勉強法
古文単語と古典文法の覚え方 ── 現代語と意味が違う語から
一言で
古文単語でいちばんまちがえやすいのは、見た目は現代語と同じなのに、意味がちがう語です。「うつくし」(かわいい)、「ありがたし」(めったにない)、「おどろく」(目を覚ます)などです。 英語の実験では、すでに知っている語に新しい意味を覚えると、知らない語より、はじめは速く覚えられます。その一方で、元の意味がじゃまをすることも分かっています。新しい意味が元の意味とつながっているほうが、思い出しやすい結果も出ています。 そこで古文単語は、現代語の意味とのつながりやちがいを一言で添え、本文の 1 文の中で覚えます。古文単語そのもので確かめた研究は少ないので、ここから先の多くは【推論】です。
今日からやること
- 古文単語は「現代語と形が同じで意味がちがう語」から始める。1 語に「現代の意味 → 古文の意味 → つながり」を 1 行。例「おどろく:びっくりする → 目を覚ます(はっとする、でつながる)」
- 単語帳で覚えた語を、教科書や問題集の本文で見つけたら線を引く。前後の 1 文といっしょに意味を言ってから先へ進む。1 日 1 題の古文で 5 語ほど
- 助動詞は、意味の一覧より「本文の 1 文」で覚える。「る・らる」なら、受身・尊敬・自発・可能の例文を 1 つずつ。週 1 回、例文を隠して意味を言う
1 と 2 は、下の研究から考えた段取りです【推論】。3 は テスト効果 と 間隔反復 の考え方を、文法に当てはめたものです。
何が分かっているか
日本の古典の研究
古文単語や古典文法の覚え方を、日本の中高生でくらべた研究は、このページではまだ引けていません。古典の読み方と学習意識の研究を、ここに挙げます。
舛田・工藤(1996) ── 日本の短期大学生 100 人(2 クラス)の研究です。文法や単語の力が十分でない「初学者」に、古文の読み方を教える授業で調べました。 教材は江戸時代の物語です。先にその物語をもとにした漫画を読んでから、原文を読んで問いに答えてもらいました。 話の流れ(文脈)を先に与える教材は、原文を読み取る助けになりました。著者は、全体の流れから入る教え方が初学者に役立つとまとめています。得点などの数字は要旨に無いので書きません。
山口・野原(2019) ── 日本で研究をしている外国人の若手研究者 10 人が、古典の文を読むときの考えを声に出してもらった研究です。 語句の意味を推測するときは、現代日本語に読みかえることを軸に読んでいました。現代語の知識を特に重視していることも分かりました。 著者は、現代語の知識を積極的に使う支援を提案しています。対象は日本語を母語としない人で、中高生ではありません。
森口(2024) ── 京都府内の高校 1 校で、古典の授業を受けた生徒に学期ごとにアンケートをした報告です(学会発表の要旨)。 古典を「嫌い」と答えた生徒の多くは、理由に文法を挙げました。「好き」と答えた生徒も、文法を学んで分かったことを理由に挙げていました。 一方で、嫌いと答えた生徒の多くも「内容はおもしろい」と答えていました。文法以外のことで成長を感じている生徒は少なかった、と報告しています。1 校の調査で、ほかの学校に当てはまるかは分かりません。
知っている語に、新しい意味を覚える研究
古語の多くは、現代語と同じ形で別の意味をもちます。これに近いのが「すでに知っている語に、新しい意味を覚える」実験です。
Rodd ら(2012) ── 大人に、よく知っている英単語(例 ant)の架空の新しい意味を、説明文を読んで覚えてもらいました。 新しい意味が元の意味と強く関係しているときのほうが、思い出しやすい結果でした。この差は短い学習でも、7 日間の学習でも出ました。人数と % は要旨に無いので書きません。
Fang, Perfetti & Stafura(2017) ── 英語を母語とする人に、よく知っている語・あまり知らない語・まったく知らない語に、関係のない新しい意味を覚えてもらいました。 学習のはじめは、よく知っている語のほうが、まったく知らない語(架空の語)より速く覚えられました。ところが学習が進むと、この関係が逆になりました。 学習のあと、よく知っている語では元の意味からのじゃま(干渉)が測られました。著者は、知っている形がはじめは助けになり、あとで元の意味がじゃまをすると考えています。
Fang & Perfetti(2019) ── 同じ形の実験を、1 週間のあいだに 3 回テストして調べました。 よく使われる語に覚えた新しい意味は、あまり使われない語の新しい意味より、1 週間後もよく残っていました。元の意味の判断がわずかに遅れる現象も見られました。ただしそれは学習の直後の、ごく短い間隔のテストだけで、1 日後・1 週間後には消えていました。
de Groot & Keijzer(2000) ── 外国語を学んだ経験のある人が、母語の単語と架空の外国語の単語の組を 60 組覚えた実験です。6 回くり返し、1 週間後にもテストしました。 母語と形の似た語(同族語)や具体的な物を表す語は、覚えやすく忘れにくい結果でした。語のよく使われる度合いは、ほとんど関係しませんでした。
文脈の中で語に出会う研究
Nagy, Herman & Anderson(1985) ── 8 年生(日本の中学 2 年相当)57 人が、約 1,000 語の文章を読みました。その後、文章中の知らない語の意味を、面接と選択式で調べています。 文章を読むだけでも、語の知識は小さいけれど確かに増えていました。
母語の語彙指導の研究をまとめた分析もあります(Stahl & Fairbanks 1986)。意味の説明と文脈の両方を与え、何度も出会わせる教え方で差が大きい結果でした。くわしくは 国語の勉強法 にあります。 英単語で、文の中で出会う回数を変えた日本人学習者の研究は 単語帳の使い方 にあります(Webb 2007)。
日本の中高生の勉強にあてはめると
ここから先は、上の研究を古文に当てはめた【推論】です。英語の実験は架空の意味を覚えるもので、古語で同じ大きさの差が出るとは限りません。
「現代語とのつながり」を一言で添える
Rodd ら(2012)では、新しい意味が元の意味と関係しているほうが思い出しやすい結果でした。古語の多くは、現代語とどこかでつながっています。そのつながりを一言で書きます。
| 古語 | 現代語の意味 | 古文での意味 | つながりの一言(例) |
|---|---|---|---|
| うつくし | 美しい | かわいい・いとしい | 小さいものをいとしく思う気持ちが、のちに「きれい」へ広がった |
| ありがたし | 感謝したい | めったにない | 「有り難し」=あることが難しい |
| おどろく | びっくりする | 目を覚ます・はっと気づく | どちらも「はっ」とする |
| ながむ | 眺める | もの思いにふける | ぼんやり遠くを見て考えこむ |
| やがて | そのうちに | すぐに・そのまま | 間をおかずに続く |
| ののしる | 悪口を言う | 大声で騒ぐ・評判になる | どちらも声が大きい |
つながりの一言は、自分で作ってかまいません。ただし、語呂合わせ のように意味と関係のない音の連想だけにすると、古文の本文で使いにくくなると考えられます。
「元の意味がじゃまをする」ことを前提にする
Fang ら(2017)では、知っている語の新しい意味をはじめは速く覚えても、あとで元の意味がじゃまをしました。 「うつくし」を一度「かわいい」と覚えても、本文を読むときに「美しい」が先に浮かぶのは自然なことです。対策は 2 つです。
- 現代語と同じ形の語は、本文で出会ったときに一度止まる。「現代と同じ意味でいいか」を確かめる
- 単語帳のテストでは、古語 → 意味だけでなく、現代の意味とどうちがうかも言う
本文の 1 文といっしょに覚える
舛田・工藤(1996)では、話の流れを先に与えると原文が読みやすくなりました。Nagy ら(1985)では、文章を読むだけでも語の知識が少し増えました。 単語帳で覚えた意味は、本文の中で使えて初めて点になります。教科書の古文で、知っている語に線を引き、前後 1 文の意味を言います。
- 「春はあけぼの」の章段なら、「をかし」が出るたびに「趣がある」と言いかえる
- 「つとめて」(早朝)のように、現代語の「努めて」とまぎれる語は、場面(冬の早朝)ごと覚える
意味が 2 つ以上ある語は、場面ごとに分ける
「かなし」(いとしい/悲しい)や「いみじ」(よくもわるくも程度がはなはだしい)のように、意味が 2 つ以上ある語もあります。 Rodd ら(2012)の結果から考えると、意味どうしのつながりを一言で持っておくと思い出しやすいと考えられます。
- 「いみじ」なら「とにかく程度が大きい。よいか悪いかは前後で決まる」
- 「かなし」なら「心が強く動く。かわいい子どもの場面なら『いとしい』」
本文で出会ったら、どちらの意味だったかを単語帳の余白に書きこみます。場面の例が 2〜3 個たまると、選択肢の訳を見分けやすくなります。
まちがえた語は「何と取りちがえたか」を残す
単語テストでまちがえた古語の多くは、現代語の意味に引っぱられたまちがいだと考えられます。Fang ら(2017)の「元の意味のじゃま」と同じ向きです。 まちがえた語には、「美しいと訳した → かわいい」のように取りちがえた意味も書きます。書き方は 間違いノート の「どこで分かれたか」と同じです。
古典文法(助動詞・敬語)の覚え方
文法の覚え方を古典でくらべた研究は、このページでは引けていません。森口(2024)の 1 校の調査でも、古典を「嫌い」と答えた生徒の多くは、理由に文法を挙げていました。 ここでは、ほかの分野の研究から考えた順番を示します。
- 活用表は「思い出して書く」:白い紙に、見ないで活用表を書いてから確かめる(テスト効果)
- 意味は本文の 1 文で:「む」なら推量・意志・勧誘などの例文を 1 つずつ。意味の名前だけを覚えない
- 日をあけてくり返す:1 日で全部覚えず、3 日後・1 週間後にもう一度(間隔反復)
- 混ぜて解く:「る・らる」と「す・さす」のように似たものは、まとめて見分ける問題を解く(交互練習)
英文法を、ルールを教わってから使うか使いながら気づくかの研究は、英文法の学び方 にあります。古典文法も外国語の文法に近い面があります。
共通テストの古文・高校入試の古典
- 共通テストの国語は 90 分・200 点で、古典は 2 問 90 点(古文 45 点・漢文 45 点)です(令和 9 年度。共通テストの時間割)
- 共通テスト古文の語句の問題には「現代語と意味がずれている語」が多い、とこのサイトの単元で整理しています(歴史的仮名遣いと古文単語)
- 高校入試の古文で問われやすい歴史的仮名遣いと基本の古語は、歴史的仮名遣いと古文の基礎 にまとめています
1 週間の回し方(一例)
| いつ | やること | 目安の時間 |
|---|---|---|
| 平日の通学電車 | 古文単語 20 語。現代語とのちがいも言う | 10 分 |
| 平日の夜(週 3 日) | 古文の本文 1 題。知っている語に線を引き、前後の文を訳す | 20 分 |
| 週末 | 助動詞の例文を隠して意味を言う。まちがえた語を単語帳で印 | 20 分 |
時間と語数は、研究で決まった値ではありません。部活のある週は、通学電車の 10 分だけでもかまいません。
よくある誤解
「古文単語は英単語と同じで、意味を 1 つ覚えればよい」 古語の多くは現代語と同じ形です。Fang ら(2017)の英語の実験では、よく知っている語で、学習のあとに元の意味からのじゃまが見られました。「現代とどうちがうか」まで覚えるのが、古文単語ならではの点です【推論】。
「単語帳を何周もすれば、本文も読める」 単語帳で意味を覚えることは土台になります。ただ、舛田・工藤(1996)では、文脈を与える教材で原文の読み取りが助けられていました。単語帳と本文の両方で出会うほうが、本文で使える形になると考えられます。
「古文はセンスなので、勉強しても変わらない」 森口(2024)の調査では、文法が分かったことを「好きになった」理由に挙げる生徒がいました。単語と文法は、覚え方を決めて少しずつ積み上げられる部分です。
「文法は、文法書を最初から最後まで読んでから」 読み通すだけでは、思い出す練習になりません。活用表を見ずに書く・例文を隠して意味を言う、と思い出す形にします(テスト効果)。
このサイトでの使い方
- 高校の古文は 歴史的仮名遣いと古文単語(現代と意味が違う語・多義語) から始めます。表の「現代の意味との違い」の列を、自分の一言に書きかえます
- 文法は 用言の活用 → 助動詞① → 助動詞② → 助詞・係り結び・敬語 の順です。小テストは数を変えて出るので、日をあけて何度も解けます
- 単語と文法を本文で使う練習は 古文読解の型 で行います
- 中学生は 歴史的仮名遣いと古文の基礎 の「よく出る古語」から。英単語の回し方は 単語帳の使い方 と同じ考え方です
注意点
- 古文単語・古典文法の覚え方を、日本の中高生でくらべた研究は、このページではまだ引けていません。この記事のやり方の多くは、英語の語彙の実験と記憶の研究から考えた【推論】です
- Rodd ら・Fang らの実験は、英語を母語とする大人が、架空の意味を短い期間で覚えるものです。古語と現代語の関係は、それより複雑です
- 舛田・工藤(1996)は短期大学生、山口・野原(2019)は外国人の研究者 10 人の研究です。森口(2024)は 1 校の報告で、学会発表の要旨です
- 共通テストの時間と配点は、2026 年 9 月時点のサイト内の制度ページ(令和 9 年度)によります。最新は大学入試センターの発表で確認してください
引いた論文
番号は班別ファイル docs/参考文献ログ_追加_テスト.md の #(#13・#28 は docs/参考文献ログ.md)。DOI を開いて書誌を確かめ、要旨(日本語論文は J-STAGE の抄録または本文)で内容を確かめています。
- #453 舛田弘子・工藤与志文 (1996). 初学者に対する「文脈効果」を応用した読解指導の有効性について ── 古文教材を用いて. 教育心理学研究, 44(4), 445–453. https://doi.org/10.5926/jjep1953.44.4_445
- #454 山口真紀・野原佳代子 (2019). 日本研究を行う日本語学習者の古典日本語読解における語句の意味推測 ── 国内教育機関における古典日本語学習支援の方法を探るために. 言語文化教育研究, 17, 147–168. https://doi.org/10.14960/gbkkg.17.147
- #455 森口皓介 (2024). 古典の学習意識に関する調査(2) ── 古典嫌いの実態に関する追跡調査アンケートの結果分析を中心に. 全国大学国語教育学会 国語科教育研究:大会研究発表要旨集, 147, 157–160. https://doi.org/10.20555/jtsjs.147.0_157 (学会発表の要旨)
- #456 Rodd, J. M., Berriman, R., Landau, M., Lee, T., Ho, C., Gaskell, M. G., & Davis, M. H. (2012). Learning new meanings for old words: Effects of semantic relatedness. Memory & Cognition, 40(7), 1095–1108. https://doi.org/10.3758/s13421-012-0209-1
- #457 Fang, X., Perfetti, C., & Stafura, J. (2017). Learning new meanings for known words: Biphasic effects of prior knowledge. Language, Cognition and Neuroscience, 32(5), 637–649. https://doi.org/10.1080/23273798.2016.1252050
- #458 Fang, X., & Perfetti, C. A. (2019). Learning new meanings for known words: Perturbation of original meanings and retention of new meanings. Memory & Cognition, 47(1), 130–144. https://doi.org/10.3758/s13421-018-0855-z
- #459 de Groot, A. M. B., & Keijzer, R. (2000). What is hard to learn is easy to forget: The roles of word concreteness, cognate status, and word frequency in foreign-language vocabulary learning and forgetting. Language Learning, 50(1), 1–56. https://doi.org/10.1111/0023-8333.00110
- #460 Nagy, W. E., Herman, P. A., & Anderson, R. C. (1985). Learning words from context. Reading Research Quarterly, 20(2), 233. https://doi.org/10.2307/747758
- #28 Stahl, S. A., & Fairbanks, M. M. (1986). The effects of vocabulary instruction: A model-based meta-analysis. Review of Educational Research, 56(1), 72–110. https://doi.org/10.3102/00346543056001072
- #13 Webb, S. (2007). The effects of repetition on vocabulary knowledge. Applied Linguistics, 28(1), 46–65. https://doi.org/10.1093/applin/aml048