勉強法
模試の結果の使い方 ── 判定より、まちがえた問題を見る
一言で
模試の判定と偏差値は、その日・その模試を受けた人の中での位置をもとにした数字です。それだけでは「次に何をするか」は決まりません。 次の行動を決めるのに使えるのは、まちがえた問題を原因ごとに分けることです。失敗の原因を「能力」ではなく「やり方」に置いた人のほうが、次はうまくいくと予想した、という実験があります。 結果の伝え方の研究では、注意が課題から「自分の評価」に向くほど、成績を上げる働きが小さくなる傾向が出ています。
今日からやること
- 返却の日に、まちがえた問題を 4 つに分けて数える。「知らなかった」「時間が足りなかった」「解けたのに落とした」「問題を読みちがえた」。判定を見たあとでかまいません。20 分ほどです
- 原因を「やり方」の言葉で 1 行書く。「英単語を 1 周しかしていない」「長文を時間を計って解いたことがない」のように。「才能がない」「頭が悪い」とは書かない
- 1 週間以内に、配点の大きい「あと一歩」の問題を解き直す。あわせて、次の模試までに使う教材と使い方を 3 行で書く
3 つとも、下の研究から考えた段取りです【推論】。この手順で模試の点を比べた研究は、このページではまだ引けていません。
何が分かっているか
日本の中高生の研究
中西(2020) ── 日本の高校 1・2 年生 153 人の研究です。社会科(現代社会か地理)の定期テストのあと、「結果の原因」と「次にどうするか」を自由に書いてもらいました。
- 原因として最も多く挙がったのは、ふだんの勉強のやり方(勉強方略)でした
- うまくいったときは勉強のやり方が最も多く挙がりました。うまくいかなかったときは、「努力」のほうが勉強のやり方よりやや多くなりました
- うまくいかなかったときは、成功のときとくらべて、テストの受け方を原因に挙げる割合が高めでした
- うまくいかなかった原因を考えたあとは、「次の方略」に学習の環境を整えることなどが多めに挙がりました。間接的にしか学習に関わらないものです
失敗のあとは原因を「努力」に置きやすく、次の手も「環境を整える」など間接的なものが多めでした。人数以外の数字は要旨に無いので書きません。
中西(2004) ── 日本の高校生 80 人の研究です。そのうち 60 人に面接をして、成功または失敗の原因を「やり方」の面から自分で考えてもらいました。 面接のあと、自己効力感(できそうだという感覚)は成功の理由をやり方で考えた群のほうが有意に上がりました。比べた相手は、失敗の理由を考えた群です。 成功の理由を考えた群は、これから使う方略として、学習に直接関わるものを挙げる傾向もありました。
前田(1996) ── 日本の中学 1〜3 年生 652 人に、定期テストの結果が悪かった理由を 59 の質問で聞いた研究です。 生徒は、悪い結果を主に自分の側の、自分で変えられる原因(勉強のやり方と量)で説明していました。自分の外にある、変えられない原因は、あまり挙がりませんでした。 理由は 4 つのまとまりに分かれました。①勉強のやり方と努力 ②先生の教え方とテストの作り方 ③テストの条件 ④テストの受け方、です。 成績の低い男子は、先生の教え方やテストの作り方を理由にする傾向があり、学年が上がるほど強くなっていました。
鈴木(2012) ── 日本の高校生 493 人に、英語の定期テストの前後の勉強を聞いた質問紙の調査です。 テスト前にどんな勉強をしたかが、テスト後の見直しのやり方と結びついていました。テストを「学習の改善に使うもの」と考える生徒ほど、テストに前向きに向かう傾向もありました。 著者は、テスト後の見直しを促すには、テスト前の勉強のやり方から教えるのがよいと考えています。くじで分けた実験ではなく、関係を見た調査です。
鈴木(2011) ── 日本の中学 2 年生の数学で、テストの返し方を変えた実験授業です。答案と一緒にルーブリック(採点の基準表)を見せ、評価の基準と目的を伝えました。 ルーブリックを見た 2 つの群は、見なかった群(添削だけの群)とくらべて考え方にちがいがありました。「テストは自分の理解を確かめ、改善に使うもの」という考えが強くなっています。内発的動機づけ(中身への興味からのやる気)も高く、最終日の総合テストの成績も上でした。 一方、添削の有無による差は見られませんでした。ルーブリックに添削を足しても、上乗せは出ていません。人数は要旨に無いので書きません。
原因をどこに置くか(原因帰属)
結果の原因を何のせいだと考えるかを、心理学では原因帰属と呼びます。
Weiner(1985) ── 原因帰属の理論をまとめた論文です。原因は 3 つの軸で整理されます。①自分の内か外か ②変わりにくいか変わるか ③自分で変えられるか、です。 変わりにくい原因(例「才能」)のせいだと考えると、同じ結果がまたくり返すと予想しやすくなる、と述べています。
Anderson & Jennings(1980) ── 人を説得する課題の実験です。参加者を 2 通りに誘導しました。結果を「やり方」のせいだと考える人と、「能力」のせいだと考える人です。そのうえで、課題で失敗させました。 失敗のあと、やり方のせいだと考えた人のほうが、次は成功すると予想しました。練習すれば上達するとも予想しました。能力のせいだと考えた人は、上達を予想しませんでした。 著者は、やり方に原因を置いた人はやり方の良し悪しを見直し、変えればうまくいくと考えたのだろうとしています。
結果の伝え方(フィードバック)
Kluger & DeNisi(1996) ── 結果の伝え方(フィードバック)の研究をまとめたメタ分析です(607 の効果量・23,663 の観察)。平均では成績を上げる方向でした(d = 0.41)。 ところが、3 分の 1 以上の場合で成績を下げていました。注意が課題から離れて「自分」に向かうほど、伝える効果が小さくなる傾向でした。
Hattie & Timperley(2007) ── フィードバックの研究を整理した総説です。学習に大きく影響するが、プラスにもマイナスにも働くこと、種類と伝え方で違いが出ることをまとめています。数字は要旨に無いので書きません。
Butler(1988) ── 小学 5・6 年生の 12 クラスを、くじで 3 つの返し方に分けた実験です。点数だけ、一人ひとりへのコメントだけ、点数とコメントの両方です。 興味と成績が最も高かったのはコメントだけの群でした。点数だけの群と両方の群は、同じように興味と成績を下げる方向でした。 成績の高い子が点数を受けた場合は、また点数がつくと分かっているあいだは興味を保っていました。
振り返りを、次のやり方につなぐ
Chen ら(2017) ── 大学の統計学の入門の授業で、2 年分の学生をくじで 2 つに分けた実験です。一方の群は試験の前に毎回、どの教材をどう使うか、なぜそれが役立つかを考えて書きました。 この群は学習をよく振り返るようになり、教材の使い方もよくなりました。成績は、もう一方の群より平均で成績の段階(A・B など)の 3 分の 1 上でした。
Soicher & Gurung(2017) ── 試験のあとに振り返り用紙(試験の準備や結果をふり返る質問)を書かせる方法を、1 つの授業だけで試した研究です。86 人の学生でした。 3 回の試験の成績にも、最終成績にも、メタ認知の力にも差は出ませんでした。振り返りを書かせるだけでは足りない場合がある、という結果です。
計画 → 実行 → 振り返り → 次の計画、とつなげる考え方を「自己調整学習」と呼びます(Zimmerman 2002)。計画の立て方は 勉強の計画と部活の両立 にあります。
日本の模試にあてはめると
ここから先は、上の研究を日本の模試に当てはめた【推論】です。
偏差値の意味
偏差値は、平均点を 50、散らばり(標準偏差)を 10 に置きかえた数です。式にすると次のとおりです。
偏差値 = 50 + 10 ×(自分の得点 − 平均点)÷ 標準偏差
たとえば平均点 60 点・標準偏差 15 点の模試で 75 点なら、偏差値は 60 です。得点の分布が左右対称の山形(正規分布)に近ければ、偏差値 60 は上位およそ 16%、70 は上位およそ 2% です。 ここから分かることが 3 つあります。
- 受けた人が違えば、同じ偏差値でも意味が違う。難関大志望の多い模試と、学年全員が受ける模試では比べられない
- 散らばりが同じなら、平均点が上がった回は、同じ点数でも偏差値は下がる。偏差値の上下だけで「力が落ちた」とは言えない
- 計算に使うのは平均と散らばりだけ。どの問題で落としたかは偏差値に入っていない
散らばりと標準偏差のくわしい意味は 代表値・四分位数・箱ひげ図・分散・標準偏差 で学べます。
判定の意味
A〜E の判定は、各社が決めた基準でつけています。もとにするのは、その模試の志望者の中での位置や、過去の受験者の結果です。基準の説明は、成績表や各社の案内で確かめられることが多いです。 判定は「この時点で、この模試を受けた人の中では」という見込みです。Weiner(1985)の言葉でいえば、判定を「変わらない才能」の印と読むと、次も同じ結果になると思いやすくなります。
返却日から次の模試までの段取り
| いつ | やること |
|---|---|
| 返却の日(20 分) | まちがえた問題に 4 つの原因の印をつけて数える。判定・偏差値は見てよいが、そこで止めない |
| その週のうち | 原因ごとに「やり方」を 1 行。例「知らなかった」→「古文単語を 1 周目の途中」 |
| 1 週間以内 | 配点が大きく、あと一歩だった問題を答えを隠して解き直す(間違いノート) |
| 次の模試の 2 週間前 | 使う教材と使い方を 3 行で書く(Chen ら 2017 の形) |
原因の分け方と、次の一手の例です。
| 原因 | よくある例 | 次の一手の例 |
|---|---|---|
| 知らなかった | 単語・公式・用語 | 単語帳や一問一答で、日をあけて思い出す(テスト効果) |
| 時間が足りなかった | 最後の大問が白紙 | 過去問を時間を計って解く。解く順番を決めておく(過去問の使い方) |
| 解けたのに落とした | 計算ミス・マークのずれ | 検算の道を決める(計算ミスと見直し) |
| 読みちがえた | 「正しくないもの」を選ぶ問題で正しいものを選んだ | 問題文の条件に線を引く練習 |
中西(2020)では、失敗のあとは「もっと努力する」「環境を整える」のような答えになりやすい傾向でした。1 行の中に、何を・どの教材で・どれくらいを入れます。
うまくいった問題の理由も書く
中西(2004)では、成功の理由をやり方で考えた群のほうが、自己効力感が上がりました。 「長文が前より解けた」なら、「毎日 1 題を時間を計って読んだから」まで書きます。続けるべきやり方が、自分で分かるようになります。
解説冊子は「コメント」として読む
Butler(1988)では、点数より一人ひとりへのコメントのほうが、興味と成績が高い結果でした。模試の解説冊子や記述模試の採点コメントは、点数ではなく「次にどうするか」の情報です。 記述模試なら、減点された答案と採点基準を並べて読みます。鈴木(2011)では、採点の基準表を見せた群のほうが、テストを改善に使う考えが強い結果でした。
高校受験の模試・公務員試験の模試
- 高校受験の模試も、偏差値の考え方は同じです。学校の定期テストとは受ける人がちがうので、内申点とは別に見ます(内申点)
- 公務員試験の模試は科目が多いので、科目ごとの正答数を表にします。配点の大きい専門科目のうち、正答数が伸びる余地のある科目から手をつけます
判定が悪かった日の気持ち
E 判定の日に落ちこむのは自然なことです。その日は判定の数字から離れ、4 つの原因を数えることだけをします。 気持ちの立て直し方は やる気と「頭は伸びる」という考え方 と 本番の緊張 にもまとめています。
よくある誤解
「E 判定だから、才能がない」 判定は、その時点・その模試の受験者の中での位置です。変わらない原因と読むと、次も同じ結果だと思いやすくなります(Weiner 1985)。Anderson & Jennings(1980)では、やり方に原因を置いた人のほうが、失敗のあとも上達を予想しました。
「偏差値が下がったから、力が落ちた」 偏差値は、平均点と散らばりで変わります。受けた人の集まりが変われば、同じ力でも数字は動きます。まちがえた問題の中身を見るまでは、何が変わったかは分かりません。
「模試は受けたら終わり。復習するひまがない」 鈴木(2012)では、テスト前の勉強のやり方が、テスト後の見直しと結びついていました。すべてを復習しなくても、「あと一歩」の問題だけを 1 週間以内に解き直すなら、時間は限られます。
「振り返りシートを書けば、それでよい」 Soicher & Gurung(2017)では、振り返り用紙を書かせるだけでは差が出ませんでした。Chen ら(2017)で差が出たのは、次の試験の前に、具体的な教材と使い方まで決めた場合です。別の研究なので、単純には比べられません。書いた計画を、次の 2 週間で実行するところまでが振り返りです。
このサイトでの使い方
- 模試で「知らなかった」に分けた問題は、該当する単元の小テストを解きます。たとえば古文単語なら 歴史的仮名遣いと古文単語、数学の二次関数なら 二次関数の最大・最小 です
- 「同じ型でもう 1 問」で数を変えた問題を解きます。すぐ解けたら「あと一歩」、解けなければ解説の「まずここだけ」に戻ります
- 間違えた型は端末内に記録され、次に開くと「前に間違えた型をやり直す」が出ます。1 週間後にここから始めます
- 高校受験なら 二次方程式 や be動詞(現在) のように、単元名で探せます。共通テストの時間と配点は 共通テストの時間割 で確かめられます
注意点
- 日本の模試の判定や偏差値の見方を、使い方ごとに比べた研究は、このページではまだ引けていません
- 日本の研究(中西・前田・鈴木)は、定期テストを題材にした調査や実験です。模試で同じ結果になるとは限りません。中西(2020)・前田(1996)・鈴木(2012)は関係を見た調査です
- Anderson & Jennings(1980)は説得の課題で、勉強の実験ではありません。Butler(1988)は小学生、Chen ら(2017)と Soicher & Gurung(2017)は大学生です
- 偏差値の「上位 16%」は、得点の分布が正規分布に近いときの目安です。難しすぎる・易しすぎる模試では外れます
- 判定の基準は模試の会社と年度で変わります。最新は各社の成績表と説明で確認してください
引いた論文
番号は班別ファイル docs/参考文献ログ_追加_テスト.md の #(#253 は docs/参考文献ログ_追加_習慣2.md)。DOI を開いて書誌を確かめ、要旨(日本語論文は J-STAGE の抄録)で内容を確かめています。
- #443 中西良文 (2020). 現実の学業成績における成功/失敗の原因帰属 ── 方略帰属の出現と,原因帰属に基づく将来の方略の検討. 教授学習心理学研究, 15(2), 60–69. https://doi.org/10.20629/japtl.15.2_60
- #444 中西良文 (2004). 成功/失敗の方略帰属が自己効力感に与える影響. 教育心理学研究, 52(2), 127–138. https://doi.org/10.5926/jjep1953.52.2_127
- #445 前田洋一 (1996). 学業成績に対する中学生の認知. 教育心理学研究, 44(3), 311–321. https://doi.org/10.5926/jjep1953.44.3_311
- #441 鈴木雅之 (2012). 高校生の英語定期テスト前後における学習方略とテスト観の関係 ── テスト接近-回避傾向を媒介要因として. 日本テスト学会誌, 8(1), 19–30. https://doi.org/10.24690/jart.8.1_19
- #442 鈴木雅之 (2011). ルーブリックの提示による評価基準・評価目的の教示が学習者に及ぼす影響 ── テスト観・動機づけ・学習方略に着目して. 教育心理学研究, 59(2), 131–143. https://doi.org/10.5926/jjep.59.131
- #451 Weiner, B. (1985). An attributional theory of achievement motivation and emotion. Psychological Review, 92(4), 548–573. https://doi.org/10.1037/0033-295X.92.4.548
- #449 Anderson, C. A., & Jennings, D. L. (1980). When experiences of failure promote expectations of success: The impact of attributing failure to ineffective strategies. Journal of Personality, 48(3), 393–407. https://doi.org/10.1111/j.1467-6494.1980.tb00841.x
- #447 Kluger, A. N., & DeNisi, A. (1996). The effects of feedback interventions on performance: A historical review, a meta-analysis, and a preliminary feedback intervention theory. Psychological Bulletin, 119(2), 254–284. https://doi.org/10.1037/0033-2909.119.2.254
- #446 Hattie, J., & Timperley, H. (2007). The power of feedback. Review of Educational Research, 77(1), 81–112. https://doi.org/10.3102/003465430298487
- #448 Butler, R. (1988). Enhancing and undermining intrinsic motivation: The effects of task-involving and ego-involving evaluation on interest and performance. British Journal of Educational Psychology, 58(1), 1–14. https://doi.org/10.1111/j.2044-8279.1988.tb00874.x
- #450 Chen, P., Chavez, O., Ong, D. C., & Gunderson, B. (2017). Strategic resource use for learning: A self-administered intervention that guides self-reflection on effective resource use enhances academic performance. Psychological Science, 28(6), 774–785. https://doi.org/10.1177/0956797617696456
- #452 Soicher, R. N., & Gurung, R. A. R. (2017). Do exam wrappers increase metacognition and performance? A single course intervention. Psychology Learning & Teaching, 16(1), 64–73. https://doi.org/10.1177/1475725716661872
- #253 Zimmerman, B. J. (2002). Becoming a self-regulated learner: An overview. Theory Into Practice, 41(2), 64–70. https://doi.org/10.1207/s15430421tip4102_2 (考え方の紹介として言及のみ)