勉強法
設問を先に読むか ── 長文・リスニングの「先読み」の研究
一言で
設問を先に見ると、問われたところは読みとりやすくなります。そのかわり、問われなかったところは伸びない、または下がることがある。これが読む前の質問の研究をまとめた総説の結論です。 リスニングのテストでは、日本の大学生で「先読みあり」の平均が高かった研究があります。一方で、平均に差が出なかった研究もあります。 研究の結論は、文章か音声か・時間に限りがあるか・どんな問いかで割れています。この記事では、割れたまま紹介します。
今日からやること
- リスニングは、音声の前に設問を読む。選択肢まで全部読みこむより、設問の「誰が・いつ・何を」に印をつけるところまで
- 長文は「設問をざっと 30 秒 → 本文を頭から → 設問に戻る」。設問の場所だけを拾い読みして答える解き方に頼りきらない
- 過去問 2 回分で「先読みあり」「なし」を解き比べる。点数と、解いていて焦ったかをメモして、自分の本番のやり方を決める
30 秒・2 回分などの数は、研究で決めた値ではなく目安です。
何が分かっているか
読む前の質問の研究のまとめ
Hamaker(1986) ── 文章に質問を添える研究(挿入質問)を集めた総説です。質問を読む前に置く研究(先行質問)と、読んだ後に置く研究の両方をふくみます。
- 質問と同じ問いがテストに出ると、成績は大きく上がりました
- 質問に関係する問いでは、上がり方が小さくなりました
- 読む時間をそろえた条件では、事実を問う先行質問は、質問と関係ない問いの成績を下げました
- 考えさせる種類の質問は、事実を問う質問より、関係ない「考えさせる問い」の成績も上でした
- 効果の大きさは文章の長さや質問の多さなどで変わり、読み手の年齢とは関係がありませんでした
入試は時間が決まっています。Hamaker の「読む時間をそろえた条件」に近い場面です(【推論】)。
先に問われると、問われなかったところはどうなるか
Carpenter & Toftness(2017) ── まず文章の研究を整理しています。先に問われなかった情報は、伸びないか下がることがある、という整理です。問われたところだけを選んで読むようになるためと考えられています。 この研究は教育動画で試しました。区切りごとに先に質問に答えた群は、質問なしの群より上でした。問われた情報でも問われなかった情報でも上です。 動画では、問われたところだけを選んで処理することが起きにくい。そう考えて動画で試した研究です。
Richland, Kornell & Kao(2009) ── 視覚についての説明文を読む実験です。読む前に、中の内容を問われました(答えられなくてよい)。比べたのは、同じ語を太字などで目立たせて長めに読む条件です。 5 つの実験すべてで、先に問われた条件のほうが後のテストで上でした。事前の問いに答えられなかった項目だけで比べても上でした。人数は要旨にありません。
Geller ら(2017) ── 大学の化学工学の実際の授業で試しました。授業の初めに、その日の内容の質問を 1 問出しています。 その日の終わりと週末の小テストで、先に出された問いと新しい問いに差はありませんでした。授業の終わりにテストした内容は、テストしなかった内容より週末に上でした。こちらは「思い出す練習」の効果です。
実験室では先に問うと上がり、教室では差が出なかった。条件で結論が割れている例です。
日本の中高生の読解
古本・松見(2009) ── 日本語の説明文を、中学生(分析 59 人)と大学生・院生(62 人)が読みました。比べたのは 3 つの条件です。
- 読む前に「文中に答えがある」質問を受ける
- 読む前に「推し量らないと答えられない」質問を受ける
- 質問なしで、そのぶん読む時間を長くする
直後と 2 週間後にテストしました。推し量る質問は、大学生で理解と再生をわずかに上げました(部分的で弱い傾向)。中学生ではその傾向は見られませんでした。 読む時間を長くすると、中学生も大学生も、文章の結論部分の理解が上でした。文章の冒頭部分の理解は、質問の種類にも読む時間にも左右されませんでした。 著者らは、中学生には文章の結論部分を問う質問を読む前に示すことが大切になりうる、と述べています。
Kimura(2011) ── 日本の高校生 99 人が英文を読みました。本文と同じページの質問に、読みながら答える形です。比べたのは質問なしで読んだ群です。 文字どおりを問う質問と、文と文をつなげて推し量る質問は、内容を思い出せる量を増やしました。直後でも後日でも同じです。知識を足して推し量る質問は、後日の再生だけを増やしました。 著者は、質問が難しい文章で特に役立ったとしています。
益川ら(2018) ── センター試験の国語を解いた高校生 18 人の、頭の中の言葉を記録した研究です。89% が、設問の順に本文の一部を読んでは答えていました。くわしくは 現代文の読み方 にあります。
リスニングテストの先読み
Sherman(1997) ── 78 人がリスニングテストを 4 通りで受けました。設問を先に見る・後に見る・2 回の聞きとりの間に見る(サンドイッチ)・設問なし、です。 正解がいちばん多かったのはサンドイッチでした。アンケートでは、受験者は先読みの設問に強い愛着を示しました。 著者のまとめは「先読みの設問は、実際よりも役に立つように感じられる」です。
Koyama, Sun & Ockey(2016) ── 日本の大学生 206 人の実験です。動画を使った選択式のリスニングテストでした。
- 比べたもの:設問と選択肢を先に見る(67 人)・設問だけ先に見る(70 人)・先読みなし(69 人)
- 結果(本文の平均・41 点満点):31.27 点・30.43 点・28.13 点
- 先読みあり 2 群は、なしより有意に高い点でした。設問と選択肢・設問だけの 2 群には、有意な差がありませんでした
- 聞きとりが得意な人と苦手な人で、先読みの影響に差はありませんでした
- 問題ごとに見ると、先読みで予想より難しくなった問いや、やさしくなった問いもありました
Iimura(2010) ── 日本の大学生 40 人が、4 つの形式で選択式のリスニングを受けました。全部先読み・設問だけ・選択肢だけ・なし、です。 形式による差は大きくなく、有意だったのは「全部先読み」と「なし」の差だけでした。本文の平均は 13 点満点で 10.10・10.05・9.75・9.33 点です。全体に点が高く、差が出にくかった可能性を著者は指摘しています。 受験者は、全部先読みできる形式でも、設問だけを先に見たがっていました。
Shizuka(2010) ── 日本の大学生・院生 64 人の実験です。TOEIC の Part 4 型の問題を 30 問解きました。「設問を先に読んで聞きながら答える」と「先読みせず聞いてから答える」の比較です。 平均点に有意な差はありませんでした。ただし問題ごとの難しさや、測っている力の中身は変わっていました。 受験者は全員が先読みを好みましたが、聞きながら答えることには意見が割れました。
日本の中高生の勉強にあてはめると
ここからは研究からの【推論】です。
共通テストの英語リスニング
形式は 100 点・解答 30 分で、第 1・2 問は 2 回、第 3〜6 問は 1 回だけ流れます(令和 7 年度。最新は大学入試センターの公表資料で確かめてください)。大問ごとの聞き方は 共通テスト リスニングの型 にまとめています。
- 日本の大学生の 3 研究で、先読みありの平均がなしより低かったものはありません。Koyama ら・Iimura では高め、Shizuka では差なしでした
- 一方、差は 41 点満点で 2〜3 点、13 点満点で 1 点未満でした。先読みは「大きく点が変わる技」ではなく、落ち着いて聞くための準備と考えるのが研究と合います
- 設問だけ・設問と選択肢の両方で、平均に有意な差はありませんでした(Koyama ら)。時間がないときは、選択肢より設問を優先します
- 2 回流れる第 1・2 問は、Sherman の「サンドイッチ」に近い形にできます。1 回目で答え、2 回目の前に設問を見直して確かめます
共通テストの英語リーディング・高校入試の長文
- Hamaker のとおり、事実を問う設問を先に見ると、その設問に関係ないところは弱くなる可能性があります。長文の最後には、全体の内容や題名を問う設問が置かれることがあります
- そこで「設問を全部ざっと見る」ところまでにします。1 問ずつ設問の場所だけを拾う解き方は、全体を問う設問で迷いやすいと考えられます(益川らの部分読みの話)
- Kimura の高校生では、読みながら質問に答えると、内容がよく残りました。本番では、段落を読むごとに関係する設問に答えていくやり方が、これに近い形です
- 読み方の型は 長文読解の型(中学)・共通テスト リーディングの型(高校)にあります
国語の評論・説明文
- 古本・松見の中学生では、推し量る質問を先に見ても差が見られず、読む時間を長くとるほうが結論部分の理解が上でした
- 中学生の国語の長文は、設問を見る時間を短くして、本文を読む時間に回すほうが研究と合います。設問を見るのは「何を問われているか」をつかむ程度にします
- 評論の読み方は 現代文の読み方 と 評論の読み方 へ
自分のやり方の決め方
Sherman の受験者は、先読みを実際の効果より高く感じていました。Shizuka の受験者も、全員が先読みを好んだのに平均点は変わりませんでした。 「先読みしたほうが安心する」と「点が上がる」は別です。過去問で両方のやり方を試し、点数で決めると研究の結果に沿います。過去問の回し方は 過去問の使い方 にあります。
よくある誤解
「先読みすれば点が上がる」 日本の大学生の研究で、平均が高かったもの(Koyama ら)と、差がなかったもの(Shizuka)があります。Sherman は、先読みは実際より役に立つように感じられる、とまとめています。「上がることがある」が研究に合った言い方です。
「設問を読めば、本文は該当するところだけ読めばいい」 Hamaker の総説では、読む時間が決まっていると、先に問われなかったところの成績が下がりました。益川らの高校生も、設問ごとに一部を読む解き方で、本文全体の理解をふまえた読み方は起きていませんでした。
「選択肢まで全部先に読むほど有利」 Koyama らでは、設問だけと設問+選択肢の平均に有意な差がありませんでした。Iimura の受験者も、設問だけを先に見たがっていました。全部を読みこもうとして音声の始まりに焦るより、設問の要点をつかむほうが現実的です。
「先読みはずるい解き方」 リスニングのテストを作る研究者の間でも、先読みを許すかどうかは議論が続いています(Koyama らの論文の前置き)。共通テストの問題冊子には、設問と選択肢が印刷されています。使える情報を使うのは、ずるではありません。
このサイトでの使い方
- リスニングは 共通テスト リスニングの型 で、大問ごとに何を先に見るかを確かめます。聞く力そのものの練習は リスニングの練習 へ
- 長文は 長文読解の型・パラグラフリーディング で段落の役割をつかむ練習をします。先に設問を見ても、本文全体の流れを追う力が別に要ります
- 読むのが遅くて時間が足りない人は 速読は本当か、グラフつきの問題は グラフと資料の読み方 へ
- 本番の焦りへの備えは 本番の緊張 にあります
注意点
- 日本人を対象にしたリスニングの研究(Koyama ら・Iimura・Shizuka)は、どれも大学生です。日本の中高生で先読みの有無を比べた研究は、このページではまだ引けていません
- リーディングで設問の先読みの有無そのものを比べた日本の研究も、このページではまだ引けていません。Kimura(2011)は「読みながら答える」、古本・松見(2009)は「読む前の質問か、読む時間か」の比較です
- Hamaker(1986)は 40 年前の総説で、多くは英語圏の大人の研究です
- Richland ら・Carpenter & Toftness・Geller らが測ったのは「後で覚えているか」です。試験中の点数ではありません
- 共通テストの形式は年度で変わります。ここの数字は令和 7 年度のものです
引いた論文
番号は docs/参考文献ログ_追加_読み方.md(#511〜#520)と docs/参考文献ログ.md(#430)の #。すべて DOI を開いて書誌と要旨を確認しています。Koyama ら(2016)と Iimura(2010)の平均点、古本・松見(2009)と Kimura(2011)の人数と手順は本文 PDF で確かめました。
- #511 Hamaker, C. (1986). The effects of adjunct questions on prose learning. Review of Educational Research, 56(2), 212–242. https://doi.org/10.3102/00346543056002212
- #513 Carpenter, S. K., & Toftness, A. R. (2017). The effect of prequestions on learning from video presentations. Journal of Applied Research in Memory and Cognition, 6(1), 104–109. https://doi.org/10.1016/j.jarmac.2016.07.014
- #512 Richland, L. E., Kornell, N., & Kao, L. S. (2009). The pretesting effect: Do unsuccessful retrieval attempts enhance learning? Journal of Experimental Psychology: Applied, 15(3), 243–257. https://doi.org/10.1037/a0016496
- #514 Geller, J., Carpenter, S. K., Lamm, M. H., Rahman, S., Armstrong, P. I., & Coffman, C. R. (2017). Prequestions do not enhance the benefits of retrieval in a STEM classroom. Cognitive Research: Principles and Implications, 2(1), 42. https://doi.org/10.1186/s41235-017-0078-z
- #515 古本裕美・松見法男 (2009). 読解前の質問と読解時間が説明文の理解・記憶に及ぼす影響 ── 中学生と大学生の比較. 読書科学, 52(2), 49–59. https://doi.org/10.19011/sor.52.2_49
- #516 Kimura, Y. (2011). Questions in English reading tests for facilitating EFL learners’ reading comprehension. JLTA Journal, 14, 21–39. https://doi.org/10.20622/jltajournal.14.0_21
- #430 益川弘如・白水始・根本紘志・一柳智紀・北澤武・河﨑美保 (2018). 思考発話法を用いた多肢選択式問題の解決プロセスの解明 ―大学入試センター試験問題の国語既出問題を活用して―. 日本テスト学会誌, 14(1), 51–70. https://doi.org/10.24690/jart.14.1_51
- #517 Sherman, J. (1997). The effect of question preview in listening comprehension tests. Language Testing, 14(2), 185–213. https://doi.org/10.1177/026553229701400204
- #518 Koyama, D., Sun, A., & Ockey, G. J. (2016). The effects of item preview on video-based multiple-choice listening assessments. Language Learning & Technology, 20(1), 148–165. https://doi.org/10.64152/10125/44450
- #519 Iimura, H. (2010). Factors affecting listening performance on multiple-choice tests: The effects of stem/option preview and text characteristics. Language Education & Technology, 47, 17–36. https://doi.org/10.24539/let.47.0_17
- #520 Shizuka, T. (2010). The influence of adopting different strategies when answering TOEIC(R) listening items. JLTA Journal Kiyo, 13, 71–90. https://doi.org/10.20622/jltaj.13.0_71