地方上級 / マクロ / za-04

更新 2026-09-14

貨幣と金融政策(貨幣乗数・金利)

この単元でできるようになること

試験での位置づけ

za-03 の LM 曲線の「中身」にあたる単元です。地方上級・国家一般職では、貨幣乗数と信用創造の計算流動性選好説の 3 動機金融政策の手段と効果の向きが問われやすく、社会科学(zk-05)や財政学(zf-05)とも重なります。計算は掛け算・割り算だけですが、「本源的預金を含むか含まないか」「現金・預金比率があるかないか」で式が変わるので、条件の読み取りが得点を分けます。


1. 貨幣の機能とマネーストック

まずここだけ

貨幣の機能は 3 つです。

機能意味
交換(支払)手段モノやサービスと交換できる買い物で代金を払う
価値尺度価値を共通の単位で測る「このパンは 200 円」
価値貯蔵手段価値を将来まで保存できる貯金しておく

このうち「交換手段」が貨幣を貨幣たらしめる中心の機能で、価値貯蔵は株式や土地にもできます。

ここまでできれば十分

マネーストックは、金融機関と中央政府を除く経済主体(企業・家計・地方公共団体など)が保有する通貨の量です。日本銀行の統計では、含める範囲の広さで 4 つの指標に分かれます。

指標中身
M1現金通貨 + 預金通貨(普通預金・当座預金などの要求払預金)
M2現金通貨 + 国内銀行等に預けられた預金(要求払 + 定期性預金 + CD)
M3M1 + 準通貨(定期性預金など)+ CD(譲渡性預金)。預け先はゆうちょ銀行なども含む全預金取扱機関
広義流動性M3 + 投資信託・国債・金銭の信託など

M2 と M3 の違いは預け先の範囲(M2 は国内銀行等に限る、M3 は全預金取扱機関)です。細かい定義は日本銀行「マネーストック統計の解説」で確認できますが、試験では「M1 は現金 + 要求払預金」「M3 = M1 + 準通貨 + CD」を押さえておけば十分です。

一方、ハイパワードマネー(マネタリーベース・ベースマネー)は、現金通貨 + 日銀当座預金(準備預金)で、中央銀行が直接コントロールできるお金です。マネーストックは民間銀行の信用創造を通じて、ハイパワードマネーの何倍かに膨らみます。


2. 信用創造と貨幣乗数

まずここだけ

銀行は預金の一部(法定準備率 r の分)を準備として残し、残りを貸し出します。貸し出されたお金はまた別の銀行に預けられ、その一部がまた貸し出され…と続くので、最初の預金の何倍もの預金が生まれます。これが信用創造です。

本源的預金 D₀、準備率 r のとき 預金総額 = D₀ ÷ r 信用創造額(貸出総額)= 預金総額 − D₀ = D₀ × (1 − r)/r

数値例:本源的預金 100、準備率 10% なら、預金総額 = 100 ÷ 0.1 = 1,000。新たに創り出された預金(貸出総額)は 1,000 − 100 = 900。「預金総額」を聞かれているのか「創造された額」を聞かれているのかで答えが変わります。

ここまでできれば十分

人々が受け取ったお金の一部を現金で持つ(銀行に戻ってこない)場合を考えます。現金・預金比率 c(現金 C ÷ 預金 D)とすると、

マネーストック M = C + D、ハイパワードマネー H = C + R(R = 準備 = rD) M/H = (C + D)/(C + rD) = (c + 1)/(c + r)  ← 貨幣乗数

数値例:c = 0.2、r = 0.1 なら乗数 = 1.2 ÷ 0.3 = 4。H = 100 なら M = 400。 c = 0(全部預金される)なら乗数は 1/r になり、信用創造の式と一致します。

貨幣乗数は、r が上がると小さく(貸せる分が減る)、c が上がると小さく(銀行に戻る分が減る)なります。銀行が法定準備を超えて手元に残す超過準備が増える場合も、実質的に r が上がるのと同じで乗数は小さくなります。

もう一歩(発展)

「マネーストックを ΔM 増やすには、ハイパワードマネーをいくら増やせばよいか」は、ΔH = ΔM ÷ 乗数 です。乗数 4 で ΔM = 200 なら ΔH = 50。中央銀行が国債を買う(買いオペ)と、その代金が日銀当座預金に入って H が増え、乗数倍のマネーストックが生まれるという流れです。


3. 貨幣需要 ── 流動性選好説と債券価格

まずここだけ

ケインズは、人が貨幣を手元に置く動機を 3 つに分けました(流動性選好説)。

動機内容何に依存するか
取引動機日々の支払いのため所得 Y の増加関数
予備的動機不意の出費に備えるため所得 Y の増加関数
投機的動機債券価格の下落を避け、資産として貨幣を持つ利子率 r の減少関数

まとめると貨幣需要は L = L₁(Y) + L₂(r)。取引・予備的需要は所得で、投機的需要は利子率で決まります。利子率が上がると、貨幣を持っていることで失う利子(機会費用)が増えるので、貨幣需要は減ります。

ここまでできれば十分

債券価格と利子率は逆に動きます。毎年一定額 A の利子を永久に払う債券(コンソル債)の価格は、

債券価格 = A ÷ r

数値例:年 5 万円の利子を払う債券は、利子率 5% なら 100 万円、10% なら 50 万円。市場の利子率が上がると、既に発行された債券の価格は下がります。

投機的需要はこの関係から説明されます。利子率が低い(債券価格が高い)ときは、「これから利子率が上がって債券が値下がりする」と予想する人が多いので、債券より貨幣を持とうとします。利子率が下限まで下がり、誰もが「これ以上は下がらない」と予想する状態が流動性のわなで、貨幣需要が利子率に対して無限に弾力的になります(za-03 で LM 曲線が水平になるケース)。

もう一歩(発展)

古典派の貨幣数量説は、貨幣を取引のための手段としてだけ見ます。

フィッシャーの交換方程式:MV = PT(M:貨幣量、V:流通速度、P:物価、T:取引量。T を実質 GDP の Y で代用して MV = PY) ケンブリッジ方程式:M = kPY(k:マーシャルの k = 1/V)

V(または k)が一定で Y が完全雇用水準で決まっているなら、貨幣量 M を増やすと物価 P が比例して上がるだけで、実質の経済には影響しません(貨幣の中立性)。数値例:M = 500、V = 4、Y = 1,000 なら P = 500 × 4 ÷ 1,000 = 2。M を 600 にすれば P = 2.4。

ケインズの流動性選好説では、貨幣量の増加はまず利子率を下げ、投資を通じて所得を動かす(貨幣は中立でない)という違いがあります。


4. 金融政策の手段

まずここだけ

中央銀行(日本銀行)がマネーストックや利子率を動かす主な手段は 3 つです。

手段緩和(お金を増やす)のとき引き締めのとき
公開市場操作買いオペ(国債などを買い、代金を市場に出す)売りオペ
預金準備率操作準備率を下げる(乗数が大きくなる)上げる
政策金利の操作金利を下げる上げる

現在(2026 年 9 月時点)の日本銀行の金融調節の中心は公開市場操作で、短期金融市場の金利(無担保コールレート翌日物)を誘導目標に近づける形で行われます。かつての「公定歩合」は 2006 年に「基準割引率および基準貸付利率」へ名称が変わり、政策金利としての役割は終えています。預金準備率の変更は 1991 年を最後に行われていません。

ここまでできれば十分

金融緩和の波及経路(IS-LM の言葉で): 買いオペ → ハイパワードマネー増加 → マネーストック増加(LM 右シフト)→ 利子率低下 → 投資増加 → 国民所得増加。

ゼロ金利のもとでは利子率をこれ以上下げられないため、日本銀行は 2001 年以降、日銀当座預金残高やマネタリーベースを操作目標にする量的緩和や、長期国債の大量買入れ、2016 年からのマイナス金利政策・長短金利操作など、非伝統的な政策を行ってきました(2024 年にマイナス金利政策は解除)。最新の政策運営は日本銀行の公表資料で確認してください。


5. よくある間違い

間違い正しくは
信用創造額 = 本源的預金 ÷ 準備率それは預金総額。創造額は本源的預金を引いた D₀(1 − r)/r
貨幣乗数は 1/r(つねに)現金・預金比率 c があるときは (c + 1)/(c + r)
利子率が上がると債券価格も上がる。債券価格 = 利子 ÷ 利子率
投機的需要は所得で決まる投機的需要は利子率の減少関数。所得で決まるのは取引・予備的需要
買いオペは引き締め買いオペは市場にお金を出す緩和。売りオペが引き締め
預金準備率を上げると乗数が大きくなる上げると小さくなる(貸し出せる分が減る)
M1 に定期預金が入るM1 は現金 + 要求払預金。定期性預金は準通貨として M3 に入る

6. 解き方の型

  1. 信用創造は「預金総額 = 本源的預金 ÷ r」を先に出し、「創造された額」を聞かれていれば本源的預金を引く
  2. 現金・預金比率が出てきたら (c + 1)/(c + r) の乗数。c を「現金 ÷ 預金」で正しく作る(現金 ÷ マネーストックではない)
  3. 「H をいくら増やせば M が ΔM 増えるか」は ΔM ÷ 乗数
  4. 債券の問題は「価格 = 利子 ÷ 利子率」。利子率が上がれば価格は下がる
  5. 貨幣数量説は MV = PY の 4 つのうち 3 つが分かれば残りを出す。V 一定・Y 一定なら M と P は比例
  6. 政策の向きは「買いオペ・準備率引下げ・金利引下げ = 緩和 = LM 右シフト」で統一して覚える

7. 小テストへ

→ 小テスト(za-04

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参考資料

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