勉強法

更新 2026-10-04 / 引用した論文はすべて DOI を確認しています

グラフと資料の読み方 ── 入試の資料問題で見るところ

一言で

グラフを読む力には段階があります。値を 1 つ読む・2 つを比べる、傾向をつかむ・目的に合うグラフを選んで、理由を説明するの順に難しくなります。 日本の全国学力調査でも、値を読む問題はできている一方、選んで説明する問題で正しく答えた割合が大きく下がっていました。 入試の資料問題は、後ろの 2 つを問うものが多い。だから「グラフを見たら最初に何を確かめるか」を決めておくと、迷いが減ります(【推論】)。

今日からやること

  1. グラフを見たら、最初の 10 秒で 4 か所を指でさす。題名・縦軸と横軸(何と何か)・単位・目盛りの始まり(0 からか)
  2. 読みとったことを「◯が増えると、△は〜」の 1 文で書く。理科の実験グラフ・社会の統計グラフを 1 日 1 枚
  3. 理科の実験は、表から自分でグラフを描く。定期テスト前に、教科書の表を方眼紙に 1 枚。描いてから教科書のグラフと比べる

10 秒・1 日 1 枚などの数は、研究で決めた値ではなく目安です。

何が分かっているか

日本の全国学力調査で見えていること(参考資料)

国立教育政策研究所の「全国学力・学習状況調査の結果(概要)」から、グラフと資料の問題を拾いました。論文ではなく公的な調査結果です。

2025 年度(令和 7 年度)・小学 6 年の算数

2025 年度(令和 7 年度)・中学 3 年の数学

2026 年度(令和 8 年度)・中学 3 年の数学

数字は年ごとに変わります。最新は国立教育政策研究所の公表資料で確かめてください。

日本の中高生を対象にした研究

宮本(2020) ── 中学校 2 クラス 59 人の、理科のデータの読みとりを調べました。 つまずきが多かったのは、グラフや図表から「変えたもの」と「変わったもの」を区別し、傾向を推論する問題です。選択式でも記述式でも同じでした。表のデータを式にして一般化する問題も同じでした。 著者は、2 つの傾向が 1 つのグラフにある問題や、外れたデータをふくむ問題で練習することを課題に挙げています。

荻野・桐生・久保田(2014) ── 中 1 理科で習う溶解度曲線と棒グラフを重ねたグラフの研究です。 中 2・中 3 を調べると、習った後でも「曲線と棒の差」を読む問題が難しい実態がありました。原因は、棒が何を表すか・曲線が何を表すかの理解の不足でした。 そこで中 1 で、実験から溶解度曲線を自分で作る授業などを行いました。その結果、88% の生徒でこのグラフの読みとりが向上しました。対照の群がない授業の記録です。

鈴木(2016) ── 小 5(91 人)と小 6(94 人)に、同じグラフの問題を 3 通りで出しました。「算数の問題」「社会科の問題」「指示なし」です。 グラフは、目盛りの下を省いて差を大きく見せた棒グラフです。小 5 は「社会科の問題」として答えると、見た目ではなく具体的な数値で解釈する傾向がありました。 同じグラフでも、どの教科として読むかで読み方が変わる、という結果です。

槇・和田・堀田(2018) ── 高校 1 年 158 人に、統計の問題を解いてもらいました。小・中学生のときに受けた全国学力調査の問題です。 中央値の理解と、資料のデータを批判的に説明する問題の点が低い傾向は、高校生になっても同じでした。 理数系への学習意欲が高い生徒ほど、統計の基本の理解が高い関係もありました。これは相関で、意欲を上げれば理解が上がると確かめたものではありません。

グラフ理解の研究のまとめ(海外)

Shah & Hoeffner(2002) ── グラフ理解の研究の総説です。理解を左右する要因を 3 つにまとめています。

そのうえで、生徒へのグラフの示し方と、グラフを読む力の教え方を論じています。数字の結果をまとめた研究ではありません。

Friel, Curcio & Bright(2001) ── 統計グラフの理解の総説です。理解に関わる 4 つの要因を挙げています。 グラフを使う目的・課題の特徴・教科の特徴・読み手の特徴です。グラフを教える順序も提案しています。

Shah, Mayer & Hegarty(1999) ── グラフの解釈には 2 種類の処理がある、という研究です。

関係するデータが線でつながっている、または棒が隣り合っていると、人は傾向を言葉にしやすくなりました。ばらばらに置かれると、傾向に気づきにくくなりました。3 つの実験で、人数は要旨にありません。

Zacks & Tversky(1999) ── 棒グラフと折れ線グラフの読まれ方の研究です。 棒グラフは「離れた値どうしの比較」、折れ線は「変化の傾向」と結びつけて読まれやすい結果でした。読む実験 2 つと描く実験 1 つで確かめています。

日本の中高生の勉強にあてはめると

ここからは研究と調査結果からの【推論】です。

最初に見る 4 か所

Shah & Hoeffner の「グラフについての知識」にあたる部分です。入試のグラフで、まず確かめるのはこの 4 つです。

  1. 題名:何のグラフか。「割合」か「量」か
  2. 軸:横軸と縦軸がそれぞれ何か。グラフが 2 つ重なっていれば、左右どちらの軸か
  3. 単位:%・万 t・g/100 g の水・mm など
  4. 目盛りの始まり:0 からか。途中からなら、見た目の差は実際より大きく見えます(鈴木 2016 のグラフ)

2025 年度の小 6 の問題で「割合のグラフを見て減った」とした誤りは、1 と 3 の取りちがえだと考えられます。割合が減っても量は増えることがあります。

理科(中学・高校)

社会(地理・公共)

数学(データの活用)

共通テスト・公務員試験

選択肢の見分け方

資料問題の選択肢は、「グラフから言えること」と「言えないこと」を混ぜてあることが多いです。

槇らの研究で点が低かった「資料のデータを批判的に説明する」力は、この見分けにあたると考えられます。

よくある誤解

「グラフは見れば分かる。練習は要らない」 2025 年度の小 6 では、値を読む問題は 78.8% が正しく答えていました。目的に合うグラフを選んで説明する問題は 31.2% でした。中学生の宮本(2020)・高校生の槇ら(2018)でも、傾向の推論や批判的な説明でつまずきが続いていました。「読める」と「使える」は別です。

「グラフ問題は数学の話」 鈴木(2016)では、同じグラフでも「社会科の問題」として読むと、数値で確かめる傾向が出ました。Friel らも、教科の特徴を理解の要因に挙げています。【推論】理科・社会・数学で、同じ 4 か所を確かめる習慣をそろえておくと、教科をまたいで使えると考えられます。

「棒グラフでも折れ線でも、中身は同じだから読み方も同じ」 Zacks & Tversky では、棒は比較、折れ線は傾向と結びつけて読まれやすい結果でした。出題者がどちらを選んだかに、問いのヒントがあることが多いです(【推論】)。

「教科書のグラフを眺めておけば十分」 荻野らの授業では、表から自分で溶解度曲線を作る活動を取り入れていました。【推論】描いてみると、軸と単位を自分で決めることになり、読むときの見る場所が身につきます。

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注意点

引いた論文

番号は docs/参考文献ログ_追加_読み方.md(#503〜#510)の #。すべて DOI を開いて書誌と要旨を確認しています。宮本(2020)と槇ら(2018)の人数は本文 PDF で確かめました。Shah & Hoeffner(2002)の要旨は出版社の公開 API に無く、著者の大学のリポジトリの記録で確かめました。

参考資料(公的統計):