勉強法
「最初の答えは変えるな」は本当か ── 見直しで答えを変えたときの研究
一言で
「迷ったら最初の答えのまま」という言い伝えは、研究ではあまり支持されていません。 選択式のテストで考え直して変えた答えは、誤りから正解に変わった数のほうが多いという結果が、何十年もくり返し出ています。 ただし「何となく不安だから変える」がよいわけではありません。解いている最中に自信のない問題に印をつけ、見直しでは理由が見つかったときに変える。研究から考えられる使い方はこの形です。
今日からやること
- 解きながら、自信のない問題の番号に「△」をつける。迷った時間で決めず、選んだ瞬間の手ごたえで印をつけます。次の定期テストから始められます
- 見直しは「△の問題」と「マークのずれ」から。全部を頭から読み直すより先に、印の問題を読み直します。共通テストの模試なら、最後の 5 分をここに使います
- 変えるのは「理由を言えるとき」だけ。「問題文の条件を読み落としていた」「計算をし直したら違った」のように、変える理由を 1 行で言えるときに変えます
3 つとも、下の研究から考えた段取りです。この手順そのものを実験で比べたわけではありません。1 は Couchman ら(2016)、3 は McMorris ら(1987)をもとにしています。
何が分かっているか
日本の高校生のデータ
安野(2022) ── 国立教育政策研究所の研究者による報告です。2019 年に、県立高校 4 校(3 県)の高校生にタブレットで数学の問題を解いてもらいました。調べたのは、選択肢ではなく式や数を手書きで書く短答式の解答欄です。答えを書き直した記録を、あとから調べています。
- 分析した解答欄 568 のうち、無解答は 109(19.2%)、1 回書いて変えなかったのは 376(66.2%)でした
- 書いた回数の合計 562 回のうち、答えを変えた書き直しは 103 回(18.3%)でした
- 正解から誤りに変えた例は 5 例ありました。どれも最初に書いた答えが正解でした
- 最後の答えの正解の割合は、1 回だけ書いた欄で 42.3%、1 回書き直した欄で 36.4% でした。書き直した欄のほうが高い、という結果ではありません。書き直すのは迷った問題が多いはずなので、単純には比べられません
- 答えを変えるまでの間は、3 分以内が 8 割を超えていました
- 著者は、前の問題に戻って答えを変えることはそれほど多くない、と推察しています。選択式でも同じ分析が必要だとしています
分析した生徒は 55 人と少なく、誤→正に変えた数は本文で数えていません。この報告だけで「変えたほうが得か」は言えません。数字は PDF の本文(表 2・表 3)で確かめたものです。
日本の中高生の選択式テストで、答えを変えた得失を調べた研究は、このページではまだ引けていません。ここから下は海外の研究です。
答えを変えた結果をまとめた研究
Benjamin, Cavell & Shallenberger(1984) ── 33 の研究をまとめた総説です。どれも答えの書き直しを調べた研究です。結論は 3 つでした。
- 書き直しの多くは、誤りから正解への変更だった
- 答えを変えた学生の多くは、それで点数が上がっていた
- ほとんどの受験者が、どこかで答えを変えていた
Pagni ら(2017) ── アメリカの歯学部 1 年生 160 人の記録です。7 回の試験をパソコンで受け、答えを変えた操作がすべて残る仕組みでした。本人の記憶や消しゴムの跡に頼らずに調べられます。 1 人あたり平均 26.55 問で答えを変えていました。変えた答えの約 65% が誤→正、正→誤は 10% あまりでした。差し引きで 2 問以上得をした学生が 99.4% で、点が増えなかったのは 1 人だけです。
Merry, Elenchin & Surma(2021) ── 大学の生理学・生物学の授業の研究です。採点済みの答案で、消しゴムの跡を数えました。2 回の試験で、誤→正は平均 2.8 回、正→誤は平均 1.0 回でした。 同じ研究で教員と学生に意見も聞いています。教員で最も多かったのは「変えると点が下がる」という考えで、36% でした。 もう 1 つ大事な結果があります。1 回目の試験で変えて得をしたかどうかは、2 回目の得失を予測しませんでした。
Vispoel(1998) ── パソコンで受ける語彙(ことば)のテストで、見直しを許す条件と許さない条件を比べました。
- 見直しで変えた答えは全体の 5.23% と少なかった
- 誤→正は正→誤の 2.92 倍あった
- 66.5% の人が、少なくとも 1 問は答えを変えた
- 力の高い人ほど、見直しで得をしていた
- 一方で、見直しを許した条件と許さない条件で、測った力に有意な差は出なかった。見直しを許すと、試験時間は 41% 延びた
Al-Hamly & Coombe(2005) ── 英語を外国語として学ぶ学生の研究です。クウェート大学とドバイの大学の 286 人が、英語力の選択式テストを受けました。文法・穴うめ・語彙・読解の問題です。 著者の結論は「元の答えをよく調べ直し、よりもっともらしい選択肢が見つかったら変えてよい」です。答えを変えるのは損だという昔からの見方に、とらわれないよう勧めています。問題の難しさと書き直しの関係も調べていますが、その中身と数字は要旨に無いので書きません。
なぜ「変えると損」と感じるのか
Kruger, Wirtz & Miller(2005) ── 答えを変えないほうがよい、と多くの人は信じています。ところが、この分野の研究のほぼすべてが逆の結果を示している、と著者は書いています。 理由として示したのが、後悔の記憶の残り方の違いです。正しかった答えを変えて間違えると、「変えなければよかった」と強く悔やみます。変えずに間違えたときの悔しさは、それより小さい。だから前者ばかりが記憶に残り、「最初の答えが正しい」という思いこみが強まる、という説明です。
「変えないほうがよい」場合もある
Couchman ら(2016) ── 大学生が本物の選択式の試験を受ける 2 つの研究です。1 問ごとに、答えた瞬間の自信を記録してもらいました。 試験が終わったあとの「できた気がする」という感想は、実際の点とあまり合いませんでした。一方、1 問ごとにその場でつけた自信は、正解かどうかをよく言い当てていました。 答えを変えた場合も、変えずに残した場合も、正解になる数のほうが多い結果でした。どちらを選ぶべきかは、その場の自信が手がかりになった、と著者はまとめています。
変えた理由と、「変えてよい」と教わったとき
McMorris, DeMers & Schwarz(1987) ── 大学院の 6 クラスの研究です。答えの書き直しの研究結果を先に教えました。そのうえで 3 回の試験を受けてもらっています。教えたあとも平均で得をしていました。得の出方も変える量も、教わっていない集団を調べた過去の研究と同じくらいでした。 変えた理由で最も多かったのは「問題を考え直して、よりよい答えを思いついた」でした。次が「問題を読み直して、意味が分かった」です。「記入の間違い」もありました。よく挙がった理由のどれでも、誤→正のほうが多くなっていました。
Bauer, Kopp & Fischer(2007) ── ドイツの医学部 3 年生 79 人を、くじで 2 つに分けました。41 人には試験の前に「よく考えて迷ったら変えてよい」と伝え、38 人には何も伝えません。 伝えた群は、答えを変える回数が有意に多くなりました。点数も伝えた群が高めでしたが、点の伸びの差は有意ではありませんでした。
日本の中高生の勉強にあてはめると
定期テスト(中学・高校) ── 記号で選ぶ問題と、語句や式を書く問題が混ざっています。解きながら、迷った問題の番号に △ をつけます。最後の 10 分は、△ の問題の問題文を読み直すことに使います。【推論】Couchman ら(2016)の「その場の自信」を、紙の上に残しておく工夫です。
共通テスト(マーク式) ── 英語リーディングは 80 分、数学は 1 科目 70 分です(共通テストの時間割)。マーク式では、答えの中身より先にマークのずれを確かめます。1 問ずれると、そのあとが全部ずれるからです。McMorris ら(1987)でも、記入の間違いが変える理由の 1 つでした。 マークを変えるときは、前のマークが残らないようにきれいに消します。
高校入試の記述・国公立大の二次試験 ── 式や数を書く数学の問題では、書き直さなかった欄が 3 分の 2 でした(安野 2022)。記述式の見直しは、選びなおすより点を落とすところを探す時間です。たとえば次の 3 つです。
- 計算の写し間違い(途中式から答えに写すところ)
- 問題文の条件(「正の数」「整数」「最も小さい」など)の読み落とし
- 単位や答え方(「〜を求めよ」と「〜を示せ」の取りちがえ)
【推論】これは研究で比べた順番ではなく、記述式の見直しの段取りの一例です。
計算の確かめ方(代入・展開・見積もり)は 計算ミスと見直し にまとめています。
英語の長文問題 ── 英語の選択式で迷った問題は、本文に戻って根拠の 1 文を探してから決めます。Al-Hamly & Coombe(2005)の結論を、長文問題に置きかえた形です【推論】。根拠の文に線を引けたら変えます。見つからなければ、最初の答えのままにします。
見直しの時間の配り方(一例) ── 研究で決まった配分はありません。ここでは「全問に一度答える → △ の問題 → マーク」の順を、時間の目安にした一例を示します【推論】。
| 試験 | 時間 | 一度目に全部答える | △ の読み直し | マーク・写し間違いの確認 |
|---|---|---|---|---|
| 共通テスト 数学(1 科目) | 70 分 | 60 分まで | 7 分 | 3 分 |
| 共通テスト 英語リーディング | 80 分 | 72 分まで | 5 分 | 3 分 |
| 国家一般職 基礎能力試験 | 110 分 | 95 分まで | 10 分 | 5 分 |
分数は目安です。模試で 1 回試して、時間が足りなければ「△ の読み直し」を先に削ります。マークの確認は最後まで残します。McMorris ら(1987)でも、記入の間違いは変える理由の 1 つでした。
公務員試験(多肢選択式) ── 国家一般職の基礎能力試験は 30 題を 1 時間 50 分で解きます。1 題あたり 3 分 40 秒ほどです(出題科目と配点)。数的推理や判断推理で詰まった問題は、△ をつけて先へ進みます。全体を解いてから戻ると、読み直しで条件に気づくことがあります【推論】。Vispoel(1998)では、見直しを許すと試験時間が 41% 延びました。時間のかかる問題に戻るのは、全問に一度答えてからにします【推論】。
模試が返ってきたとき ── 答えを変えた問題に、問題用紙で印をつけておくと、あとで数えられます。「誤→正」と「正→誤」を数えると、自分の見直しのくせが見えます。ただし Merry ら(2021)のように、1 回分の結果は次の回を予測しないこともあります。数回分をためてから判断します。
よくある誤解
「最初の答えは直感だから、正しいことが多い」 33 研究をまとめた総説(Benjamin ら 1984)でも、その後の研究でも結果は同じ向きです。考え直して変えた答えは、誤→正が多くなっていました。「変えて損した」記憶が強く残るのは、後悔の残り方の違いだという説明があります(Kruger ら 2005)。
「迷ったら、とにかく変えたほうが得」 そこまでは言えません。Couchman ら(2016)では、変えずに残した答えも正解のほうが多い結果でした。変えた答えの研究は「考え直して変えた」場合の結果です。理由のない変更まで勧めるものではありません。
「見直しの時間を長くとるほど、点が伸びる」 Vispoel(1998)では、見直しを許した条件と許さない条件で、測った力に有意な差は出ませんでした。変えた答えも全体の 5% ほどです。見直しは全部を解き終えてからの「仕上げ」で、解く時間を削ってまで確保するものではない、と考えられます【推論】。
「見直しでは、全部の問題を最初から解き直す」 時間があればそれもできますが、研究で答えが変わったのは一部の問題です。Vispoel(1998)では変えた答えは全体の 5.23%、安野(2022)の数学でも、書いた回数のうち答えを変えたのは 18.3% でした。Couchman ら(2016)では、その場の自信が正解かどうかをよく言い当てていました。限られた時間なら、△ をつけた問題から読み直すほうが無駄が少ないと考えられます【推論】。
「変えてよいと教われば、点が上がる」 Bauer ら(2007)では、教わった群は答えを多く変えましたが、点の伸びの差は有意ではありませんでした。考え方を知るだけで点が変わる、とまでは言えません。
このサイトでの使い方
- 小テストで「自信の印」の練習をする。基礎 10 問を解くとき、答え合わせの前に紙へ ◎・○・△ を書きます。終わったら、△ の正解の割合と ◎ の正解の割合を比べます。自分の手ごたえがどれくらい当たるかが分かります
- 公務員試験は模擬テストで時間の感覚をつかむ。公務員試験 模擬テスト は右上に経過時間が出ます。ただ、1 問ごとに答え合わせが出るので、本番の「最後にまとめて見直す」練習にはなりません。見直しの練習は、紙の過去問で通して解くときに行います(過去問の使い方)
- 間違えた問題は、変えたかどうかも記録する。間違いノート に「最初は正解だったのに変えた」「迷って変えなかった」を書き分けると、自分のくせが数えられます
- 本番前の緊張については 本番の緊張 を、前日の過ごし方は 睡眠と一夜漬け を見てください
例:二次方程式 の小テストで、解の公式の計算に △ をつけたとします。答え合わせで △ の問題だけ間違えていたら、手ごたえは当たっています。△ なのに正解が多いなら、迷っても答えを残してよい場面が多い、という目安になります。
注意点
- ここで引いた研究の多くは、アメリカやドイツの大学生・医学部生・歯学部生です。日本の中高生の選択式テストで、答えを変えた得失を調べた研究は、このページではまだ引けていません
- 研究の多くは「答えを変えた記録」を後から数えたもので、くじで「変える/変えない」を割り当てた実験ではありません。考え直す力の高い人ほど変えて得をしている、という見方もできます(Vispoel 1998 では力の高い人ほど得をしていた)
- 安野(2022)は数学の短答式(式や数を書く問題)で、分析した人数も少ない報告です。選択式の結果とは分けて読んでください
- 試験の時間や出題数は年度で変わります。最新は各試験の受験案内・実施要項で確認してください(時間は 2026 年 9 月時点のサイト内の制度ページによる)
引いた論文
番号は班別ファイル docs/参考文献ログ_追加_本番2.md の #。DOI を開いて書誌を確認し、要旨(ERIC の要旨を含む)または本文で内容を確かめています。
- #379 安野史子 (2022). タブレット端末利用型CBTによる時系列解答データログ分析の一考察. 大学入試研究ジャーナル, 32, 29–34. https://doi.org/10.57513/dncjournal.32.0_29
- #372 Benjamin, L. T., Jr., Cavell, T. A., & Shallenberger, W. R., III (1984). Staying with initial answers on objective tests: Is it a myth? Teaching of Psychology, 11, 133–141. https://doi.org/10.1177/009862838401100303
- #376 Pagni, S. E., Bak, A. G., Eisen, S. E., Murphy, J. L., Finkelman, M. D., & Kugel, G. (2017). The benefit of a switch: Answer-changing on multiple-choice exams by first-year dental students. Journal of Dental Education, 81, 110–115. https://doi.org/10.1002/j.0022-0337.2017.81.1.tb06253.x
- #375 Merry, J. W., Elenchin, M. K., & Surma, R. N. (2021). Should students change their answers on multiple choice questions? Advances in Physiology Education, 45, 182–190. https://doi.org/10.1152/advan.00090.2020
- #377 Vispoel, W. P. (1998). Reviewing and changing answers on computer-adaptive and self-adaptive vocabulary tests. Journal of Educational Measurement, 35, 328–345. https://doi.org/10.1111/j.1745-3984.1998.tb00542.x
- #371 Kruger, J., Wirtz, D., & Miller, D. T. (2005). Counterfactual thinking and the first instinct fallacy. Journal of Personality and Social Psychology, 88, 725–735. https://doi.org/10.1037/0022-3514.88.5.725
- #374 Couchman, J. J., Miller, N. E., Zmuda, S. J., Feather, K., & Schwartzmeyer, T. (2016). The instinct fallacy: The metacognition of answering and revising during college exams. Metacognition and Learning, 11, 171–185. https://doi.org/10.1007/s11409-015-9140-8
- #378 McMorris, R. F., DeMers, L. P., & Schwarz, S. P. (1987). Attitudes, behaviors, and reasons for changing responses following answer-changing instruction. Journal of Educational Measurement, 24, 131–143. https://doi.org/10.1111/j.1745-3984.1987.tb00269.x
- #380 Al-Hamly, M., & Coombe, C. (2005). To change or not to change: Investigating the value of MCQ answer changing for Gulf Arab students. Language Testing, 22, 509–531. https://doi.org/10.1191/0265532205lt317oa
- #373 Bauer, D., Kopp, V., & Fischer, M. R. (2007). Answer changing in multiple choice assessment: Change that answer when in doubt – and spread the word! BMC Medical Education, 7, 28. https://doi.org/10.1186/1472-6920-7-28