勉強法
計算ミスと見直し ── 「うっかり」は減らせるか
一言で
「ケアレスミス」と呼んでいるまちがいの中には、計算のルールそのものの思いちがいがまざっています。日本の中学 2 年生の調査では、ルールの思いちがいを約 3 割が「ケアレスミスかもしれない」と判断しました。 本当の「うっかり」は、急がされたときや、頭の中のメモ帳(作業記憶)がいっぱいのときに起きやすいようです。主に大人の実験です。 見直しでは、同じ計算をなぞるより別の道で確かめるほうが、研究から考えると筋が通ります。代入する・展開して戻す・答えの大きさを見積もる、の 3 つです。
今日からやること
- 返ってきたテストの計算ミスを 2 つに分ける。時間をかけてもう一度解き、正しく解けたら「うっかり」、また同じ答えなら「思いちがい」。次の定期テストの返却日に 10 分でできます
- 解く前に、答えのおよその大きさと符号を書く。「正の数で 100 くらい」「負の数」など一言でかまいません。解き終えたら見比べます
- 検算は別の道で。方程式は解をもとの式に代入、因数分解は展開して戻す、引き算は足し算で戻す。同じ手順をもう一度なぞらない
3 つとも、下の研究から考えた段取りです【推論】。この 3 つを組み合わせて点数を比べた実験は、このページではまだ引けていません。
何が分かっているか
計算ミスと検算そのものを、中高生で直接比べた研究は多くありません。ここでは「ミスの正体」「ミスが起きやすい条件」「自分の答えを確かめる力」の 3 つに分けて、確かめられた研究を並べます。
日本の中学生の研究
大方・深谷(2025) ── 日本の公立中学 2 年生 86 人の研究です。数学の計算問題の誤答を 10 問見せ、「ケアレスミスの可能性があるか」を 2 択で答えてもらいました。誤答は、全国学力・学習状況調査で実際に見られたものを参考に作っています。
- 誤答のうち 7 問は、まちがったルールを使った誤り(例:5x − x = 5)です。3 問は、正しい手順の一部が抜けた誤りでした
- ルールの誤りなのに「ケアレスミスかも」と答えた割合は、平均 32% でした
- いちばん多かったのは、2 × (−3)² を 2 × (−6) とする誤りでした。この問題は、7 問のうち問 1・5・7 の 3 問より、有意に「ケアレスミス」と判断されやすい結果でした
- 「ケアレスミスとは何か」を説明する文を読ませても、判断は変わりませんでした(説明あり 0.33、なし 0.31)
- 数学の自己効力感(できそうだという感覚)と、この判断の関係は見られませんでした(相関 .06)
著者は、慣れていない計算のルールほど「ケアレスミス」と思われやすい可能性を挙げています。ただしこれは他人の誤答を判断する調査です。自分の誤答で同じことが起きるかは、今後の課題だとしています。 2 択なので、でたらめに選んでも 50% になる形式です。それでも、明らかな誤りに 32% は低いとは言えない、と著者は書いています。数字は J-STAGE の本文 PDF で確かめました。
重森(2019) ── 「うっかり」(認知スリップ)が起きる条件を調べた 3 つの実験です。数字の書き写し・水がめの問題・同じ字をくり返し書く課題を使いました。 参加者の半分には、まちがった手順に慣れさせる練習を先にさせています。また半分は時間の制限つきで課題をしました。 うっかりが増えたのは、まちがった手順に何度も触れていて、しかも時間に追われている条件だけでした。参加者の人数と割合は要旨に無いので書きません。
山崎(2004) ── 小学 6 年生の文章題で、正確に計算する前に答えのおよその値を見積もる活動を調べた研究です。 見積もりは問題の分析を進め、解き方の向きを決める手がかりになる、と著者はまとめています。問題解決の力を伸ばす「可能性がある」という書き方で、数字は要旨に無いので書きません。小数・分数を 1 回の計算で解く文章題で役立った、としています。
「うっかり」の正体
Clements(1982) ── パプアニューギニアの国際小学校の 6 年生 50 人の研究です。同じ数学のテストを 2 回受けてもらい、1 回だけまちがえた問題を面接で調べました。 「本人が正しい解き方を自信をもって示せて、なぜまちがえたか本人も面接者も分からない」ものを「うっかり」と数えました。これが誤答全体の 21% でした。 うっかりの割合が高い子ほど、計算力・数学の言葉の力・数学への自信が高い関係でした。一方、根拠のない自信(まちがえたのに自信がある)とは逆の関係でした。
つまり、うっかりは「できない子のミス」とは限りません。逆に言えば、誤答の約 8 割はうっかり以外だった、とも読めます。
うっかりが起きやすいとき ── 作業記憶と緊張
作業記憶とは、計算の途中の数を一時的に置いておく「頭の中のメモ帳」のことです。
Peng ら(2016) ── 110 の研究(829 の効果量)をまとめたメタ分析です。数学の成績と作業記憶の間には、中くらいの相関(r = .35)がありました。 関係が強かったのは整数の計算と文章題で、図形はいちばん弱い結果でした。
Ashcraft & Kirk(2001) ── 数学への不安が強い人は、作業記憶の容量が小さく測られました。計算を使って測ったときに、その差が特に大きく出ています。 覚えておく課題と同時に暗算をすると、不安の強い人ほど時間がかかり、誤りも増えました。著者は、不安が作業記憶を一時的にじゃましていると考えています。
Beilock & Carr(2005) ── 数学の問題を、プレッシャーのある条件とない条件で解いてもらいました。プレッシャーで点が下がったのは、作業記憶の容量が大きい人だけでした。 しかも下がったのは、作業記憶をいちばん多く使う問題に限られていました。ふだん力を出せている人のほうが、プレッシャーで崩れた、という結果です。数字は要旨に無いので書きません。
自分の答えを確かめる力
自分の答えが合っているかを見張る力を、メタ認知(自分の考えを外から見る力)と呼びます。
Rinne & Mazzocco(2014) ── 子どもを 5 年生から 8 年生(日本の中学 2 年相当)まで毎年調べた研究です。「25 + 50 = 75」のような式が正しいかを素早く判断し、その自信も答えてもらいました。 自信と正しさが合っている子(判断の自信が当たる子)ほど、その時点の暗算の成績が高い関係でした。5 年生のときに自信が当たっていた子ほど、8 年生までの伸びが大きい結果でした。 ただしこれは追跡した調査で、くじで分けた実験ではありません。
Oudman, van de Pol & van Gog(2022) ── 9〜10 歳の子ども(34 クラス)の研究です。かけ算とわり算を解いたあと「どれくらいできたか」を判断し、自分で丸つけをしてからもう一度判断しました。 自分で丸つけをすると、「どれくらいできたか」の判断がおおむね正確になりました。わり算での「もっと練習が必要か」の判断だけは、正確さが上がりませんでした。
Deslis & Desli(2023) ── 小学 5 年生 80 人と大人 80 人の研究です。計算の答えが「ありえるか」を判断してもらいました。 子どもは、手順や決まりにそって判断するやり方を多く使いました。ところが正答と結びついていたのは、数の大きさや場面から意味を考えるやり方だけでした。子どもは、手順をそのまま信じて、意味の通らない答えを見逃すことがよくありました。
見直しで答えを変えたときの研究(選択式では誤→正が多い)は、「最初の答えは変えるな」は本当か にまとめています。この記事は「計算の確かめ方」に絞ります。
日本の中高生の勉強にあてはめると
ここから先は、上の研究を日本の勉強に当てはめた【推論】です。
まず「うっかり」と「思いちがい」を分ける
大方・深谷(2025)で「ケアレスミスかも」と判断されやすかったのは、累乗と符号の取りちがえでした。(−3)² と −3² のちがいは、注意不足ではなくルールの理解の問題です。 「うっかりだから次は気をつける」で終わらせると、同じ誤りがまた出ます。分け方の目安は次のとおりです。
| 分け方 | 見分け方 | 次にやること |
|---|---|---|
| 思いちがい | 時間をかけて解き直しても、同じ答えになる | 教科書の該当ページに戻る。同じ型を 3 問解く |
| うっかり | 解き直すとすぐ正しく解ける | どこで起きたかを 1 行で書く(例「移項で符号」) |
この分け方は Clements(1982)の「うっかり」の定義を、自分で使える形にしたものです。間違いノートの「どこで分かれたか」の書き方は 間違いノート にあります。
検算は「別の道」で
同じ計算をもう一度なぞると、同じ思いこみで同じ答えを出しやすいと考えられます。重森(2019)で、まちがった手順に慣れているとうっかりが増えたのと同じ向きです。
| 問題 | 別の道での確かめ方 |
|---|---|
| 一次方程式・連立方程式 | 出た解をもとの式に代入する(連立は両方の式に) |
| 因数分解 | 答えを展開して、もとの式に戻るか見る |
| 引き算・わり算 | 足し算・かけ算で戻す |
| 文字式の計算 | 文字に 1 や 2 を入れて、計算前と計算後の値が同じか見る |
| 二次方程式 | 解の個数と符号を、問題の条件(「正の数」など)と比べる |
| 理科の計算(密度・速さ) | 単位を式に入れて、答えの単位が合うか見る |
文字に数を入れる確かめ方は、式を変形するたびに使えます。たとえば 3(x − 2y) を 3x − 2y としたら、x = 1、y = 1 を入れます。計算前は −3、計算後は 1 で、合わないと分かります。
見積もりを先に書く
Deslis & Desli(2023)と山崎(2004)から、答えの大きさを先に考える習慣が役立つと考えられます。
- 方程式の文章題なら「人数だから正の整数」「時間だから数分〜数時間」
- 二次関数の最小値なら「グラフが下に開くか上に開くか」
- 共通テストの数学(マーク式・数学① 70 分)は、解答欄の形で桁数や符号の欄が分かることがあります。欄と答えの形が合わないときは、どこかでまちがえた合図です
途中式は「頭の中のメモ帳」を空けるため
Peng ら(2016)で、作業記憶と強く関係していたのは計算と文章題でした。途中式を書くと、メモ帳に置く数が減ると考えられます。 ただし「途中式を書くとミスが減る」ことを直接比べた研究は、このページではまだ引けていません。目安として、符号が変わるところ・かっこを外すところ・移項するところは 1 行ずつ書きます。
本番は時間に追われる
重森(2019)でうっかりが増えたのは、時間に追われる条件でした。Beilock & Carr(2005)では、緊張で崩れたのは作業記憶を多く使う問題でした。
- 定期テストの前に、時間を計って計算問題を解く練習を 1 回入れる
- 時間に追われたときに出るミスを、ふだんの練習のうちに見つけておく
- 緊張そのものへの対処は 本番の緊張 にまとめています
見直しの時間がないとき
公務員試験の数的処理(5 択)では、全部を検算する時間はありません。答えの大きさを見積もって、ありえない選択肢を消すだけでも確かめになります。 定期テストでは、配点の大きい大問の最後の答えから確かめます。解き直す時間がなければ、代入や「文字に数を入れる」だけを行います。
よくある誤解
「ケアレスミスだから、練習しなくても次は大丈夫」 大方・深谷(2025)では、ルールの思いちがいを約 3 割が「ケアレスミスかも」と判断しました。Clements(1982)の基準で数えても、うっかりは誤答の 21% でした。まず「本当にうっかりか」を解き直して確かめます。
「計算ミスは注意力が足りない子のもの」 Clements(1982)では、うっかりの割合が高い子ほど計算力も自信も高い関係でした。Beilock & Carr(2005)では、緊張で崩れたのは作業記憶の容量が大きい人でした。力のある人にも起きるものとして、確かめ方を決めておくほうが現実的です。
「見直しは、同じ計算をもう一度やればいい」 同じ手順をなぞると、同じ思いこみをくり返すおそれがあります【推論】。Deslis & Desli(2023)で子どもが見逃したのも、手順をそのまま信じた答えでした。代入・展開・見積もりのように、別の道で確かめます。
「自信がある人は、自分のミスにも気づける」 大方・深谷(2025)では、数学の自己効力感と、他人の誤答を「ケアレスミスかも」とする判断に関係が見られませんでした。Rinne & Mazzocco(2014)で暗算の伸びと関係したのは、自信の強さより自信が当たるかでした。追跡調査なので、因果までは言えません。
このサイトでの使い方
- 小テストを解いたら、答え合わせの前に 1 問ずつ ◎○△ を書きます。答え合わせのあと、△ と ◎ の正解の割合を比べます。Oudman ら(2022)の「自分で丸つけして判断を見直す」を、自分で行う形です
- まちがえた問題は「同じ型でもう 1 問」で解き直します。すぐ正しく解けたら「うっかり」、また同じ所でまちがえたら「思いちがい」の目安になります
- 思いちがいだった型は、単元の解説の「まずここだけ」に戻ります。「前に間違えた型をやり直す」で、日をあけてもう一度解きます
符号と累乗の思いちがいが出やすい単元:
- 正負の数の乗法・除法・累乗 ── (−3)² と −3² のちがい
- 一次式の計算 ── かっこの外し方(3(x − 2y))
- 一次方程式の解き方 ── 移項と符号。解を代入して確かめる
- 連立方程式の解き方(加減法・代入法) ── 両方の式に代入して確かめる
- 因数分解 ── 展開して戻す
- 二次方程式(因数分解・平方根・解の公式) ── 解の公式の符号
- 高校なら 因数分解(たすきがけ・おきかえ・3次) と 二次関数のグラフ(平方完成・頂点・平行移動・対称移動)
注意点
- 計算ミスと検算の研究は、小学生と大人が中心です。日本の中高生で、検算のやり方ごとに点を比べた研究は、このページではまだ引けていません
- 大方・深谷(2025)はウェブ調査で、他人の誤答を見て判断する形でした。自分の誤答で同じ割合になるとは限りません
- Clements(1982)は 50 人、Deslis & Desli(2023)は子ども 80 人の研究です。Rinne & Mazzocco(2014)は追跡調査で、因果までは言えません
- 作業記憶や緊張の研究は、主に大学生などの実験です。途中式を書く・見積もるといった工夫は、研究から考えた【推論】です
- 共通テストの時間は 2026 年 9 月時点のサイト内の制度ページ(令和 9 年度)によります。最新は大学入試センターの発表で確認してください
引いた論文
番号は班別ファイル docs/参考文献ログ_追加_テスト.md の #。DOI を開いて書誌を確かめ、要旨(日本語論文は J-STAGE の抄録または本文 PDF)で内容を確かめています。
- #431 大方悠真・深谷達史 (2025). 中学生は計算問題における明らかな誤りをどの程度ケアレスミスと判断するか? 日本教育工学会論文誌, 49(Suppl.), 17–20. https://doi.org/10.15077/jjet.S49010
- #432 重森雅嘉 (2019). 不適切なスキーマの活性頻度とタイムプレッシャーが認知スリップに与える影響. 認知心理学研究, 17(1), 37–47. https://doi.org/10.5265/jcogpsy.17.37
- #440 山崎秀哲 (2004). 文章題の答えの見積もりと問題解決能力との関連. 数学教育学研究, 10, 37–48. https://doi.org/10.24529/jasme.10.0_37
- #433 Clements, M. A. (1982). Careless errors made by sixth-grade children on written mathematical tasks. Journal for Research in Mathematics Education, 13(2), 136–144. https://doi.org/10.5951/jresematheduc.13.2.0136
- #434 Peng, P., Namkung, J., Barnes, M., & Sun, C. (2016). A meta-analysis of mathematics and working memory: Moderating effects of working memory domain, type of mathematics skill, and sample characteristics. Journal of Educational Psychology, 108(4), 455–473. https://doi.org/10.1037/edu0000079
- #435 Ashcraft, M. H., & Kirk, E. P. (2001). The relationships among working memory, math anxiety, and performance. Journal of Experimental Psychology: General, 130(2), 224–237. https://doi.org/10.1037/0096-3445.130.2.224
- #436 Beilock, S. L., & Carr, T. H. (2005). When high-powered people fail: Working memory and “choking under pressure” in math. Psychological Science, 16(2), 101–105. https://doi.org/10.1111/j.0956-7976.2005.00789.x
- #437 Rinne, L. F., & Mazzocco, M. M. M. (2014). Knowing right from wrong in mental arithmetic judgments: Calibration of confidence predicts the development of accuracy. PLoS ONE, 9(7), e98663. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0098663
- #438 Oudman, S., van de Pol, J., & van Gog, T. (2022). Effects of self-scoring their math problem solutions on primary school students’ monitoring and regulation. Metacognition and Learning, 17(1), 213–239. https://doi.org/10.1007/s11409-021-09281-9
- #439 Deslis, D., & Desli, D. (2023). Does this answer make sense? Primary school students and adults judge the reasonableness of computational results in context-based and context-free mathematical tasks. International Journal of Science and Mathematics Education, 21(1), 71–91. https://doi.org/10.1007/s10763-022-10250-0