勉強法

更新 2026-10-04 / 引用した論文はすべて DOI を確認しています

「最初の答えは変えるな」は本当か ── 見直しで答えを変えたときの研究

一言で

「迷ったら最初の答えのまま」という言い伝えは、研究ではあまり支持されていません。 選択式のテストで考え直して変えた答えは、誤りから正解に変わった数のほうが多いという結果が、何十年もくり返し出ています。 ただし「何となく不安だから変える」がよいわけではありません。解いている最中に自信のない問題に印をつけ、見直しでは理由が見つかったときに変える。研究から考えられる使い方はこの形です。

今日からやること

  1. 解きながら、自信のない問題の番号に「△」をつける。迷った時間で決めず、選んだ瞬間の手ごたえで印をつけます。次の定期テストから始められます
  2. 見直しは「△の問題」と「マークのずれ」から。全部を頭から読み直すより先に、印の問題を読み直します。共通テストの模試なら、最後の 5 分をここに使います
  3. 変えるのは「理由を言えるとき」だけ。「問題文の条件を読み落としていた」「計算をし直したら違った」のように、変える理由を 1 行で言えるときに変えます

3 つとも、下の研究から考えた段取りです。この手順そのものを実験で比べたわけではありません。1 は Couchman ら(2016)、3 は McMorris ら(1987)をもとにしています。

何が分かっているか

日本の高校生のデータ

安野(2022) ── 国立教育政策研究所の研究者による報告です。2019 年に、県立高校 4 校(3 県)の高校生にタブレットで数学の問題を解いてもらいました。調べたのは、選択肢ではなく式や数を手書きで書く短答式の解答欄です。答えを書き直した記録を、あとから調べています。

分析した生徒は 55 人と少なく、誤→正に変えた数は本文で数えていません。この報告だけで「変えたほうが得か」は言えません。数字は PDF の本文(表 2・表 3)で確かめたものです。

日本の中高生の選択式テストで、答えを変えた得失を調べた研究は、このページではまだ引けていません。ここから下は海外の研究です。

答えを変えた結果をまとめた研究

Benjamin, Cavell & Shallenberger(1984) ── 33 の研究をまとめた総説です。どれも答えの書き直しを調べた研究です。結論は 3 つでした。

Pagni ら(2017) ── アメリカの歯学部 1 年生 160 人の記録です。7 回の試験をパソコンで受け、答えを変えた操作がすべて残る仕組みでした。本人の記憶や消しゴムの跡に頼らずに調べられます。 1 人あたり平均 26.55 問で答えを変えていました。変えた答えの約 65% が誤→正、正→誤は 10% あまりでした。差し引きで 2 問以上得をした学生が 99.4% で、点が増えなかったのは 1 人だけです。

Merry, Elenchin & Surma(2021) ── 大学の生理学・生物学の授業の研究です。採点済みの答案で、消しゴムの跡を数えました。2 回の試験で、誤→正は平均 2.8 回、正→誤は平均 1.0 回でした。 同じ研究で教員と学生に意見も聞いています。教員で最も多かったのは「変えると点が下がる」という考えで、36% でした。 もう 1 つ大事な結果があります。1 回目の試験で変えて得をしたかどうかは、2 回目の得失を予測しませんでした。

Vispoel(1998) ── パソコンで受ける語彙(ことば)のテストで、見直しを許す条件と許さない条件を比べました。

Al-Hamly & Coombe(2005) ── 英語を外国語として学ぶ学生の研究です。クウェート大学とドバイの大学の 286 人が、英語力の選択式テストを受けました。文法・穴うめ・語彙・読解の問題です。 著者の結論は「元の答えをよく調べ直し、よりもっともらしい選択肢が見つかったら変えてよい」です。答えを変えるのは損だという昔からの見方に、とらわれないよう勧めています。問題の難しさと書き直しの関係も調べていますが、その中身と数字は要旨に無いので書きません。

なぜ「変えると損」と感じるのか

Kruger, Wirtz & Miller(2005) ── 答えを変えないほうがよい、と多くの人は信じています。ところが、この分野の研究のほぼすべてが逆の結果を示している、と著者は書いています。 理由として示したのが、後悔の記憶の残り方の違いです。正しかった答えを変えて間違えると、「変えなければよかった」と強く悔やみます。変えずに間違えたときの悔しさは、それより小さい。だから前者ばかりが記憶に残り、「最初の答えが正しい」という思いこみが強まる、という説明です。

「変えないほうがよい」場合もある

Couchman ら(2016) ── 大学生が本物の選択式の試験を受ける 2 つの研究です。1 問ごとに、答えた瞬間の自信を記録してもらいました。 試験が終わったあとの「できた気がする」という感想は、実際の点とあまり合いませんでした。一方、1 問ごとにその場でつけた自信は、正解かどうかをよく言い当てていました。 答えを変えた場合も、変えずに残した場合も、正解になる数のほうが多い結果でした。どちらを選ぶべきかは、その場の自信が手がかりになった、と著者はまとめています。

変えた理由と、「変えてよい」と教わったとき

McMorris, DeMers & Schwarz(1987) ── 大学院の 6 クラスの研究です。答えの書き直しの研究結果を先に教えました。そのうえで 3 回の試験を受けてもらっています。教えたあとも平均で得をしていました。得の出方も変える量も、教わっていない集団を調べた過去の研究と同じくらいでした。 変えた理由で最も多かったのは「問題を考え直して、よりよい答えを思いついた」でした。次が「問題を読み直して、意味が分かった」です。「記入の間違い」もありました。よく挙がった理由のどれでも、誤→正のほうが多くなっていました。

Bauer, Kopp & Fischer(2007) ── ドイツの医学部 3 年生 79 人を、くじで 2 つに分けました。41 人には試験の前に「よく考えて迷ったら変えてよい」と伝え、38 人には何も伝えません。 伝えた群は、答えを変える回数が有意に多くなりました。点数も伝えた群が高めでしたが、点の伸びの差は有意ではありませんでした。

日本の中高生の勉強にあてはめると

定期テスト(中学・高校) ── 記号で選ぶ問題と、語句や式を書く問題が混ざっています。解きながら、迷った問題の番号に △ をつけます。最後の 10 分は、△ の問題の問題文を読み直すことに使います。【推論】Couchman ら(2016)の「その場の自信」を、紙の上に残しておく工夫です。

共通テスト(マーク式) ── 英語リーディングは 80 分、数学は 1 科目 70 分です(共通テストの時間割)。マーク式では、答えの中身より先にマークのずれを確かめます。1 問ずれると、そのあとが全部ずれるからです。McMorris ら(1987)でも、記入の間違いが変える理由の 1 つでした。 マークを変えるときは、前のマークが残らないようにきれいに消します。

高校入試の記述・国公立大の二次試験 ── 式や数を書く数学の問題では、書き直さなかった欄が 3 分の 2 でした(安野 2022)。記述式の見直しは、選びなおすより点を落とすところを探す時間です。たとえば次の 3 つです。

【推論】これは研究で比べた順番ではなく、記述式の見直しの段取りの一例です。

計算の確かめ方(代入・展開・見積もり)は 計算ミスと見直し にまとめています。

英語の長文問題 ── 英語の選択式で迷った問題は、本文に戻って根拠の 1 文を探してから決めます。Al-Hamly & Coombe(2005)の結論を、長文問題に置きかえた形です【推論】。根拠の文に線を引けたら変えます。見つからなければ、最初の答えのままにします。

見直しの時間の配り方(一例) ── 研究で決まった配分はありません。ここでは「全問に一度答える → △ の問題 → マーク」の順を、時間の目安にした一例を示します【推論】。

試験時間一度目に全部答える△ の読み直しマーク・写し間違いの確認
共通テスト 数学(1 科目)70 分60 分まで7 分3 分
共通テスト 英語リーディング80 分72 分まで5 分3 分
国家一般職 基礎能力試験110 分95 分まで10 分5 分

分数は目安です。模試で 1 回試して、時間が足りなければ「△ の読み直し」を先に削ります。マークの確認は最後まで残します。McMorris ら(1987)でも、記入の間違いは変える理由の 1 つでした。

公務員試験(多肢選択式) ── 国家一般職の基礎能力試験は 30 題を 1 時間 50 分で解きます。1 題あたり 3 分 40 秒ほどです(出題科目と配点)。数的推理や判断推理で詰まった問題は、△ をつけて先へ進みます。全体を解いてから戻ると、読み直しで条件に気づくことがあります【推論】。Vispoel(1998)では、見直しを許すと試験時間が 41% 延びました。時間のかかる問題に戻るのは、全問に一度答えてからにします【推論】。

模試が返ってきたとき ── 答えを変えた問題に、問題用紙で印をつけておくと、あとで数えられます。「誤→正」と「正→誤」を数えると、自分の見直しのくせが見えます。ただし Merry ら(2021)のように、1 回分の結果は次の回を予測しないこともあります。数回分をためてから判断します。

よくある誤解

「最初の答えは直感だから、正しいことが多い」 33 研究をまとめた総説(Benjamin ら 1984)でも、その後の研究でも結果は同じ向きです。考え直して変えた答えは、誤→正が多くなっていました。「変えて損した」記憶が強く残るのは、後悔の残り方の違いだという説明があります(Kruger ら 2005)。

「迷ったら、とにかく変えたほうが得」 そこまでは言えません。Couchman ら(2016)では、変えずに残した答えも正解のほうが多い結果でした。変えた答えの研究は「考え直して変えた」場合の結果です。理由のない変更まで勧めるものではありません。

「見直しの時間を長くとるほど、点が伸びる」 Vispoel(1998)では、見直しを許した条件と許さない条件で、測った力に有意な差は出ませんでした。変えた答えも全体の 5% ほどです。見直しは全部を解き終えてからの「仕上げ」で、解く時間を削ってまで確保するものではない、と考えられます【推論】。

「見直しでは、全部の問題を最初から解き直す」 時間があればそれもできますが、研究で答えが変わったのは一部の問題です。Vispoel(1998)では変えた答えは全体の 5.23%、安野(2022)の数学でも、書いた回数のうち答えを変えたのは 18.3% でした。Couchman ら(2016)では、その場の自信が正解かどうかをよく言い当てていました。限られた時間なら、△ をつけた問題から読み直すほうが無駄が少ないと考えられます【推論】。

「変えてよいと教われば、点が上がる」 Bauer ら(2007)では、教わった群は答えを多く変えましたが、点の伸びの差は有意ではありませんでした。考え方を知るだけで点が変わる、とまでは言えません。

このサイトでの使い方

  1. 小テストで「自信の印」の練習をする。基礎 10 問を解くとき、答え合わせの前に紙へ ◎・○・△ を書きます。終わったら、△ の正解の割合と ◎ の正解の割合を比べます。自分の手ごたえがどれくらい当たるかが分かります
  2. 公務員試験は模擬テストで時間の感覚をつかむ。公務員試験 模擬テスト は右上に経過時間が出ます。ただ、1 問ごとに答え合わせが出るので、本番の「最後にまとめて見直す」練習にはなりません。見直しの練習は、紙の過去問で通して解くときに行います(過去問の使い方)
  3. 間違えた問題は、変えたかどうかも記録する。間違いノート に「最初は正解だったのに変えた」「迷って変えなかった」を書き分けると、自分のくせが数えられます
  4. 本番前の緊張については 本番の緊張 を、前日の過ごし方は 睡眠と一夜漬け を見てください

例:二次方程式 の小テストで、解の公式の計算に △ をつけたとします。答え合わせで △ の問題だけ間違えていたら、手ごたえは当たっています。△ なのに正解が多いなら、迷っても答えを残してよい場面が多い、という目安になります。

注意点

引いた論文

番号は班別ファイル docs/参考文献ログ_追加_本番2.md の #。DOI を開いて書誌を確認し、要旨(ERIC の要旨を含む)または本文で内容を確かめています。