勉強法
グラフと資料の読み方 ── 入試の資料問題で見るところ
一言で
グラフを読む力には段階があります。値を 1 つ読む・2 つを比べる、傾向をつかむ・目的に合うグラフを選んで、理由を説明するの順に難しくなります。 日本の全国学力調査でも、値を読む問題はできている一方、選んで説明する問題で正しく答えた割合が大きく下がっていました。 入試の資料問題は、後ろの 2 つを問うものが多い。だから「グラフを見たら最初に何を確かめるか」を決めておくと、迷いが減ります(【推論】)。
今日からやること
- グラフを見たら、最初の 10 秒で 4 か所を指でさす。題名・縦軸と横軸(何と何か)・単位・目盛りの始まり(0 からか)
- 読みとったことを「◯が増えると、△は〜」の 1 文で書く。理科の実験グラフ・社会の統計グラフを 1 日 1 枚
- 理科の実験は、表から自分でグラフを描く。定期テスト前に、教科書の表を方眼紙に 1 枚。描いてから教科書のグラフと比べる
10 秒・1 日 1 枚などの数は、研究で決めた値ではなく目安です。
何が分かっているか
日本の全国学力調査で見えていること(参考資料)
国立教育政策研究所の「全国学力・学習状況調査の結果(概要)」から、グラフと資料の問題を拾いました。論文ではなく公的な調査結果です。
2025 年度(令和 7 年度)・小学 6 年の算数
- 棒グラフから、ある年の出荷量が別の年の約何倍かを選ぶ問題:正しく選んだのは78.8%。倍ではなく差を求めたと考えられる誤りが 13.6%
- 目的に合うグラフを選び、出荷量が増えたかどうかを判断してわけを書く問題:正しく答えたのは31.2%。割合のグラフを見て「減った」とした誤りがありました
- 報告書は、過去の調査(2008 年度・2018 年度)でも、複数のグラフを結びつける問題に課題があったとしています
2025 年度(令和 7 年度)・中学 3 年の数学
- 度数分布表から相対度数(全体に対する割合)を求める問題:正しく答えたのは43.1%。度数そのものを答えた生徒が 15.6% いました
2026 年度(令和 8 年度)・中学 3 年の数学
- 学年別の睡眠時間の箱ひげ図から、読みとれることを選ぶ問題:正しく答えたのは75.9%。中央値は合っていて、第 3 四分位数を取りちがえた反応が 14.0% でした
- 動画のデータ量のグラフ・表から、1000 MB になる時間の求め方を説明する問題:正しく答えたのは34.5%。何も書かなかった生徒が 39.0% いました。「グラフを使う」とは書けても、どう使うかを書けなかった生徒が 14.3% です
数字は年ごとに変わります。最新は国立教育政策研究所の公表資料で確かめてください。
日本の中高生を対象にした研究
宮本(2020) ── 中学校 2 クラス 59 人の、理科のデータの読みとりを調べました。 つまずきが多かったのは、グラフや図表から「変えたもの」と「変わったもの」を区別し、傾向を推論する問題です。選択式でも記述式でも同じでした。表のデータを式にして一般化する問題も同じでした。 著者は、2 つの傾向が 1 つのグラフにある問題や、外れたデータをふくむ問題で練習することを課題に挙げています。
荻野・桐生・久保田(2014) ── 中 1 理科で習う溶解度曲線と棒グラフを重ねたグラフの研究です。 中 2・中 3 を調べると、習った後でも「曲線と棒の差」を読む問題が難しい実態がありました。原因は、棒が何を表すか・曲線が何を表すかの理解の不足でした。 そこで中 1 で、実験から溶解度曲線を自分で作る授業などを行いました。その結果、88% の生徒でこのグラフの読みとりが向上しました。対照の群がない授業の記録です。
鈴木(2016) ── 小 5(91 人)と小 6(94 人)に、同じグラフの問題を 3 通りで出しました。「算数の問題」「社会科の問題」「指示なし」です。 グラフは、目盛りの下を省いて差を大きく見せた棒グラフです。小 5 は「社会科の問題」として答えると、見た目ではなく具体的な数値で解釈する傾向がありました。 同じグラフでも、どの教科として読むかで読み方が変わる、という結果です。
槇・和田・堀田(2018) ── 高校 1 年 158 人に、統計の問題を解いてもらいました。小・中学生のときに受けた全国学力調査の問題です。 中央値の理解と、資料のデータを批判的に説明する問題の点が低い傾向は、高校生になっても同じでした。 理数系への学習意欲が高い生徒ほど、統計の基本の理解が高い関係もありました。これは相関で、意欲を上げれば理解が上がると確かめたものではありません。
グラフ理解の研究のまとめ(海外)
Shah & Hoeffner(2002) ── グラフ理解の研究の総説です。理解を左右する要因を 3 つにまとめています。
- グラフの見た目(形式・色・凡例・大きさなど)
- 読み手のグラフについての知識(軸・目盛りの約束ごと)
- 読み手のデータの中身についての知識と予想
そのうえで、生徒へのグラフの示し方と、グラフを読む力の教え方を論じています。数字の結果をまとめた研究ではありません。
Friel, Curcio & Bright(2001) ── 統計グラフの理解の総説です。理解に関わる 4 つの要因を挙げています。 グラフを使う目的・課題の特徴・教科の特徴・読み手の特徴です。グラフを教える順序も提案しています。
Shah, Mayer & Hegarty(1999) ── グラフの解釈には 2 種類の処理がある、という研究です。
- 形と量を結びつける、比較的かんたんな処理(「線が右上がり=増えている」)
- 頭の中でデータを並べかえる、誤りやすい推論の処理
関係するデータが線でつながっている、または棒が隣り合っていると、人は傾向を言葉にしやすくなりました。ばらばらに置かれると、傾向に気づきにくくなりました。3 つの実験で、人数は要旨にありません。
Zacks & Tversky(1999) ── 棒グラフと折れ線グラフの読まれ方の研究です。 棒グラフは「離れた値どうしの比較」、折れ線は「変化の傾向」と結びつけて読まれやすい結果でした。読む実験 2 つと描く実験 1 つで確かめています。
日本の中高生の勉強にあてはめると
ここからは研究と調査結果からの【推論】です。
最初に見る 4 か所
Shah & Hoeffner の「グラフについての知識」にあたる部分です。入試のグラフで、まず確かめるのはこの 4 つです。
- 題名:何のグラフか。「割合」か「量」か
- 軸:横軸と縦軸がそれぞれ何か。グラフが 2 つ重なっていれば、左右どちらの軸か
- 単位:%・万 t・g/100 g の水・mm など
- 目盛りの始まり:0 からか。途中からなら、見た目の差は実際より大きく見えます(鈴木 2016 のグラフ)
2025 年度の小 6 の問題で「割合のグラフを見て減った」とした誤りは、1 と 3 の取りちがえだと考えられます。割合が減っても量は増えることがあります。
理科(中学・高校)
- 溶解度曲線:曲線より下は「まだとける」、上は「とけきれずに出てくる」。棒グラフが重なったら、曲線との差が出てくる量です。荻野らの授業のように、表から自分で曲線を描くと意味がつかみやすいと考えられます。気体の性質・水溶液と濃度・溶解度
- 湿度・飽和水蒸気量:曲線の読みとりと計算が組みになる問題です。気象観測・湿度・雲のでき方
- ばねの伸び・電流と電圧:「変えたもの(横軸)」と「変わったもの(縦軸)」を先に言う。宮本(2020)でつまずきが多かったところです。力とばね・圧力・水圧・浮力・回路と電流・電圧・オームの法則
- 実験グラフの描き方そのものは 図と言葉で覚える の「理科の実験図」も見てください
社会(地理・公共)
- 雨温図:棒が降水量、折れ線が気温。Zacks & Tversky のとおり、折れ線は「季節の変化」、棒は「月ごとの比較」で読みます。日本の地形・気候・自然災害・気候(ケッペンの区分・雨温図)
- 統計グラフ・統計表:「割合」か「量」かを最初に確かめる。都道府県の順位は、何の割合かで入れかわります。日本の産業
- 人口ピラミッド:左右が男女、縦が年齢。形(富士山型・つりがね型・つぼ型)を先に言ってから、細部を見ます。人口・都市・村落
- 地形図:縮尺と等高線の間隔が「単位」と「目盛り」にあたります。地形図の読み方
数学(データの活用)
- 度数と相対度数:2025 年度の中 3 で、相対度数を聞かれて度数を答えた生徒が 15.6% いました。問題文の「相対」「割合」に線を引いてから答えます。データの活用
- 箱ひげ図:2026 年度の中 3 で、中央値は合っていても第 3 四分位数を取りちがえた反応が 14.0% でした。箱の左端・真ん中の線・右端の 3 つを、指でさして名前を言います。四分位範囲と箱ひげ図・高校は 代表値・四分位数・箱ひげ図
- グラフを使って説明する問題:「グラフを使う」で止めず、どの点を・どう読むかまで書きます。2026 年度の正答の条件は 2 つでした。「直線のグラフを使う」と「縦の値が 1000 のときの横の値を読む」です。一次関数の利用
共通テスト・公務員試験
- 共通テストの国語には、文章とグラフ・資料を組み合わせた問題があります。読み方は 記述・要約と複数資料の読み取り へ
- 英語のリーディングでも、図表と英文を照らし合わせる問題があります。共通テスト リーディングの型
- 公務員試験の資料解釈は、グラフと表の読みとりだけで 1 分野です。実数の表とグラフ・構成比と累積・増加率と指数
選択肢の見分け方
資料問題の選択肢は、「グラフから言えること」と「言えないこと」を混ぜてあることが多いです。
- 「増えた」「最も多い」:グラフで確かめられる
- 「〜のために増えた」:原因はグラフだけでは言えないことが多い。資料の文章に書いてあるかを確かめます
- 「今後も増える」:将来はグラフからは言えません
槇らの研究で点が低かった「資料のデータを批判的に説明する」力は、この見分けにあたると考えられます。
よくある誤解
「グラフは見れば分かる。練習は要らない」 2025 年度の小 6 では、値を読む問題は 78.8% が正しく答えていました。目的に合うグラフを選んで説明する問題は 31.2% でした。中学生の宮本(2020)・高校生の槇ら(2018)でも、傾向の推論や批判的な説明でつまずきが続いていました。「読める」と「使える」は別です。
「グラフ問題は数学の話」 鈴木(2016)では、同じグラフでも「社会科の問題」として読むと、数値で確かめる傾向が出ました。Friel らも、教科の特徴を理解の要因に挙げています。【推論】理科・社会・数学で、同じ 4 か所を確かめる習慣をそろえておくと、教科をまたいで使えると考えられます。
「棒グラフでも折れ線でも、中身は同じだから読み方も同じ」 Zacks & Tversky では、棒は比較、折れ線は傾向と結びつけて読まれやすい結果でした。出題者がどちらを選んだかに、問いのヒントがあることが多いです(【推論】)。
「教科書のグラフを眺めておけば十分」 荻野らの授業では、表から自分で溶解度曲線を作る活動を取り入れていました。【推論】描いてみると、軸と単位を自分で決めることになり、読むときの見る場所が身につきます。
このサイトでの使い方
- 各単元の小テストには、グラフや図を読みとる問題が入っています。解説を読んだら閉じて、図の問題から解きます(思い出す練習は テスト効果 へ)
- 定期テスト前は、範囲の単元のグラフを 1 枚ずつ閉じて描けるかを確かめます。描き方の研究は 図と言葉で覚える にまとめています
- 長い資料問題で時間が足りない人は、設問を先に読むか と 速読は本当か も読んでください
注意点
- 全国学力調査の数字は論文ではなく、国の調査結果(2025 年度・2026 年度)です。問題ごとの結果で、ほかの問題にそのまま広げられるわけではありません
- 日本の研究は 1 校・数校の調査が中心です。荻野ら(2014)の 88% は、比べる群のない授業の記録です
- 槇ら(2018)の「意欲が高い生徒ほど理解が高い」は相関で、原因と結果までは分かりません
- 海外の総説(Shah & Hoeffner・Friel ら)は、要因の整理で、数字の効果を示したものではありません
- 「最初に見る 4 か所」「選択肢の見分け方」は、研究と調査からの【推論】で、この手順を比べた研究ではありません
引いた論文
番号は docs/参考文献ログ_追加_読み方.md(#503〜#510)の #。すべて DOI を開いて書誌と要旨を確認しています。宮本(2020)と槇ら(2018)の人数は本文 PDF で確かめました。Shah & Hoeffner(2002)の要旨は出版社の公開 API に無く、著者の大学のリポジトリの記録で確かめました。
- #507 宮本直樹 (2020). 中学校理科におけるデータ解釈能力の現状と課題 ── 論述式問題を導入して. 理科教育学研究, 61(2), 329–348. https://doi.org/10.11639/sjst.20030
- #508 荻野伸也・桐生徹・久保田善彦 (2014). 中学校1年「溶解度」の学習で用いられる曲線グラフと棒グラフによる複合グラフの読解に関する研究. 理科教育学研究, 55(3), 279–288. https://doi.org/10.11639/sjst.14017
- #509 鈴木豪 (2016). 教科の文脈が児童によるグラフ解釈に及ぼす影響. 日本教育工学会論文誌, 40(2), 95–103. https://doi.org/10.15077/jjet.40020
- #510 槇誠司・和田裕一・堀田龍也 (2018). 高等学校第1学年を対象とした統計的リテラシーの実態. 教育情報研究, 33(3), 3–14. https://doi.org/10.20694/jjsei.33.3_3
- #503 Shah, P., & Hoeffner, J. (2002). Review of graph comprehension research: Implications for instruction. Educational Psychology Review, 14(1), 47–69. https://doi.org/10.1023/A:1013180410169
- #504 Friel, S. N., Curcio, F. R., & Bright, G. W. (2001). Making sense of graphs: Critical factors influencing comprehension and instructional implications. Journal for Research in Mathematics Education, 32(2), 124–158. https://doi.org/10.2307/749671
- #505 Shah, P., Mayer, R. E., & Hegarty, M. (1999). Graphs as aids to knowledge construction: Signaling techniques for guiding the process of graph comprehension. Journal of Educational Psychology, 91(4), 690–702. https://doi.org/10.1037/0022-0663.91.4.690
- #506 Zacks, J., & Tversky, B. (1999). Bars and lines: A study of graphic communication. Memory & Cognition, 27(6), 1073–1079. https://doi.org/10.3758/BF03201236
参考資料(公的統計):
- 国立教育政策研究所 (2025). 令和7年度 全国学力・学習状況調査の結果(概要). https://www.nier.go.jp/25chousakekkahoukoku/report/data/25summary.pdf
- 国立教育政策研究所 (2026). 令和8年度 全国学力・学習状況調査の結果(概要)(2026 年 8 月 3 日公表). https://www.nier.go.jp/26chousakekkahoukoku/report/data/26summary.pdf