勉強法
間違いノート ── まちがえた問題をどう残し、いつ解き直すか
一言で
まちがえること自体は、正解を確かめさえすれば学習の一部です。とくに自信があったのにまちがえた問題は、正解を見たあとに直りやすい、という実験があります。 ただし 1 週間たつと、同じまちがいが戻ってくることがあります。だから間違いノートは、きれいに写すことより、日をあけて解き直すことに時間を使います。 日本の中学生の研究では、自分の間違いに即した「教訓」を書けた生徒ほど、あとの得点が高い関係でした(4 問中 2 問)。
今日からやること
- ノートには問題を写さず、3 行だけ書く。①問題の場所(問題集のページと番号)②自分の答えと自信(◎○△)③どこで分かれたか(教訓)。1 問 2 分までにします
- 解き直しは「翌日〜3 日後」と「1 週間後」の 2 回。解説を読んだ当日ではなく、日をあけて、答えを隠して解きます
- 1 週間後に正解できた問題に線を引く。残った問題だけを定期テストの前日にもう一度解きます
3 行・2 分・解き直しの日数は、研究で決めた値ではなく、下の研究から考えた目安です。
何が分かっているか
日本の中学生・高校生の「教訓帰納」の研究
日本では、まちがえた問題から「次に生かせること」を言葉にする方法を教訓帰納(きょうくんきのう)と呼んで研究しています。間違いノートの「ポイント欄」にあたります。
柴(2023) ── 日本の中学 1 年生 80 名の研究です。研究者と先生が協力して、教訓帰納のやり方を授業で教えました。 そのうえで数学の定期テストのあと、正答の少なかった 4 問について教訓を書いてもらいました。 教訓の質は、「自分の間違いに即していて、同じ型の問題にも使える内容か」で 5 段階に評価しました。 4 問のうち 2 問で、テストの得点と復習の有無をそろえても、教訓の質が高い生徒ほど事後テストの得点が高い関係でした。 一方で、自分の間違いに即していない教訓の例もありました。問題に関係する知識は書いていても、その生徒は定期テストと事後テストで同じ誤答をくり返していました。
柴(2022) ── 日本の中学 2 年生が、数学の文章題のあとに書いた教訓の質を評価した研究です。 生徒にとって、自分の間違いを的確に分析することは難しい、という実態が分かりました。ほかの問題にも使える知識を取り出すことも同じでした。 「意味を理解したい」「失敗を生かしたい」と考える生徒ほど、質の高い教訓を書いている可能性も示されました。
柴・植阪(2024) ── 日本の中学 2 年生 10 名の研究です。数学の問題を解いてから教訓を書くまでの考えを、声に出してもらいました。 役に立たない教訓につながるつまずきとして、自分の解き方と正解を十分に比べていないなど 3 つのタイプが見つかりました。 対話で手助けした結果からは、次のことが示されました。自分の誤った考え方と正しい考え方を比べて原因をつかむと、役に立つ教訓につながる可能性があります。
植阪(2010) ── 中学 2 年生の女子 1 名の、個別の学習相談の事例です。 数学で教訓帰納を教え、本人の「勉強とはこういうものだ」という考え方も見直しました。 学習の成果を実感できるようになると、教訓帰納を数学のほかの単元や理科にも自分から使うようになりました。
篠ヶ谷・福本・星野(2026) ── 日本の高校 1 年生の数学の授業での実践報告です。授業の最後の振り返りを、復習につなげる指導をしました。 1 学期は、振り返りに「公式を覚える」「くり返し解く」といった記述が多く見られました。書いた課題も、実際の復習に反映されていませんでした。 2 学期は、つまずきのタイプと合う復習の例を表にしたシートを使いました。すると、解き方や公式の根拠を理解しようとする記述が増えました。振り返りと実際の復習のつながりも見られるようになりました。
まちがえることと、正解を見ること
Metcalfe(2017) ── 「誤りから学ぶ」研究の総説です。アメリカの教室では、まちがいを避けるのが当たり前になっているようだ、と書いています。 実験では、まちがえたあとに正しい答え(フィードバック)を受ける学習は役に立っていました。とくに、正しいと強く信じていた誤りほど直りやすいとまとめています。 大事なのは、なぜまちがえたかの分析を含むフィードバックです。本番でよい結果を出すには、点数に響かない練習の場でまちがえて直すのがよいかもしれない、と述べています。
Pashler, Cepeda, Wixted & Rohrer(2005) ── 258 人が、ルガンダ語(アフリカの言語)と英語の単語の組を覚えた実験です。 まちがえたあとに正解を見せると、その場の成績が上がりました。それだけでなく、1 週間後の記憶が 494% 増えました(正解を見せない条件との比較)。 一方、正解したあとに答えを見せても、ほとんど差はありませんでした。本人の自信の有無にもよりませんでした。
答えられなかった問題でも、先に答えようとしたほうが、正解を見たあとよく覚えていた実験もあります。Kornell, Hays & Bjork(2009)で、くわしくは予習のページにあります。
自信があったのにまちがえた問題(過修正効果)
Butterfield & Metcalfe(2001) ── 答えへの自信と、まちがいの直りやすさの関係を調べた実験です。 研究者の予想とは逆に、自信をもってまちがえた答えほど、正解を見たあとの再テストで直っていました。これを「過修正効果」と呼びます。
Butler, Fazio & Marsh(2011) ── 理科の一般常識問題に答え、自信をつけ、正解を見た実験です。半分の人はすぐに、残り半分は 1 週間後に同じ問題に答え直しました。 過修正効果は、すぐのテストでも 1 週間後のテストでも見られました。ただし 1 週間後は、直った問題の割合が減りました。 直らなかった問題では、最初と同じまちがいをくり返すことがありました。そして自信のあった誤りほど、1 週間後にくり返されやすい結果でした。
答え合わせはいつがよいか
Butler, Karpicke & Roediger(2007) ── 文章を読み、6 択の選択式テストを受けた 2 つの実験です。正解をすぐ見せる問題と、しばらくあとで見せる問題を比べました。 あとの記述式テストでは、あとで見せたほうが上でした。正解の見せ方(答えを示す/正解するまで選び直す)による差はありませんでした。 著者らは、時間をあけて答えをもう一度見ることになる「間隔をあけた復習」の効果だと考えています。どれくらいあけたかは要旨に無いので書きません。
Metcalfe, Kornell & Finn(2009) ── 小学 6 年生が学校で習う単語を覚えた実験と、大学生の実験です。 6 年生では、正解をあとで見せた条件がいちばん上でした。次がすぐ見せた条件で、最も下が正解を見せない条件です。テストまでの時間をそろえても同じでした。 大学生では、テストまでの時間をそろえると、すぐ見せる・あとで見せるの差はなくなりました。どちらも、見せないよりは上でした。
選択式で正解を確かめないと誤答を覚えてしまう研究もあります。Butler & Roediger(2008)で、過去問の使い方のページで紹介しています。
日本の中高生の勉強にあてはめると
研究をもとにした、間違いノートの要点は 4 つです。太字は研究から考えた提案で、かっこの中が根拠の研究です。
- まちがえた問題こそ正解を確かめる:誤答のあとに正解を見ると大きく残り、正答のあとは差が小さい(Pashler ら)
- 「どこで分かれたか」を書く:正解と比べ、自分の間違いに即した教訓にする(柴 2023・柴・植阪 2024)
- 自信の印をつける:自信があったのにまちがえた問題は直りやすいが、1 週間後に戻ることがある(Butler ら 2011)
- あとで確かめ、日をあけて解き直す:答え合わせが少しあとのほうが残った実験がある(Butler ら 2007・Metcalfe ら 2009)
ここから先の具体例は、研究の結果を日本の勉強に当てはめた【推論】です。
3 行のノートの書き方【推論】
間違いノートで時間がかかるのは、問題文や図を写す作業です。写している間は、思い出す練習になっていません。
| 書くこと | 例(数学) | 例(英語) |
|---|---|---|
| ① 場所 | 問題集 p.48 の 3 | 単語帳 No.512 |
| ② 自分の答えと自信 | x = 4(◎自信あり) | affect(○) |
| ③ どこで分かれたか | 移項で符号を変え忘れた。右辺に移したら符号を確かめる | 「影響を与える(動詞)」は affect、名詞は effect |
③の教訓は、「計算ミスに気をつける」のようなだれにでも当てはまる言葉で終わらせません。柴(2023)で同じ誤答をくり返した例は、自分の間違いに即していない教訓でした。 「どの行で何をどう変えればよかったか」まで書くと、次に同じ型が出たときに使えます。
解き直しの日程【推論】
| いつ | 何をする |
|---|---|
| まちがえた日 | 解説を読み、3 行を書く。サイトの小テストなら「同じ型でもう 1 問」まで |
| 翌日〜3 日後 | ①の場所だけを見て、答えを隠して解く |
| 1 週間後 | もう一度解く。とくに◎(自信ありでまちがえた)問題 |
| 定期テスト前日 | 1 週間後にも解けなかった問題だけ |
1 週間後を入れるのは、Butler ら(2011)で、直ったはずのまちがいが 1 週間後に戻ることがあったためです。 日のあけ方の考え方は間隔反復のページにくわしくあります。
定期テスト・模試の返却のあと【推論】
返ってきたテストは、点数を見て終わりにしがちです。柴(2023)の研究は、まさに定期テストのあとの学び方を調べたものでした。
- 返却の日に、まちがえた問題すべてに②(自分の答えと自信)だけ書く
- その週のうちに、配点の大きい問題から③の教訓を書く
- 次の週末に、答えを隠して解き直す
模試は問題数が多いので、全部ではなく「あと 1 歩で取れた問題」から始めます。赤本の過去問も同じです(過去問の使い方)。 模試の判定・偏差値の読み方と、まちがえた原因の分け方は 模試の結果の使い方 にあります。
理科・社会の暗記問題【推論】
一問一答の暗記でまちがえたものは、3 行も要りません。カードに印をつけて、日をあけて解き直すところから始めます。 ただし◎(自信があったのにまちがえた)ものは、似た用語と取りちがえていることが多いと考えられます。③に「何と取りちがえたか」だけ書きます。 例:「道管と思ったが師管。葉で作った養分が通るのは師管」(植物の分類・花のつくり・根茎葉)。
部活がある週の時間配分【推論】
- 間違いノートを書くのは 1 日 10 分まで。それ以上かかるなら、写しすぎです
- 解き直しは、通学電車でも問題集を開いて答えを隠せばできます
- まとめノートと同じで、作ることが目的にならないようにします(まとめノートと蛍光ペン)
よくある誤解
「まちがえないように、答えを見ながら解いたほうがいい」 Metcalfe(2017)は、まちがえたあとに正解を確かめる学習は役に立つ、という実験をまとめています。答えられなかった問題でも、先に答えようとしたほうがよく覚えていた実験もあります(Kornell ら 2009)。
「自信があってまちがえた問題は、思い込みが強くて直らない」 Butterfield & Metcalfe(2001)では逆で、自信のある誤りほど直りやすい結果でした。ただし Butler ら(2011)のとおり、1 週間後に戻ることがあるので、解き直しを 1 回で終わらせません。
「答え合わせは、いつでもすぐしないといけない」 Butler ら(2007)と、6 年生の Metcalfe ら(2009)では、あとで正解を見せたほうが上でした。大学生ではテストまでの時間をそろえると差がなくなりました。 「1 ページ解いてからまとめて丸つけする」くらいなら、心配はいりません。正解を見ないまま放っておかないことのほうが大事です(Pashler ら 2005)。
「間違いノートは、問題をきれいに写さないと意味がない」 写すことの効果を確かめた研究は、このページでは引けていません。大事なのは、③の教訓と、日をあけた解き直しです。
このサイトでの使い方
このサイトの小テストには、間違いノートの代わりになる仕組みがあります。記録は使っている端末の中だけに残ります。
- 小テストでまちがえると、その場で解説が出ます。「同じ型でもう 1 問」で、数を変えた問題をすぐ 1 問解けます
- 終わると「つまずいた型」の一覧が出ます。「つまずいた型だけもう一度」で、別の数の問題をまとめて解き直せます
- 次にその単元を開くと、「前に間違えた型をやり直す」ボタンが出ます。翌日〜3 日後と 1 週間後に、まずこれから解きます
- まちがえた回数(最大 3 回)だけ正解すると、その型は一覧から消えます。消えるまで、日をあけて解き直します
このサイトで解き直すなら、ノートに書くのは③の教訓だけで足ります。問題はサイトが別の数で出し直してくれます。
例:一次方程式の解き方で符号をまちがえたら、③に「移項で符号」と書きます。3 日後に「前に間違えた型をやり直す」を押します。 過去形(be動詞・一般動詞)の不規則動詞をまちがえたら、③には「何と取りちがえたか」を書きます。
注意点
- 日本の研究は、中学生の数学が中心です。柴(2023)は 1 学年 80 名、柴・植阪(2024)は 10 名、植阪(2010)は 1 名の事例です
- 柴(2023)は、教訓の質と得点の関係を調べた研究です。教訓を書けば点が上がる、という因果まではこの研究から言えません。関係が見られたのも 4 問中 2 問でした
- 過修正効果やフィードバックの時期の研究は、海外の実験です。題材は一般常識や単語です。子どもの実験は Metcalfe ら(2009)の小 6 だけです
- 「494% 増」は、正解を見せない条件と比べた単語の実験の数字です。数学の問題で同じ大きさになるとは限りません
- 正解を「あとで見せる」ほうがよいかは、年齢や条件で結果が分かれています(Metcalfe ら 2009)
引いた論文
番号は docs/参考文献ログ_追加_覚え方2.md(#221〜)と docs/参考文献ログ_追加_覚え方.md の #。すべて DOI を開いて書誌と要旨を確認しています。
- #248 柴里実 (2023). 問題解決の失敗場面における学びの質とその後の問題解決との関連の検討 ── 定期テスト後の教訓帰納方略の利用に着目して. 教育心理学研究, 71(4), 319–334. https://doi.org/10.5926/jjep.71.319
- #247 柴里実 (2022). 数学的問題解決後の振り返り記述をいかに評価するか ── 失敗から引き出された教訓の質を捉える新たな基準の提案. 教育心理学研究, 70(3), 231–245. https://doi.org/10.5926/jjep.70.231
- #249 柴里実・植阪友理 (2024). 問題解決の間違いからの学習を促す「教訓帰納」の利用における思考のつまずきの解明と支援. 日本テスト学会誌, 20(1), 91–109. https://doi.org/10.24690/jart.20.1_91
- #246 植阪友理 (2010). 学習方略は教科間でいかに転移するか ── 「教訓帰納」の自発的な利用を促す事例研究から. 教育心理学研究, 58(1), 80–94. https://doi.org/10.5926/jjep.58.80
- #250 篠ヶ谷圭太・福本雅俊・星野智 (2026). 毎回の授業の振り返りを復習につなげることを目指した取り組み ── 日々の学習指導における「学習の自己調整」の支援. 教育心理学研究, 74(2), 96–110. https://doi.org/10.5926/jjep.74.96
- #240 Metcalfe, J. (2017). Learning from errors. Annual Review of Psychology, 68, 465–489. https://doi.org/10.1146/annurev-psych-010416-044022
- #244 Pashler, H., Cepeda, N. J., Wixted, J. T., & Rohrer, D. (2005). When does feedback facilitate learning of words? Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 31(1), 3–8. https://doi.org/10.1037/0278-7393.31.1.3
- #140 Kornell, N., Hays, M. J., & Bjork, R. A. (2009). Unsuccessful retrieval attempts enhance subsequent learning. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 35, 989–998. https://doi.org/10.1037/a0015729
- #241 Butterfield, B., & Metcalfe, J. (2001). Errors committed with high confidence are hypercorrected. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 27(6), 1491–1494. https://doi.org/10.1037/0278-7393.27.6.1491
- #242 Butler, A. C., Fazio, L. K., & Marsh, E. J. (2011). The hypercorrection effect persists over a week, but high-confidence errors return. Psychonomic Bulletin & Review, 18(6), 1238–1244. https://doi.org/10.3758/s13423-011-0173-y
- #243 Butler, A. C., Karpicke, J. D., & Roediger, H. L. (2007). The effect of type and timing of feedback on learning from multiple-choice tests. Journal of Experimental Psychology: Applied, 13(4), 273–281. https://doi.org/10.1037/1076-898X.13.4.273
- #245 Metcalfe, J., Kornell, N., & Finn, B. (2009). Delayed versus immediate feedback in children’s and adults’ vocabulary learning. Memory & Cognition, 37(8), 1077–1087. https://doi.org/10.3758/MC.37.8.1077
- #154 Butler, A. C., & Roediger, H. L. (2008). Feedback enhances the positive effects and reduces the negative effects of multiple-choice testing. Memory & Cognition, 36(3), 604–616. https://doi.org/10.3758/MC.36.3.604