勉強法

更新 2026-10-04 / 引用した論文はすべて DOI を確認しています

「なぜ?」を自分に問う ── 精緻化質問

一言で

覚えたい事実を 1 つ読んだら、「なぜそうなのか?」と自分に問い、知っていることを使って答える。これを精緻化質問(せいちかしつもん)と言います。精緻化は「知っていることと結びつけて、記憶を細かく作り込む」という意味です。 小学生から大学生までの実験で、ただ読むより事実がよく残りました。小6・中1 の実験では、答えの出来ばえは全体として結果を左右しませんでした。 「人に説明する・自分に説明する」のページでも、同じ方法(精緻化質問)にふれています。 このページは事実を覚えるときの「なぜ」に絞ります。解き方の手順を説明する話は「人に説明する・自分に説明する」にあります。

今日からやること

  1. 一問一答や単語帳の事実に「なぜ?」を 1 つ足す。「承久の乱のあと六波羅探題を置いた」なら「なぜ京都に?」と問い、自分の言葉で 1 行答えます
  2. 答えはまず自分の知識だけで作る。30 秒考えて出なければ、教科書で理由を探します。出た答えが合っているかも教科書で確かめます
  3. 「なぜ」が立たない事実は、別の方法に回す。元素記号や英単語のつづりのように理由のないものは、語呂合わせや思い出す練習で覚えます

何が分かっているか

研究のはじまり

Pressley, McDaniel, Turnure, Wood & Ahmad(1987) ── 大人を対象にした 3 つの実験です。「太った男が看板を読んだ」のように、理由のつながりが分からない文を覚えてもらいました。 比べたのは、文を読むだけの条件と、「なぜその男がそうしたのか?」に自分で答える条件です。「薄い氷に注意という看板を読んだ」のように、理由を書き足した文を渡す条件もありました。 理由を渡されたときの差は中くらいで、覚えるつもりのない条件でしか出ませんでした。理由を自分で作ったときは、はるかに大きな差が出ました。 自分で作った理由は、正確なほうが不正確なものよりわずかに上でした(数値は要旨に無いので書きません)。

文章・小中学生でも

Woloshyn, Willoughby, Wood & Pressley(1990) ── 大学生が、5 つの大学について書かれた 6 文の段落を覚えました。1 文に 1 つの事実です。 「なぜ」に答える方法は、読むだけの方法より上でした。「自分に当てはめて考える」方法よりも上でした(実験 1)。場面を思い浮かべる方法とは同じくらいでした。 事実を丸ごと思い出せなくても、「どの大学の話か」の結びつきは残りやすい結果でした。

Wood, Pressley & Winne(1990) ── カナダの 4〜8 年生(日本の小 4〜中 2 相当)396 人の 2 つの実験です。「この動物はこの地域に住む」といった事実を覚えました。 比べたのは、文だけを自由に覚える・理由を書き足した文を読む・場面を思い浮かべる・「なぜ」に自分で答える、の条件です。 2 つの実験の両方で記憶をはっきり助けたのは、「なぜ」に答える方法だけでした。

Woloshyn, Paivio & Pressley(1994) ── 6・7 年生(日本の小 6・中 1 相当)140 人が、32 の事実の文を覚えました。半分は生徒の知識と合う事実、半分は知識とくい違う事実です。 「なぜこれが正しいのか」に知識を使って答えた群は、読んで理解するよう言われた群をすべてのテストで上回りました。 テストは、直後の思い出すテストと、直後・14 日後の見分けるテストです。2 つ目の実験では 75 日後・180 日後の見分けるテストも行っています。 答えの出来ばえは、全体としては記憶の成績に影響しませんでした。どの生徒も、知識と合う事実のほうをよく覚えていました。

どんな「なぜ」がよいか

Martin & Pressley(1991) ── カナダの大学生が、カナダの州についての事実を覚えた実験です。日本でいえば、都道府県の特色を覚えるのに近い課題です。 「なぜ」の問い方を 4 通りに変えました。事実を確かめる問いか、意外な点を説明する問いか。その州の知識を使うか、ほかの州の知識だけを使うか、です。 著者らの考えでは、「なぜ」は覚えたい結びつき(この州 ↔ この特色)に注意を向けさせることで記憶を助けます。

研究のまとめでの評価

10 種類の勉強法をまとめた総説(Dunlosky ら 2013)では、精緻化質問は「有用性:中」でした。くわしくは自分に説明するのページで紹介しています。 同じページで紹介している Pressley ら(1988)も、まぎらわしい事実を覚えるときの「なぜ」の実験です。

日本の高校生の実態

押尾(2017) ── 日本の高校生 257 名に、数学・国語・社会の勉強のしかたを聞いた調査です。 数学の「知識を結びつける方法(精緻化方略)」と「整理する方法」、国語の「教訓を引き出す方法」が目立ちました。役に立つと思われているのに、あまり使われていない方法でした。 教科や方法の種類によらず、「役に立つ」と思っている方法ほど使われていました。

日本の中高生を対象に、事実を覚える場面で「なぜ」に答える方法と読むだけを比べた研究は、このページではまだ引けていません。

日本の中高生の勉強にあてはめると

研究をもとにしたポイントは 3 つです。2 つ目と 3 つ目は、研究から考えた【推論】をふくみます。

ここから先の具体例は、研究の結果を日本の勉強に当てはめた【推論】です。

歴史の出来事【推論】

一問一答の「答え」だけを覚えると、問い方が変わったときに出てきにくくなります。「なぜ」を 1 つ足すと、出来事が前後とつながります。

覚える事実自分に問う「なぜ?」答えの例(教科書で確かめる)
承久の乱のあと、京都に六波羅探題を置いたなぜ京都に?朝廷を見張り、西国の武士をまとめるため
江戸幕府は参勤交代を制度にしたなぜ大名を江戸と領地で往復させた?大名を統制し、幕府に従わせるため
明治政府は地租改正で税を現金にしたなぜ米でなく現金?毎年の税収を安定させるため

鎌倉・江戸の単元は鎌倉時代・安土桃山・江戸時代前期にあります。Martin & Pressley の考え方に沿うなら、答えは「その出来事だけに当てはまる理由」にします。「権力を強めるため」だけでは、どの時代にも当てはまってしまいます。

公務員試験の人文科学(近世(織豊政権・江戸の政治と三大改革)など)も同じです。三大改革の中身を覚えるとき、「なぜこの時期にこの改革が必要だったか」を 1 行で答えます。

理科の現象・用語【推論】

理科の用語は、理由がそのまま問題になることが多い分野です。

高校の生物基礎・地学基礎の分類問題も同じです。暗記カードの裏に「理由」を 1 行足すと、事実どうしがつながります(理科の勉強法)。

英文法のルール【推論】

英文法には、理由で説明できるルールと、そうでないルールがあります。

理由が立たないルールに無理に理由をつけると、まちがった理由まで覚えてしまうおそれがあります。迷ったら、文法書の説明をそのまま確かめます。

時間の使い方【推論】

「なぜ」を考えるのは、読むだけより時間がかかります。全部の事実にやる必要はありません。

よくある誤解

「理由まで書いてある参考書を読めば同じ」 Pressley ら(1987)では、理由を渡されたときの差は中くらいでした。自分で作ったときは、はるかに大きな差が出ています。Wood ら(1990)でも、2 つの実験の両方ではっきり助けたのは、「なぜ」に自分で答える方法だけでした。 参考書の理由は、自分で考えたあとの答え合わせに使います。

「正しい理由が出せないなら、やっても意味がない」 Woloshyn ら(1994)では、答えの出来ばえは全体として記憶の成績に影響しませんでした。正しい理由が出なくても、考えること自体が学習になっていた、と考えられます。 ただし Pressley ら(1987)では、正確な理由のほうがわずかに上でした。まちがった理由をそのまま覚えると、別の問題で困ることもあります。考えたあとに教科書で確かめます。

「なぜ?を考えるのは、理解の勉強で、暗記には関係ない」 ここで紹介した実験は、どれも事実を覚えるテストで差を確かめています。「なぜ」は、暗記のための方法でもあります。

「どんな事実にも使える」 Woloshyn ら(1994)では、どちらの群でも、知識と合う事実のほうがよく覚えられました。「なぜ」に答える方法は、知識に頼るやり方です。 まったく知らない分野や、理由のない並び(元素記号・つづり)には向かないと考えられます【推論】。

このサイトでの使い方

  1. 単元の「まずここだけ」を読み、覚える事実を 3 つ選ぶ。それぞれに「なぜ?」を自分で答える
  2. 解説の続きを読み、自分の答えが合っていたかを確かめる
  3. 解説を閉じて、ページ下の小テストを解く(テスト効果)
  4. まちがえた問題は、解説を読んで「なぜこれが答えになるか」を 1 行書く。そのあと「同じ型でもう 1 問」で解き直す
  5. 3 日後・1 週間後に「前に間違えた型をやり直す」から解く(間隔反復)

「なぜ」を立てやすい単元の例です。

注意点

引いた論文

番号は docs/参考文献ログ_追加_覚え方2.md(#221〜)の #。すべて DOI を開いて書誌と要旨を確認しています。Dunlosky ら(2013)と Pressley ら(1988)は「人に説明する・自分に説明する」で引いた #6・#181 です。