勉強法
「なぜ?」を自分に問う ── 精緻化質問
一言で
覚えたい事実を 1 つ読んだら、「なぜそうなのか?」と自分に問い、知っていることを使って答える。これを精緻化質問(せいちかしつもん)と言います。精緻化は「知っていることと結びつけて、記憶を細かく作り込む」という意味です。 小学生から大学生までの実験で、ただ読むより事実がよく残りました。小6・中1 の実験では、答えの出来ばえは全体として結果を左右しませんでした。 「人に説明する・自分に説明する」のページでも、同じ方法(精緻化質問)にふれています。 このページは事実を覚えるときの「なぜ」に絞ります。解き方の手順を説明する話は「人に説明する・自分に説明する」にあります。
今日からやること
- 一問一答や単語帳の事実に「なぜ?」を 1 つ足す。「承久の乱のあと六波羅探題を置いた」なら「なぜ京都に?」と問い、自分の言葉で 1 行答えます
- 答えはまず自分の知識だけで作る。30 秒考えて出なければ、教科書で理由を探します。出た答えが合っているかも教科書で確かめます
- 「なぜ」が立たない事実は、別の方法に回す。元素記号や英単語のつづりのように理由のないものは、語呂合わせや思い出す練習で覚えます
何が分かっているか
研究のはじまり
Pressley, McDaniel, Turnure, Wood & Ahmad(1987) ── 大人を対象にした 3 つの実験です。「太った男が看板を読んだ」のように、理由のつながりが分からない文を覚えてもらいました。 比べたのは、文を読むだけの条件と、「なぜその男がそうしたのか?」に自分で答える条件です。「薄い氷に注意という看板を読んだ」のように、理由を書き足した文を渡す条件もありました。 理由を渡されたときの差は中くらいで、覚えるつもりのない条件でしか出ませんでした。理由を自分で作ったときは、はるかに大きな差が出ました。 自分で作った理由は、正確なほうが不正確なものよりわずかに上でした(数値は要旨に無いので書きません)。
文章・小中学生でも
Woloshyn, Willoughby, Wood & Pressley(1990) ── 大学生が、5 つの大学について書かれた 6 文の段落を覚えました。1 文に 1 つの事実です。 「なぜ」に答える方法は、読むだけの方法より上でした。「自分に当てはめて考える」方法よりも上でした(実験 1)。場面を思い浮かべる方法とは同じくらいでした。 事実を丸ごと思い出せなくても、「どの大学の話か」の結びつきは残りやすい結果でした。
Wood, Pressley & Winne(1990) ── カナダの 4〜8 年生(日本の小 4〜中 2 相当)396 人の 2 つの実験です。「この動物はこの地域に住む」といった事実を覚えました。 比べたのは、文だけを自由に覚える・理由を書き足した文を読む・場面を思い浮かべる・「なぜ」に自分で答える、の条件です。 2 つの実験の両方で記憶をはっきり助けたのは、「なぜ」に答える方法だけでした。
Woloshyn, Paivio & Pressley(1994) ── 6・7 年生(日本の小 6・中 1 相当)140 人が、32 の事実の文を覚えました。半分は生徒の知識と合う事実、半分は知識とくい違う事実です。 「なぜこれが正しいのか」に知識を使って答えた群は、読んで理解するよう言われた群をすべてのテストで上回りました。 テストは、直後の思い出すテストと、直後・14 日後の見分けるテストです。2 つ目の実験では 75 日後・180 日後の見分けるテストも行っています。 答えの出来ばえは、全体としては記憶の成績に影響しませんでした。どの生徒も、知識と合う事実のほうをよく覚えていました。
どんな「なぜ」がよいか
Martin & Pressley(1991) ── カナダの大学生が、カナダの州についての事実を覚えた実験です。日本でいえば、都道府県の特色を覚えるのに近い課題です。 「なぜ」の問い方を 4 通りに変えました。事実を確かめる問いか、意外な点を説明する問いか。その州の知識を使うか、ほかの州の知識だけを使うか、です。 著者らの考えでは、「なぜ」は覚えたい結びつき(この州 ↔ この特色)に注意を向けさせることで記憶を助けます。
研究のまとめでの評価
10 種類の勉強法をまとめた総説(Dunlosky ら 2013)では、精緻化質問は「有用性:中」でした。くわしくは自分に説明するのページで紹介しています。 同じページで紹介している Pressley ら(1988)も、まぎらわしい事実を覚えるときの「なぜ」の実験です。
日本の高校生の実態
押尾(2017) ── 日本の高校生 257 名に、数学・国語・社会の勉強のしかたを聞いた調査です。 数学の「知識を結びつける方法(精緻化方略)」と「整理する方法」、国語の「教訓を引き出す方法」が目立ちました。役に立つと思われているのに、あまり使われていない方法でした。 教科や方法の種類によらず、「役に立つ」と思っている方法ほど使われていました。
日本の中高生を対象に、事実を覚える場面で「なぜ」に答える方法と読むだけを比べた研究は、このページではまだ引けていません。
日本の中高生の勉強にあてはめると
研究をもとにしたポイントは 3 つです。2 つ目と 3 つ目は、研究から考えた【推論】をふくみます。
- 理由は自分で作る:理由を読むより、自分で答えを作るほうが大きな差が出た(Pressley ら 1987・Wood ら 1990)
- 知識を使える事実から始める:「なぜ」に答えるには知識が要る(「知識を使って答える」やり方の研究)。何も知らない分野では、先に教科書を読んで土台を作る【推論】
- その事実だけの理由にする:覚えたい結びつきに注意が向くと記憶が助けられる、と著者らは考えています(Martin & Pressley)。これを理由の作り方に当てはめた【推論】です
ここから先の具体例は、研究の結果を日本の勉強に当てはめた【推論】です。
歴史の出来事【推論】
一問一答の「答え」だけを覚えると、問い方が変わったときに出てきにくくなります。「なぜ」を 1 つ足すと、出来事が前後とつながります。
| 覚える事実 | 自分に問う「なぜ?」 | 答えの例(教科書で確かめる) |
|---|---|---|
| 承久の乱のあと、京都に六波羅探題を置いた | なぜ京都に? | 朝廷を見張り、西国の武士をまとめるため |
| 江戸幕府は参勤交代を制度にした | なぜ大名を江戸と領地で往復させた? | 大名を統制し、幕府に従わせるため |
| 明治政府は地租改正で税を現金にした | なぜ米でなく現金? | 毎年の税収を安定させるため |
鎌倉・江戸の単元は鎌倉時代・安土桃山・江戸時代前期にあります。Martin & Pressley の考え方に沿うなら、答えは「その出来事だけに当てはまる理由」にします。「権力を強めるため」だけでは、どの時代にも当てはまってしまいます。
公務員試験の人文科学(近世(織豊政権・江戸の政治と三大改革)など)も同じです。三大改革の中身を覚えるとき、「なぜこの時期にこの改革が必要だったか」を 1 行で答えます。
理科の現象・用語【推論】
理科の用語は、理由がそのまま問題になることが多い分野です。
- 「海に近い地域は、1 日の気温差が小さい」→ なぜ? → 水は陸より温まりにくく冷めにくいから
- 「日本の冬は北西の季節風がふく」→ なぜ北西から? → 大陸に冷たい高気圧ができ、海側の低気圧へ空気が動くから(前線と天気の変化・日本の天気)
- 「金星は明け方か夕方にしか見えない」→ なぜ? → 地球より内側を回っていて、太陽から大きく離れて見えないから(天体(日周運動・年周運動・太陽と月・金星))
高校の生物基礎・地学基礎の分類問題も同じです。暗記カードの裏に「理由」を 1 行足すと、事実どうしがつながります(理科の勉強法)。
英文法のルール【推論】
英文法には、理由で説明できるルールと、そうでないルールがあります。
- 「現在完了は yesterday と一緒に使わない」→ なぜ? → 現在完了は今とつながる形で、yesterday は過去の一点だから(現在完了(経験・継続・完了))
- 「If I were a bird で、主語が I でも were」→ なぜ過去形? → 過去の形で現実からの距離を表すから(仮定法(過去・過去完了・未来・I wish・as if・without・倒置))
- 「三人称単数の現在形に s をつける」→ 今の英語の中に、はっきりした理由はない。ここは「なぜ」を立てず、例文ごと覚える
理由が立たないルールに無理に理由をつけると、まちがった理由まで覚えてしまうおそれがあります。迷ったら、文法書の説明をそのまま確かめます。
時間の使い方【推論】
「なぜ」を考えるのは、読むだけより時間がかかります。全部の事実にやる必要はありません。
- 定期テスト前:一問一答で 2 回まちがえた事実だけに「なぜ」を足す
- 通学電車:単語帳の代わりに、歴史の流れを「なぜ → だから」で頭の中でつなぐ
- 部活のあとの 20 分:その日の授業の事実を 3 つ選び、「なぜ」の答えをノートの余白に 1 行ずつ書く
よくある誤解
「理由まで書いてある参考書を読めば同じ」 Pressley ら(1987)では、理由を渡されたときの差は中くらいでした。自分で作ったときは、はるかに大きな差が出ています。Wood ら(1990)でも、2 つの実験の両方ではっきり助けたのは、「なぜ」に自分で答える方法だけでした。 参考書の理由は、自分で考えたあとの答え合わせに使います。
「正しい理由が出せないなら、やっても意味がない」 Woloshyn ら(1994)では、答えの出来ばえは全体として記憶の成績に影響しませんでした。正しい理由が出なくても、考えること自体が学習になっていた、と考えられます。 ただし Pressley ら(1987)では、正確な理由のほうがわずかに上でした。まちがった理由をそのまま覚えると、別の問題で困ることもあります。考えたあとに教科書で確かめます。
「なぜ?を考えるのは、理解の勉強で、暗記には関係ない」 ここで紹介した実験は、どれも事実を覚えるテストで差を確かめています。「なぜ」は、暗記のための方法でもあります。
「どんな事実にも使える」 Woloshyn ら(1994)では、どちらの群でも、知識と合う事実のほうがよく覚えられました。「なぜ」に答える方法は、知識に頼るやり方です。 まったく知らない分野や、理由のない並び(元素記号・つづり)には向かないと考えられます【推論】。
このサイトでの使い方
- 単元の「まずここだけ」を読み、覚える事実を 3 つ選ぶ。それぞれに「なぜ?」を自分で答える
- 解説の続きを読み、自分の答えが合っていたかを確かめる
- 解説を閉じて、ページ下の小テストを解く(テスト効果)
- まちがえた問題は、解説を読んで「なぜこれが答えになるか」を 1 行書く。そのあと「同じ型でもう 1 問」で解き直す
- 3 日後・1 週間後に「前に間違えた型をやり直す」から解く(間隔反復)
「なぜ」を立てやすい単元の例です。
注意点
- 引いた実験のうち、国が要旨で分かるもの(Wood ら・Martin & Pressley)はカナダです。日本の中高生で直接比べた研究は、このページではまだ引けていません
- 実験の多くは、短い文や段落の事実を覚える課題です。入試の思考問題に同じ差が出るかは、これらの研究からは言えません
- 押尾(2017)はアンケート調査です。「なぜ」の方法で点が上がるかを調べたものではありません
- Dunlosky ら(2013)が「中」としたのは、実際の学校の場面での検証がまだ足りないためです(自分に説明する)
- 「なぜ」を考えると時間がかかります。そのぶん、思い出す練習の時間が減らないように組み合わせます
引いた論文
番号は docs/参考文献ログ_追加_覚え方2.md(#221〜)の #。すべて DOI を開いて書誌と要旨を確認しています。Dunlosky ら(2013)と Pressley ら(1988)は「人に説明する・自分に説明する」で引いた #6・#181 です。
- #234 Pressley, M., McDaniel, M. A., Turnure, J. E., Wood, E., & Ahmad, M. (1987). Generation and precision of elaboration: Effects on intentional and incidental learning. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 13(2), 291–300. https://doi.org/10.1037/0278-7393.13.2.291
- #235 Woloshyn, V. E., Willoughby, T., Wood, E., & Pressley, M. (1990). Elaborative interrogation facilitates adult learning of factual paragraphs. Journal of Educational Psychology, 82(3), 513–524. https://doi.org/10.1037/0022-0663.82.3.513
- #236 Wood, E., Pressley, M., & Winne, P. H. (1990). Elaborative interrogation effects on children’s learning of factual content. Journal of Educational Psychology, 82(4), 741–748. https://doi.org/10.1037/0022-0663.82.4.741
- #238 Woloshyn, V. E., Paivio, A., & Pressley, M. (1994). Use of elaborative interrogation to help students acquire information consistent with prior knowledge and information inconsistent with prior knowledge. Journal of Educational Psychology, 86(1), 79–89. https://doi.org/10.1037/0022-0663.86.1.79
- #237 Martin, V. L., & Pressley, M. (1991). Elaborative-interrogation effects depend on the nature of the question. Journal of Educational Psychology, 83(1), 113–119. https://doi.org/10.1037/0022-0663.83.1.113
- #239 押尾恵吾 (2017). 高等学校の教科における学習方略の横断的検討 ── 方略使用および有効性の認知に着目して. 教育心理学研究, 65(2), 225–238. https://doi.org/10.5926/jjep.65.225
- #6 Dunlosky, J., Rawson, K. A., Marsh, E. J., Nathan, M. J., & Willingham, D. T. (2013). Improving students’ learning with effective learning techniques. Psychological Science in the Public Interest, 14, 4–58. https://doi.org/10.1177/1529100612453266
- #181 Pressley, M., Symons, S., McDaniel, M. A., Snyder, B. L., & Turnure, J. E. (1988). Elaborative interrogation facilitates acquisition of confusing facts. Journal of Educational Psychology, 80(3), 268–278. https://doi.org/10.1037/0022-0663.80.3.268