勉強法
速読は本当か ── 速く読むと、何が落ちるのか
一言で
読む速さと理解は引きかえの関係です。理解をそのままに、読む速さを 2 倍・3 倍にするのは難しい。これが速読の研究をまとめた総説の結論です。 速く読める人の速さは、目の使い方の特別な技よりも、知っている語の多さと読み慣れから来ています。 英語の長文が時間内に終わらない人は、速読の技より先に単語と多読に時間を使う。そのほうが研究の結果と合います。
今日からやること
- 自分の今の速さを 1 回測る。初めて読む英文を黙読し、「語数 ÷ かかった分」を記録する。内容の問いに答えて、半分以上合っていたかも書く
- 速く読む練習は「やさしい文章」でやる。知らない単語がほぼない英文を週 2〜3 回、時間を計って読む。分からない語だらけの文章で急ぐ練習はしない
- 本番は「読み方を切りかえる」と決めておく。答えの場所を探すときは拾い読み、答えの根拠の文は 1 語ずつ戻りながら読む
週 2〜3 回などの数は研究で決めた値ではなく目安です。
何が分かっているか
速読の総説:速さと理解は引きかえ
Rayner ら(2016) ── 読むことの研究を総まとめして、速読の講座やアプリを検討した総説です。
- 結論:速さと正確さはトレードオフ(片方を上げると片方が下がる関係)でした
- 理解をそのままに、たとえば 1 分 250 語を 500〜750 語にするのは考えにくい、としています
- 深い理解が目的でなければ、速読や拾い読みで「そこそこの理解」のまま速く進めることはできます
- 理解を保って速くする道は、読む練習を重ね、語彙などの言葉の力を上げること。言葉の力が読む速さの中心だから、というのが著者らの説明です
Brysbaert(2019) ── 190 の研究、のべ 18,573 人の結果をまとめました。 英語を母語とする大人の黙読は、説明文で平均 1 分 238 語、物語で 260 語でした。音読は平均 183 語です。 説明文の黙読は、多くの大人が 1 分 175〜300 語の間に入りました。英語が第二言語の人は、これより遅くなります。 著者は「世間でよく言われる数字は高すぎる」とも書いています。
目の動きを止めると、理解が落ちる
速読アプリの多くは、画面の真ん中に 1 語ずつ出す方式です。目を動かさずにすむので速く読める、という触れこみです。
Schotter, Tran & Rayner(2014) ── 目が通り過ぎた語を、すぐに隠す実験です。こうすると「読み戻り」(目を少し前に戻して読み直すこと)ができません。 その結果、読み戻りができないと理解が下がりました。あいまいな文に限らず起きています。読み戻りは無駄な動きではなく、理解を支える動きだということです。
Acklin & Papesh(2017) ── 1 語ずつ出す方式と、普通に文が並んだ画面を比べました。1 語ずつ方式の速さは 1 分 700 語と 1,000 語です。 理解は普通に並んだ文章のほうが上でした。理解をいちばん左右したのは読む速さでした。 1 語ずつ方式の中では、遅いほうが字句どおりの理解で上でした。一方、推し量る問いでは速いほうが上という、一筋縄ではいかない結果も出ています。人数は要旨にありません。
拾い読みで残るもの・落ちるもの
Duggan & Payne(2009) ── 説明文の半分しか読めない時間を与えた 3 つの実験です。
- 「頭から半分だけ読む」より拾い読みのほうが、大事な考えをよく覚えていました
- ただし細かい情報と、文から推し量る内容は上がりませんでした
- 拾い読みの人は、段落の初めやページの上のほうに時間を使っていました
- 「各段落の前半だけ読む」と比べた実験では、拾い読みとの差はありませんでした
日本語で確かめた研究
小林・川嶋(2018) ── 大学生 200 人が、飛ばさずに日本語を読む速さを測りました。 1 分あたり約 300〜1,200 字で、平均は 653 字でした。速い人と遅い人で 3 倍以上の差があります。 速さの差は、1 か所に目を止める時間ではなく、目を止める回数から来ていました。速い人ほど、1 回に前へ進む目の跳びが長かったのです。
森田(2012) ── 大学生に 2 種類の訓練をしました。複数の語を一度に見て読みとる訓練(8 人)と、ふだんより大きく目を動かして読む訓練(10 人)です。 どちらの群も読む速さが約 30% 上がりました。理解がどうなったかは要旨に書かれていません。
森田・小澤(2016) ── 1 日約 5 分の訓練を 1 週間続けました。 訓練を改めると読む速さが約 50%、内声化(黙読で頭の中で声にすること)を減らす訓練を足すと約 60% 上がりました。 ただし本文を見ると、理解の確認は1 つの文章に 2 問だけでした。平均はほぼ満点のままです。かなりやさしい確認なので、「理解を保ったまま速くなった」とまでは言えません。 著者らも、内声化を減らした読み方が理解にどう影響するかは、まだ分からない点が残るとしています。
斎田(2004) ── 学会のシンポジウムの報告です。速く読める人・同じ速さで読むよう指示された普通の人・普通に読む人の、目の動きと理解を比べました。 速い 2 つの群は目の跳びが大きく、止まる時間が短めでした。速く読める人の理解の点は、ほかの群より低くありませんでした。著者は、これは過去の多くの研究と違う結論だと書いています。人数は要旨にありません。
この 2 つの話は、矛盾しているわけではありません。【推論】「もともと速く読める人」は理解を落とさずに速い。一方で「訓練で無理に速くする」と理解が落ちやすい。Rayner らの総説はこう整理できます。もともと速い人の速さは、言葉の力の裏返しだと考えられます。
森田・高橋(2019) ── 内声化には、文の言い回しをそのまま保つ働きがありました(くわしくは 音読)。内声化を減らす読み方は、言い回しを正確に覚えたい場面では向かない可能性があります(【推論】)。
英語の読む速さを伸ばした研究(日本の学習者)
田辺(2007) ── 高校 1 年生 77 人が、3 か月間速く読む練習をしました。使ったのは語の 99.3% を知っている英文です。知らない語は約 140 語に 1 語の文章です。 平均の速さは1 分 125 語から 191.3 語に伸びました。大きな流れをつかむ読み方への自信も上がりました。 ただ、分からないところで立て直す読み方は変わりませんでした。
Shimono(2023) ── 日本の大学生 101 人を 1 年間追いました。4 つの群を比べています。
- ① 多読+時間を計って読む練習+くり返し音読(区切りと抑揚に注意)
- ② 多読+時間を計って読む練習
- ③ 多読だけ
- ④ 練習なし
練習した 3 群は、どれも理解を保ったまま速さが伸びました。いちばん幅広く練習した ① が、ほかの群を上回りました。
勝藤(2016) ── 高専 2 年生 158 人が、9 か月の速読訓練を受けました。 速さは着実に伸びましたが、理解は目立って上がりませんでした。生徒が書いた読み方の工夫も、「自分の読みを見直す」種類のものは少なめでした。 著者は、速さばかり重視すると、そうした読み方が育ちにくくなる可能性を示しています。
Nation(2006) ── 補助なしで英文を読むには、本文の語の 98% を知っている必要があると考えた研究です。そのためには書き言葉で 8,000〜9,000 語族が要る、という見積もりでした。語族は run・runs・ran をまとめて 1 語と数える数え方です。 知らない語が多い文章では、速く読もうとしても止まってしまいます。
日本の中高生の勉強にあてはめると
共通テストの英語リーディング
読む英文の量が多い試験です。形式と時間配分は 共通テスト リーディングの型 にまとめています。 【推論】研究から考えると、時間内に読み終わらない原因は次の 3 つに分けられます。
- 知らない語で止まる → 速読の練習より単語。Nation の 98% の考え方です。単語帳は 単語帳の使い方 へ
- 知っている語なのに読むのが遅い → やさしい英文の多読と、時間を計って読む練習。田辺・Shimono の条件です。続け方は 多読 へ
- 全部を同じ丁寧さで読んでいる → 拾い読みと精読の切りかえ。Duggan & Payne の結果のとおり、拾い読みで残るのは大事な考えです。細部の設問は根拠の文に戻って読みます
定期テスト・高校入試の国語
【推論】国語の評論や説明文は、細部や推し量る内容まで問われます。Duggan & Payne で拾い読みが苦手だったところです。 だから国語の長文は、「速く読む」より「戻って確かめる」を優先するほうが研究と合います。Schotter らのとおり、読み戻りは理解を支える動きです。 読み方の手順は 現代文の読み方 と 説明文・小説の読み方 にあります。
自分の速さの目安
【推論】Brysbaert のまとめでは、英語を母語とする大人でも説明文は 1 分 238 語前後です。田辺の高校 1 年生は、やさしい英文で 125 語から 191 語に伸びました。 「英文を 1 分 500 語」のような目標は、理解を保つなら現実的ではありません。測った数字を、前の自分と比べる使い方をします。
通学電車・すき間時間の使い方
【推論】通学電車の 15 分は、やさしい英文の多読や、一度読んだ長文の読み直しに向いています。速読アプリで 1 語ずつ流す練習は、Acklin & Papesh の結果から見ると理解が落ちる読み方です。
よくある誤解
「速読の訓練をすれば、本が何倍も速く読める」 Rayner らの総説では、理解を保ったまま 2〜3 倍にするのは考えにくい、という結論でした。日本の訓練の研究でも、速さが 30〜60% 上がった報告はあります。ただし理解の確かめ方はやさしいものでした(森田・小澤 2016)。英語の速読訓練で、速さは伸びても理解は目立って伸びなかった例もあります(勝藤 2016)。
「読み戻るのは悪いくせ。1 回で読み切るのが上手な読み方」 Schotter らの実験では、読み戻りを止めると理解が下がりました。読み戻りは必要なときに起きる、理解を助ける動きです。
「速く読める人は、目の使い方が特別にうまい」 小林・川嶋では、速い人は目の跳びが長いという違いでした。Rayner らは、その土台は言葉の力だと説明しています。【推論】目の動きは結果で、原因は知っている語と読み慣れの量だと考えられます。
「拾い読みは手抜きで、意味がない」 時間が足りない場面では、拾い読みのほうが大事な考えをよく残しました(Duggan & Payne)。ただし細部と推し量る内容は落ちます。目的に合わせて使い分ける読み方です。
このサイトでの使い方
- 英語の長文は、まず 長文読解の型(中学)か パラグラフリーディング(高校)で、段落の役割をつかむ練習をします。どこを拾い読みし、どこを精読するかの判断に使えます
- 共通テストの時間配分は 共通テスト リーディングの型 で確かめます
- 速さを伸ばす練習そのものは 多読 の記事に、日本の高校生の研究と一緒にまとめています
- 設問を先に読むかどうかは 設問を先に読むか へ。グラフや表の多い問題は グラフと資料の読み方 へ
注意点
- 速読アプリや講座の研究の多くは、英語を母語とする大人が対象です。日本の中高生が日本語や英語で速読訓練をした研究は、このページではまだ引けていません
- 日本の訓練の研究(森田 2012・森田・小澤 2016)は大学生が少人数で、期間も 1 週間ほどです。理解の確認もやさしいものでした
- 斎田(2004)は学会のシンポジウムの報告で、人数は要旨にありません
- 英語の研究のうち、高校生が対象なのは田辺(2007)です。Shimono(2023)は大学生、Nation(2006)は大人の読み手の見積もりです
- 研究で測っているのは読む速さと理解のテストで、入試の点ではありません
引いた論文
番号は docs/参考文献ログ_追加_読み方.md(#491〜)と docs/参考文献ログ.md(#16・#109)の #。すべて DOI を開いて書誌と要旨を確認しています。森田・小澤(2016)の理解の確認方法は、本文 PDF で確かめました。
- #491 Rayner, K., Schotter, E. R., Masson, M. E. J., Potter, M. C., & Treiman, R. (2016). So much to read, so little time: How do we read, and can speed reading help? Psychological Science in the Public Interest, 17(1), 4–34. https://doi.org/10.1177/1529100615623267
- #492 Brysbaert, M. (2019). How many words do we read per minute? A review and meta-analysis of reading rate. Journal of Memory and Language, 109, 104047. https://doi.org/10.1016/j.jml.2019.104047
- #493 Schotter, E. R., Tran, R., & Rayner, K. (2014). Don’t believe what you read (only once): Comprehension is supported by regressions during reading. Psychological Science, 25(6), 1218–1226. https://doi.org/10.1177/0956797614531148
- #494 Acklin, D., & Papesh, M. H. (2017). Modern speed-reading apps do not foster reading comprehension. American Journal of Psychology, 130(2), 183–199. https://doi.org/10.5406/amerjpsyc.130.2.0183
- #495 Duggan, G. B., & Payne, S. J. (2009). Text skimming: The process and effectiveness of foraging through text under time pressure. Journal of Experimental Psychology: Applied, 15(3), 228–242. https://doi.org/10.1037/a0016995
- #499 小林潤平・川嶋稔夫 (2018). 日本語文章の読み速度の個人差をもたらす眼球運動. 映像情報メディア学会誌, 72(10), J154–J159. https://doi.org/10.3169/itej.72.J154
- #496 森田愛子 (2012). 読み速度上昇とビジュアル・スパン拡大の関連. 基礎心理学研究, 31(1), 24–34. https://doi.org/10.14947/psychono.KJ00008426061
- #497 森田愛子・小澤郁美 (2016). 視野と内声化のトレーニングが読み速度に与える影響. 日本教育工学会論文誌, 39(Suppl.), 45–48. https://doi.org/10.15077/jjet.S39036
- #498 斎田真也 (2004). 速読と眼球運動. 基礎心理学研究, 23(1), 64–69. https://doi.org/10.14947/psychono.KJ00004414520
- #109 森田愛子・髙橋麻衣子 (2019). 音声化と内声化が文章の理解や眼球運動に及ぼす影響. 教育心理学研究, 67(1), 12–25. https://doi.org/10.5926/jjep.67.12
- #500 田辺博史 (2007). 継続的速読指導が読解ストラテジーの認識に与える影響. 関東甲信越英語教育学会研究紀要, 21, 97–108. https://doi.org/10.20806/katejo.21.0_97
- #501 Shimono, T. (2023). The effects of extensive reading, timed reading, and repeated oral reading on Japanese university L2 English learners’ reading rates and comprehension over one academic year. Reading in a Foreign Language, 35(2), 190–221. https://doi.org/10.64152/10125/67447
- #502 勝藤和子 (2016). 速読訓練と学習ストラテジー. 四国英語教育学会紀要, 36, 39–53. https://doi.org/10.32276/seles.36.0_39
- #16 Nation, I. S. P. (2006). How large a vocabulary is needed for reading and listening? Canadian Modern Language Review, 63(1), 59–82. https://doi.org/10.3138/cmlr.63.1.59