勉強法
わからないときの質問のしかた ── 先生・友達・解説に頼るタイミング
一言で
わからないときに人に聞くことを、研究では学業的援助要請と呼びます。研究では、質問は「人に頼りきること」ではなく、勉強のやり方の 1 つとして扱われています。 ただし質問には質があります。どこまで考えて、どこで止まったかを言える質問は、自分で解く力につながりやすい形です。「答えだけ教えて」という質問は、点数と負の関係が出た研究もあります。 研究から考えると、勧めたい順番は「まず自分で考える → 止まった場所を言葉にする → 聞く → もう 1 問を自分で解く」です。
今日からやること
- 聞く前に、止まった場所を 1 行で書く。「問 3 の (2)。両辺を 2 乗したあと、なぜ解が 1 つ消えるのかがわからない」のように、どこまでできて何がわからないかを書きます
- 解説を読んでわかったら、閉じてもう 1 問解く。友達や先生に教わったあとも同じです。似た問題を 1 問、何も見ずに解けたら「わかった」とします
- 質問はためて、1 日 1 回まとめて聞く。休み時間や放課後の 5 分を「質問の時間」と決め、付箋やノートの端に書いた質問を持っていきます
1 と 3 は、下の研究から考えた段取りです。この形そのものを実験で比べたわけではありません。
何が分かっているか
日本の中高生の研究
瀬尾(2005) ── 「質問するには何が必要か」を、まず生徒に尋ねました。多く挙がったのは、自分のつまずきをはっきりさせることと、時間や場所の確保でした。 次の質問紙調査では、「わかるようになりたい」という目標(習得目標)が、つまずきをはっきりさせる工夫を通して、質問と結びついていました。 最後に高校 2 年生の数学で、つまずきをはっきりさせる方法を教える授業をしました。教えたあと、数学の学力が高い集団では質問の数が増えました。学力の高い集団でも低い集団でも、「わかりません」のようなおおまかな質問は減りました。代わりに、内容に踏みこんだ質問が増えています(人数と数値は要旨に無いので書きません)。
瀬尾(2007) ── 中学生 235 人と高校生 257 人の質問紙調査です。質問を 2 種類に分けています。
- 自律的な質問:自分で考えたうえで、わからない所を聞く
- 依存的な質問:考える前に、答えややり方を聞く
中学生では、「丸暗記でよい・答えが合えばよい」と考える生徒ほど、依存的な質問が多い関係でした。高校生では、そう考える生徒ほど自律的な質問が少ない関係でした。著者は、中学から高校にかけての質問の育ち方を「依存的な質問が減ること」と見ています。
瀬尾(2008) ── 中学生 2,304 人と、その数学の先生 22 人の調査です。先生が主に一方的に説明する授業(教師主導型)と、生徒の依存的な質問の間に関係が見られました(関係の強さは要旨に無いので書きません)。 一方、生徒とのやりとりが多い授業と、自律的な質問の間には、はっきりした関係が見られませんでした。先生の支える態度も、どちらの質問とも関係が出ていません。 ここでも、つまずきをはっきりさせる工夫をしている生徒ほど、質問の質が高い関係でした。
野崎(2003) ── 生徒の質問紙調査で、先生に聞く場合と友達に聞く場合を分けて調べました。 「わかるようになりたい」という目標は、「聞いても無駄だ」という感じ方を通して、適切な質問と結びついていました。 「人よりできると見られたい」という目標は、「聞くとできないと思われる」という気持ちを通して、依存的な質問や質問を避けることと結びついていました。先生に聞く場合と友達に聞く場合で、つながり方が一部ちがいました(人数・学年は要旨に無いので書きません)。
後藤・赤松・中谷(2025) ── 中学生 280 人の調査で、生徒どうしの質問を調べました。 勉強に自信のない生徒では、「先生が質問し合うことを勧めている」と感じている生徒ほど、適切な質問をしていました。 先生が質問し合うことに否定的だと感じている生徒は、依存的な質問をしやすい関係でした。
中谷・岡田(2020) ── 目標と質問の関係を調べた研究のまとめです。メタ分析(多くの研究結果を合算する方法)も含みます。 「わかるようになりたい」という目標や、それを大事にするクラスの雰囲気は、適切な質問と正の関係でした。質問を避けることとは負の関係でした。 「人によく見られたい」という人間関係の目標は、依存的な質問と結びついていました。題名どおり、「質問は多いほどよい」とは限らない、という整理です。
ここまでの日本の研究は、どれも質問紙調査が中心です。関係は分かりますが、「どちらが原因か」までは確かめられません。
海外の研究
Ryan & Pintrich(1997) ── アメリカの中学 1・2 年生(7・8 年生)203 人の、数学の授業での質問を調べました。 質問を避けるかどうかには、「聞くとばかにされる」というおそれと、「聞くと役に立つ」という見込みの両方が関係していました。 一方、適切な質問をするかどうかを予測したのは、「役に立つ」という見込みだけでした。
Karabenick & Knapp(1991) ── 大学生計 1,539 人の 3 つの研究です。必要なときに助けを求める学生は、ほかの学び方(計画を立てる・理解を確かめるなど)も積極的に使っていました。 著者は、質問を「人に頼る行動」ではなく、「成績を上げようとする行動の一部」と見るべきだとまとめています。
Fong ら(2023) ── 大学生などの質問と成績の関係を調べた、108 研究(約 3 万 8 千人)のメタ分析です。 必要なときに助けを求めることと成績の関係は、正でしたがとても小さいものでした。 差が出たのは質問の中身です。答えだけを求める質問は、成績と負の関係でした。やり方や考え方を理解するための質問は、正の関係でした(相関の値は要旨に無いので書きません)。
Webb, Troper & Fall(1995) ── アメリカの中学 1 年生(7 年生)6 クラスの、少人数グループでの数学の学習です。助けが必要だった生徒の、話し合いの録音を分析しました。 点数を最もよく予測したのは、教わったあとに自分で問題を解いたり、解き方を説明したりしたかでした。 どんな説明を受けたかは、そのあと自分で解くかどうかとは関係していました。ただし、点数を直接は予測しませんでした。答えだけでなく説明を受けると、そのあと自分で手を動かしやすくなる、という流れです。
解説やヒントを「見る」ときの研究
Aleven ら(2003) ── 学習ソフトのヒントや解説の使われ方を調べた研究のまとめです。ヒントを上手に使うことは、よい学習成果と結びついていました。 ところが、多くの学習者はヒントの機能をうまく使えていませんでした。ヒントを飛ばして答えだけ見る、逆にまったく使わない、といった使い方です。
Roll ら(2011) ── 図形の学習ソフトに、「ヒントの使い方」を指摘する機能を足した 2 つの研究です(58 人と 67 人)。 指摘を受けると、ヒントの使い方がよくなりました。2 つめの研究では、指摘の機能を外したあとの 1 か月も、新しい単元でよい使い方が続いていました。
先に自分で考えてから教わる
新しい内容を学ぶとき、先に自分で解いてみてから説明を受ける形のほうが、説明を先に受ける形より上だった、というメタ分析があります(Sinha & Kapur 2021)。数字と、小学生では逆の結果だった点は 予習のしかた にまとめています。 「すぐに聞かず、まず考える」時間には意味がある、と考えられます。ただしこの研究は授業の組み立てを比べたもので、「何分考えてから質問するか」を比べたものではありません。
日本の中高生の勉強にあてはめると
授業中・休み時間に先生に聞く ── 先生のところへ行く前に、ノートの端に 1 行で質問を書きます。型は「どこまでできた → どこで止まった → 何がわからない」です。 例:「教科書 p.52 の例題 3。グラフの頂点は出せた。でも、x の範囲が 0 ≦ x ≦ 3 のときの最小値がわからない」 瀬尾(2005)で質問の質を高めたのも、こうしてつまずきをはっきりさせる方法でした。
友達に聞く ── 「答え何だった?」で終わらせず、「どうやってそこまで行った?」と聞きます。教わったら、その場で似た問題を 1 問、自分で解いてみせます。Webb ら(1995)で点数を予測したのは、この「自分でやる」部分でした。 教える側にとっての利点は 人に説明する・自分に説明する に、友達との勉強会の形は 友達と勉強する にあります。
塾の質問の時間・映像授業の質問窓口 ── 質問の時間が決まっている場所ほど、ためた質問を持っていく形が合います。質問を書いた紙ごと見せると、短い時間でも話が早く進みます【推論】。 オンラインやチャットで送るときは、問題の番号と、自分の途中式の写真をつけます。「全部わからない」ではなく、止まった行を指します。
解説・解答を見るタイミング ── 研究で「何分」と決まった数字はありません。ここでは一例を示します【推論】。
- 問題集の 1 問:5〜10 分考えて手が止まったら、解説の最初の数行だけ読む
- その先は自分で進める。それでも止まったら、全部読む
- 読んだら閉じて、同じ問題を最初から自分で書く。次の日に似た問題をもう 1 問
この順番は、解説の初めの数行を「ヒント」として使う工夫です。いきなり答えまで読むのは、Fong ら(2023)の「答えだけを求める質問」に近い使い方になります【推論】。
聞くのが恥ずかしいとき ── Ryan & Pintrich(1997)では、適切な質問を予測したのは「役に立つ」という見込みでした。恥ずかしさを消すより、「聞いたら何が手に入るか」をはっきりさせるほうが近道だと考えられます【推論】。 たとえば「この 1 問がわかれば、定期テストの大問 1 つ分の型がわかる」と書き出してから行きます。 人前が苦手なら、放課後に職員室へ行く、質問を紙で出すなど、ほかの人に見られない形を選んでかまいません。
受験学年 ── 赤本や過去問の解説が難しいときは、解説のどの行で止まったかに線を引いて先生に見せます。わからない場所が「1 行の式変形」なのか「解き方の方針」なのかで、聞く相手も変わります。式変形なら友達でも答えられますが、方針は先生や塾の講師のほうが答えやすいことが多いです【推論】。
公務員試験の勉強 ── 独学が多く、聞く相手がいないこともあります。その場合も「止まった場所を 1 行で書く」は使えます。書き出してから解説や参考書の該当箇所を探すと、何を探せばよいかがはっきりします【推論】。
よくある誤解
「質問するのは、自分で考える力がない証拠」 Karabenick & Knapp(1991)の大学生 1,539 人の研究では、必要なときに助けを求める学生ほど、ほかの学び方も積極的に使っていました。研究では、質問は学び方の 1 つとして扱われています。
「たくさん質問するほど、伸びる」 そうとは限りません。Fong ら(2023)では、答えだけを求める質問は成績と負の関係でした。中谷・岡田(2020)の題名のとおり、「質問は常に最善か」は研究でも問われています。数より、つまずきをはっきりさせた質問かどうかが大事だと考えられます。
「教わって『わかった』と思えたら、次へ進んでよい」 Webb ら(1995)で点数を予測したのは、教わったあとに自分で解いたり説明したりしたかでした。「わかった」の感覚は当てにならないことも分かっています(テスト効果)。もう 1 問を自分で解けるかで確かめます。
「先生に聞きにくいのは、自分の性格のせい」 瀬尾(2008)では、授業の進め方と生徒の質問の形に関係が出ていました。後藤ら(2025)でも、先生が質問を勧めていると感じるかどうかで、質問のしかたがちがっていました。聞きにくさは、性格だけで決まるものではないと考えられます。
このサイトでの使い方
このサイトには、先生に質問する機能はありません。代わりに、解説と小テストを「質問の前の段階」として使えます。
- 小テストで間違えたら、すぐ答えの解説を全部読む前に、どの行で止まったかを紙に書く
- 解説を読んだら閉じて、「同じ型でもう 1 問」ボタンで別の数の問題を自分で解く。教わったあとに自分で解く、の練習です
- それでも解けない型は、間違いノート に「止まった行」と一緒に写し、先生や友達への質問に回す
- 次に開いたときは「前に間違えた型をやり直す」から始める
例:二次方程式(因数分解・平方根・解の公式) の小テストで、解の公式の計算で止まったとします。「√ の中の計算で、b² − 4ac の符号がわからない」と書けたら、もう質問の半分はできています。 評論の読み方 のように答えが一つに決まりにくい単元では、「なぜ自分の選んだ選択肢がちがうのか」を 1 行で書いて先生に見せる形が合います。
初めて習う型で、何から考えればよいかもわからないときは、先に解答例を読むほうがよい場面もあります。その使い分けは 解答例から学ぶ(例題学習) にあります。
注意点
- 日本の研究(瀬尾・野崎・後藤ら・中谷と岡田)は、ほとんどが質問紙調査です。「こう質問すると点が上がる」という因果までは確かめられていません。瀬尾(2005)だけが授業で教える介入をしていますが、要旨に点数の結果はありません
- Fong ら(2023)は大学生などが対象で、質問と成績の関係も「とても小さい」ものでした。日本の中高生で、質問の中身と点数の関係を直接確かめた研究は、このページではまだ引けていません
- 「何分考えてから聞くか」を比べた研究は見つかっていません。上の「5〜10 分」は一例です
- 学習ソフトの研究(Aleven ら・Roll ら)は、海外の数学の学習ソフトでの結果です。紙の問題集の解説に、そのまま当てはまるとは限りません
引いた論文
番号は班別ファイル docs/参考文献ログ_追加_困ったとき.md の #(#146 は docs/参考文献ログ.md の番号)。DOI を開いて書誌を確認し、要旨(J-STAGE・OpenAlex・ERIC・Semantic Scholar)で内容を確かめています。
- #521 瀬尾美紀子 (2005). 数学の問題解決における質問生成と援助要請の促進:つまずき明確化方略の教授効果. 教育心理学研究, 53(4), 441–455. https://doi.org/10.5926/jjep1953.53.4_441
- #522 瀬尾美紀子 (2007). 自律的・依存的援助要請における学習観とつまずき明確化方略の役割:多母集団同時分析による中学・高校生の発達差の検討. 教育心理学研究, 55(2), 170–183. https://doi.org/10.5926/jjep1953.55.2_170
- #523 瀬尾美紀子 (2008). 学習上の援助要請における教師の役割:指導スタイルとサポート的態度に着目した検討. 教育心理学研究, 56(2), 243–255. https://doi.org/10.5926/jjep1953.56.2_243
- #524 野崎秀正 (2003). 生徒の達成目標志向性とコンピテンスの認知が学業的援助要請に及ぼす影響:抑制態度を媒介としたプロセスの検証. 教育心理学研究, 51(2), 141–153. https://doi.org/10.5926/jjep1953.51.2_141
- #525 中谷素之・岡田涼 (2020). 学業的・社会的領域の目標と学業的援助要請に関する包括的レビュー:援助を求めることは常に最善か? 心理学評論, 63(4), 457–476. https://doi.org/10.24602/sjpr.63.4_457
- #526 後藤綾文・赤松大輔・中谷素之 (2025). 生徒間の学業的援助要請と学業的・社会的コンピテンス,および援助要請に対する教師の働きかけの関連:コンピテンスの調整効果. 教育心理学研究, 73(3), 159–169. https://doi.org/10.5926/jjep.73.159
- #527 Ryan, A. M., & Pintrich, P. R. (1997). “Should I ask for help?” The role of motivation and attitudes in adolescents’ help seeking in math class. Journal of Educational Psychology, 89(2), 329–341. https://doi.org/10.1037/0022-0663.89.2.329
- #528 Karabenick, S. A., & Knapp, J. R. (1991). Relationship of academic help seeking to the use of learning strategies and other instrumental achievement behavior in college students. Journal of Educational Psychology, 83(2), 221–230. https://doi.org/10.1037/0022-0663.83.2.221
- #529 Fong, C. J., Gonzales, C., Hill-Troglin Cox, C., & Shinn, H. B. (2023). Academic help-seeking and achievement of postsecondary students: A meta-analytic investigation. Journal of Educational Psychology, 115(1), 1–21. https://doi.org/10.1037/edu0000725
- #530 Webb, N. M., Troper, J. D., & Fall, R. (1995). Constructive activity and learning in collaborative small groups. Journal of Educational Psychology, 87(3), 406–423. https://doi.org/10.1037/0022-0663.87.3.406
- #531 Aleven, V., Stahl, E., Schworm, S., Fischer, F., & Wallace, R. (2003). Help seeking and help design in interactive learning environments. Review of Educational Research, 73(3), 277–320. https://doi.org/10.3102/00346543073003277
- #532 Roll, I., Aleven, V., McLaren, B. M., & Koedinger, K. R. (2011). Improving students’ help-seeking skills using metacognitive feedback in an intelligent tutoring system. Learning and Instruction, 21(2), 267–280. https://doi.org/10.1016/j.learninstruc.2010.07.004
- #146 Sinha, T., & Kapur, M. (2021). When problem solving followed by instruction works: Evidence for productive failure. Review of Educational Research, 91(5), 761–798. https://doi.org/10.3102/00346543211019105