勉強法
友達と勉強する ── 協同学習で伸びる場面、伸びない場面
一言で
みんなで同じ目標に向かって学ぶ形を協同学習と呼びます。協同学習は、競争やひとりで学ぶ形より成績が上だった、というまとめ研究が多くあります。 ただし、集まれば伸びるわけではありません。だれが何をやったか見えないとき、人は手を抜きやすくなります。みんなで一緒に思い出そうとすると、ひとりずつ思い出した合計より少なくなります。 研究から考えると、勧めたい形は「まずひとりで解く → 問題を出し合う・説明し合う → 最後にひとりで確かめる」です。
今日からやること
- 勉強会は「先にひとりで 10 分」から始める。同じ範囲の問題を各自で解き、そのあと答えを照らし合わせて、ちがったところだけ説明し合う
- 役割を決めて、最後に 1 人ずつ確認テストをする。出題係・説明係を交代でやり、終わりに 5 問だけ各自で解いて点を見せ合う
- LINE で問題を出し合うなら、答えは自分で書いてから送る。1 日 1 人 3 問まで。答えは出題した人が翌日まとめて送る
何が分かっているか
日本の中高生の研究
橋本・松居(2019) ── 福井県の公立中学 3 年生 2 クラス 56 名の英語の授業です。5 つの文法項目について、片方が和文を英語に訳して言い、相手が○×をつけるペアのドリルをしました。 一方のクラスはペアを 3 回くり返し、もう一方はペア 1 回のあと 6 分間ひとりで練習しました。 並べ替えテストの平均点は、くり返したクラスが 12.64 → 15.54 点でした。ひとり練習のクラスは 12.29 → 13.79 点です。事後テストのクラス間の差は小さめでした(差の大きさ d = .34。0.2 前後が小さい差の目安)。 ただし、クラス単位の比較で、活動時間も約 14 分と約 10 分でちがいました。著者らも、人数が少なく一般化はできないと書いています。
橘・藤村(2010) ── 日本の高校生の数学の問題解決を、ペアで解くかひとりで解くかで比べました。 ペアの条件のほうが、事前から事後にかけて、解き方が質的に変わりやすい結果でした。複数の知識を関連づけて説明する解き方への変化です。 ペアで要素を関連づけて説明し合ったことが、事後の解き方と結びついていました。
協同学習のまとめ研究
Johnson ら(1981) ── 122 の研究をまとめたメタ分析です。メタ分析は、多くの実験結果を合算する研究です。「協力する」「競争する」「ひとりで取り組む」の 3 つの形を比べました。 協力する形は、競争やひとりの形より成績と生産性が上でした。 協力の中でも、グループどうしを競わせないほうが、競わせるより上でした。個人どうしの競争とひとりの形には、差がありませんでした。
Roseth, Johnson & Johnson(2008) ── 148 の研究のメタ分析です。対象は思春期前半(中学生前後の年代)です。11 か国・1 万 7 千人を超える生徒が入っています。 協力する形のほうが、競争やひとりの形より、成績が高く友人関係もよい結果でした。 協力する形では、成績が高いほど友人関係もよい、という関係が見られました。
Kyndt ら(2013) ── 1995 年以降の、実際の教室での研究に絞ったメタ分析です。小学校・中学校・高校・大学の研究 65 本をまとめています。 以前の研究と同じ向きで、協同学習は成績と学習への態度にプラスでした。 差の大きさは、教科・年齢・国や文化によって変わっていました(要旨に数値は無いので書きません)。
教え合い(ピアチュータリング)
Cohen, Kulik & Kulik(1982) ── 学校の個別指導プログラム 65 の評価をまとめた研究です。子どもが教える側を務めるプログラムも含まれています。 教わった生徒は、教わらなかった生徒より試験の成績が上で、その教科を好きになっていました。 教える側の生徒も、内容の理解が深まり、教科を好きになっていました。自己肯定感への影響は、教える側・教わる側ともほとんどありませんでした。
Rohrbeck ら(2003) ── 小学生の「仲間どうしで学ぶ」取り組みのメタ分析です。成績へのプラスの差があり、大きさは d = 0.33 でした。0.2 前後は小さい差、0.5 前後は中くらいの差の目安です。 差が大きかったのは、グループ全体の成果でごほうびが決まる形でした。自分の前回と比べて評価する形、生徒に任せる部分が多い形も、差が大きくなっていました。
Rosenshine & Meister(1994) ── 相互教授法の 16 研究のレビューです。相互教授法は、生徒が交代で先生役になり「要約・質問・確認・予想」を回す読み方です。 標準化された読解テストで効果量の中央値 0.32、研究者が作った読解テストで 0.88 でした。
町・中谷(2014) ── 日本の小学 5 年生の算数のグループ学習です。相互教授法の進め方を教えた群と、自由に話し合わせた群を比べました。 教えた群は、学習に関わる深い発言が多く、関係ない発言が少なくなりました。課題の達成度も高く、グループ学習への関わり方の自己評価も上がりました。 もともと「人の役に立ちたい」気持ちが弱い児童でも、型のある話し合いで、関わりの自己評価が上がりました。
伸びない場面
Karau & Williams(1993) ── 社会的手抜きのメタ分析です。社会的手抜きは、みんなでまとめて成果を出すとき、ひとりのときより力を抜くことです。 78 の研究で、手抜きは課題や人の種類を問わず、安定して起きていました。 手抜きの大きさを強く左右したのは、次の 4 つでした。自分の分が評価されるか・仲間がどれくらいやると思うか・課題に意味を感じるか・文化です。
Marion & Thorley(2016) ── 協同抑制のメタ分析です(64 研究)。協同抑制は、グループで一緒に思い出すと、ひとりずつ思い出した合計より少なくなる現象です。 協同抑制は安定して起きていました。グループが大きいとき、思いついた順に自由に話すとき、知らない人どうしのときに強くなりました。 一方、一緒に思い出したあとでひとりで思い出すと、一緒に思い出さなかった場合より成績がよくなる傾向でした。もう一度内容にふれることが一因と考えられています。
佐藤・猿山(2008・学会発表) ── 日本の 3 人組の協同想起の実験です。「あいまいな記憶でも話に出す」ように指示した組は、ひとりずつの合計の予想より多く思い出しました。 「あいまいな記憶は人のじゃまになるので言わない」と指示した組は、予想より少なくなりました。 成績に関係なく、メンバーは「一緒に思い出すほうがよかった」と評価しがちでした。
教える側の学びは 人に説明する・自分に説明する にまとめています。28 研究のまとめ(Kobayashi 2019)はそちらで扱います。答えを伝えるだけでは教える側の伸びが小さいこと(Roscoe & Chi 2007)も同じページです。
日本の中高生の勉強にあてはめると
研究をまとめると、友達と勉強するときのポイントは 3 つです。
- ひとりの時間を先に置く:一緒に思い出すと合計が減る。あとでひとりで思い出すと上がる(Marion & Thorley)
- だれの分かを見えるようにする:自分の分が評価されないと手を抜きやすい(Karau & Williams)
- 話し合いに型をつくる:自由に話すより、役割と手順を決めると深い発言が増えた(町・中谷)
授業のグループ学習・「学び合い」
- 日本の授業では、班で話し合ったり教え合ったりする時間がよくあります。協同学習のまとめ研究は、こうした形を支える結果です(Roseth ら・Kyndt ら)
- 班の話し合いで答えが出たら、最後に自分のノートにひとりで答えを書きます。Karau & Williams のとおり、自分の分が見える形にするためです
- 「学び合い」という名前の授業の進め方そのものを、テストの点で比べた研究は、このページでは引けていません
テスト前の勉強会
- 【推論】最初の 10 分は話さずに、それぞれ問題を解きます。Marion & Thorley のとおり、いきなり一緒に思い出すと合計が減るからです
- 答え合わせでは、答えが割れた問題だけ説明し合います。説明する側は、答えの前に「なぜそうなるか」を言います(説明する勉強)
- 終わりに 5 問ずつ、ひとりで確認テストをします。一緒に勉強したあとでひとりで思い出す形は、Marion & Thorley で成績がよくなる傾向でした
- 佐藤・猿山(2008)のように、「一緒にやったからできた」と感じやすい点に注意します。できたかどうかは、最後のひとりのテストで判断します
LINE で問題を出し合う
- 問題を出し合うのは、思い出す練習 を友達と回す形です。橋本・松居(2019)の「片方が言って、片方が確かめる」ペアドリルにも近い形です
- 【推論】答えはグループに書く前に、自分のノートに書きます。先に人の答えを見ると、自分で思い出す部分がなくなります
- 出題は 1 日 1 人 3 問まで、と量を決めます。通知が続くと勉強が途切れます(スマホと勉強)
- 間違えた問題は、出題者が 3 日後にもう一度出すと、日をあけた復習 になります
自習室・図書館で友達と
- 同じ机で勉強するだけなら、協同学習ではありません。話すのは休み時間にまとめます(集中と休憩)
- 【推論】休み時間に 1 人 1 問ずつ出し合うと、休憩と思い出す練習を兼ねられます
公務員試験の勉強仲間
- 社会人の勉強仲間は、会う時間が限られます。【推論】会う日は解説の読み合わせより、各自で解いた問題の「なぜ」を説明し合う時間にします
- 数的処理は、同じ問題をそれぞれ解き、ちがう解き方を見せ合います。橘・藤村(2010)で、ペアで知識を関連づけた説明が、解き方の変化と結びついていたからです
よくある誤解
「友達と勉強すると、しゃべって終わるだけ」 町・中谷(2014)では、自由に話し合わせた群は、関係ない発言が多くなりました。役割と順番を決めた群では、深い発言が増えていました。しゃべって終わるのは、友達と勉強するからではなく、型がないからと考えられます。
「教える側は損をする」 Cohen ら(1982)のまとめでは、教える側の生徒も理解が深まっていました。ただ、答えを伝えるだけでは伸びが小さいという研究もあります(人に説明する)。
「みんなで思い出せば、ひとりより多く思い出せる」 Marion & Thorley(2016)では、一緒に思い出すと、ひとりずつの合計より少なくなるのがふつうでした。グループ全体では多く思い出せても、それは「合計」より少ない、ということです。順番を決めてひとりずつ言うと、自由に話すより減り方は小さくなっていました。
「グループで解けたなら、全員分かった」 Karau & Williams(1993)のとおり、だれの分か見えないと手抜きが起きます。佐藤・猿山(2008)では、成績に関係なく「一緒のほうがよかった」と感じていました。最後にひとりで解いて確かめます。
このサイトでの使い方
- 勉強会の前に、各自で同じ単元の小テストを解いておく。例:一次関数(式・グラフ・変化の割合)・関係代名詞(主格・目的格)
- 集まったら、間違えた問題だけを見せ合い、なぜその答えになるかを説明し合う
- 終わりに、各自が「同じ型でもう 1 問」を解く。全員が自分で解けたら、その単元は終わり
- 3 日後、各自で「前に間違えた型をやり直す」を解いて、結果を LINE で見せ合う
- 公務員試験の仲間なら、対応関係(表で消していく) のような単元で、同じ問題の解き方をくらべる
注意点
- 協同学習のまとめ研究は、授業の中での協同学習が中心です。友達どうしが放課後に自主的に集まる勉強会を、直接調べた研究は少ないです
- 日本の中高生の研究(橋本・松居 2019、橘・藤村 2010)は人数が少なめです。橋本・松居はクラス単位の比較で、活動時間もそろっていません
- 町・中谷(2014)は小学 5 年生、Rohrbeck ら(2003)は小学生が対象です。中高生で同じ大きさの差が出るかは分かりません
- 協同抑制の研究(Marion & Thorley)は、主に単語や出来事を思い出す実験です。問題を解く勉強会で同じことが起きるかは、【推論】です
- 佐藤・猿山(2008)は学会発表の抄録です
- 「10 分」「3 問」「5 問」などの数は一例です。研究で決まった値ではありません
引いた論文
番号は docs/参考文献ログ_追加_習慣3.md(#360〜)と docs/参考文献ログ.md(#29)の #。すべて DOI を開いて書誌と要旨を確認しています(#370 は J-STAGE の論文本文で数字を確認)。
- #360 Johnson, D. W., Maruyama, G., Johnson, R., Nelson, D., & Skon, L. (1981). Effects of cooperative, competitive, and individualistic goal structures on achievement: A meta-analysis. Psychological Bulletin, 89(1), 47–62. https://doi.org/10.1037/0033-2909.89.1.47
- #361 Roseth, C. J., Johnson, D. W., & Johnson, R. T. (2008). Promoting early adolescents’ achievement and peer relationships: The effects of cooperative, competitive, and individualistic goal structures. Psychological Bulletin, 134(2), 223–246. https://doi.org/10.1037/0033-2909.134.2.223
- #362 Kyndt, E., Raes, E., Lismont, B., Timmers, F., Cascallar, E., & Dochy, F. (2013). A meta-analysis of the effects of face-to-face cooperative learning. Do recent studies falsify or verify earlier findings? Educational Research Review, 10, 133–149. https://doi.org/10.1016/j.edurev.2013.02.002
- #363 Cohen, P. A., Kulik, J. A., & Kulik, C.-L. C. (1982). Educational outcomes of tutoring: A meta-analysis of findings. American Educational Research Journal, 19(2), 237–248. https://doi.org/10.3102/00028312019002237
- #364 Rohrbeck, C. A., Ginsburg-Block, M. D., Fantuzzo, J. W., & Miller, T. R. (2003). Peer-assisted learning interventions with elementary school students: A meta-analytic review. Journal of Educational Psychology, 95(2), 240–257. https://doi.org/10.1037/0022-0663.95.2.240
- #29 Rosenshine, B., & Meister, C. (1994). Reciprocal teaching: A review of the research. Review of Educational Research, 64(4), 479–530. https://doi.org/10.3102/00346543064004479
- #369 町岳・中谷素之 (2014). 算数グループ学習における相互教授法の介入効果とそのプロセス ── 向社会的目標との交互作用の検討. 教育心理学研究, 62(4), 322–335. https://doi.org/10.5926/jjep.62.322
- #370 橋本秀徳・松居貴昭 (2019). ペアでのドリル活動の繰り返しの効果と動機づけへの影響. 中部地区英語教育学会紀要, 48, 25–32. https://doi.org/10.20713/celes.48.0_25
- #368 橘春菜・藤村宣之 (2010). 高校生のペアでの協同解決を通じた知識統合過程 ── 知識を相互構築する相手としての他者の役割に着目して. 教育心理学研究, 58(1), 1–11. https://doi.org/10.5926/jjep.58.1
- #365 Karau, S. J., & Williams, K. D. (1993). Social loafing: A meta-analytic review and theoretical integration. Journal of Personality and Social Psychology, 65(4), 681–706. https://doi.org/10.1037/0022-3514.65.4.681
- #366 Marion, S. B., & Thorley, C. (2016). A meta-analytic review of collaborative inhibition and postcollaborative memory: Testing the predictions of the retrieval strategy disruption hypothesis. Psychological Bulletin, 142(11), 1141–1164. https://doi.org/10.1037/bul0000071
- #367 佐藤浩一・猿山恵未 (2008). 3 人集団による協同想起 ── 話し合いの方略と協同促進・協同抑制現象. 日本認知心理学会発表論文集, 2008, 66.(学会発表の抄録)https://doi.org/10.14875/cogpsy.2008.0.66.0