつ

緊急の場合の省略(3 条 3 項): 非常の場合または危険切迫の場合で、戒告・通知の手続をとる暇がないときは、戒告と代執行令書による通知を省略できます。

争い方: 戒告と代執行令書による通知は、それぞれ処分性があると解されており、取消訴訟の対象になります(代執行が終わってしまうと訴えの利益が失われるので、執行停止の申立てが重要になります)。代執行の実行そのものは事実行為で、終了後は国家賠償で争います(zg-09zg-10)。

もう一歩(発展)

「行政上の義務を守らせるために民事の手続を使えるか」は 2 つの判例で対になります。

農業共済組合事件(最大判昭和 41 年(1966 年)2 月 23 日): 農業共済組合が組合員の未納の共済掛金を民事訴訟で請求した事案です。法律が組合に強制徴収の手段(滞納処分)を与えているのは、簡易迅速に徴収するためだから、その手段を使わずに民事訴訟で請求することは許されないとしました。「強制徴収の手段があるなら、そちらを使え」という結論です。

宝塚市パチンコ条例事件(最判平成 14 年(2002 年)7 月 9 日): 市がパチンコ店の建築中止命令を出しても従わないので、民事訴訟で建築の差止めを求めた事案です。最高裁は、国や地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に行政上の義務の履行を求める訴訟は、法律上の争訟(裁判所法 3 条 1 項)にあたらず、法律に特別の規定がない限り不適法としました。財産権の主体として(土地の所有者として)請求する場合は別です。結論として、条例上の義務を民事の力で実現する道は閉ざされ、条例に代執行の対象となる義務を定めるか、罰則で対応するしかなくなりました。


3. 即時強制とその他の手段

まずここだけ

即時強制とは、義務を命じる暇がない緊急の場合や、義務を命じたのでは目的を達しにくい場合に、あらかじめ義務を課すことなく、国民の身体・財産に直接実力を加えて行政目的を実現するものです。

根拠法
泥酔者・迷い子の保護警察官職務執行法 3 条
危険な事態での避難等の措置、立入り警察官職務執行法 4 条・6 条
延焼を防ぐための建物の破壊(破壊消防)消防法 29 条
感染症の患者の入院措置感染症法 19 条など
違法駐車車両のレッカー移動道路交通法 51 条
放置自転車の撤去各地方公共団体の条例

直接強制との違いは義務の不履行が前提かどうかです。直接強制は「義務を命じた → 守らない → 実力」、即時強制は「義務を命じずにいきなり実力」。放置自転車の撤去は、撤去命令を経ずに行うので即時強制です。

即時強制にも法律の根拠が要りますが、強制執行と違って条例で定めることができます(行政代執行法 1 条の「義務の履行確保」ではないため)。また、人身の自由に関わる即時強制には、憲法 31 条・33 条・35 条の趣旨が及び得ると解されています(川崎民商事件の考え方。zg-04)。

ここまでできれば十分

強制執行が使いにくい現状を補う手段として、次のものが用いられます。

手段内容注意点
課徴金違反で得た経済的利得を奪う金銭的負担(独占禁止法・金融商品取引法など)刑罰ではないので罰金との併科は二重処罰にあたらない(最判平成 10 年(1998 年)10 月 13 日)
加算税申告漏れ・無申告などへの行政上の制裁追徴税(現在の加算税)と罰金の併科は憲法 39 条に反しない(最大判昭和 33 年(1958 年)4 月 30 日)
公表違反者の氏名などを公表して社会的圧力をかける制裁目的の公表には法律・条例の根拠が要ると考えられている。情報提供目的なら不要
給付の拒否・許認可の停止行政サービスの拒否、許可の取消し・停止別の目的の給付を拒むこと(指導要綱に従わせるための給水拒否)は違法(zg-04
交通反則金(通告処分)軽微な交通違反について、反則金を納めれば刑事訴追しない反則金の通告には処分性がない(最判昭和 57 年(1982 年)7 月 15 日)。争うなら納付せず刑事手続で

4. 行政罰 ── 行政刑罰と秩序罰

まずここだけ

行政罰は、行政上の義務違反に対する制裁で、2 種類あります。

行政刑罰秩序罰
内容刑法 9 条の刑(拘禁刑・罰金・拘留・科料・没収)過料(刑罰ではない)
対象行政目的を直接侵害する違反(無許可営業など)届出義務違反など軽い手続違反
刑法総則適用される(法律に特別の定めがない限り)適用されない
科す手続刑事訴訟法により裁判所が科す法律に基づく過料: 非訟事件手続法により裁判所が科す/条例・規則に基づく過料: 地方公共団体の長が行政処分として科す

「科料(かりょう)」は刑罰、「過料(かりょう)」は秩序罰です。区別のため過料を「あやまちりょう」、科料を「とがりょう」と読み分けることがあります。

ここまでできれば十分

行政刑罰の特色: 刑法総則が適用されますが、行政目的の達成のために特別の定めが置かれることがあります。①両罰規定(違反行為をした従業者だけでなく、事業主である法人・個人も処罰する。事業主の責任は選任・監督上の過失の推定と解されている ── 最大判昭和 32 年(1957 年)11 月 27 日)、②法人処罰、③過失犯を処罰する規定が多いこと、です。

条例の罰則(地方自治法 14 条 3 項): 条例には、法令に特別の定めがあるものを除き、2 年以下の拘禁刑、100 万円以下の罰金、拘留、科料、没収、5 万円以下の過料を定められます(拘禁刑は令和 7 年(2025 年)6 月の刑法改正の施行前は「懲役・禁錮」)。長が定める規則には 5 万円以下の過料だけを定められます(15 条 2 項)。条例で罰則を定めることは、法律の個別の授権がなくても憲法 31 条に反しないとされています(大阪市売春取締条例事件 最大判昭和 37 年(1962 年)5 月 30 日)。

条例・規則に基づく過料の科し方: 地方公共団体のが科します(地方自治法 149 条 3 号)。科すときは、あらかじめ告知と弁明の機会を与えなければならず(255 条の 3)、納期限までに納付されなければ地方税の滞納処分の例により強制徴収できます(231 条の 3)。裁判所が関与しない点が、法律に基づく過料(非訟事件手続法で地方裁判所が科す)との違いです。

もう一歩(発展)

併科と二重処罰: 目的・性質が違うものは併科できます。

執行罰は反復できるが、行政罰は 1 つの違反に 1 回という違いも押さえてください。執行罰は「履行するまで何度でも」、行政罰は「過去の 1 つの違反に対する制裁」だからです。


5. よくある間違い

間違い正しくは
代執行は不作為義務(営業停止など)にも使える代替的作為義務にしか使えない
代執行の要件は義務の不履行だけ他の手段では困難+放置が著しく公益に反する、も必要
代執行の手続は代執行令書 → 戒告の順戒告 → 代執行令書による通知 → 実行 → 費用徴収
緊急時でも戒告は省略できない非常・危険切迫の場合は戒告・通知を省略できる(3 条 3 項)
執行罰は一度しか科せない履行されるまで反復して科せる。現行法では砂防法にあるだけ
直接強制の一般法があるない。個別法(成田新法など)にわずかにあるだけ
条例で直接強制や執行罰を創設できるできない(行政代執行法 1 条の「法律」に条例は含まれない)。即時強制は条例で可
強制徴収の手段があっても民事訴訟で請求できるできない(農業共済組合事件)
行政上の義務は民事訴訟で履行を求められる行政権の主体としての訴えは法律上の争訟にあたらず不適法(宝塚市パチンコ条例事件)
過料は刑罰であり刑法総則・刑事訴訟法が適用される過料は刑罰ではない。法律に基づく過料は非訟事件手続法、条例・規則の過料は長が科す
交通反則金の通告は取消訴訟で争える処分性なし。納付せずに刑事手続で争う

6. 解き方の型

  1. 選択肢の手段が「義務の不履行を前提とするか」を見る。前提とすれば強制執行(4 種のどれか)、しなければ即時強制
  2. 強制執行なら義務の種類で当てる。代替的作為義務 → 代執行、金銭 → 強制徴収、それ以外 → 執行罰・直接強制(現行法ではほぼ使えない)
  3. 代執行の選択肢は「要件 3 つ」「手続の順序」「緊急時の省略」「費用の強制徴収」のどれを聞いているかを見分ける
  4. 「民事」と出たら、農業共済組合事件(強制徴収があれば民事訴訟不可)と宝塚市事件(行政権の主体としての訴えは不適法)を思い出す
  5. 「過料」と出たら刑罰でないこと、法律に基づくか条例・規則に基づくかで科す機関が違うこと、条例の上限(5 万円以下)を確認する

7. 小テストへ

→ 小テスト(zg-05

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参考資料

このページの小テスト ── 間違えても、同じ型の別の問題でやり直せます。レベルを選んでそのまま始められます。
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