勉強法
小論文の書き方の練習 ── 型・下書き・読み直し
一言で
小論文の練習は「とにかくたくさん書く」より、次の順で進めるのがよいと考えられます。型を教わる → 書く前に組み立てる → 書いたあと人に読んでもらう(下の研究をつないだ順番です)。 日本の高校 2 年生の実験では、意見文の型と例文を示して練習した群のほうが、書く量が多く内容の評価も高くなりました。 もう 1 つ大事なのが、自分と反対の意見を考えて書くことです。自分の側の理由ばかり書くかたよりは、日本の高校生の研究でも取り上げられています。
今日からやること
- 型を 1 つ決めて、その型で 1 本書く。「主張 → 理由 → 予想される反論 → 反論への答え → まとめ」の 5 つの段落で、600 字を 50 分で書きます
- 書く前に 5 分、メモで組み立てる。主張 1 行・理由 2 つ・反論 1 つ・その答え 1 つを箇条書きにしてから書き始めます
- 書いたら、先生か友達に読んでもらう。直してもらった点を 1 つ選び、同じ題で書き直します。次の 1 本は、別の題で同じ型を使います
何が分かっているか
日本の高校生・中学生の研究
清道(2010) ── 高校 2 年生 59 人(実験群 29 人・対照群 30 人)が、教科書の文章を読んで意見文を書きました。実験群にだけ、意見文の「型」(構成と入れる要素)と例文を示して練習させています。 事後テストでは、実験群のほうが文字数が多くなりました。意見文の要素もそろい、内容の評価も高くなっています。1 か月後にも差が残っていました。 対照群にもあとで同じ指導をすると、同じような変化が出ています(点数の値は要旨に無いので書きません)。
清道(2011) ── 型の指導だけでは、内容の深まりが十分ではありませんでした。そこで高校 2 年生 57 人で、「紙上交流」を加えています。紙上交流は、ほかの生徒の意見をまとめたプリントを読むことです。 理由や予想される反論の内容は、紙上交流でも型の提示でも、同じくらい伸びました。 2 回目の指導で両方を合わせると、先に型を教わってから交流した群のほうが、理由の評価が高くなりました。 事後テストでは両群とも内容の評価が下がりましたが、理由の評価は型を先に教わった群が上でした。
小野田(2015) ── 高校生 93 人が意見文を書きました。自分の側の理由ばかり書き、反対の意見を考えないかたよりをマイサイドバイアスと呼びます。それを減らす方法を調べています。 両方の群に「反論と、反論への答えを多く書く」という目標を与えました。片方にはさらに「記者になったつもりで書く」と伝えています。 記者のつもりで書いた群は、反論への答え(再反論)を多く書きました。もともと「自分は書くのが得意」と思っている生徒では、この差は小さめでした。
井口(2007) ── 中学 2 年生 112 人が、8 時間の授業で意見文を書きました。作品と、書きながらのふり返りを分析しています(比べる群を置いた実験ではありません)。 よく書けた作品には、自分への問い直し(「この理由で本当に言えるか」)が見られました。特に、書く前の組み立ての段階で大事でした。 読み手などほかの人と比べて、自分のとらえ方を見直すことが、問い直しを助けていました。書くのが苦手な生徒にも、その助けが見られています。
古田(2008) ── 市販の受験参考書にのっている、講評つきの小論文 342 本を分析しました。大学入試と就職試験の小論文です。 大学入試の小論文の評価は、かなりの部分が 1 つのまとまりで説明できました(決定係数 0.7)。「題意を踏まえた意見の論理的展開」というまとまりです。決定係数は、評価の差のうち何割をその要素で説明できるかの目安です。 つまり評価の中心は、問われたことに答えて筋道を立てて意見を展開できているかでした。これは参考書の講評の分析で、大学の実際の採点を調べたものではありません。 著者も、受験指導の評価と大学が小論文でねらうことの一致は「部分的」だとしています。
作文指導のまとめ研究(海外)
Graham & Perin(2007) ── 小 4〜高 3 の作文指導の 123 文献をまとめたメタ分析(多くの研究結果を合算する方法)です。 書く手順(計画・下書き・見直し)を教える指導(方略指導)は、要約の指導と並んで差が最も大きくなりました。仲間と協力して書く・目標を決める、が続きます。模範文の学習の差は小さめでした。文法を教える指導はマイナスでした。数字は 国語の勉強法 にまとめています。
Graham ら(2012) ── 小学生の作文指導のメタ分析です。方略指導の中でも、自己調整方略指導(SRSD)の差が大きく出ました(効果量 1.17)。効果量は差の大きさの目安で、0.8 以上は大きい差とされます。 SRSD は、書く手順に加えて「自分で自分を動かす」やり方も一緒に教える方法です。目標を立てる・自分で点検する・自分に声をかける、などです。対象は小学生なので、高校生の小論文に同じ大きさで当てはまるとは限りません。
Kellogg(1987) ── 大学生が手紙を書いた実験です。書く前にアウトライン(組み立てのメモ)を作った人は、作らなかった人より手紙の質が上でした。 一方、清書のつもりで書くかざっと下書きするかでは、質にも効率にも差がありませんでした。
見本の使い方
Braaksma, Rijlaarsdam & van den Bergh(2002) ── 中学 2 年生(8 年生)214 人の、意見文の学習です(国は要旨に無いので書きません)。ほかの生徒が書いている様子を観察する群と、自分で書く練習をする群を比べました。 観察した群のうち、書くのが苦手な生徒は、苦手な見本に注目したほうがよく学べました。得意な生徒は、うまい見本に注目したほうがよく学べました。 見本は「上手な完成品」だけがよいとは限らない、という結果です。
読んでもらう・直してもらう
Graham, Hebert & Harris(2015) ── 小 1〜中 2 の、書いた文章へのフィードバックのメタ分析です。フィードバックは大人から・仲間から・自分で・コンピュータからの 4 種類です。どれでも文章の質が上がりました(効果量は順に 0.87・0.58・0.62・0.38)。 一方、先生が進み具合を記録するだけでは、はっきりした差は出ませんでした。
Li & Hebert(2026) ── 中学生・高校生の仲間どうしのフィードバックに絞ったメタ分析です。13 か国・24 研究・1,975 人を合わせています。 全体の効果量は 0.56 でした。文章の質のほか、構成のような大きな面も表記のような細かい面も上がっていました。口で伝えるより、書いて伝えるフィードバックのほうが差が大きくなりました。 先生や自分でのフィードバックと比べた研究では、差は小さくなりました。仲間どうしの読み合いは、やり方を教わってから行うよう著者は勧めています。
英作文の直し方(赤ペンの入れ方・書き直し)は 英作文の直し方 にあります。このページでは日本語の小論文に絞っています。
日本の中高生の勉強にあてはめると
どの入試で小論文が出るか ── 高校入試では、推薦入試で作文や小論文を課す学校があります(高校入試のしくみ)。大学入試では令和 9 年度(2027 年春入学)から、総合型選抜と学校推薦型選抜で「学力を測る方法」を 1 つ以上使います。小論文はその候補の 1 つです(大学入試のしくみ)。志望校の募集要項で、字数と時間を先に確かめます。
型を決める ── 清道(2010)の型の中身は要旨に無いので、ここでは一般的な意見文の形を例にします【推論】。段落の割合は、600 字なら目安としてこうなります。
- ① 主張(問いへの答えを 1 文で):60 字
- ② 理由と具体例:200 字
- ③ 予想される反論:100 字
- ④ 反論への答え:160 字
- ⑤ まとめ(主張をもう一度、少しくわしく):80 字
③④を入れるのは、小野田(2015)のマイサイドバイアスへの対策です。反論の段落を書くときは、記者のつもりで「反対の立場の人なら、どこを突くか」と考えます【推論】。
書く前のメモ(5〜10 分) ── 原稿用紙に書き始める前に、問題用紙の余白に 4 行書きます。主張・理由 2 つ・反論・その答えです。Kellogg(1987)の大学生の実験でも、アウトラインを作ると質が上がりました。 50 分の試験なら、目安は「読む 5 分 → メモ 10 分 → 書く 30 分 → 読み直し 5 分」です【推論】。
メモの例 ── 題「高校生のアルバイトは認めるべきか(600 字)」なら、メモは次のようになります【推論】。
- 主張:条件つきで認めるべきだ
- 理由:① お金の使い方を自分で考える経験になる ② 学校の外の大人と働く経験は、進路を考える材料になる
- 予想される反論:勉強や部活の時間が減る
- 反論への答え:週の時間の上限を決め、定期テスト前は休む、という条件をつければ両立できる
この 4 行があれば、あとは段落ごとに文をつなげるだけです。メモの段階で反論が思いつかないときは、反対の立場の人が最初に言いそうな一言を書いてみます。
読み直しのチェック ── 書き終えたら、次の 4 つを順に見ます【推論】。
- 問われたことに、①の 1 文で答えているか(古田 2008 の「題意を踏まえた」)
- 理由と具体例が、主張とつながっているか
- 反論を書いたか。その答えになっているか
- 一文が長すぎないか。主語と述語が合っているか
見本の使い方 ── 参考書の模範解答を読むときは、上手な答案だけでなく講評つきの「惜しい答案」も読みます。Braaksma ら(2002)では、書くのが苦手な生徒は、苦手な見本から多く学んでいました。 「どこが惜しいか」を自分で 1 行書いてから講評を読むと、見本を読むだけより手が動きます【推論】。Graham & Perin(2007)で模範文の学習の差が小さかったことも、読むだけで終えない理由になります【推論】。
読んでもらう相手 ── 学校の国語の先生や担任に添削を頼むのが基本です。友達と読み合うなら、口で感想を言うより、付箋に 1 つずつ書いて渡します。Li & Hebert(2026)で、書いて伝えるほうが差が大きかったからです。 読み合うときの観点は、上の 4 つのチェックをそのまま使います。観点を決めずに読むと「いいと思う」で終わりやすいからです【推論】。
練習のペース ── 推薦や総合型で小論文があるなら、出願の 2〜3 か月前から週 1 本が一例です【推論】。毎回ちがう題で書くより、同じ題で 1 回書き直してから次の題へ進みます。直してもらった点が、書き直しで使えたかを確かめるためです。 中学生の推薦入試の作文も同じ流れで進められます。字数が少ない出題なら、③④は 1 段落にまとめてかまいません【推論】。字数と時間は志望校の募集案内で確かめます。
公務員試験の論文 ── 課題が「行政として何をするか」になるので、型も少し変わります。4 段落・1,100 字の型と、90 分の時間配分は 論文の書き方 にまとめています。
よくある誤解
「小論文はセンスなので、練習しても変わらない」 清道(2010)では、型と例文を示して練習した群のほうが、高校 2 年生の意見文の量も内容の評価も上でした。1 か月後にも差が残っています。書き方の多くは、教わって練習できる部分だと考えられます。
「模範解答をたくさん読めば書けるようになる」 Graham & Perin(2007)では、模範文の学習の差は小さめでした。見本は、型を確かめたり、惜しい答案の直し方を考えたりする材料として使います。
「反対意見を書くと、自分の主張が弱く見える」 小野田(2015)は、反論と再反論を書けるようにする方法を調べた研究です。ただ、小野田と鈴木(2017)の大学生の実験では、反論を書いただけで再反論のない文章は低く評価されることがありました。評価のされ方は、論題や比べ方でも変わっています。反論を書くなら、それへの答えまで書くのが安全だと考えられます。
「書く量を増やせば上達する」 量は必要です。ただ Graham ら(2015)では、書いたものへのフィードバックで質が上がっていました(大人・仲間・自分の点検など)。書きっぱなしを 10 本より、直してもらって書き直す 5 本のほうが練習になる、と考えられます【推論】。
このサイトでの使い方
- 型の基本は 作文と表現の決まり(原稿用紙・条件作文・表現技法) で確かめる。原稿用紙の使い方や条件作文の決まりは、この単元の小テストで練習できます
- 課題文を読んで要点をつかむ練習は、評論の読み方 と 記述・要約と複数資料の読み取り で。小論文の多くは、課題文やグラフを読んでから書く形です
- 書く前に「主張・理由・反論」を考える練習には、「なぜ?」を自分に問う の問いかけが使えます
- 公務員試験の論文は 論文の書き方 の型と見直し表で
注意点
- 日本の研究(清道・小野田・井口)は、1 つの学校や少ない人数での実験・分析です。大学入試の小論文の点数そのものを調べた研究ではありません
- 古田(2008)は、受験参考書の講評を分析したものです。大学が実際にどう採点しているかは、大学ごとにちがいます
- Graham らのメタ分析は、多くが英語圏の小中学生の英語の作文です。日本語の小論文に、同じ大きさで当てはまるとは限りません
- 上の型・字数の配分・時間配分は、研究をもとにした一例です。各大学・高校の出題形式(字数・時間・課題文の有無)は、最新の募集要項で確かめてください
引いた論文
番号は班別ファイル docs/参考文献ログ_追加_困ったとき.md の #(#27 は docs/参考文献ログ.md の番号)。DOI を開いて書誌を確認し、要旨(J-STAGE・OpenAlex・ERIC)で内容を確かめています。
- #533 清道亜都子 (2010). 高校生の意見文作成指導における「型」の効果. 教育心理学研究, 58(3), 361–371. https://doi.org/10.5926/jjep.58.361
- #534 清道亜都子 (2011). 高校生の意見文作成における「紙上交流」の効果:「型」指導に加えて. 教育心理学研究, 59(2), 219–230. https://doi.org/10.5926/jjep.59.219
- #535 小野田亮介 (2015). 意見文産出における目標達成支援介入の効果とその個人差の検討:意見文産出に対する書き手の期待・価値に着目して. 読書科学, 57(3-4), 63–75. https://doi.org/10.19011/sor.57.3-4_63
- #536 井口あずさ (2007). 意見文作成過程における重要な自己評価活動の探究:学習者の内省記述の分析から. 国語科教育, 62, 11–18. https://doi.org/10.20555/kokugoka.62.0_11
- #537 古田貴久 (2008). 受験参考書に見る小論文試験の目的と評定構造の関係. 日本教育工学会論文誌, 32(2), 231–239. https://doi.org/10.15077/jjet.KJ00005059801
- #538 小野田亮介・鈴木雅之 (2017). アーギュメント構造が説得力評価に与える影響. 教育心理学研究, 65(4), 433–450. https://doi.org/10.5926/jjep.65.433
- #27 Graham, S., & Perin, D. (2007). A meta-analysis of writing instruction for adolescent students. Journal of Educational Psychology, 99(3), 445–476. https://doi.org/10.1037/0022-0663.99.3.445
- #539 Graham, S., McKeown, D., Kiuhara, S., & Harris, K. R. (2012). A meta-analysis of writing instruction for students in the elementary grades. Journal of Educational Psychology, 104(4), 879–896. https://doi.org/10.1037/a0029185
- #540 Kellogg, R. T. (1987). Writing performance: Effects of cognitive strategies. Written Communication, 4(3), 269–298. https://doi.org/10.1177/0741088387004003003
- #541 Braaksma, M. A. H., Rijlaarsdam, G., & van den Bergh, H. (2002). Observational learning and the effects of model-observer similarity. Journal of Educational Psychology, 94(2), 405–415. https://doi.org/10.1037/0022-0663.94.2.405
- #542 Graham, S., Hebert, M., & Harris, K. R. (2015). Formative assessment and writing: A meta-analysis. The Elementary School Journal, 115(4), 523–547. https://doi.org/10.1086/681947
- #543 Li, A. W., & Hebert, M. (2026). Effects of peer feedback on adolescent writing: A meta-analysis. Scientific Studies of Reading(オンライン先行公開 2026 年 8 月), 1–25. https://doi.org/10.1080/10888438.2026.2712255