勉強法
先延ばし ── 「やらなきゃ」と思いながら手がつかないとき
一言で
やるべきだと分かっているのに、手をつけるのを遅らせてしまう。これを先延ばしと呼びます。 研究のまとめでは、先延ばしが起きやすい条件が見えています。課題を「いやだ」と感じる・締め切りが遠い・「できそうにない」と感じるときです。 減らすための練習やカウンセリングで先延ばしが減った、という研究のまとめもあります。この記事は「手がつかない」その瞬間に絞って書きます。1 週間の計画の立て方は 勉強の計画と部活の両立 にまとめました。
今日からやること
- 手がつかない課題を「最初の 5 分でやること」まで小さくする。「数学のワークをやる」ではなく「ワーク 34 ページの問 1 だけ解く」と紙に書き、それだけやる
- 始める合図を「〜したら」で決める。例「夕飯の食器を流しに置いたら、机でワークを開く」。開いたら 5 分で終えてもよい、と決めておく
- 「まだ大丈夫」と思ったら、数字で確かめる。提出日までの残り日数と、前回その課題にかかった日数を並べて書く
3 つとも、下の研究から考えた工夫です。この手順そのものを比べた実験ではありません。1 は Bandura & Schunk(1981)、2 は実行意図の研究、3 は小浜(2014)と計画錯誤の研究がもとです。
何が分かっているか
日本の研究
小浜(2014) ── 4 年制大学の学生 292 人への質問紙調査です。先延ばしのときに浮かぶ気持ちから、先延ばしを 3 つの型に分けました。
- 「やらなきゃ」といういやな気持ちがずっと続く先延ばし:学業への悪影響は見られなかった。ただし失敗を避けたい状況では、悪影響が出る可能性が示された
- 「まだ大丈夫」と状況を楽観する先延ばし:学業に悪影響があった
- 計画のうえで後に回す先延ばし:成績によい影響があった。著者は、気晴らしで課題の目標がはっきりするためと考えています
同じ「先延ばし」でも、型によって結果がちがったということです。関係を見た調査なので、型が成績の原因だとまでは言えません。
森田・福屋・舩越(2017) ── 中学生のテスト不安と勉強の行動の研究です。英語で調べた研究 2 では、「自分はやれる」という感覚(自己効力感)が低い群で、不安が高いほど先延ばしが多くなっていました。人数は要旨に無いので書きません。くわしくは やる気と「頭は伸びる」という考え方 で紹介しています。
小浜・吉田(2023) ── 2022 年度に筆記試験で大学を受けた人の調査です(学会発表)。第一志望に合格した 150 人と、不合格だった 150 人に答えてもらいました。
- 先延ばしのしやすさそのものは、合格者と不合格者で差が見られなかった
- 「勉強に集中できなかった」は不合格者のほうが高かった(5 段階で平均 3.66 と 3.23)
- 先延ばしの前後にいやな気持ちが出やすい人ほど、集中できない・焦る・自信が持てない、と答える傾向があった
著者は、先延ばしは間接に受験の出来に関わるのかもしれない、と考えています。査読つきの論文ではなく学会の発表要旨なので、参考程度に見てください。
井森・常川・片岡・伊藤・大屋(2021) ── 先延ばしの傾向がある大学生 47 人の実験です。60 分のプログラムを受ける群と、受けない群に振り分けました。ACT と呼ばれる心理療法にもとづくプログラムです。いやな気持ちを消そうとせず、大事にしたいことに向けて動く練習をします。 受けた群では、7 日間の課題の達成率と、先延ばしの質問紙の点の両方がよくなりました。一方、プログラムが働く仕組みと考えられた指標は変わっていません。
日本の中高生に「先延ばしを減らす方法」を割り当てて、成績まで比べた実験は、このページではまだ引けていません。ここから下は海外の研究です。
先延ばしはなぜ起きるか
Steel(2007) ── 先延ばしの研究をまとめたメタ分析(多くの研究結果を合算する研究)です。691 の相関を集めました。 先延ばしを強く、くり返し予測したのは次のものでした。
- 課題をいやだと感じること
- 締め切りまでが遠いこと
- 自己効力感が低いこと
- 衝動的なこと(目の前の楽しいことに引かれやすい)
- まじめさとその中身(自分を抑える力・気が散りやすさ・整理する力・やりとげたい気持ち)
一方、気分の落ちこみやすさ・反抗心・刺激を求める性格とは、弱いつながりしかありませんでした。「先延ばしは気が弱い人がするもの」という見方とは、合わない結果と考えられます。
先延ばしと成績
Kooren, van Nooijen & Paas(2024) ── 先延ばしと成績の関係をまとめたメタ分析です。96 本の論文・176 の相関・合わせて約 5 万 5 千人分です。 全体では、先延ばしと成績に控えめなマイナスの関係がありました。ただし先延ばしの種類で向きが変わりました。
- ただ遅らせてしまう先延ばし(受け身の先延ばし):小さなマイナス
- 締め切りの圧力を自分で選んで使う先延ばし(能動的な先延ばし):小さなプラス
相関の数値は要旨に無いので書きません。小浜(2014)の「計画のうえで後に回す型」と、似た結果です。
Tice & Baumeister(1997) ── 学生を学期を通して追った 2 つの研究です。先延ばしをする学生は、学期の初めはストレスも体調不良も少なめでした。ところが学期の終わりには、ストレスも体調不良も多くなりました。全体では体調を崩すことが多く、すべての課題で成績が低めでした。 著者は、先延ばしを「目先は楽で、あとで損をする行動」とまとめています。人数と国は要旨に無いので書きません。
先延ばしは減らせるか
van Eerde & Klingsieck(2018) ── 先延ばしを減らす介入のメタ分析です。24 研究・44 の効果・1,173 人分を集めました。 介入のあと、先延ばしは大きく減り、その後の追跡でも保たれていました。種類別では、認知行動療法(考え方のくせと行動の両方を練習で変える方法)が最も大きく減らしていました。介入の長さは、結果に関係していませんでした。 ここで減ったのは先延ばしの度合いです。成績まで変わったかは、要旨には書かれていません。
Owens, Bowman & Dill(2008) ── 大学生 152 人の実験です。半分の学生に「いつ・どこで実験に行くか」を前もって決めてもらいました(実行意図)。 決めた学生は、決めなかった学生より約 8 倍、約束どおり来やすかった(オッズ比)。先延ばし傾向の強い学生は、来た割合が 30.1% で、弱い学生は 49.4% でした。実行意図の差の出方に、先延ばし傾向の強さによるはっきりした違いは見られませんでした。 比べたのは「実験に来たか」で、勉強ではありません。実行意図の大きなまとめ(Gollwitzer & Sheeran 2006)は、勉強の計画と部活の両立 にあります。
Bandura & Schunk(1981) ── 算数が大の苦手で、興味もなかった子どもたちの実験です。自分で進める算数の学習を、3 つの条件で行いました。
- 近い小さな目標(1 回ごとにここまで)を立てる
- 遠い目標(全部でここまで)だけを立てる
- 目標なし
近い小さな目標の群は、早く進み、計算をしっかり身につけました。「できる」という感覚と、算数への興味も育っていました。遠い目標だけでは、はっきりした差は出ていません。学年と人数は要旨に無いので書きません。
「締め切りを区切ると先延ばしが減る」実験は撤回された
Ariely & Wertenbroch(2002) ── 自分で決めた締め切りと、人に決められた締め切りを比べた実験の論文です。 2026 年 9 月に、この論文は撤回されました(撤回通知の書誌で確認)。撤回の理由は、通知の本文を読めていないので書きません。この論文の結論は、根拠として使えません。
Hyndman & Bisin(2026) ── その中心の実験(研究 2)を、同じ雑誌でくり返した追試です。アメリカの大きな公立大学の大人が参加しました。 結果は、もとの論文を再現しませんでした。締め切りの決め方を変えても、もとの論文が使った3 つの出来の指標にはほとんど差が出ませんでした。外から決めた等間隔の締め切りが、先延ばしを減らす点で目立つこともありませんでした。
「締め切りを細かく区切ればよい」は、本やネットでよく見る助言です。ただ、その根拠に挙げられてきた実験は、今は根拠として使えません。区切ること自体に意味がないとまでは言えませんが、研究で確かめられた方法とは言いにくい状況です。
日本の中高生の勉強にあてはめると
ここの分数やページ数は一例です。上の研究から考えた使い方で、この形そのものを比べた研究ではありません。
定期テスト 2 週間前、ワークに手がつかない ── 「ワーク全部」は大きすぎます。Steel(2007)の言う「いやな課題」と「遠い締め切り」が重なると考えられます【推論】。 「今日は数学ワークの 1 ページ目だけ」と、近い小さな目標に切ります。Bandura & Schunk(1981)で差が出たのは、この「近い目標」のほうでした。
夏休みの課題を 8 月末まで残してしまう ── 小浜(2014)で学業に悪影響が出たのは、「まだ大丈夫」と楽観する型でした。 7 月中に課題ごとの量を書き出し、去年かかった日数を横に書きます。人は自分の作業時間を短く見積もりがちだからです(勉強の計画と部活の両立 の計画錯誤の研究)。
部活から帰って、ついスマホを見てしまう ── Steel(2007)では、気が散りやすいことも先延ばしを予測していました。始める前に、スマホを別の部屋に置くのが手です【推論】。置き場所の研究は スマホと勉強 にまとめました。
「やらなきゃ」と思うほど動けない ── 小浜・吉田(2023)の学会発表の結果です。先延ばしでいやな気持ちが出やすい人ほど、集中できないと答えていました。 井森ら(2021)のプログラムは、いやな気持ちを消すのではなく、気持ちがあるまま 1 つ動く練習でした。【推論】「気が重いけど、問 1 だけ」と、気持ちと行動を切り分けて考えると始めやすいと考えられます。
テストが不安で、かえって勉強を後回しにする ── 森田ら(2017)の中学生の結果です。自己効力感の低い群では、不安が高いほど先延ばしが多めでした。 確実に解ける問題を 1 つ解いてから、苦手な単元に移ります。不安そのものへの対処は 本番の緊張 にまとめました。
受験学年の秋、模試の判定が悪くて手が止まる ── 「全部やり直さないと」と考えると、課題が遠く大きくなります【推論】。次の模試までに解き直す単元を 2 つだけ決めます(やる気と「頭は伸びる」という考え方)。
公務員試験を受ける社会人 ── 仕事のあとは、何をやるか考えるだけで疲れます。「帰りの電車に乗ったら一問一答 10 問」と、始める合図と量を前の晩に決めておきます(公務員試験の学習計画)。
よくある誤解
「先延ばしは、なまけ者の性格だから直らない」 van Eerde & Klingsieck(2018)では、介入のあと先延ばしは大きく減り、追跡でも保たれていました。性格だけで決まるものではなく、練習で変えられる部分があります。
「先延ばしは全部ダメ」 Kooren ら(2024)では、締め切りの圧力を自分で選んで使う先延ばしは、成績と小さなプラスの関係でした。小浜(2014)でも、計画のうえで後に回す型は成績によい影響がありました。 問題になりやすいのは、「まだ大丈夫」と楽観して遅らせる型です。どちらも関係を見た研究なので、「わざと後回しにすれば伸びる」とは言えません。
「ギリギリのほうが集中できるから、自分はこれでいい」 Tice & Baumeister(1997)では、先延ばしをする学生は学期の初めは楽でした。しかし学期の終わりにストレスと体調不良が増え、成績は低めでした。「今は楽」と「最後まで楽」は別です。
「締め切りを細かく区切れば先延ばしは止まる、と研究で証明されている」 その代表的な実験(Ariely & Wertenbroch 2002)は、2026 年に撤回されました。追試(Hyndman & Bisin 2026)でも、締め切りの決め方で出来にほとんど差は出ていません。研究で支えがあるのは、むしろ「近い小さな目標」や「いつ・どこでやるかを決める」ほうです。
このサイトでの使い方
- 「最初の 5 分」を小テストにする。単元ページの小テストは 1 回 10 問です。「問 1 だけ」の代わりに「小テストを 1 回」が、近い小さな目標の単位になります
- いやな単元ほど、解説の「まずここだけ」から入る。例えば 二次方程式(因数分解・平方根・解の公式) なら、「まずここだけ」を読んで閉じ、小テストを 1 回解きます
- 間違えた型を翌日の「最初の 5 分」にする。次に開くと出る「前に間違えた型をやり直す」ボタンから始めると、何をやるか考えずに始められます(テスト効果)
- 英語は通学電車を合図にする。「電車に乗ったら be動詞(現在) の小テスト」のように、場所と行動を結びます
- 本番から逆算した大きな流れは、高校入試の日程・大学入試の日程・公務員試験の日程 で確かめられます
注意点
- ここで引いた日本の研究の対象は、大学生(小浜 2014・井森ら 2021)・中学生(森田ら 2017)・受験を終えた人(小浜・吉田 2023)です。中高生の受験勉強で、先延ばしを減らす方法を割り当てて比べた研究は、このページではまだ引けていません
- 介入のメタ分析(van Eerde & Klingsieck 2018)で減ったのは先延ばしの度合いです。成績まで変わったかは別に確かめる必要があります
- 「今日からやること」の 3 つは、研究から考えた工夫で、それ自体を実験で確かめたものではありません
- 何週間も、ほとんど何も手につかない・眠れない・気分が沈む状態が続くときは、先延ばしの問題ではないこともあります。学校の先生や保健室、医療機関に相談してください
引いた論文
番号は班別ファイル docs/参考文献ログ_追加_気持ち生活.md(#34 は docs/参考文献ログ.md、#301 は docs/参考文献ログ_追加_生活2.md)の #。すべて DOI を開いて書誌と要旨を確認しています。#465 は学会発表要旨(全文 1 ページ)で確認しました。#470 は撤回された論文で、撤回されたことを伝えるためだけに引いています。
- #464 小浜駿 (2014). 先延ばしのパターンと学業遂行および自己評価への志向性. 教育心理学研究, 62(4), 283–293. https://doi.org/10.5926/jjep.62.283
- #301 森田愛子・福屋いずみ・舩越咲 (2017). 中学生のテスト不安および自己効力感と学習行動との関連. 学校心理学研究, 17(1), 45–57. https://doi.org/10.24583/jjspedit.17.1_45
- #465 小浜駿・吉田恵理 (2023). 大学受験に及ぼす先延ばしの間接的影響. 日本教育心理学会第 65 回総会発表論文集, 179(学会発表). https://doi.org/10.20587/pamjaep.65.0_179
- #467 井森萌子・常川祐史・片岡沙耶・伊藤雅隆・大屋藍子 (2021). 大学生の先延ばしに対するアクセプタンス&コミットメント・セラピーの効果の検討. 認知行動療法研究, 47(1), 23–32. https://doi.org/10.24468/jjbct.20-011
- #461 Steel, P. (2007). The nature of procrastination: A meta-analytic and theoretical review of quintessential self-regulatory failure. Psychological Bulletin, 133(1), 65–94. https://doi.org/10.1037/0033-2909.133.1.65
- #462 Kooren, N. S., van Nooijen, C., & Paas, F. (2024). The influence of active and passive procrastination on academic performance: A meta-analysis. Education Sciences, 14(3), 323. https://doi.org/10.3390/educsci14030323
- #463 Tice, D. M., & Baumeister, R. F. (1997). Longitudinal study of procrastination, performance, stress, and health: The costs and benefits of dawdling. Psychological Science, 8(6), 454–458. https://doi.org/10.1111/j.1467-9280.1997.tb00460.x
- #466 van Eerde, W., & Klingsieck, K. B. (2018). Overcoming procrastination? A meta-analysis of intervention studies. Educational Research Review, 25, 73–85. https://doi.org/10.1016/j.edurev.2018.09.002
- #468 Owens, S. G., Bowman, C. G., & Dill, C. A. (2008). Overcoming procrastination: The effect of implementation intentions. Journal of Applied Social Psychology, 38(2), 366–384. https://doi.org/10.1111/j.1559-1816.2007.00309.x
- #34 Gollwitzer, P. M., & Sheeran, P. (2006). Implementation intentions and goal achievement: A meta-analysis of effects and processes. Advances in Experimental Social Psychology, 38, 69–119. https://doi.org/10.1016/S0065-2601(06)38002-1
- #469 Bandura, A., & Schunk, D. H. (1981). Cultivating competence, self-efficacy, and intrinsic interest through proximal self-motivation. Journal of Personality and Social Psychology, 41(3), 586–598. https://doi.org/10.1037/0022-3514.41.3.586
- #470 Ariely, D., & Wertenbroch, K. (2002). Procrastination, deadlines, and performance: Self-control by precommitment. Psychological Science, 13(3), 219–224. https://doi.org/10.1111/1467-9280.00441 (2026 年 9 月に撤回。撤回通知 https://doi.org/10.1177/09567976261488042 )
- #471 Hyndman, K., & Bisin, A. (2026). Replication of “Procrastination, deadlines, and performance: Self-control by precommitment”. Psychological Science, 37(8), 557–571. https://doi.org/10.1177/09567976261460772