勉強法
図と言葉で覚える ── 教科書の図を自分で描き直す
一言で
言葉の説明と図をセットで受け取ると、仕組みを考える問題の点が上だった。そういう大学生の実験があります。さらに自分の手で図を描くと、読むだけより理解が深まるという実験が重なっています。 ただし、描いた生徒の中でも、正確に描けた生徒ほど点が高い結果でした。そこでこのページでは、見ないで描き直して、教科書の図と比べるやり方をすすめます(比べる手順は研究からの【推論】)。
今日からやること
- 理科の実験図を、教科書を閉じて 3 分で描く。装置の名前と矢印(電流・気体・血液の向き)まで入れたら、開いて赤で直します
- 描き直すときは、向きを変える。回路図なら電池を左右逆に、地図なら北を上以外にします。教科書と同じ向きだけで覚えません
- 数学の文章題は、式の前に線分図か表を 1 つかく。「速さ」「割合」の問題で 1 日 3 問から始めます
3 分・1 日 3 問などの数は、研究で決めた値ではなく目安です。
何が分かっているか
日本の中学生で確かめられていること
石橋・蔀・森山(2023) ── 日本の中学 2 年生(電気を未習)と 3 年生(既習)、合計 332 名の調査です。 並列回路を題材に、部品の位置や向きを変えた 4 種類の回路図と実体図(部品を絵で描いた図)を見せました。 全体として、部品の位置や向きが変わると、回路の理解度が下がる傾向でした。 教科書の図に近い回路では、習った 3 年生と習っていない 2 年生に差がありました。ところが部品の向きが違う回路では、その差が見られませんでした。 習った図の「見た目」だけで覚えていると、向きが変わったときに使えない、と考えられます。
Uesaka, Manalo & Ichikawa(2007) ── 日本の生徒 291 名とニュージーランドの生徒 323 名に、文字式の文章題とアンケートを行いました。 ニュージーランドの生徒のほうが自分で図をかく回数が多く、得点も高い結果でした。 「図をうまくかく自信がない」「図は難しい」「図は先生が使うもの」と考える生徒ほど、図をかく回数が少ない関係でした。
Uesaka & Manalo(2012) ── 日本の中学 2 年生 125 名に、4 つの文章題を解いてもらいました。 図をかくかどうかを左右したのは、問題が「長さ」の話かどうかではありませんでした。文章の状況を図に置きかえる手間の大きさでした。 日本 291 名・ニュージーランド 323 名の 2 つ目の実験でも、同じ結果が確かめられています。
Ayabe, Manalo & de Vries(2022) ── 日本の中学生 67 名に、問題に合った図のかき方を教えた研究です。 線分図・表・グラフの使い方を、時期をずらして順に教えました。 その結果、問題に合った図を使う生徒が増え、時間がたっても続きました。問題を解く得点が上がり、「頭が疲れる感じ」(認知負荷)の自己評価は下がりました。 著者らは、図を知っているだけでなく、どの問題でどう使うかまで身につける必要があるとまとめています。
岩槻(1998) ── 薬の知識のない日本の大学生が、架空の薬の種類と特徴の説明文を読んだ実験です。要点をまとめた図表(樹形図と表)をつける群、同じ内容を文章で書いた要約をつける群、文章だけの群を比べました。 図表も要約も、要点の記憶を助けました。そのうえで図表は要約よりも、文章にはっきり書かれていない関係まで補って思い出させました。 読んだ情報を使う応用問題でも、図表は要約より上でした(% は抄録に無いので書きません)。
言葉と図を一緒に(二重符号化・マルチメディア学習)
Paivio(1991) ── 「二重符号化理論」をまとめた総説です。人は情報を言葉の形とイメージの形の 2 通りで持てる、という考え方です。 1963 年からの研究の流れと、この理論への批判と反論を整理しています(実験の数字はありません)。
Mayer & Anderson(1991) ── 機械に詳しくない大学生が、自転車の空気入れの仕組みをアニメで学びました。 説明の言葉をアニメと同時に聞いた群は、アニメの前に聞いた群より、仕組みを考える問題で上でした。 続く実験では、同時の群が「アニメだけ」「言葉だけ」「学習なし」の群をすべて上回りました。著者らは、言葉と図を頭の中でつなぐことが大事だと考えています。
Mayer & Gallini(1990) ── 大学生が、科学的な装置の仕組みの文章を読んだ 3 つの実験です。 助けになったのは、部品の名前と、動きの順番の両方を書き込んだ図だけでした。部品の名前だけの図では差が出ていません。 差が出たのは仕組みの記憶と応用問題で、文章を丸ごと覚えているかでは差がありませんでした。差は主に、もともとの知識が少ない人で見られました。
Butcher(2006) ── 心臓と血液の循環を学ぶ 2 つの実験です。文章だけ、文章+単純な図、文章+細かい図の 3 つを比べました。 どちらの図も、仕組みの理解を助け、読み違いを減らしました。事実の学習には単純な図がいちばんでした。
自分で描く
Wammes, Meade & Fernandes(2016) ── 7 つの実験で、覚える単語を「絵に描く」か「字で書く」かを比べました。 描いた単語のほうがよく思い出されました。この差は、意味を深く考えること・頭に思い浮かべること・絵を見ることのどれでも説明できませんでした。 覚える時間を短くしても、単語を増やしても、差は残りました(% は要旨に無いので書きません)。
Fernandes, Wammes & Meade(2018) ── 上の研究グループのまとめです。描く効果は、単語や絵だけでなく教科書の用語の定義でも見られました。 意味を考える・思い浮かべる・字で書く・なぞるのどれよりも、描くほうが上だったとしています。
Schwamborn, Mayer ら(2010) ── 9 年生(日本の中 3 相当)196 人の実験です。平均 14.7 歳で、石けんで洗濯する化学の仕組みの文章を読みました。 読みながら図を描くよう言われた群は、読むだけの群より上でした。応用問題 d = 0.91・記憶 d = 0.87です(d は差の大きさの目安で、0.8 以上は大きい)。 描いた群の中でも、正確な図を描いた生徒のほうが上でした。図の正確さと応用問題の得点の相関は r = .57 でした。
Fiorella & Zhang(2018) ── 「描いて学ぶ」研究を、比べた相手ごとに整理した総説です。 読むだけ・要約するだけと比べると、描くほうが理解と応用で一貫して上でした。描き方の手助けの量にはよりません。 一方、頭の中で思い浮かべる方法や先生が用意した図を見る方法と比べると、結果は分かれました。 描くことは頭を使い、時間もかかります。手助けがないと、質のよい図にならないこともあると指摘しています。
日本の中高生の勉強にあてはめると
研究をもとにした、図の使い方のポイントは 3 つです。Mayer & Gallini と Butcher は「渡された図を見る」研究です。自分で描く図に当てはめるのは【推論】です。
- 図には言葉を書き込む:部品の名前と、動きの順番や向きをセットで(Mayer & Gallini)
- 単純に描く:事実を覚えるなら、細かい図より要点だけの図(Butcher)
- 描いたら比べる:正確に描けた生徒ほど点が高かった。描きっぱなしにしない(Schwamborn ら。比べる手順そのものは調べていません)
ここから先の具体例は、研究の結果を日本の勉強に当てはめた【推論】です。
理科の実験図・装置図【推論】
中学理科の入試には、実験装置の図がよく出ます。たとえば回路と電流・電圧・オームの法則の回路図、光の反射・屈折・凸レンズの光の道すじの図です。
- 授業ノートや教科書の図を見て、何が書き込まれているかを確かめる(部品名・矢印・数値)
- 閉じて、白紙に描き直す。電流の向き・光の進む向きなど、動きの矢印を忘れずに入れる
- 開いて比べ、抜けたところを赤で足す。翌日、向きを変えてもう一度描く
石橋ら(2023)のように、教科書と同じ向きでしか見ていない図は、向きが変わると読めなくなりがちです。電池を逆向きに、豆電球の位置を入れかえて描くと、この弱点を先に見つけられます。
血液の循環・排出・感覚と神経・運動の心臓の図は、Butcher(2006)の研究と同じ題材です。部屋の名前と、血液の流れの矢印だけを描いた単純な図から始めます。 高校の体内環境(体液・循環・腎臓・肝臓)も同じです。図を描きながら「この血管は酸素が多いか少ないか」を言葉で書き添えます。
社会の地図・地形図・グラフ【推論】
地形図の読み方(縮尺・等高線・地図記号)は、等高線を自分で描くと整理しやすい単元です。描いた線に「ここは谷か尾根か」を書き込みます。 気候の単元では、気候(気候要素・ケッペンの区分・雨温図)の雨温図を、数字を見ずに形だけ描いてみます。「夏に雨が多い山型」のように、形と気候名を言葉で結びます。
歴史では、出来事の地図を白地図に描き込みます。戦いの場所や貿易の道すじに、「なぜここか」を 1 行書き添えます。言葉の理由を書き添える方法は「『なぜ?』を自分に問う」で扱います。
数学の図形・文章題【推論】
Uesaka ら(2007)では、日本の生徒はニュージーランドの生徒より図をかく回数が少ない結果でした。「図はうまくかけない」と思う生徒ほど、かかない関係もありました。 Ayabe ら(2022)では、問題に合った図のかき方を教わると、図を使う生徒が増えました。得点も上がっていました。
- 速さ・割合の文章題:線分図を 1 本。一次方程式の利用(文章題・比例式)・連立方程式の利用
- 変化の様子:表を作ってから式にする。一次関数の利用
- 図形:問題文の図を自分で大きく描き写し、分かった長さと角を書き込む。三平方の定理の利用(平面・空間)
- 高校数学:二次関数の最大・最小(定義域・軸の場合分け)は、軸と定義域の位置を図にしてから場合分けする
図は上手でなくてかまいません。定規も色もいりません。入試の図に色はほとんどないので、鉛筆 1 本で描ける形に慣れておきます。
時間の使い方【推論】
描くことは時間がかかります(Fiorella & Zhang)。すべての図を描き直す必要はありません。
- 定期テスト前:テスト範囲の実験図・グラフを 1 枚ずつ、閉じて描けるか確かめる。描けない図だけを練習する
- 通学電車:描く代わりに、図を頭に浮かべて「矢印の向き」を言えるか確かめる
- 部活のあとの 20 分:単元の小テストの前に、その単元の図を 1 枚だけ描く
よくある誤解
「自分は視覚型だから、図で覚えるのが合っている」 図と言葉をセットにする研究は、「視覚型の人だけに役立つ」という結果ではありません。学習スタイルに合わせると有利という証拠はほぼ無い、とされています(学習スタイル神話)。図と言葉は、誰にとっても組み合わせるものです。
「きれいなまとめ図を作れば覚えられる」 Schwamborn ら(2010)では、描いた生徒の中でも正確に描けた生徒ほど点が高い結果でした。色分けや飾りは研究で調べられていません。 また、まとめ図を見ながら写すのは、見ないで描くのと別のことです。閉じて描き、教科書と比べてはじめて、抜けている部分が分かります(テスト効果)。
「教科書の図を何度も見ていれば、テストでも読める」 石橋ら(2023)では、部品の向きが変わると、習った生徒と習っていない生徒の差が見られませんでした。見慣れた向きでしか読めない状態だった、と考えられます。
「図を描けば、どんな方法より上」 Fiorella & Zhang(2018)では、結果が分かれた比べ方もありました。先生が用意した図を見る方法や、頭に思い浮かべる方法と比べた場合です。描くのは、読むだけ・要約だけより上、という位置づけです。
このサイトでの使い方
- 単元の解説にある図を見て、何が書き込まれているかを声に出して確かめる
- 解説を閉じて、その図を白紙に描き直す。開いて比べる
- ページ下の小テストを解く。図を読み取る問題が入っている単元もあります
- 図の問題で間違えたら「同じ型でもう 1 問」で、ちがう数・ちがう向きの図をもう 1 問解く
- 3 日後・1 週間後に「前に間違えた型をやり直す」から解き直す(間隔反復)
小テストに図の問題がある単元の例です。
- 回路と電流・電圧・オームの法則(回路図)
- 光の反射・屈折・凸レンズ(光の道すじ)
- 前線と天気の変化・日本の天気(天気図)
- 地形図の読み方(縮尺・等高線・地図記号)(地形図)
- 三平方の定理(図形)
注意点
- 「描く効果」の研究の多くは、海外の学生が対象です。日本の中高生で「描く群」と「読む群」を比べた研究は、このページではまだ引けていません
- 日本の研究(Uesaka ら・Ayabe ら)は数学の文章題が中心です。Ayabe ら(2022)は 1 校 67 名です。別の群と比べるのでなく、教える時期をずらして変化を見る方法でした
- Wammes ら(2016)は単語の記憶の実験です。入試の応用問題に同じ差が出るかは、この研究からは言えません
- Schwamborn ら(2010)は 1 回の授業の実験です。何か月も続けたときの差は調べられていません
- Schwamborn ら(2010)の「正確に描けた生徒ほど上」は相関です。正確に描く練習をすれば点が上がる、とまでは言えません
- 描くのには時間がかかります。描いた図が何週間も残るかは、ここで引いた研究では調べられていません
引いた論文
番号は docs/参考文献ログ_追加_覚え方2.md(#221〜)の #。すべて DOI を開いて書誌と要旨を確認しています。
- #233 石橋直・蔀亜里紗・森山潤 (2023). 中学生における電気回路の接続に関する概念理解と実体配線図作成の能力との関連性. 日本産業技術教育学会誌, 65(3), 141–149. https://doi.org/10.32309/jjste.65.3_141
- #230 Uesaka, Y., Manalo, E., & Ichikawa, S. (2007). What kinds of perceptions and daily learning behaviors promote students’ use of diagrams in mathematics problem solving? Learning and Instruction, 17(3), 322–335. https://doi.org/10.1016/j.learninstruc.2007.02.006
- #231 Uesaka, Y., & Manalo, E. (2012). Task-related factors that influence the spontaneous use of diagrams in math word problems. Applied Cognitive Psychology, 26(2), 251–260. https://doi.org/10.1002/acp.1816
- #232 Ayabe, H., Manalo, E., & de Vries, E. (2022). Problem-appropriate diagram instruction for improving mathematical word problem solving. Frontiers in Psychology, 13, 992625. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2022.992625
- #225 岩槻恵子 (1998). 説明文理解における要点を表わす図表の役割. 教育心理学研究, 46(2), 142–152. https://doi.org/10.5926/jjep1953.46.2_142
- #221 Paivio, A. (1991). Dual coding theory: Retrospect and current status. Canadian Journal of Psychology, 45(3), 255–287. https://doi.org/10.1037/h0084295
- #222 Mayer, R. E., & Anderson, R. B. (1991). Animations need narrations: An experimental test of a dual-coding hypothesis. Journal of Educational Psychology, 83(4), 484–490. https://doi.org/10.1037/0022-0663.83.4.484
- #223 Mayer, R. E., & Gallini, J. K. (1990). When is an illustration worth ten thousand words? Journal of Educational Psychology, 82(4), 715–726. https://doi.org/10.1037/0022-0663.82.4.715
- #224 Butcher, K. R. (2006). Learning from text with diagrams: Promoting mental model development and inference generation. Journal of Educational Psychology, 98(1), 182–197. https://doi.org/10.1037/0022-0663.98.1.182
- #226 Wammes, J. D., Meade, M. E., & Fernandes, M. A. (2016). The drawing effect: Evidence for reliable and robust memory benefits in free recall. Quarterly Journal of Experimental Psychology, 69(9), 1752–1776. https://doi.org/10.1080/17470218.2015.1094494
- #227 Fernandes, M. A., Wammes, J. D., & Meade, M. E. (2018). The surprisingly powerful influence of drawing on memory. Current Directions in Psychological Science, 27(5), 302–308. https://doi.org/10.1177/0963721418755385
- #228 Schwamborn, A., Mayer, R. E., Thillmann, H., Leopold, C., & Leutner, D. (2010). Drawing as a generative activity and drawing as a prognostic activity. Journal of Educational Psychology, 102(4), 872–879. https://doi.org/10.1037/a0019640
- #229 Fiorella, L., & Zhang, Q. (2018). Drawing boundary conditions for learning by drawing. Educational Psychology Review, 30(3), 1115–1137. https://doi.org/10.1007/s10648-018-9444-8