勉強法
音楽を聴きながらの勉強 ── 歌詞のある曲と、ない曲
一言で
読む・覚える勉強では、歌詞のある曲は点を下げる方向の結果が、まとめ研究でも個別の実験でも出ています。好きな曲でも下がった実験があります。 歌詞のない静かな曲は、無音と差が出なかった実験が多くあります。ただし、まとめ研究では歌詞なしも含めた音楽全体で、読みに小さなマイナスが出ています。速くて大きい音で下がった実験もあります。 「音楽があると集中できる」という感覚には、研究で一部うなずける点もあります。気分が上がり、ぼんやりする時間が減るという結果です。ただ、それで点が高くなったという結果は、ここで引いた研究にはありません。
今日からやること
- 英単語・古文・英語や現代文の長文など、言葉を読む・覚える勉強では歌詞のある曲を止める。音がほしいときは、歌詞のない曲を小さめの音にする
- 好きな歌詞つきの曲は、勉強を始める前の 5 分と休み時間に聴く。勉強中は止める。ただし新しく覚えた直後の数分は、曲も止めて静かに休む(集中と休憩)
- 1 週間だけ自分で試す。同じ種類の問題を 15 分ずつ、「無音」と「歌詞なしの曲」で解き、正解数をノートに書いて比べる
何が分かっているか
たくさんの研究をまとめた結果
Kämpfe, Sedlmeier & Renkewitz(2011) 大人を対象にした BGM(背景に流す音楽)の研究のメタ分析です。メタ分析は、多くの実験結果を合算する研究です。全部を平均すると、差はゼロでした。 ただ、これはプラスとマイナスが打ち消し合った結果だと著者は見ています。音楽なしと比べると、BGM は読むことを妨げ、記憶にも小さなマイナスがありました。一方で、気分や運動の成績にはプラスでした。
Vasilev, Kirkby & Angele(2018) 読んでいるときの「音のじゃま」を調べた 65 研究のメタ分析です。雑音・話し声・音楽は、どれも読みに小さいが確かなマイナスがありました。 大人と子どもで、大きな差はありませんでした。最もじゃまになったのは、聞き取れる話し声と歌詞つきの音楽です。
Cheah, Wong, Spitzer & Coutinho(2022) 95 論文・154 実験を集めた総説です。効果の大きさではなく「プラスかマイナスか」の向きを数える方法でまとめています。 記憶と言語の課題では、BGM はマイナスの方向でした。歌詞つきは歌詞なしよりマイナスの傾向がありました。多くの実験では差がなく、プラスは 1 件(歌詞なし)だけでした。 難しい課題と、内向的な人でマイナスが出ていました。易しい課題と外向的な人では出ていません。
de la Mora Velasco & Hirumi(2020) 2008〜2018 年の 30 研究を集めた総説です。BGM と学習の結果は一貫しない、とまとめています。研究の方法をもっと厳密にする必要がある、とも書いています。
歌詞があるか、ないか
Salamé & Baddeley(1989) 画面に出る 9 けたの数字を、順番どおりに覚える実験です。1 つ目の実験では、歌も器楽(楽器だけ)も無音より記憶を妨げ、歌(声入り)は器楽より妨げました。 2 つ目の実験では、器楽は無音と有意な差がありませんでした。3 つ目の実験で最も妨げたのは、話し声です。 このように、無視しようとしても音が記憶をじゃまする現象を無関連音効果と呼びます。同じ論文は、知らない外国語の話し声でも記憶が乱れることを前提にしています。
Perham & Currie(2014)
- 対象:イギリスの大学生 30 人
- 比べたもの:文章の読解を、無音・好きな歌詞つきの曲・嫌いな歌詞つきの曲・歌詞なしの曲の 4 条件で
- 結果:点が高かったのは無音と歌詞なし。歌詞つきは、好きな曲でも嫌いな曲でも無音より低く、好き嫌いで差はなかった
Souza & Leal Barbosa(2023) 大学生が、言葉の記憶・目で見たものの記憶・読解・計算の 4 つの課題を行いました。無音・歌詞なし(lo-fi ヒップホップ)・歌詞ありの 3 条件で比べています。 歌詞ありは、言葉の記憶・目で見たものの記憶・読解を下げました(d ≈ −0.3)。d は差の大きさで、0.3 は小さめの差です。計算への影響は、確かとはいえませんでした。 歌詞なしの曲は、上げも下げもしませんでした。参加者は、歌詞が害になることに気づいていました。一方で、歌詞なしの曲は「役に立つ」と感じた人もいました(人数は要旨に無いので書きません)。
Sun ら(2024)
- 対象:中国の大学生 90 人。ふだん音楽を聴きながら読む人 45 人と、聴かない人 45 人
- 比べたもの:中国語のポップス・英語のポップス・音楽なし(各 30 人)で、中国語と英語の文章を読む
- 結果:歌詞つきの曲で読解が下がった。文章と同じ言語の歌詞で、より下がった。ふだん聴かない人のほうが、聴く人より下がり幅が大きかった。どちらの人も、母語の歌詞のときがいちばん低かった
音の大きさと速さ
Thompson, Schellenberg & Letnic(2012) 歌詞のない曲で、テンポ(遅い・速い)と音量(小さい・大きい)を変えました。各条件 25 人です。 速くて大きい音の条件だけ、読解の点が無音の基準(無音で読んだ別の参加者の点)より有意に低くなりました。
人によって違うこと
Gonzalez & Aiello(2019) 音楽は、おおむね複雑な課題を妨げました。一方、複雑な音楽が単純な課題を助けた場合もありました。 外からの刺激を好む人かどうかで、この影響が変わっていました(人数は要旨に無いので書きません)。
「音楽がないと集中できない」について
Kiss & Linnell(2021) 学生 40 人が、画面の合図にすばやく反応する単純な課題を行いました。無音と、自分で選んだ好きな曲で比べています。 好きな曲を流すと、「課題に集中していた」と答えた割合が増え、ぼんやり別のことを考えていた割合が減りました。ただし、反応の速さは無音と有意な差がありませんでした。
市村・平井・水野(2022・学会発表の抄録) 日本の大学生 65 人の実験です。BGM を自分で選ぶ・ランダムに流れる・BGM なしの 3 条件で、注意を保つ課題を比べました。 課題の成績は差がありませんでした。自分で感じる集中度は、BGM なしの条件が高く出ています。楽しさは、自分で選ぶ・ランダム・なしの順でした。
Thompson, Schellenberg & Husain(2001) 「モーツァルトを聴くと頭がよくなる」と言われた現象を調べた実験です。明るく元気なモーツァルトを聴いた後は、無音の後より空間の課題の点が高くなりました。ゆっくりした悲しい曲の後では、高くなりませんでした。 気分の高まりの差を統計でそろえると、この差は消えました。曲の力ではなく、気分が上がったことの結果だと著者はまとめています。
日本の中高生の勉強にあてはめると
英単語・古文単語・漢字 言葉を覚える勉強は、歌詞のじゃまを受けやすい種類です(Souza ら 2023 の言葉の記憶)。単語帳を回すときは無音にします。音がほしいなら、歌詞のない曲を小さめにします(単語帳の使い方)。
英語長文・現代文 読解は、まとめ研究でも個別の実験でも下がる方向が出ています。日本語の歌詞は、日本語の文章を読むときに特にじゃまになると考えられます。Sun ら(2024)で、同じ言語の歌詞で下がり幅が大きかったからです。 英語長文のときに英語の歌詞の曲を流すのも、同じ理由で避けます。
音読・シャドーイング 自分の声と音声を聞く練習なので、音楽はかけません(音読)。
数学の計算練習 Souza ら(2023)では、計算への影響は確かとはいえませんでした。ただ、難しい課題でマイナスが出た研究もあります(Gonzalez & Aiello 2019、Cheah ら 2022)。 慣れた計算の反復なら、歌詞なしの小さな音で差が出にくい可能性があります。初めての単元や応用問題は、無音にするほうが安全です。
自習室・ファミレス・通学電車 Vasilev ら(2018)では、周りの話し声や雑音も読みを妨げていました。にぎやかな場所でイヤホンを使うなら、歌詞のない曲を小さめにする手があります。 【推論】周りの話し声より、歌詞のない小さな音のほうがまし、という考え方です。両方を直接比べた研究は、このページでは引けていません。耳栓という方法もあります。
勉強を始める前と休み時間 Thompson ら(2001)のとおり、好きな曲で気分を上げてから始めるのは、研究と矛盾しない使い方です。部活のあとで気分が重い日は、着替えながら 1 曲聴き、曲が終わったら止めて始めます。休み時間の過ごし方は 集中と休憩 にまとめています。
本番の試験 入試の本番は無音です。ふだん音楽を流して勉強している人も、テスト前の 2 週間は無音で問題を解く日を入れます。研究で確かめたことではなく、本番と同じ条件に慣れておくための工夫です。
よくある誤解
「好きな曲なら、聴きながらでも大丈夫」 Perham & Currie(2014)では、好きな歌詞つきの曲も嫌いな曲と同じように読解を下げました。好き嫌いより、歌詞があるかどうかのほうが大きく関わっていました。
「洋楽なら歌詞が分からないから平気」 Sun ら(2024)では、母語ではない言語の歌詞でも読解は下がりました。下がり幅が最も大きかったのは、母語の歌詞のときです。洋楽は邦楽よりましかもしれませんが、無音と同じではありません。
「自分は音楽があるほうが集中できると感じるから、それで正しい」 Souza ら(2023)では、歌詞なしの曲を「役に立つ」と感じた人がいました。ただ、点は上がっていません。市村ら(2022)でも、楽しさは BGM ありが高く、点は差がありませんでした。感じ方と点は、そろわないことがあります。 感じ方より、同じくらいの問題を解いた正解数で比べるほうが確かめやすいです。「今日からやること」の 3 番がそのためのやり方です。1 回では点がぶれるので、何回か比べます。
「クラシックを聴くと頭がよくなる」 Thompson ら(2001)では、差は曲の種類ではなく気分の高まりで説明できました。聴いた後の気分の話で、聴きながら勉強する話ではありません。
このサイトでの使い方
- 小テストは無音で解く。本番に近い条件で、自分の実力を確かめるためです
- 「今日からやること」の比べ方に、小テストが使えます。例:共通テスト リーディングの型(形式・時間配分・探し読み) の小テストを無音で、別の日に歌詞なしの曲で解いて比べる。同じ問題の 2 回目は慣れで点が上がるので、どちらを先にするかも入れかえて試します
- 言葉を覚える単元、たとえば 評論頻出語彙と漢字(概念語・カタカナ語・同音異義語) や 漢字の読み書き(同音異義語・同訓異字) は、無音で解きます
- 計算中心の 二次方程式(因数分解・平方根・解の公式) は、慣れてきたら歌詞なしの小さな音で解いてもかまいません。初めて解く日は無音で
- スマホで音楽を流すと、通知も一緒に来ます。音楽を流すなら通知を切ってから(スマホと勉強)
注意点
- ここの研究のほとんどは大学生か大人が対象です。Vasilev ら(2018)では、大人と子どもで大きな差はありませんでした。ただ、日本の中高生で直接確かめた研究は、このページではまだ引けていません
- 日本の研究(市村ら 2022)は学会発表の抄録で、課題は注意を保つ単純な作業です。勉強の内容を覚える課題ではありません
- 実験の多くは 1 回きりで、数分〜数十分の短い課題です。何か月も音楽を流して勉強した場合の差は、ここでは分かっていません
- 研究によって、使った曲・音量・課題がばらばらです。総説も「結果は一貫しない」と書いています。「歌詞なしなら何でも大丈夫」とは言い切れません
- 音楽をまったく聴かずに勉強が続かない人は、無理に全部やめなくてよいです。言葉の勉強の時間だけ止めるところから始めます
引いた論文
番号は docs/参考文献ログ_追加_習慣2.md の #。すべて DOI を開いて書誌と要旨(#266 は著者公開原稿の本文、#271 は J-STAGE の抄録)を確認しています。
- #260 Kämpfe, J., Sedlmeier, P., & Renkewitz, F. (2011). The impact of background music on adult listeners: A meta-analysis. Psychology of Music, 39, 424–448. https://doi.org/10.1177/0305735610376261
- #262 Vasilev, M. R., Kirkby, J. A., & Angele, B. (2018). Auditory distraction during reading: A Bayesian meta-analysis of a continuing controversy. Perspectives on Psychological Science, 13, 567–597. https://doi.org/10.1177/1745691617747398
- #263 Cheah, Y., Wong, H. K., Spitzer, M., & Coutinho, E. (2022). Background music and cognitive task performance: A systematic review of task, music, and population impact. Music & Science, 5, 20592043221134392. https://doi.org/10.1177/20592043221134392
- #261 de la Mora Velasco, E., & Hirumi, A. (2020). The effects of background music on learning: A systematic review of literature to guide future research and practice. Educational Technology Research and Development, 68, 2817–2837. https://doi.org/10.1007/s11423-020-09783-4
- #265 Salamé, P., & Baddeley, A. (1989). Effects of background music on phonological short-term memory. The Quarterly Journal of Experimental Psychology Section A, 41, 107–122. https://doi.org/10.1080/14640748908402355
- #266 Perham, N., & Currie, H. (2014). Does listening to preferred music improve reading comprehension performance? Applied Cognitive Psychology, 28, 279–284. https://doi.org/10.1002/acp.2994
- #264 Souza, A. S., & Leal Barbosa, L. C. (2023). Should we turn off the music? Music with lyrics interferes with cognitive tasks. Journal of Cognition, 6(1), 24. https://doi.org/10.5334/joc.273
- #268 Sun, Y., Sun, C., Li, C., Shao, X., Liu, Q., & Liu, H. (2024). Impact of background music on reading comprehension: Influence of lyrics language and study habits. Frontiers in Psychology, 15, 1363562. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2024.1363562
- #267 Thompson, W. F., Schellenberg, E. G., & Letnic, A. K. (2012). Fast and loud background music disrupts reading comprehension. Psychology of Music, 40, 700–708. https://doi.org/10.1177/0305735611400173
- #269 Gonzalez, M. F., & Aiello, J. R. (2019). More than meets the ear: Investigating how music affects cognitive task performance. Journal of Experimental Psychology: Applied, 25, 431–444. https://doi.org/10.1037/xap0000202
- #270 Kiss, L., & Linnell, K. J. (2021). The effect of preferred background music on task-focus in sustained attention. Psychological Research, 85, 2313–2325. https://doi.org/10.1007/s00426-020-01400-6
- #271 市村賢士郎・平井志歩・水野廉也 (2022). BGMの自己選択が持続的注意課題の取り組みに及ぼす影響 ── BGMを自分で選ぶとやる気が高まる. 日本認知心理学会発表論文集, 2021, 6.(学会発表の抄録)https://doi.org/10.14875/cogpsy.2021.0_6
- #272 Thompson, W. F., Schellenberg, E. G., & Husain, G. (2001). Arousal, mood, and the Mozart effect. Psychological Science, 12, 248–251. https://doi.org/10.1111/1467-9280.00345