勉強法

更新 2026-10-04 / 引用した論文はすべて DOI を確認しています

速読は本当か ── 速く読むと、何が落ちるのか

一言で

読む速さと理解は引きかえの関係です。理解をそのままに、読む速さを 2 倍・3 倍にするのは難しい。これが速読の研究をまとめた総説の結論です。 速く読める人の速さは、目の使い方の特別な技よりも、知っている語の多さと読み慣れから来ています。 英語の長文が時間内に終わらない人は、速読の技より先に単語と多読に時間を使う。そのほうが研究の結果と合います。

今日からやること

  1. 自分の今の速さを 1 回測る。初めて読む英文を黙読し、「語数 ÷ かかった分」を記録する。内容の問いに答えて、半分以上合っていたかも書く
  2. 速く読む練習は「やさしい文章」でやる。知らない単語がほぼない英文を週 2〜3 回、時間を計って読む。分からない語だらけの文章で急ぐ練習はしない
  3. 本番は「読み方を切りかえる」と決めておく。答えの場所を探すときは拾い読み、答えの根拠の文は 1 語ずつ戻りながら読む

週 2〜3 回などの数は研究で決めた値ではなく目安です。

何が分かっているか

速読の総説:速さと理解は引きかえ

Rayner ら(2016) ── 読むことの研究を総まとめして、速読の講座やアプリを検討した総説です。

Brysbaert(2019) ── 190 の研究、のべ 18,573 人の結果をまとめました。 英語を母語とする大人の黙読は、説明文で平均 1 分 238 語、物語で 260 語でした。音読は平均 183 語です。 説明文の黙読は、多くの大人が 1 分 175〜300 語の間に入りました。英語が第二言語の人は、これより遅くなります。 著者は「世間でよく言われる数字は高すぎる」とも書いています。

目の動きを止めると、理解が落ちる

速読アプリの多くは、画面の真ん中に 1 語ずつ出す方式です。目を動かさずにすむので速く読める、という触れこみです。

Schotter, Tran & Rayner(2014) ── 目が通り過ぎた語を、すぐに隠す実験です。こうすると「読み戻り」(目を少し前に戻して読み直すこと)ができません。 その結果、読み戻りができないと理解が下がりました。あいまいな文に限らず起きています。読み戻りは無駄な動きではなく、理解を支える動きだということです。

Acklin & Papesh(2017) ── 1 語ずつ出す方式と、普通に文が並んだ画面を比べました。1 語ずつ方式の速さは 1 分 700 語と 1,000 語です。 理解は普通に並んだ文章のほうが上でした。理解をいちばん左右したのは読む速さでした。 1 語ずつ方式の中では、遅いほうが字句どおりの理解で上でした。一方、推し量る問いでは速いほうが上という、一筋縄ではいかない結果も出ています。人数は要旨にありません。

拾い読みで残るもの・落ちるもの

Duggan & Payne(2009) ── 説明文の半分しか読めない時間を与えた 3 つの実験です。

日本語で確かめた研究

小林・川嶋(2018) ── 大学生 200 人が、飛ばさずに日本語を読む速さを測りました。 1 分あたり約 300〜1,200 字で、平均は 653 字でした。速い人と遅い人で 3 倍以上の差があります。 速さの差は、1 か所に目を止める時間ではなく、目を止める回数から来ていました。速い人ほど、1 回に前へ進む目の跳びが長かったのです。

森田(2012) ── 大学生に 2 種類の訓練をしました。複数の語を一度に見て読みとる訓練(8 人)と、ふだんより大きく目を動かして読む訓練(10 人)です。 どちらの群も読む速さが約 30% 上がりました。理解がどうなったかは要旨に書かれていません。

森田・小澤(2016) ── 1 日約 5 分の訓練を 1 週間続けました。 訓練を改めると読む速さが約 50%、内声化(黙読で頭の中で声にすること)を減らす訓練を足すと約 60% 上がりました。 ただし本文を見ると、理解の確認は1 つの文章に 2 問だけでした。平均はほぼ満点のままです。かなりやさしい確認なので、「理解を保ったまま速くなった」とまでは言えません。 著者らも、内声化を減らした読み方が理解にどう影響するかは、まだ分からない点が残るとしています。

斎田(2004) ── 学会のシンポジウムの報告です。速く読める人・同じ速さで読むよう指示された普通の人・普通に読む人の、目の動きと理解を比べました。 速い 2 つの群は目の跳びが大きく、止まる時間が短めでした。速く読める人の理解の点は、ほかの群より低くありませんでした。著者は、これは過去の多くの研究と違う結論だと書いています。人数は要旨にありません。

この 2 つの話は、矛盾しているわけではありません。【推論】「もともと速く読める人」は理解を落とさずに速い。一方で「訓練で無理に速くする」と理解が落ちやすい。Rayner らの総説はこう整理できます。もともと速い人の速さは、言葉の力の裏返しだと考えられます。

森田・高橋(2019) ── 内声化には、文の言い回しをそのまま保つ働きがありました(くわしくは 音読)。内声化を減らす読み方は、言い回しを正確に覚えたい場面では向かない可能性があります(【推論】)。

英語の読む速さを伸ばした研究(日本の学習者)

田辺(2007) ── 高校 1 年生 77 人が、3 か月間速く読む練習をしました。使ったのは語の 99.3% を知っている英文です。知らない語は約 140 語に 1 語の文章です。 平均の速さは1 分 125 語から 191.3 語に伸びました。大きな流れをつかむ読み方への自信も上がりました。 ただ、分からないところで立て直す読み方は変わりませんでした。

Shimono(2023) ── 日本の大学生 101 人を 1 年間追いました。4 つの群を比べています。

練習した 3 群は、どれも理解を保ったまま速さが伸びました。いちばん幅広く練習した ① が、ほかの群を上回りました。

勝藤(2016) ── 高専 2 年生 158 人が、9 か月の速読訓練を受けました。 速さは着実に伸びましたが、理解は目立って上がりませんでした。生徒が書いた読み方の工夫も、「自分の読みを見直す」種類のものは少なめでした。 著者は、速さばかり重視すると、そうした読み方が育ちにくくなる可能性を示しています。

Nation(2006) ── 補助なしで英文を読むには、本文の語の 98% を知っている必要があると考えた研究です。そのためには書き言葉で 8,000〜9,000 語族が要る、という見積もりでした。語族は run・runs・ran をまとめて 1 語と数える数え方です。 知らない語が多い文章では、速く読もうとしても止まってしまいます。

日本の中高生の勉強にあてはめると

共通テストの英語リーディング

読む英文の量が多い試験です。形式と時間配分は 共通テスト リーディングの型 にまとめています。 【推論】研究から考えると、時間内に読み終わらない原因は次の 3 つに分けられます。

  1. 知らない語で止まる → 速読の練習より単語。Nation の 98% の考え方です。単語帳は 単語帳の使い方 へ
  2. 知っている語なのに読むのが遅い → やさしい英文の多読と、時間を計って読む練習。田辺・Shimono の条件です。続け方は 多読 へ
  3. 全部を同じ丁寧さで読んでいる → 拾い読みと精読の切りかえ。Duggan & Payne の結果のとおり、拾い読みで残るのは大事な考えです。細部の設問は根拠の文に戻って読みます

定期テスト・高校入試の国語

【推論】国語の評論や説明文は、細部や推し量る内容まで問われます。Duggan & Payne で拾い読みが苦手だったところです。 だから国語の長文は、「速く読む」より「戻って確かめる」を優先するほうが研究と合います。Schotter らのとおり、読み戻りは理解を支える動きです。 読み方の手順は 現代文の読み方 と 説明文・小説の読み方 にあります。

自分の速さの目安

【推論】Brysbaert のまとめでは、英語を母語とする大人でも説明文は 1 分 238 語前後です。田辺の高校 1 年生は、やさしい英文で 125 語から 191 語に伸びました。 「英文を 1 分 500 語」のような目標は、理解を保つなら現実的ではありません。測った数字を、前の自分と比べる使い方をします。

通学電車・すき間時間の使い方

【推論】通学電車の 15 分は、やさしい英文の多読や、一度読んだ長文の読み直しに向いています。速読アプリで 1 語ずつ流す練習は、Acklin & Papesh の結果から見ると理解が落ちる読み方です。

よくある誤解

「速読の訓練をすれば、本が何倍も速く読める」 Rayner らの総説では、理解を保ったまま 2〜3 倍にするのは考えにくい、という結論でした。日本の訓練の研究でも、速さが 30〜60% 上がった報告はあります。ただし理解の確かめ方はやさしいものでした(森田・小澤 2016)。英語の速読訓練で、速さは伸びても理解は目立って伸びなかった例もあります(勝藤 2016)。

「読み戻るのは悪いくせ。1 回で読み切るのが上手な読み方」 Schotter らの実験では、読み戻りを止めると理解が下がりました。読み戻りは必要なときに起きる、理解を助ける動きです。

「速く読める人は、目の使い方が特別にうまい」 小林・川嶋では、速い人は目の跳びが長いという違いでした。Rayner らは、その土台は言葉の力だと説明しています。【推論】目の動きは結果で、原因は知っている語と読み慣れの量だと考えられます。

「拾い読みは手抜きで、意味がない」 時間が足りない場面では、拾い読みのほうが大事な考えをよく残しました(Duggan & Payne)。ただし細部と推し量る内容は落ちます。目的に合わせて使い分ける読み方です。

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注意点

引いた論文

番号は docs/参考文献ログ_追加_読み方.md(#491〜)と docs/参考文献ログ.md(#16・#109)の #。すべて DOI を開いて書誌と要旨を確認しています。森田・小澤(2016)の理解の確認方法は、本文 PDF で確かめました。