地方上級 / マクロ / za-04
貨幣と金融政策(貨幣乗数・金利)
この単元でできるようになること
- 貨幣の 3 つの機能と、マネーストック(M1・M2・M3)に何が含まれるかを説明できる
- 信用創造の仕組みを追い、預金総額・貸出総額を計算できる
- 貨幣乗数 (c + 1)/(c + r) を導き、ハイパワードマネーからマネーストックを計算できる
- ケインズの流動性選好説(3 つの貨幣需要の動機)と、債券価格と利子率が逆に動く理由を説明できる
- 貨幣数量説(フィッシャーの交換方程式・ケンブリッジ方程式)で物価と貨幣量の関係を計算できる
- 金融政策の手段(公開市場操作・預金準備率操作・政策金利)が、どの経路でマネーストックと利子率を動かすかを言える
試験での位置づけ
za-03 の LM 曲線の「中身」にあたる単元です。地方上級・国家一般職では、貨幣乗数と信用創造の計算、流動性選好説の 3 動機、金融政策の手段と効果の向きが問われやすく、社会科学(zk-05)や財政学(zf-05)とも重なります。計算は掛け算・割り算だけですが、「本源的預金を含むか含まないか」「現金・預金比率があるかないか」で式が変わるので、条件の読み取りが得点を分けます。
1. 貨幣の機能とマネーストック
まずここだけ
貨幣の機能は 3 つです。
| 機能 | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| 交換(支払)手段 | モノやサービスと交換できる | 買い物で代金を払う |
| 価値尺度 | 価値を共通の単位で測る | 「このパンは 200 円」 |
| 価値貯蔵手段 | 価値を将来まで保存できる | 貯金しておく |
このうち「交換手段」が貨幣を貨幣たらしめる中心の機能で、価値貯蔵は株式や土地にもできます。
ここまでできれば十分
マネーストックは、金融機関と中央政府を除く経済主体(企業・家計・地方公共団体など)が保有する通貨の量です。日本銀行の統計では、含める範囲の広さで 4 つの指標に分かれます。
| 指標 | 中身 |
|---|---|
| M1 | 現金通貨 + 預金通貨(普通預金・当座預金などの要求払預金) |
| M2 | 現金通貨 + 国内銀行等に預けられた預金(要求払 + 定期性預金 + CD) |
| M3 | M1 + 準通貨(定期性預金など)+ CD(譲渡性預金)。預け先はゆうちょ銀行なども含む全預金取扱機関 |
| 広義流動性 | M3 + 投資信託・国債・金銭の信託など |
M2 と M3 の違いは預け先の範囲(M2 は国内銀行等に限る、M3 は全預金取扱機関)です。細かい定義は日本銀行「マネーストック統計の解説」で確認できますが、試験では「M1 は現金 + 要求払預金」「M3 = M1 + 準通貨 + CD」を押さえておけば十分です。
一方、ハイパワードマネー(マネタリーベース・ベースマネー)は、現金通貨 + 日銀当座預金(準備預金)で、中央銀行が直接コントロールできるお金です。マネーストックは民間銀行の信用創造を通じて、ハイパワードマネーの何倍かに膨らみます。
2. 信用創造と貨幣乗数
まずここだけ
銀行は預金の一部(法定準備率 r の分)を準備として残し、残りを貸し出します。貸し出されたお金はまた別の銀行に預けられ、その一部がまた貸し出され…と続くので、最初の預金の何倍もの預金が生まれます。これが信用創造です。
本源的預金 D₀、準備率 r のとき 預金総額 = D₀ ÷ r 信用創造額(貸出総額)= 預金総額 − D₀ = D₀ × (1 − r)/r
数値例:本源的預金 100、準備率 10% なら、預金総額 = 100 ÷ 0.1 = 1,000。新たに創り出された預金(貸出総額)は 1,000 − 100 = 900。「預金総額」を聞かれているのか「創造された額」を聞かれているのかで答えが変わります。
ここまでできれば十分
人々が受け取ったお金の一部を現金で持つ(銀行に戻ってこない)場合を考えます。現金・預金比率 c(現金 C ÷ 預金 D)とすると、
マネーストック M = C + D、ハイパワードマネー H = C + R(R = 準備 = rD) M/H = (C + D)/(C + rD) = (c + 1)/(c + r) ← 貨幣乗数
数値例:c = 0.2、r = 0.1 なら乗数 = 1.2 ÷ 0.3 = 4。H = 100 なら M = 400。 c = 0(全部預金される)なら乗数は 1/r になり、信用創造の式と一致します。
貨幣乗数は、r が上がると小さく(貸せる分が減る)、c が上がると小さく(銀行に戻る分が減る)なります。銀行が法定準備を超えて手元に残す超過準備が増える場合も、実質的に r が上がるのと同じで乗数は小さくなります。
もう一歩(発展)
「マネーストックを ΔM 増やすには、ハイパワードマネーをいくら増やせばよいか」は、ΔH = ΔM ÷ 乗数 です。乗数 4 で ΔM = 200 なら ΔH = 50。中央銀行が国債を買う(買いオペ)と、その代金が日銀当座預金に入って H が増え、乗数倍のマネーストックが生まれるという流れです。
3. 貨幣需要 ── 流動性選好説と債券価格
まずここだけ
ケインズは、人が貨幣を手元に置く動機を 3 つに分けました(流動性選好説)。
| 動機 | 内容 | 何に依存するか |
|---|---|---|
| 取引動機 | 日々の支払いのため | 所得 Y の増加関数 |
| 予備的動機 | 不意の出費に備えるため | 所得 Y の増加関数 |
| 投機的動機 | 債券価格の下落を避け、資産として貨幣を持つ | 利子率 r の減少関数 |
まとめると貨幣需要は L = L₁(Y) + L₂(r)。取引・予備的需要は所得で、投機的需要は利子率で決まります。利子率が上がると、貨幣を持っていることで失う利子(機会費用)が増えるので、貨幣需要は減ります。
ここまでできれば十分
債券価格と利子率は逆に動きます。毎年一定額 A の利子を永久に払う債券(コンソル債)の価格は、
債券価格 = A ÷ r
数値例:年 5 万円の利子を払う債券は、利子率 5% なら 100 万円、10% なら 50 万円。市場の利子率が上がると、既に発行された債券の価格は下がります。
投機的需要はこの関係から説明されます。利子率が低い(債券価格が高い)ときは、「これから利子率が上がって債券が値下がりする」と予想する人が多いので、債券より貨幣を持とうとします。利子率が下限まで下がり、誰もが「これ以上は下がらない」と予想する状態が流動性のわなで、貨幣需要が利子率に対して無限に弾力的になります(za-03 で LM 曲線が水平になるケース)。
もう一歩(発展)
古典派の貨幣数量説は、貨幣を取引のための手段としてだけ見ます。
フィッシャーの交換方程式:MV = PT(M:貨幣量、V:流通速度、P:物価、T:取引量。T を実質 GDP の Y で代用して MV = PY) ケンブリッジ方程式:M = kPY(k:マーシャルの k = 1/V)
V(または k)が一定で Y が完全雇用水準で決まっているなら、貨幣量 M を増やすと物価 P が比例して上がるだけで、実質の経済には影響しません(貨幣の中立性)。数値例:M = 500、V = 4、Y = 1,000 なら P = 500 × 4 ÷ 1,000 = 2。M を 600 にすれば P = 2.4。
ケインズの流動性選好説では、貨幣量の増加はまず利子率を下げ、投資を通じて所得を動かす(貨幣は中立でない)という違いがあります。
4. 金融政策の手段
まずここだけ
中央銀行(日本銀行)がマネーストックや利子率を動かす主な手段は 3 つです。
| 手段 | 緩和(お金を増やす)のとき | 引き締めのとき |
|---|---|---|
| 公開市場操作 | 買いオペ(国債などを買い、代金を市場に出す) | 売りオペ |
| 預金準備率操作 | 準備率を下げる(乗数が大きくなる) | 上げる |
| 政策金利の操作 | 金利を下げる | 上げる |
現在(2026 年 9 月時点)の日本銀行の金融調節の中心は公開市場操作で、短期金融市場の金利(無担保コールレート翌日物)を誘導目標に近づける形で行われます。かつての「公定歩合」は 2006 年に「基準割引率および基準貸付利率」へ名称が変わり、政策金利としての役割は終えています。預金準備率の変更は 1991 年を最後に行われていません。
ここまでできれば十分
金融緩和の波及経路(IS-LM の言葉で): 買いオペ → ハイパワードマネー増加 → マネーストック増加(LM 右シフト)→ 利子率低下 → 投資増加 → 国民所得増加。
ゼロ金利のもとでは利子率をこれ以上下げられないため、日本銀行は 2001 年以降、日銀当座預金残高やマネタリーベースを操作目標にする量的緩和や、長期国債の大量買入れ、2016 年からのマイナス金利政策・長短金利操作など、非伝統的な政策を行ってきました(2024 年にマイナス金利政策は解除)。最新の政策運営は日本銀行の公表資料で確認してください。
5. よくある間違い
| 間違い | 正しくは |
|---|---|
| 信用創造額 = 本源的預金 ÷ 準備率 | それは預金総額。創造額は本源的預金を引いた D₀(1 − r)/r |
| 貨幣乗数は 1/r(つねに) | 現金・預金比率 c があるときは (c + 1)/(c + r) |
| 利子率が上がると債券価格も上がる | 逆。債券価格 = 利子 ÷ 利子率 |
| 投機的需要は所得で決まる | 投機的需要は利子率の減少関数。所得で決まるのは取引・予備的需要 |
| 買いオペは引き締め | 買いオペは市場にお金を出す緩和。売りオペが引き締め |
| 預金準備率を上げると乗数が大きくなる | 上げると小さくなる(貸し出せる分が減る) |
| M1 に定期預金が入る | M1 は現金 + 要求払預金。定期性預金は準通貨として M3 に入る |
6. 解き方の型
- 信用創造は「預金総額 = 本源的預金 ÷ r」を先に出し、「創造された額」を聞かれていれば本源的預金を引く
- 現金・預金比率が出てきたら (c + 1)/(c + r) の乗数。c を「現金 ÷ 預金」で正しく作る(現金 ÷ マネーストックではない)
- 「H をいくら増やせば M が ΔM 増えるか」は ΔM ÷ 乗数
- 債券の問題は「価格 = 利子 ÷ 利子率」。利子率が上がれば価格は下がる
- 貨幣数量説は MV = PY の 4 つのうち 3 つが分かれば残りを出す。V 一定・Y 一定なら M と P は比例
- 政策の向きは「買いオペ・準備率引下げ・金利引下げ = 緩和 = LM 右シフト」で統一して覚える
7. 小テストへ
→ 小テスト(za-04)
関連する単元
- 前提:za-03 IS-LM 分析(LM 曲線の元になる貨幣市場)、kk-06 金融と財政(高校公共)
- 次に進む:za-05 AD-AS 分析・インフレとフィリップス曲線(貨幣と物価の関係)
- 同じ考え方を使う:zk-05 財政と金融(社会科学の金融分野)、zf-05 財政政策の効果(財政と金融のポリシー・ミックス)
参考資料
- 日本銀行「マネーストック統計の解説」「金融市場調節方針」── M1・M2・M3 の定義・政策手段
- J. M. ケインズ『雇用・利子および貨幣の一般理論』(1936 年)── 流動性選好説
- 標準的なマクロ経済学の教科書(貨幣供給・貨幣需要・金融政策の章)
- 人事院「国家公務員採用一般職試験(大卒程度試験)受験案内」── 専門試験の出題分野(経済学)
受験のしらべ / https://juken-shirabe.com/koumuin/keizai/za-04/ / 更新 2026-09-14